辿り着いた場所
区域を越える直前、制御が乗っ取られた。
人工知能はギリギリまで粘ったが、それでも力及ばずだったようだ。
「申し訳ありません」
最後に一報を入れてきた。
「あとは、そちらのコンピュータにコピーを残して補佐していきます」
それが最後の通信になった。
宣言通り、人工知能は車両のコンピューターの中に入った。
機能を大幅に削り、核となる部分だけを。
今後の道案内としての役目を担うために。
「それに、制御中枢にて私をコンピューターに転送してくれれば、制御を取り戻せる可能性があります」
今のところ、それがこの状況を打ち破る数少ない手段だった。
そんなシュウ達を乗せた車両が区域の境を抜けようとした時。
通路を遮る隔壁が動き出した。
区域の機能を掌握した襲撃者によるものだろう。
あわてて通り抜けていったが、何台かが取り残された。
助けようにもどうにもならない。
この区域の人工知能から機能を奪わないと隔壁を動かす事は出来ない。
それには、この区域の中枢に向かうしかない。
「仕方ない」
苦渋の決断だが、先に進むしかない。
境目のこの場所に留まっても、何も解決しないのだから。
だが、貴重な人員を更に失う羽目になった。
区域の境目を越えられたのは、全体の半分ほど。
ただでさえ少ない人材と戦力を一気に失ってしまった。
その後も似たようなものだった。
区域の防衛機構を相手に大立ち回りをしたり。
機能を奪うために中心地でハッキングをしたり。
そうして一時的に掌握した機能を使って、区域の境を越えたり。
その度に様々な損害が発生した。
襲われて戦闘になり、人が倒れた。
車両が破壊され、移動出来なくなる者がいた。
機材が壊れ、出来る事が減った。
どうにか別の区域にまで入っても、また別の敵が襲ってくる。
そんな事の繰り返しの中で、シュウの仲間は次々に減っていった。
それでも制御中枢を目指す旅は続く。
幸い、機能を乗っ取った区域で、無人機械を幾らか手に入れた。
車両や工作など、様々な作業を行うそれらが、失った人手の代わりになった。
機械なので制御を奪われる危険性はある。
だがそれでも足りない人数を補う役にたってくれた。
それでも先に進むほど抵抗は大きくなっていく。
船内からかき集められたのか、様々な作業機械が行く手を阻んだ。
シュウ側の制御下にないものだ。
それらが次々に襲ってくる。
それらをどうにか退けて先に進んでいった。
思いがけない幸運もあった。
他の区域に調査に向かった者達。
その生き残りと合流する事が出来た。
彼らも襲撃者との戦う事になったのだが、どうにかそれを切り抜けたという。
また、区域制御の人工知能から最後の通信を受け取ってもいた。
「宇宙船の制御中枢を目指せって。
そう言われたんで」
それに従い、なんとかやってきたという。
「それじゃ、他にも生き残りが?」
「いるかもしれません。
まあ、確証はありませんが」
それでも十分だった。
減りっぱなしだった人数がある程度回復していく。
それに、調査に出ていたのは、全員腕利きだ。
軍人だった者や、技術者だった者が揃ってる。
それらがいれば、この先の困難を乗り越える事も出来るだろう。
「それじゃ行こう。
この状態を解決するんだ」
生き残った全員が頷く。
そこから制御中枢に向かうのも大変な苦行になった。
襲撃してくる敵は宇宙船の機能を掌握している。
その為、シュウ達の居場所も分かるし、船内の様々な機器を使いこなす事が出来る。
どうしたってシュウ達の方が不利だ。
普通にやれば勝てるわけがない。
しかし、シュウ達が圧倒的に不利というわけでもない。
宇宙船における権限。
機能をどれくらい使えるか、出せる指示の強さがどれくらいか。
宇宙船において、これは大きな力になる。
シュウはその中でも最上位の権限を持っている。
制御を受け付ける状態の機械に対しては、命令できる立場にある。
なので、区域の中枢などで制御を取り戻せば、ほぼ確実に機能を思い通りに使えるようになる。
この権限はシュウ以外の誰かに渡す事は出来ない。
また、シュウだけが持つ強みだ。
だが、襲ってくる機械はこの権限を受け付けないようになっている。
入力がそもそも出来ない状態にされている。
それを解除するには、中枢まで出向いて、ハッキングをしかけねばならない。
そうして無理矢理シュウの権限を入力し、支配下におきなおさねばならない。
手間がかかってしまう。
だが、一度権限を取り戻せば、もう奪われる事は無い。
そうしてシュウは、行く先々にある制御機構を取り戻していった。
それらを使って、道を切り開いていく。
犠牲は大きかったが、宇宙船の中心へと辿り着く事が出来た。
「ここか」
宇宙船の司令部。
全ての制御機能の中心。
それがおさまってる部屋の前までやってきた。
多大な犠牲をはらい、ようやく辿り着いた場所。
その扉をシュウは権限を使って開いていく。
車内のコンピューターに宿った人工知能が作業を開始していく。
閉ざされた扉に、無理矢理シュウの権限を入力する。
それが終わると、扉は開いた。
その向こうには、武装した人間がシュウ達に銃口を向けていた。
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