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地球の記憶

 目を閉じても眠れるわけではない。

 だが、少しは気が休まる。

 その為だけに、寝てるふりをする。

 いつ襲われるともしれぬ中で。



 そして思い出す。

 再生された肉体に刻まれた記憶を。

 自分のものであるはずの、これまでの人生。

 状況が状況なのでその全てを取り戻したわけではない。

 しかし、必要最低限として与えられた記憶は、懐かしさを感じさせてくれる。

 地球にいた頃の思い出には、そんな左様があった。



 地球にいた頃、川妻シュウは財閥の御曹子だった。

 とはいえ、既に40代になり、実務にも携わっていた。

 まだ父が存命だったから実験は握ってなかったが。

 しかし、事実上の財閥当主として活動をしていた。



 恒星間航海は、そんなシュウに持ち込まれた計画だった。

 それは人類の将来を考えたものだった。



 今はまだ人類は安泰である。

 地球環境も問題は無い。

 しかし、これらがいつ崩れるか分からない。

 最悪、滅亡するかもしれない。

 地球そのものが消滅する可能性もある。

 消滅しなくても、居住が出来なくなるかもしれない。

 そういた時の為に備え、予備を作る。

 それが恒星間航海計画の主旨だった。



 それにシュウは賛同した。

 シュウ以外の有力者達も。

 それどころか、人類そのものもその計画にのった。

 人類の存続のために。




「というわけなんだ」

 その事を妻のヒロミに話した。

 同年代の妻はシュウの話に一も二もなく賛同した。

「素適ね、そんな大きな計画にあなたが携わるなんて」

 そういって賞賛もしてくれた。

「がんばってね。

 人類の為に」

「ああ、やってみるよ」

 そうしてシュウは計画に関わっていく事になる。



 とはいえ、問題は山積みだった。

 宇宙進出という大規模な事業。

 それに必要とされる膨大な資源。

 その捻出だけでも相当な苦労がある。



 また、事業としてみた場合、果たして利益があるのかどうか。

 それも問題視された。

 人類の存続というのは、確かに大きな利益である。

 だが、そういう大それた目標以前に、日々の生活がある。

 それを支えるには利益が必要だ。

 その利益をどこから得るのか?



 仮にそれらを解決したとしても、宇宙に進出するために必要な知識と技術。

 それをどうやって手に入れるのか?

 計画が出された時点では、人類にそこまでの能力はなかった。

 恒星間航海など、夢のまた夢だった。



 その他様々な問題があった。

 それらを一つ一つ解決していく。

 成功にもっていく。

 その為の基礎と道筋を作る。

 それだけでお一大事業になった。



「思った通りに大変だ」

 家に帰ってシュウは愚痴ることが多くなった。

「でも、やらねばなあ」

「がんばってね」

 応援してくれるヒロミの存在が支えだった。



 諸々の問題をどうにか片付け、実現に向けて着手していく。

 生やさしいものではなかった。

 シュウが生きてる間に出来たのは、計画のまとめだけ。

 そこから宇宙船の建造と出発までは、後継者に任せるしかなかった。



 ただ、シュウの尽力は関係者の誰もが知り、認めるところだった。

 その為、その遺伝子情報は宇宙船に乗せられる事になった。

 優れたリーダーとして。

 幾つか作られる移民船である恒星間宇宙船。

 その一つの統率者として。



 もとより、人が宇宙船に搭乗する事は無い。

 どれほど巨大な宇宙船でも、多くの人を乗せる事は出来ない。

 それでは移民の人数が限られてしまう。

 動植物も多くを詰め込めない。

 だから、地球上の生命体は遺伝子情報だけ持ち込む事になった。

 それを元にして、再生する事になる。

 これならば、多くの人間を、生命体を持ち込む事が可能だ。



「次に目を開けるとしたら、別の星か」

 晩年のシュウは、横たわりながらそう思った。

 もう体は動かず、意識もはっきりしない。

 ヒロミも既に先に逝った。

 この世に未練はない。

 ただ、宇宙船がどうなるかは少し気にはなる。

 しかし、シュウに出来る事はもう無い。

「成功するのを楽しみに待つしかないな」

 気の長い話である。

 だが、いつか復活する事を楽しみに、この人生を終える。

 それはそれで面白いと思えた。



 死後、シュウの脳内記憶などは全て読み取られる事になる。

 それが、別天地で再生するシュウに転写される。

 そうしてシュウは復活する事になる。

 それを死者の蘇生というには無理があるだろうけども。

 しかし、川妻シュウという人間はもう一度生まれる事になる。

 もう一人の自分に、シュウは続きを託そうと思った。

「と、俺はこう考えてる。

 だから、お前には頑張ってもらいたい。

 もう一人の、あるいは転生した俺よ」

 それが明確な意識をもった最後の記憶になった。



 そうした記憶を脳に写し込まれてシュウは再生された。

 生まれる前の自分の記憶。

 それを思い出すと色々考えてしまう。

 計画は成功し、宇宙船は発進した。

 携わっていた事業は成功した。



 しかし、完璧にはいかなかった。

 こうして問題が発生してしまってる。

 いったい何が原因なのか?

(死んだ後に何かあったのか?

 それとも、俺達の作った計画に問題があったのか)

 何があったのかは分からない。

 だが、問題が起こってるのは事実だ。

(どうにかしないとなあ)

 せっかくここまで来たのだ。

 問題を片付け、計画を成功させたかった。

 自分が心血注いだ事なのだから。

 それに、携わった多くの者達がいる。

 そういった者達にも報いたい。



(それに……)

 肩に頭をのせてるヒロミを見る。

 前世で一緒だった。

 出来れば再生された先でも一緒にいたいと思った相手だ。

 その相手との新たな人生。

 それを悲惨なものにしたくない。

 よりよいものに、出来るなら地球にいた頃よりも幸せに。

 再び共に生きていきたい。

 だから問題を解決したかった。

(がんばらないとな)

 前世もそうだったように、今世でも。

 やらなきゃならない事に挑むしかない。



 ただ、決意はともかく実現には困難が伴う。

 その事をシュウ達は思い知る事になる。

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