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騙してキスして蕩かして  作者: 真杉圭
二章-剣術大会
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四十五話-それもそうですね

 朝食を済ませたトオルは元気がなかった。

 学校が休みなのでゆっくりとしようと考えていたのだが、リーリエが剣の訓練に付き合ってくれと言われたのである。

 トオルも剣の打ち合い自体、嫌いなわけではない。

 だが、その相手がリーリエとなると話が変わってくる。彼女の無尽蔵の体力に付き合うのは気が滅入るのだ。

 途中でやめましょうと言えばいい話なのだが、満面の笑みで次を待たれるとそうは言えない。結局、リーリエが満足するまで付き合ってしまうのだった。

 今日は剣術大会も近いことだし、いつもよりも酷いに違いない。剣術大会は一週間後だった。

 トオルはため息をつきながらも、リーリエが呼びに来るまで部屋で準備運動を行う。これを怠ると、後で辛くなるのはトオル自身だからだ。

 ノックされたので、トオルは口角を上げた。嫌々というのを出すわけにはいかない。


「どうぞ」


 トオルが言うと、入ってきたのはセネカだった。真珠のような丸いボタンがついているワンピースを着ていて、うっすらと化粧もしていた。

 セネカの後ろにはクロがいる。

 トオルが問う前に、クロが口を開いた。


「リーリエ様を訪ねてこられたのですが、今は手が離せないそうでトオルさんのところへ案内するようにと」

「そういうこと。ありがとう、クロ。あとはこっちでやっておくから」

「はい」


 クロが頭を下げてから離れ、セネカはトオルの部屋に入ってきた。


「朝早くにすみません」

「早朝ってわけでもないし、大丈夫だよ。それで、リーリエに何の用なの?」

「首都へ出る日程や宿泊場所を聞いておきたくて」

「一週間後だからね。説明がなかったんだ」

「本来は学園の方で手配するものなんでしょうけど、リーリエがその辺りの準備をしているらしくて」

「そうなんだ」

「少し汗をかいているみたいですけど、トオルは部屋で何を?」

「ああ、これからリーリエと剣の訓練をするつもりでさ。その前の準備」

「準備、ですか?」


 セネカが不思議そうな顔をして、トオルはネメスには準備運動という概念がないのかもしれないと気づいた。

 よくよく考えれば、日本にいた頃からラジオ体操などで慣れ親しんでいたがその歴史は知らない。もしかすると、昔からあったものではないのかもしれない。

 ネメスでは科学よりも加護の方が生活に根付いている。筋肉をあたためておくと良いという知識が共有されていないのかもしれない。


「運動をする前に、軽く体を動かすと調子がよくなるんだ」

「そういうものですか」

「あ、そうだ。せっかくだから、セネカもリーリエと剣を打っていきなよ。この後、用事があったりする?」

「ありません。ですので、ぜひ」


 これで体力が温存できそうだとトオルが笑っていると、扉がノックされた。


「すまない、待たせたね」


 リーリエの声だったので、トオルが扉を開ける。


「やあ。いらしゃい、セネカ」

「おはようございます」


 セネカは律儀に頭を下げて挨拶をした。


「ああ、おはよう。セネカ、今日は一段と綺麗だね」

「どうもありがとうございます」


 セネカは顔色を変えなかったが、少し早口だった。

 照れはするらしいとトオルは思いつつ、リーリエの滑らかに出た褒め言葉に感心していた。


「リーリエ、セネカは剣術大会の詳しい話を聞きたいらしい」

「ああ、明日にでも伝えに行こうと思っていたんだ。一日、遅かったね」

「いえ、私が来てしまっただけで」


 セネカは静かにそう言った。身振り手振りもなく慌てた様子もなかったので、遠慮している感じはあまりない。

 リーリエ・イノという存在に萎縮したりする人間ではないようだった。


「お二人でどうぞ。私は中庭に行ってますので」


 トオルは剣術大会に出ない自分には関係ないと退室しようとしたが、リーリエに腕を掴まれた。


「何を言っているんだい。君も来るんだぞ?」

「リーリエの言う通りです。トオルは従者でしょう?」

「それもそうですね」


 ハハハと笑いながらトオルは冷や汗をかいていた。気が緩みすぎだ、と。

 従者という立場すら忘れていたのだった。

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