表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騙してキスして蕩かして  作者: 真杉圭
三章-天使選考
79/79

七十九話-なれそめ

 トオルが扉を締め切る前に、強く扉が開いた。そのまま扉から手が伸びてトオルの腕を掴み、中に入れる。

 急な出来事でトオルは抵抗する間もなく連れ込まれてしまった。

 トオルの手を掴んでいたのは、リアーロだった。彼女は細目を見開いていて、綺麗な青色の瞳が見えた。唇は濡れていて、顎の辺りも光っている。熱烈な接吻をしていたのだから、仕方ない。

 見間違いではなかったか、とトオルが思ったその時、リアーロがスカートを翻し、ナイフを太ももから抜いて握った。次の瞬間には切りかかってくる。

 トオルはすぐさま加速で対応する。そうせざるを得ない早業だった。隠していたナイフを取り出す動作がなければ、間に合わなかっただろう。


「へえ」


 リアーロは感心したような息を吐き、二の手を繰り出そうとしたが、ジャニスに肩を掴まれ止めた。


「危ないから離れてて」

「ダメ」


 天授階級の娘と平民、どうあがいても隔たりがある。けれど、ジャニスは掴んだ手を離さず、リアーロを真っ直ぐ見つめる。


「ジャニス、口封じしないと、ある事ない事、言いふらされる。こいつは新聞部の部屋にいたんだ」

「気持ちはわかるけど、それはダメだよ」

「わかった」


 リアーロはナイフを柄に仕舞い、足を椅子の上に乗せスカートをたくしあげ、太ももに装着した。


「謝らないと」


 ジャニスに促され、リアーロは素直に頭を下げた。


「ごめんなさい。煮るなり焼くなりお好きに」


 リアーロは投げやりな言い方をして、椅子に座る。

 ジャニスの諫め見て、トオルも察するものがあった。

 リアーロの方が惚れているらしい。


「そうよ、悪い?」


 リアーロは不機嫌そうに言う。トオルの顔に出ていたらしい。


「羨ましいよ」


 素直な言葉だった。いつも嘘のため考えてばかりだが、今回は反射的に出ている。


「新聞部になんて言わないよ。人の恋路に何とやらだ。そこまで野暮じゃない」


 リアーロとジャニスはポカンとした顔をした。

 トオルは何に驚いているのかさっぱりわからない。


「貴方、敵を蹴落とせるって発想はないわけ?」


 リアーロはトオルの真意を伺うように、顔を見つめる。


「二人の関係を暴露して何で蹴落とせるの?」

「決まった相手がいれば、投票されにくいじゃないですか」


 穏和なジャニスでさえ呆れを含んだ声だった。


「投票?」

「そういえば、転入してきたんだっけ。天使選考は三部門の審査があって、それぞれの投票総数で勝ちが決まるのよ。投票者は選考委員と観覧の学生でね」


 リアーロに言われ、ようやくトオルは理解した。

 勝てば女性同士と愛を育む権利が得られる。神様が視認できる世界では、決まりは絶対だ。許可がない同性愛は、神様によって罰が下る。違反者を担ぐ者は少数だろうし、対象が自分でないなら票を入れる必要もない。

 愛や恋といったものをトオルは身近に感じたことがなかった。根が非モテである。前世で恋ができると考えたこともあまりなかったからだ。望む気持ちもよくわかっていない。

 ただ、女性を好きになるのに、男としか恋愛できない法律が現代であったのなら、と想像すれば選考に賭ける思いもわかる。

 自分の好きな相手が資格を得れば、と望むのは当然だろう。

 そんな相手に、既に意中の相手がいるのなら、確かに選ばれにくい。


「人を蹴落としてまで、なんて考えないよ。選考もそこまで真剣になれないんだ。恋愛ってのがよくわからなくてね」


 トオルの誤魔化しを、二人は信用したようで追及が止まる。

 相手が止まった隙に、トオルは質問を投げることで話の流れを変えることにした。


「リアーロとジャニスのなれそめを聞きたいな。黙っている、報酬にさ」


 リアーロはジャニスに目配せし、ジャニスが頷くのを確認してから口を開いた。


「階級の上下に厳しい私に向かって、ジャニスは毅然とした態度で立ちはだかったの。真っ直ぐ、やり過ぎじゃないですか、と窘められた。その時、電撃が走ったわけ。そんな人はいなかったから、否が応にも意識させられた。で、接しているうちにいつの間にか好きになっていたの」


 以上、と言ってリアーロが締め括る。

 彼女を一見すると淀みなく堂々と話している風だったが、強がりであるとトオルにはわかった。リアーロの頬は僅かに赤らんでいるし、後半につれ話すのが速くなっていた。


「後はトオルの好きにすればいいわ」

「もう、トオルさんは話さないって言ってくれているでしょ」


 ジャニスが膨れて、リアーロに文句を言った。

 二人をトオルは温かい目で見つめる。身分の差など感じさせないフランクなやり取り。友人とはまた違う雰囲気が含まれていた。

 ネメスでは恋愛は希少だ。女性同士が恋をし合うがそれは許されないから、恋は隠れて行われる。スラムでは恋愛などではなく、男を使った倒錯的な遊びでしかない。

 

「何が面白いの?」


 リアーロがトオルを睨んだ。


「二人が楽しそうだから」

「よくわからない人ね。黙っているだけならまだしも、殺されそうになったのにヘラヘラしてさ」


 トオルがネメスに転生してから、物騒なことは日常茶飯事だった。脅しぐらいでは一々、腹を立てることもないだけだ。


「すみません、リアーロはこう言ってますけど、本当に感謝しているんです。もちろん、私も」

「わかっているよ。ツンデレだよな」

「はあ、つんでれ、ですか」


 ネメスにはない単語を繰り返し、ジャニスは小首を傾げるのだった。

 大変、大変、遅くなりました。申し訳ございません。

 基本は月一更新の予定です。

 月一でストックは一年分出来ていますので、余剰が出来次第、早めに更新していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ