目的地の開かれざる扉
司令部内にいた襲撃者達。
シュウ達の敵。
それらは銃口を向けてくる。
そして、ためらう事なく引き金を引いた。
縦断がシュウ達を襲う。
発射されたのは、暴徒鎮圧用のゴム弾。
電流で相手の動きを止めるスタンガンやテイザー。
催涙ガスを発射する擲弾筒。
一応は、非殺傷武器と呼ばれるものだ。
だが、そんなものでも威力は決して侮れない。
死なないだけで、苦しみはする。
それらがシュウ達一向に向かって放たれる。
幸いな事に、着込んでいた宇宙服のおかげで、それらの威力は大幅に減退する。
宇宙空間というのは過酷な場所だ。
有害な放射線が飛び交ってもいる。
小さなゴミでも、高速で飛び、銃弾並の威力でぶつかってくる事もある。
それらから身を守るために丈夫に作ってある。
おかげでシュウ達は無事に済んだ。
とはいえ、不利な事にかわりはない。
人数では負けている。
司令部にいるということは、宇宙船全体の制御は奪われたままという事になる。
全てが不利に働いている。
それでも、その場から退くわけにはいかなかった。
制御を取り戻すには、ここを制圧するしかないのだ。
他の場所から制御の中枢を奪うことは出来ない。
そうなったら、中枢を簡単に乗っ取られてしまう。
それを避けるために、司令部でのみ制御の中枢を管理出来るようにしている。
安全性や保安性を高めるためにそうしていた。
それが今、裏目に出てしまっている。
やむなくシュウ達は司令部に無理矢理突入していく。
敵を倒し、制御を取り戻す。
少人数で状況を改善するにはそれ以外に方法がない。
とはいえ、多勢に無勢だ。
無理矢理押し切ろうにもそれも難しい。
敵と違い、シュウ達が殺傷力のある武器を使っていてもだ。
さすがに施設を破壊するわけにはいかない。
なので、爆発物などは控えている。
だが、銃などは使っていた。
それにより、敵を次々と倒している。
しかし、敵も宇宙服を着ている。
生半可な攻撃は遮ってしまう。
遠距離戦では、互いに決めてに欠いていた。
状況が硬直したまま時間だけが過ぎていく。
殺傷力のある武器を使ってるシュウ達は、少しずつ敵を倒してはいる。
しかし、状況を覆すほどではない。
いまだに敵は司令部に居座り、その数は多い。
「らちがあきませんね」
戦闘担当の者がシュウに声をかける。
「無茶かもしれませんが、あいつらを突っ切って、制御室に飛び込むしかないかと」
「それしかないか…………」
「残念ながら、他に思いつきません」
「仕方ない」
腹をくくっていく。
このまま遠距離からの打ち合いを続けても状況は解決しない。
制御室に飛び込み、宇宙船を掌握しない限りは。
「分かった、やるぞ」
覚悟を決めて指示を出す。
だが、その決断は遅きに失した。
突破を図ろうとするその直前、敵の増援があらわれた。
通路の向こうから非殺傷武器で攻撃をしかけてくる。
時間をかけてるうちに包囲されてしまっていた。
それらはまだ制御下にある作業機械が止めてくれている。
だが、それらを敵は容赦なく排除していっている。
無反動砲や20ミリ機関砲などを使って。
人間は無傷で倒そうとしているが、物体にはそこまで気を遣ってないようだ。
そんな連中との距離が次第に狭まってくる。
「急ぐぞ!」
逃げるという選択肢はない。
ここで撤退しても、敵が有利になるだけだ。
敵は中枢の守りを固めていく。
そうなれば、奪還する事は出来なくなる。
今、この瞬間こそが絶好の機会なのだ。
それでも無茶は無茶である。
「すすめ!」
指示を出すシュウは、これが分の悪い賭けなのを十分に承知していた。
それでもシュウ達は有利に動いていく。
数は減っても、戦闘のプロがそろってるおかげだろう。
少数ながらもきれいな連携で司令部の中を突っ切っていく。
そうして出来た通路を、シュウは進んでいく。
あとは制御室への扉だけ。
そこを抜ければ、この状態をどうにか出来る。
閉ざされてる扉の向こう。
そこに向かって、シュウは突き進む。
その扉は、生体認証で動くはずだった
シュウの細胞や網膜など、外部から個人を特定する事で。
なんなら、手のひらをかざせば良い。
カメラがそれをとらえ、指紋を読み取るだろう。
それで鍵が外され、中に入れる。
そのはずだった。
しかし、敵だってそれくらいは考えてる。
「動きません!」
扉にとりついたはいいが、制御室への扉は開かない。
「ここもか!」
いったいどうやったのか分からないが、制御室も制圧していたようだ。
シュウ達の指示を受け付けない。
シュウの生体認証すらも受け付けない。
なんとか扉の前までたどりついても、それ以上どうにもならない。
その間に、敵は更に押し寄せる。
倒してもすぐに増援が来る。
どうにもならない。
「これが開けば!」
制御室への扉。
その向こうにいければ解決する。
しかし、それがかなわない。
襲撃してきた敵はそんなシュウ達を囲む。
相変わらず非殺傷武器で攻撃している。
おかげで死ぬことはない。
だが、逃げ出す事も出来ない。
これで終わると誰もが思っていた。
そんな中で、爆発が起こった。
ヒロミは状況を見て、とっさに手榴弾を使った。
司令部を破壊するので使うべきではないとは分かっていたが。
それでも、包囲された状態でいるよりは良いと思った。
捕まればどうなるか分からない。
敵に殺す意図はなさそうだが、それならそれで怖いものがある。
捕まったあとどうなるのか分からない。
下手すれば、死ぬよりつらい拷問が待ってるかもしれない。
それが無いにしても、自由があるかどうか。
そんなのまっぴらごめんだった。
だから手榴弾を放り込んだ。
司令室に爆発が起こる。
爆発は連続して三回起こった。
シュウ達の前にいる敵の中で。
司令室の入り口に固まる敵の中で。
最後に、その外で。
乱暴だが道をこじ開ける事に成功した。
それを見て、シュウ達も動き出す。
「撤退だ!」
この場から逃げ出す。
無理矢理開いた道を通り、銃を乱射していく。
手榴弾も出し惜しみする事無く使った。
司令部を壊すのは気が引けるが、そうも言ってられない。
そもそも、制御室に入れないならどれだけ破壊されようとかまわない。
そこはもう使い物にならないのだ。
だったら、どれだけ壊れようとかまわない。
それよりも、この先どうするかが問題だ。
「脱出用の宇宙船に向かう」
それしかなかった。
今、宇宙のどのあたりなのか分からない。
脱出用宇宙船の航続距離の中に、居住可能な星があれば良いのだが。
そうでなければ、宇宙で漂流する事になる。
それでも、
(捕まるよりは良い)
そう考えて脱出用宇宙船へと向かう。
ただ、脱出用宇宙船の所までたどり着けるかどうか。
到着したとしても、船を動かせるかどうか。
司令室でシュウの認証がされなかった事を考えると、脱出用宇宙船も動かない可能性がある。
そもそも、格納庫に入れるかどうか。
そこから考えねばならない。
だが、他に道もない。
この恒星間宇宙船の中は敵だらけだ。
それらから逃れるには、この船から逃げるしかない。
人手や機材があれば、もっと別の道も考えるのだが。
人は周りにいる者達だけ。
機材も手持ちの分だけ。
10人にもならない仲間だけではどうしようもない。
再生槽で人をよみがえらせる事が出来れば良いのだが。
今はその手段すらも使えない。
不利どころか絶望的といえる状況だ。
これを覆すのは簡単ではない。
不可能といった方が早い。
そうして脱出用宇宙船に向かってる間にも、損害は増えていく。
仲間は次々に倒れていく。
彼らはシュウを逃がそうと必死だ。
「先に行ってくれ」
ある者はそう言って迫る敵に突っ込んでいった。
「逃げ延びたら、俺の再生を頼む」
閉じゆく扉の向こうで敵の迎撃に残った者が叫ぶ。
「ここで少しでも時間を稼ぐ。
上手くいけば、相手から制御を取り戻せるかも」
区域にある制御機構に残り、少しでも自分たちに権限を取り戻そうと技術者が奮闘する。
「行け!」
誰もがそう言った。
「俺たちはあとで再生すればいい」
そこに希望を見いだして覚悟を決めていった。
再生されるのは自分ではないというのに。
自分とうり二つの別人だというのに。
それでも、再生されればそこから人生を再び始められると考えて。
自分ではないもう一人の自分に人生を全うしてもらう事にして。
そう考えて、この場にいる個体としての己を犠牲にしてった。
皆が作ってくれた、犠牲によって出来上がった道。
そこをシュウとヒロミは進んでいった。
先に生かしてくれた、残って援護をしてくれた者達を思いながら。
いつの間にか涙がにじんでいた。
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