最後の瞬間
引きずられていくシュウとヒロミは、一旦手術室までつれていかれた。
そこで、外部から機械を接続される。
たいていの身体の部位を機械で補える時代だ。
手術自体は難しいものではない。
そうしてシュウには、意思を無視して身体を動かすための装置が取り付けられた。
その状態で司令部に戻り、制御室の前につれてこられる。
生体認証を通さずに制御室の扉は開き、中につれていかれる。
(俺が来た時は動かなかったのに?)
驚くしかない。
宇宙船がシュウの意思を無視して動くという事に。
そのまま身動きがとれないまま、中につれていかれる。
そこには制御用の人工知能が存在していた。
シュウをつれてきた者達は、取り付けた装置を使ってシュウに口を開かせていく。
「管理権限を譲るように言え」
恐ろしいことを言われる。
それは宇宙船に関わるあらゆる権限を放棄する事になる。
そんな事、襲ってきた連中に渡すわけにはいかない。
だが、口は意思に反して動いていく。
「管理者権限の譲渡」
それに人工知能が応答していく。
「権限保有者、川妻シュウの生体認証を確認。
指示に従い、管理者権限を委譲します。
委譲対象は誰に指定しますか?」
その問いかけに、
「沢鳴ヨシユキ」
連行してきた男が答える。
シュウの知らない人間だ。
(誰だ?)
そう思う間に、口はその名を呼ぶ。
「さわなり…………よしゆき」
「了承しました。
サワナリヨシユキを新たな権限者に設定します。
新しい権限所有者の生体情報を登録します。
該当者はカメラの前に出てください」
その声に応じて、襲撃してきた者達の一人がカメラの前に出る。
(あれが……)
そちらに目を向け、誰が沢鳴ヨシユキなのかを確かめる。
目を向けると、40代くらいの男をとらえた。
この中では年かさな方だろうか。
だが、そいつも他の者達と同じような顔かたちをしている。
見れば背丈も同じようなものだ。
細かく調べれば多少の違いはあるのかもしれない。
顔だけでなく体格も差がみられない。
本当に瓜二つだ。
(やっぱりクローンか?)
確かめるようもない。
だが、そうとしか思えない。
(なんで?)
クローンとしてだ。
どうした同一人物をクローンで増やしてるのか?
そんな事をする理由はなんなのか?
とにかく全てが謎だった。
そして、答えを得る事無くシュウは最後を迎えていく。
ゴミのは廃棄処分施設。
その前につれてこられる。
何をどうするのかなど考えるまでもない。
「他の奴らは先に放り込んでおいた」
恐ろしい事を平然と言ってくる。
「おまえらが最後だ」
おそらくそうなのだろう。
無念さがこみあげてくる。
「あと、おまえの再生槽。
おまえの遺伝情報のある特権階級用区域。
あれも全部廃棄処分になる。
おまえらは二度と生まれてこない」
それを聞いてシュウは、ああやっぱり、と思った。
シュウが再生された区域。
そこはシュウを含めた恒星間宇宙船の首脳のために設置されている。
そこで首脳部の人員の再生や生活が営まれる。
これは計画推進者として、功労者として与えられた権利だ。
相応の能力も求められるが、他に比べて恵まれた条件を与えられてるのは確かだ。
そこが潰れれば、シュウを含めた他の者の再生は行えない。
首脳部はこれで崩壊する。
しかし特権階級とはなんなのか?
その言葉にシュウは疑問をもった。
確かにシュウやヒロミ、その他の者達は優先権を与えられている。
それは業務を行うためだ。
その範囲でのみ優先権というか特権的な行動が許されてる。
あくまで仕事の範囲で。
私生活にそれらを用いる事は出来ない。
なのに特権階級という、隔絶した権利をもってるかのような言い方。
(なんだそれは?)
違和感を感じた。
その言い様に。
だが、聞き返す事も出来ない。
あいかわらずシュウの意思を奪う装置がつけられている。
自分の意思で動く事は出来ない。
ただ、耳に入ってくる事に思いを巡らせるだけだ。
そうした思考もすぐに終わる。
廃棄処分施設に放り込まれる事によって。
廃棄処分施設は、宇宙船内で発生したゴミを全て分解していく。
それらは分子のにまで分解され、再構成される。
そうして必要な資材などに変換されていく。
それこそ無機物を有機物に、有機物を無機物にする事も可能だ。
古代の魔法や錬金術のような事が出来る。
この機械にかかれば、石が食料になったり、食料などを石に変換する事も出来る。
そんな機械の中に放り込まれれば、人間もあっという間に分子単位の材料になる。
シュウはその中で痛みを感じることもなく分解されていく。
最後に、ヒロミが同じように放り込まれてくるのを見ながら。
それを見て、なんとなく苦笑した。
最後の最後まで一緒にいたい。
その願いは、こういう形ではあるがちゃんとかなえられたのだ。
それが幸せなのかどうかは分からなかったが。
答えが出るまえに、シュウは消滅していた。
シュウが廃棄処分施設の中で分解されていく。
それを確かめた者達は、一様に胸をなで下ろしていく。
「終わったな」
「ああ」
同じ顔をした者達が口々にそう言っていく。
「これで、ようやく終わる」
その顔には、長い苦労から解放された開放感がにじんでいく。
沢鳴ヨシユキという名を持つ彼らは、この時にようやく与えられた仕事を終えたのだ。
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