七十八話-お茶会、終わり
リーリエ・イノはやはり興味を引くらしい。
彼女らは口々に下世話な質問をした。
「どんな肌着?」
「決まった相手はいるの?」
「気になっている人は」
「男遊びは?」
などなど、それらの質問をトオルはどうにか躱し、質問コーナーを終わらせた。
「トオルって評判通りね。下馬評通り、ルシルとトオル、二人の勝負かしら」
「まだ始まったばかりだし、わかりませんよ」
「それもそうね。でも、私は無理。前、威張っていたし」
リアーロの噂はそういうものが多かった。天授階級であることを利用した平民への甚振り。
別人というほどではないが、今の彼女からはそういった類の厭らしさは感じない。
「ジャニスとセフォンは頑張り次第で次もあるものね」
学生生活は長い。毎年、ある催しなのだから次で勝てばいいのだ。今回で株を上げて、というのは建設的と言えるだろう。
「選ばれたら頑張りたいですね。神様に会える可能性なんてこれからないでしょうから」
セフォンは恥じらう様に笑った。
神官でもなければ手柄もない。会えるだけで凄い名誉。
これがこのネメスの人々の認識だ。
「またまた。それだけじゃないでしょ。乙女なのだからねえ?」
リアーロがニヤニヤと笑うと、セフォンもはにかんだ。
「そりゃあ、好きな人と、って思いはしますけど具体的には」
「へえ、そうなんだ。私はいるけどね」
「誰です?」
「流石に教えられないわ。ジャニスもそうでしょ?」
「ですね」
「二人とも相手がいるんだ」
「貴方だって、今選べと言われたらいるでしょう?」
そう言われ、セフォンはトオルを見た。
彼女の目がどういった種別のものなのか、流石に感じ取れる。
「私もまだですね」
「へえ、リーリエじゃないんだ」
「尊敬できる人ですけど、恋愛対象かどうかはまだ」
「賢い答えね」
リアーロに茶化され、トオルは笑う。
「少し打ち解けられたことだし、今回はこの辺りでお開きにしましょう」
リアーロに言われ、皆席を立った。
「楽しかったです」
「私も」
ジャニスとセフォンが朗らかに言う。
緊張していたセフォンから考えれば大きな変化だ。
「お茶、ありがとうございました」
トオルも礼を言い、その場を離れた。
トオルだけが寮生ではないので、一人で外へ向かう。
その途中、片付けを手伝った方がいいかと考え、ジャニスの部屋に戻る。
小さくノックをし、返事がなかったので扉を開く。
「あっ」
声がまず出た。
茶色の髪と黒の髪が重なるほど近くて、二人の唇は重なっていた。
リアーロとジャニスの接吻である。
「失礼しました。ごゆっくり」
トオルは静かに部屋を出た。