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騙してキスして蕩かして  作者: 真杉圭
二章-剣術大会
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五十七話-小人族

 トオルとパルレは街中をただ歩いた。パルレは首都をよく知っていたので、時折案内もしてくれた。

 バイルとは少し違う街並みを眺めつつ、取り留めのない話をする。

 それではいつもと変わらないが、今日は指と指を絡ませ、いつもより一歩近くづいて歩いていた。

 トオルは剣術大会のセコンドとして同行するため、シャツにスカートという恰好だった。フォーマルとまではいかないが、無難な服装だ。

 一方、パルレは私服だった。襟のついたえんじ色のシャツワンピースだ。それは今まで見た事のない服装だったので、トオルはそのことに触れることにする。


「服、似合ってるね。首都で買ったの?」

「あ、ありがとうございます。そうです。急に呼ばれたので荷物を詰める時間がなくて」

「そうだったんだ」


 トオルとパルレが会話をしていると、多々途切れることがあった。

 気まずいからではなく、お互い黙っていても平気なタイプだからだ。パルレはステラと同様に、トオルとどこか似ているというか波長が合うのだろう。

 ネメスでもデート事情は日本とそう大差ない。何かを見に行ったり、体験したり、食べたりする。

 そこに恋をしあう二人がいて、楽しめれば何でもありだ。

 違う点を挙げるなら、恋人同士と公言しないところだろう。許可のない女性同士で恋をすることは罰せられるが、デートぐらいなら構わないらしい。キスまでするとアウトというのが暗黙の了解だと、トオルはパルレに出会ってから調べた。姉妹の範疇ならセーフだそうだ。常識を知らなさすぎると疑われる。


「トオルさん、あそこでお茶しませんか?」

「そうしようか。今日は暑いしね」

「もうすぐ夏ですからね」


 店内にテーブル席が五席しかない小さな喫茶店だった。店員、客含め女性しかいない。こういうスペースに男性がいることは滅多にないのがネメスの恐ろしい所だ。

 祭りの期間という事もあってか賑わっている。三席が埋まっており、店員に案内されトオルたちは席に着いた。


「一回戦、バイル学園の圧勝だったそうね」

「流石、イノ家ってことでしょう」

「もう一人がローウェルの娘らしいわ」

「元々、騎士長を輩出していた家だし。腐ってもってことね。よかったわ、バイル学園に賭けておいて」

「その代り配当は低いけどね」


 近くにいた二人組の会話が聞こえてきた。

 トオルとパルレは顔を見合せ苦笑する。リーリエやセネカがこの場にいるならともかく、噂話に一々腹を立てるような二人ではない。完全な悪口ではなかったというのもある。実力に関しては評価してくれているのだから。

 トオルたちが注文したレモンティーを飲み干した時、二人は店内の視線が自分たちに集まっていることに気づいた。


「ねえ、あれって」

「金髪の子よね」

「うん、そう。だってあんなに小さいもの」


 どうやら自分たちではなく、パルレに向けられたものらしいとトオルは見当をつけた。

 というよりそうとしか考えられない。店内に小さいと形容されるのはパルレ以外見当たらなかった。

 先ほどの噂話とは違って、今回のは敵意のようなものをトオルは感じていた。それに目の前にいる大切な人を馬鹿にされて黙っているほど、彼はお行儀良くない。

 が、パルレに何も聞かずに突撃するのは却って迷惑になるかもしれないので、トオルは声を出さずに唇だけ動かして、どうする、と尋ねた。

 パルレはちらりと店の中を見、トオルの顔を見た。彼女はよく考えた後に伝えるタイプだ。トオルはパルレの手を握って、返事を待った。


「出ましょう」


 周りに聞こえる声でパルレは言い、そのまま会計を済ませた。戻ってきてトオルの手を取り店内に出る。

 無言のまま二分ほど歩いた後、パルレは口を開いた。


「すみませんでした」

「謝らないでよ。何があったんだ?」

「私の背が低いせいです」

「背が?」


 意味が解らずトオルが首を傾げると、パルレは小さく笑った。


「ジュ―ブルの間者と思われたんです。その、ジュ―ブルは背が低い人が多いことで有名だから」

「ああ、聞いたことがある」


 トオルはシャリオ・イグニスが小人族がどうたらと言っていたことを思い出した。なるほど、そういう意味だったのか。


「それにシュッフ家であると名乗ればすぐ済む話だったんです。でも、そうしたら」


 パルレが言いよどんだので、トオルは手を握っていない方の手で彼女の脇腹を揉んだ。


「何するんですか」

「貴重な時間を暗い話で潰すのは止めよう。ほら、こういう時は甘味で仕切り直すに限る。パルレ、おすすめの店を紹介してよ」


 わざとらしい気づかいだった。

 パルレが何を悩んでいるのかトオルはわかったし、そのことがパルレに伝わっていることもわかっていた。

 シュッフ家であることをあの場で告げれば、間者の疑いは晴れる。その代りに、トオルと逢引していることがバレてしまう。有名な家だからこそ、許可なく女性と恋をしていたと噂になれば困るのだ。シュッフ家からの追及はもちろん、最悪の場合罰が下される可能性もある。デートぐらいなら罰せられることはまず、ないなのだ。数パーセントでもあり得る以上、有力者であればあるほど避けるべきなのである。

 その場の中傷に耐える選択を取るのは当然だった。


「いいですね。クレープ食べましょう。お気に入りの店があるんです」

「じゃあ案内よろしく」

「かしこまりました」


 わざとらしく膝まで折って、パルレは礼をした。

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