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騙してキスして蕩かして  作者: 真杉圭
三章-天使選考
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七十話-美の、天使

 朝食を終え、食後のお茶もすっかり冷めてしまった。

 それでもトオルはお茶を飲み干すことができないでいた。

 そんな彼を見て、ステラは口を開いた。


「もうすぐお時間ですよ」


 トオルはステラの家に泊まり、そのまま学園へ向かうことになっている。

 が、トオルにはそれが憂鬱だった。今の彼には学園へ行くということが悩み以外の何物でもない。

 それは楽園の日にもらった手紙の返答が今日までだからだ。バイル学園である祭り、降臨祭を一緒に過ごせるか否か。

 期限が設けられている類の手紙ではないのだが、今日までに返事がなければ駄目だったという暗黙の了解がある。

 今日まで待たせていること自体、待っている人間からすれば心労だ。そのことがわかっているからこそ、これ以上は待たせたくない。

 しかし、答えが出ないのも事実であった。


「そういえば降臨祭ですね。パルレさんが楽しみにしていましたよ」


 ステラに言われ、トオルはお茶を飲むことで顔の引きつりを誤魔化す。

 トオルと秘密の恋人と思っているパルレが一緒に過ごしたいと思うのはごく自然な考えだ。

 ほとんど面識のない生徒とパルレならパルレを選んでいる。新たに落すターゲットがいたとしても、パルレを裏切るような真似はしなかっただろう。

 返答を待っている相手がリーリエ・イノなのだ。

 手紙を交換した後、自室で確認すると降臨祭を一緒に過ごさないかという文面を発見した。

 どういうことかと一晩眠れず、翌朝の朝食の席で彼女はこう言った。


「手紙をたくさんもらったけど、君は誰か決めた子がいるのか?」

「まだ決めていませんけど」

「そうか」


 リーリエは大きめの声でそう言ったあと、トオルから視線を外した。

 落ち着きのないリーリエを見ると、トオルも緊張してしまう。手紙の件もあって鼓動はかなりハイテンポだった。


「私の手紙は読んでもらっただろうか?」


 読んでいたが、あの文面のせいでトオルはどう返事をするのがいいのかと思案してしまう。


「急かしているわけじゃないんだ。その聞きたい事というか、弁明というか」

「読みましたよ」

「そうか。じゃあ、あの話なんだけどね。よければどうかな。君とだったら角が立たないし」


 リーリエの意図がわかってトオルはホッとした。

 昨日の朝、手紙をもらった生徒たちから選ぶほどの決め手がないのだろう。誰も一緒だから選びにくいし、決め手もなしに選んでもその生徒が悪目立ちするだけだ。これからも仲良くするのであれば別だが、あまり知らない相手とそうできるかはわからない。

 その点、トオルであれば問題はない。従者だし、二人で過ごしていても不自然ではないし異論もないことは学園に流れる噂話でわかる。二人はカップルとしてお似合いと言われているようだった。

 なので、噂が現実になるだけである。

 そういうことなら、とトオルは応えたい所だったが、パルレがいるので断ろうと決める。

 しかし、表立ってパルレの存在を打ち明けるわけにもいかない。言い訳を考えていると、リーリエが口を開いた。


「いいや、君といたいんだ。答えは後日聞かせてくれ」


 リーリエは口早にそう言い席を離れたのだった。

 それからトオルは悩みっぱなしなのである。

 結局、答えは出なかった。ステラには去り際、何かあれば力になりますよ、と真剣な顔で言われる始末だ。

 トオルは大雑把な人間なので、なるようになれという精神で学園につく。

 いつもより露骨にトオルへと視線が向けられる。手紙の返答を待つ者、無関係ながらその行く末が気になる者が大勢いるからだ。

 リーリエかパルレに会うまでに気が滅入る。トオルは思わずため息をついてしまった。


「トオルさん!」


 大声で呼んだのはパルレだった。満面の笑みでトオルの方へ走ってくる。

 あまりの高いテンションにトオルは胸が痛かった。

 パルレはトオルの元につくと、彼の手を握った。


「天使選考に推薦されましたよ!」

「て、天使選考?」


 返答の件だと思っていたトオルは訳の分からない話題でたじろいでしまう。

 天使の選考ってなんだ? 推薦?


「あ、ご存じないのですね。バイル学園の美の天使は誰だ、という催しですよ」

「美の、天使」

「ええ」


 嬉しそうにパルレは笑った。

 トオルは混乱しながらも一つだけ推測を立てた。つまり、ミスコンってことですかね?


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