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騙してキスして蕩かして  作者: 真杉圭
二章-剣術大会
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六十話-食通

 大会も二日日が終わり、二戦目まで消化している。バイル学園は全戦全勝だった。シャリオのいるネメス学園は一敗だけと悪くはない。

 剣術大会は全部で三戦なので、明日のネメス学園とバイル学園の勝敗次第で一位が並ぶ可能性はある。日程の関係で、同位が出てもそのまま表彰することになっていた。

 ネメス学園との勝負もほぼほぼ勝ちだろう。今日行われた試合で、リーリエたちはネメス学園が負けた相手を圧勝している。

 そう、リーリエとセネカ。二人があまりにも強いのだ。試合を見ていると、トオルは自分がセネカに勝てたのは本当に偶然だ、としみじみ思ったほどだ。

 セネカの戦法は盾で相手の加護による攻撃を封じ、得意の剣で相手を圧倒する。盾は守りだけでなく、足場や攻撃にも用いられた。視界を遮ったり、押し潰したり、進行を制限したりと自由自在に盾を操り、太刀筋が全く読めないトリッキーな戦い方だった。

 一方、リーリエの戦い方はシンプルだ。用いるのは剣一本のみ。相手の加護による攻撃が飛んでこようと剣で打ち払い、切り裂き、消し飛ばす。真正面から加護の如何なる攻撃を飛ばしても消されるので、当然次は四方八方から死角を狙って攻撃してくる。しかし、それらも全てリーリエは切り裂いた。彼女の加護には、加護を打ち消す能力と身体能力の異常な向上があるのだろう。

 この世界の人々は日本の人々と比べれば男性女性問わず、身体能力が高い。が、その点を踏まえても、リーリエは異常だった。

 恐らくそういった加護も持っている、と考えるのが自然である。

 人間は体が資本だ。いかなる力が使えても、それは変わらない。最も基本である身体能力の向上は汎用性の高い能力と言える。

 なので、セネカとのコンビネーションも抜群だった。リーリエもセネカの盾を使い、敵を翻弄した。必要とあらば盾を消し飛ばすこともできるので、敵の邪魔になっても彼女の邪魔になることはない。

 個人の強さも秀でていたが、コンビネーションがここまで取れているチームがなかった。それが全戦全勝できている理由だろう。

 

 リーリエたちは自分たちの試合も見学する。なので、午前中に一試合、午後に一試合あってから戻るため、帰宅するのは夕食時だった。

 リーリエとセネカは気を抜くことはなかった。驕りもせず次の対戦相手への考察、自分たちの立ち回りについて、宿への帰り道に相談していた。

 トオルはそんな二人を見て、奥にしまっていた哀愁を呼び起こされていた。何かに熱くなって打ち込む。そういうものが羨ましくもある。

 前世と比較することは律していなかったが、戻りたい、寂しいと思うのだけはしないよう心掛けていた。

 トオルは自分が二人に混じる姿を想像できなかった。

 上辺だけの関係だからだ。自業自得だと自嘲する。嘘をついているのは自分なのだ。

 顔には出せない。落ち着いているのではなく、落ち着かざるを得ないだけ。

 何もかも覆い隠すしかなかった。


 宿に近づいたので、トオルは立ち止まる。議論が白熱していたので、夕食をどうするかなどの予定をまだ決めていなかった。


「夕食の前に戻りますか?」

「そうだね。荷物を置いてからにしようか」


 トオルの持つ鞄を見て、リーリエは言った。着替えやちょっとした救急道具ぐらいしか入っていないので、それほど大荷物ではないのだが、甘えることにする。

 荷物を部屋に置き、一息ついていると、リーリエが言った。


「明日は最終日だし、朝食も外で食べて気を引き締めようと思うんだ。セネカには私から言っておくから、宿の方に言っておいてくれないか?」

「かしこまりました」


 その方が気合が入るという趣旨だろう、とトオルは思った。過剰な接待に疲れるのだろう。

 店主自ら、朝は見送りをし、夜は迎えてくれる。最高の宿にするために、店主はここで寝泊まりしているらしい。

 宿泊して四日も経てば、宿の店員たちの過剰な接待にも慣れたものだ。

 送り迎えだけでなく、朝ごはんは採算に合わないほど豪勢だし、少年たちを利用しないと知った店主は焦ったのか従僕ではなく自ら給仕をし、何かにつけてこちらとの距離を詰めようとしていた。

 リーリエはあしらいが上手かったが、セネカはたじたじであった。リーリエの提案に一番喜ぶのはセネカだろう。朝から気疲れしていては元も子もない。


「二階はすべて埋まっていまして」


 下へ降りようとするとき、そんな声が聞こえた。トオルは降りるのを止めて、その場で息をひそめる。


「じゃあ、空き部屋はないの?」

「そうなんです。大変申し訳ございません」


 受付の女性が頭を下げると、宿泊しようとしていた客は出て行った。二階はリーリエたちしか宿泊していない。空き部屋はあるのだが、他にいれないことで少しでも良く思われようという考えなのだろう。リーリエに報告するまでもないし、対応をやめるように言ってもあと何日もいないので文句は言わないでおく。

 トオルも、宿の対応もわからなくはないのだ。リーリエ以外には効果的な策だっただろう。

 少し待ってから下に降り、朝食の件を受付に伝え部屋に戻った。

 首都で四回目の夕食となるが、行く場所は全て違った。

 が、どこも庶民向けの飲食店だった。リーリエのチョイスで、毎回、感じの違ったところに行っている。粗雑な店から、ジャンクフードまで範囲は広い。むしろ、リーリエが入らないであろう店を積極的に選んでいるようであった。豪華さであれば、宿の朝食の方が勝っている。

 店の外観も汚れているものが多かった。が、どこも外れということはなかった。リーリエの目利きがいいのだろう。

 今日はホットドッグに近い食べ物と、サラダの盛り合わせ、豆のスープという夕食としては最適のボリュームであった。店はそれなりに繁盛していて、空席がすぐ埋まっていく。大衆向けということもあって、ウェイターは男だったが、きびきびと働いていた。愛想も悪くない。

 リーリエはもちろん、セネカも男に嫌悪感を持っていないようだった。

 トオルは運ばれてきた料理に早速、口をつける。


「あ、今日も美味しい」


 失礼な発言だが、トオルは本当にそう思った。彼は自分が食通だとは思っていなかったが、近頃はニクルの素晴らしい料理で舌が肥えている。その状態でそう感じるのだから、相当の物だろうと確信する。


「リーリエは目利きが素晴らしいですね」

「トオルの言う通りだ。そういえば、外れがないですね。毎回、大衆向けで大味の店を選んでますけど、雑さを感じないというか」

「大袈裟だよ、トオルもセネカも。調査済みだからさ。実家にいる食通の使用人からどこそこが良いって話を盗み聞きしていたんだ。昔からそういうことをしていてね。聞いていると。一度は行ってみたくなるだろ?」


 そう答えるリーリエは恥ずかしそうだった。こういう店に憧れていた事、盗み聞きして覚えているほど楽しみにしていた事などが原因だろう。が、トオルはそれが恥ずかしいとは思わない、とあえて言わなかった。こうした一面が、彼女の思うリーリエの良さだからだ。変な所で恥ずかしがる。

 夕食を食べ、最終日ということで長々とシャボンの風呂を満喫した。

 表彰式が終わり次第帰るので、トオルはイオネに会いたかったのだが、彼女を初日以外シャボンで見かけることはなかった。

 友人なんて綺麗な感情ではない。神旗を持つ相手とのコネクションを作っておきたい、といった打算である。

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