四十一話-トオル菊池のレポートその一(一章部分のあらすじ)
一章のあらすじと小話です。初見の方がこの話を読んでいただければ次の章も理解できるようなあらすじだと思います。
もちろん、一章のネタバレは大量にありますので、全部一から読みたいという方はお手数ですが一話からお願いします。
ネメスでは神が見える。そして、その神は人々に加護という超常の力を与えていた。しかし、それは全員ではなく、女性のみに授けられる力だった。
そのため、ネメスでは女尊男卑の社会で、男性の扱いは奴隷に等しいものだった。
そんな世界に転生したトオルだったが、いくつかの問題を抱えてしまう。転生した肉体が女性の体なのに男性器がついている両性具有だったことと、加護がないことであった。
加護のない女性は、日々虐げられている男性にとって恰好の的となる。加護がない女性は、男性の腕力には敵わないため虐げられるのだ。加護がない女性は男性よりも劣悪な環境に置かれることになるのだが、それよりもさらに下の扱いが両性具有の人間だった。
トオルは両性具有であることをひた隠しにしつつ怯えて生活している中で、倒れていたステラという女性に人命救助を行う。
その時、加護がないと診断されていたはずのトオルに、あるスキルが備わっていることがわかる。それはキスした相手を魅了するというものだった。
魅了したステラの協力で、トオルはバイル学園に編入する。その目的は平穏な生活のため近辺で一番の権力者であるリーリエ・イノを魅了し、玉の輿を狙うためであった。
トオルの入学早々、リーリエが従者の募集を始める。彼はリーリエに近づくため、トーナメント制の募集大会に出場する。
一部の女性は加護以外にも、神旗というものを与えられていた。加護を大きく上回る鎧と武具であり、加護を持った女性のみが装着できるものだった。
トオルはそれを持っているように見せかけ、加護を持っていないにもかかわらず大会に優勝しリーリエの従者になる。
リーリエの従者になったトオルは、権力者にしては優しすぎるリーリエに戸惑いつつもリーリエの屋敷の使用人であるニクルをキスで篭絡し、少しずつリーリエとの距離を詰めていく。
トオルが慎重なのは、キスの魅了の力は誰に対しても必ず効くというものではないからだ。キスの能力はトオルへの好意を増幅させるもので、彼に対する好意がなければ効果を発揮しない。好意という目に見えぬものが変動するので、いつキスをすればいいのかという確証もない。そのため慎重にならざるを得なかった。
トオルは学園での駒を増やそうと、年下で新聞部の生徒であるパルレ・シュッフに目をつける。
女尊男卑のネメスでは、女性同士で子を成すことができた。が、それは神に許可を与えられた者のみで誰しもができるわけではない。それだけでなく、許可なく女性同士で恋愛をしたことにより加護を剥奪されるという可能性があった。そのため、一般的な女性たちは日々見下している男性と子を成す必要があった。
パルレはその現実を理解していながらも、女性と恋をしたいという願望を持っていた。
トオルはそこに付け込み、パルレとキスをする。
こうして着実にキスを繰り返していたトオルだったが、上手くいかないこともあった。屋敷の使用人のクロには嫌われてしまう。
クロはニクルの姉だったが、ニクルのように懐いてもらえなかった。
そんな中、クロとニクルが帰省中に彼女らの実家周辺が争いに巻き込まれる。
心優しいリーリエは救出に向かいトオルも協力する。
無事に助けることができたが、リーリエは神旗を使ってしまった。神の武具である神旗を使うと、神様との約束である誓約を守らなければならない。
リーリエの誓約は使うたびに跪かせ足を舐めさせるというものだったが、トオルにさせるのを拒否する。
彼女は今まで友人がおらず、ようやくできた友人であるトオルにそんなことはさせられないと言う。トオルはそんなリーリエを言いくるめて、誓約を果たす。
トオルのスキルは彼の体液を相手に摂取させることで効果を発揮し、皮膚の上からでも力は弱まるが効果を発揮することがあった。
予想外ではあったがトオルはリーリエに体液を摂取させることに成功させ、救出したことによりクロとの仲も深めキスをするところまでいく。
リーリエの信頼も得て、屋敷の人々も陥落させたのだった。
トオルの物語は続いていく。今日も彼は忙しなく動いていた。
何股もしている彼の朝は早い。
昨晩、クロとニクルの救出の際に力を借りた礼に、トオルはステラの家に泊まりに行っていた。
隣にいるステラは仰向けになって寝息を立てている。昨晩、運動をしたので疲れているのだろう。
呼吸と共に上下するステラの大きな丘に触れたいが、グッと堪える。彼女の長い黒髪を一撫でして、トオルは寝室を出た。
顔を洗ってスキンケアをし、髪を整え、歯を磨いてから濡れたタオルで身体を拭く。これがトオルの朝の始まりだった。
リーリエの従者となり女の子として生活するようになって、自然と容姿に気を使うようになっていた。
朝の支度をするとしないとでは全然違うと理解してから欠かせなくなっている。元々菊池トオル出会った頃、男性であった頃にはなかった意識だった。
トオルが支度を済ませ寝室に戻るも、ステラの姿はなかった。どこにいるのか見当はつく。
真面目で息抜きなどほとんどしないステラは執務室で一日の大半を過ごす。
ネメスという国の肥溜めであるスラムで地獄を見てきた彼女は、スラムの管理者まで這い上がってきた。そこから落ちないようにと努力を欠かさない。
ノックはせずトオルは声をかけながら執務室に入った。
「ステラ?」
「な、なんでしょう」
机を前に座っていたステラはいつもよりツートン高い声をあげながら、手に持っていたものを太ももに置いて隠した。
それを見過ごすようなトオルではないし、スルーすることもない。
小走りでステラに駆け寄って、後ろから抱き付いた。
そして、彼女の脇腹から太ももへと撫でながら弄る。
トオルの手に当たったのは本だった。何ページかめくると恋愛小説らしい。お姫様抱っこをされてヒロインがときめいている。もちろん、ヒーロー役も女の子だった。
この世界でもお姫様抱っこは萌えポイントなのかと感心しつつ、ステラに声をかける。
「小説?」
「はい。パルレさんに貸していただいたもので」
借りることでもない限り、娯楽本など読まないという所がステラらしい。
彼女は努力の人だった。
トオルと同じ、地獄に落ちたくないという焦燥を抱えた者であった。余分なことなどしない質であったが、トオルと出会ってからは少しずつ安心を得ている。
初めてキスをし陥落させた相手ということもあるが、似た所があるという点もあってトオルはステラのことを最も信頼していた。
彼女にだけは両性具有のことも知らせている。ただし何股もしていることだけは秘密だったが。
「どう面白い?」
「参考になります。私はこういう本を読んだことがなかったので色々と」
あくまで勉強だというスタンスのステラが微笑ましくて、トオルは彼女を抱く力を強めた。
娯楽に学ぶという理由がないと手に付ける機会がなかったのだ。
本で学ぶことが、トオルのためであることは明らかだったので愛おしく思ったのだった。
その日の昼食をトオルはエニティンと取っていた。
エニティンは今日仕事をする予定の酒場で寝泊まりをしていた。そこには誰もいなかったので貸し切り状態で、トオルの買ってきたサンドイッチを頬張っていた。
女性にしては短めの茶髪がトオルの首筋に当たる。エニティンはとにかく距離が近かった。
隙あらばトオルの匂いを嗅いでくるし、何も言わなければトイレにまで付いてくる。
犬のような少女は甘え方さえ知らないのだろう。近くにいて、動作で示すことしか知らない。
だから、トオルはこそばくても我慢する。至近距離で鼻を鳴らされると、どうにも痒かった。
笑がこらえきれなくなりそうな時は、キスをして黙らせる。
それでエニティンは満足するどころか、さらにくっついてきて頬を擦りつけてくるのだった。
次の予定はパルレだった。あてもなく散歩をしようとトオルが誘ったのだが、パルレは二つ返事で引き受けてくれた。貴族でありながらも、庶民的なデートで楽しんでくれる。
集合場所にはトオルの方が先に着いた。パルレも時間前に来たのだが、いつもと恰好が違った。
違いは靴だ。高いヒールの靴を履いていた。
歩き方もぎこちない。慣れていないのだろう。
転びそうだなとトオルが思っていると、パルレはものの見事に倒れた。左右均等のおかっぱ髪が一斉に揺れる。
幸い、近くの建物に寄りかかれたため転びはしなかったが、ヒールの足が折れてしまった。
トオルはパルレに駆け寄り、彼女をお姫様抱っこをした。
「あっ、トオルさん」
「やあ、パルレ。今日は散歩やめておこう。予定変更で、君を抱えながら寮まで帰宅だ」
ヒールが折れた以上、パルレを歩かせるわけにはいかない。
彼女の住まうバイル学園の寮まで連れて行くしかなかった。
パルレは非常に小柄なので、長時間抱きかかえるのも難しくはなかった。送っていくぐらいどうにかなる。
「あう、ごめんなさい」
「いいよ。残念だったね、せっかくのヒール」
「初めて買ってみたので、失敗してしまいました」
「そうなんだ」
「はい。トオルさんとお似合いだと思われたかったのに」
「お似合い?」
トオルがそう訊くと、パルレは手で顔を隠した。どうやら、口に出すつもりのないことを言っていたらしい。
「私はその、子供っぽいから。トオルさんとお似合いじゃないかなって」
「そういうこと」
トオルは笑ってから、人気のない路地に行ってパルレの唇を吸った。
「似合うかどうかなんてどうだっていいよ。パルレがいるだけで十分だ」
お姫様抱っこの効果もあってか、パルレは真っ赤になっていた。
パルレを送り、リーリエの屋敷に戻る。
ちょうど夕食前だったので、屋敷で調理を担当しているニクルを手伝おうとトオルはキッチンに向かった。
キッチンにはニクルがいて、彼女は既に料理を完成させていた。
手伝うことがないかとトオルは思ったが、よく見るとまだ何か作っている。鼻歌を歌いながら、ボブカットの髪を動かしていた。ホイップクリームがあるからデザートらしい。
「今日はデザート付き?」
「お帰りなさい、お姉さま」
トオルはニクルの実の姉ではないが、姉さまと呼ばれていた。信頼の証なので、トオルも悪い気はしない。
「これは今日出す予定ですけど、ステラさんへのお礼も兼ねています」
ニクルと彼女の姉であるクロ、そしてその家族を救うためにトオルとリーリエは尽力した。
その際、トオルが力を借りたのがステラで、彼女へのお礼をニクルは用意しているらしい。
「そう。喜んでもらえると思うよ」
「だといいんですけど、ひやっ」
ホイップクリームが飛んで、ニクルの首筋についた。
それを拭おうとするニクルの手を止めて、トオルは舌でクリームを取った。
「甘いね。おいしい」
「おすそ分けください」
目を閉じるニクルに、トオルは唇を合わせた。
ニクルの小さな体を抱きしめ、体とは対照的に豊満な肉付きの柔らかを堪能するのだった。
トオルは夕食を主人であるリーリエと共に済ませた。
そこでは使用人であるクロとニクルの目もあって青紫色の瞳を余裕ありげに細ませ、美しい金の髪をはためかせていた。
が、トオルが明日の予定を聞こうと部屋に入ると、リーリエはキャッと可愛らしい声を上げた。
王子様のような彼女らしかぬ声だ。
「すみません、着替え中でしたか」
「いや、気にしないでくれ」
そう言いつつ、上擦った声だった。
女性同士なので気にしなくてもいいだろうとトオルも心の中で思った。前は風呂に誘って来たこともあるご主人だ。
トオルがリーリエの神旗の誓約のため、彼女の足を舐めてからというものの少し距離がある。
しかし、トオルは悪く思わない。これはいい意味での意識の向けられ方だと思っていたからだ。
リーリエという後ろ盾を得て、両性具有という迫害の対象でも生きていけるようになるために少しずつ攻略していくまでである。
トオルが部屋に戻るとクロが待っていた。
この屋敷で一番トオルのことを敵視していた彼女だったが、今ではすっかりトオルの虜だ。
敵視していた理由も、ニクルが姉である自分よりもトオルのことを頼っているのが気に食わないという可愛らしい理由だったためトオルも気にしていない。
「そのトオル様」
「ん?」
キスをしてくださいとでも言われるかと思ってトオルはにやけそうになったが抑えた。
「お姉ちゃんって呼んでもいいですか?」
あまりにも可愛すぎる内容にトオルは背伸びをしてクロの髪を撫でた。
髪型も顔も似ているクロとニクルの姉妹だが、身長と肉付きは正反対だった。クロは背が高くスレンダーなのだ。
トオルよりも背の高いクロが、お姉ちゃんと呼ぶのは破壊力が凄まじかった。
一日で六人の女の子を弄んだトオルのその日の夜は、クロを膝枕させつつ一緒に寝てしまうことで幕を閉じた。
という訳であらすじと小話でした。
あらすじは難しいですね。こういうところで力量が出る気がします。
次の二章は毎日更新で一か月後の一月十二日から開始します。
十二月は新人賞の公募とネットの賞にも出そうと思っているので、これ以上の並列は私には難しく……。申し訳ありません。
ネットの方は小説家になろうさんではなく、カクヨムさんです。見かければ覗いてみてください。