脱出から解決を目指す旅
暗闇はすぐに回復する。
しかし、事態が容易ならざるものである事は確かだった。
「どうなってる」
つとめて落ち着いてシュウが尋ねる。
その問いかけに、合成された音声が答える。
「現在、他の区域から侵入した戦闘機械により攻撃を受けています。
数は2000。
どんどん増加していってます。
現在、迎撃中」
「なんだと?」
ありえない事だった。
現在この宇宙船で生きてる人間はシュウを含めたここにいる者達だけだ。
他の区域に人間がいるわけがない。
しかし、現実に襲撃は起こってる。
「加えて、ハッキングも行われております。
そちらも複数の回線から行われており、最大でも32時間以内に制御機構が掌握されます」
戦闘は目に見える現実だけで起こってるわけではなかった。
「用意周到だな」
「全くです」
相手はたんなる破壊活動家・テロリストではないようだった。
「誰が襲ってきてる?」
当然、そこが疑問になる。
仮に人間が襲ってきてるわけではなかったらだ。
多数の戦闘機械を動かしてる何者かがいる。
今のところその可能性が高いのは、
「制御用の人工知能?」
その可能性がある。
人が動いてるのでなければ、可能性があるのは人工知能だ。
この宇宙船には様々な用途の為に人工知能が存在する。
それらが様々な作業と役目を担っている。
それらがどういうわけか襲撃をかけてきている。
その可能性もあった。
そうでなければ、宇宙人がやってきて襲ってきてるかだ。
今のところ、その可能性も否定出来ないが。
「いったい、何故?」
とりあえず、相手が人工知能だとしてだ。
どうして襲ってくるのか?
それが分からない。
ただ、膨大な数の戦闘機械がやってくる。
それは間違いない。
「敵を迎撃出来るか?」
「不可能。
対抗手段がありません」
戦闘手段はある。
ただ、相手があまりにも多くて対処が出来ないのだ。
「最善の選択は?」
「襲撃者の意図が分からないので確実な事はいえません。
ですが、皆様の安全と生存を優先するのであれば、この場からの脱出。
これが最善です」
「他に安全な場所があるのか?」
「この区域内にはありません。
今も増援がやってきており、時期にこの区域全部に襲撃者達が制圧します。
この区域に留まっても、確実に襲撃者に捕獲されます。
その場合、皆様が生存できるかどうかは分かりません」
「なるほど」
納得するしかない。
他の区域に行っても安全かどうかは分からない。
だが、ここにいれば確実に死ぬ。
少なくとも、良からぬ結果になる可能性は高い。
「生き残る為には、逃げるしかないか」
「その通りです」
考えたり迷ってる場合でもない。
早速行動に移していく。
必要なものを持って移動を開始する。
それらを持って船内移動用の車両に乗り込む。
短時間なら宇宙にも出られるそれでシュウ達は出発した。
「シュウ、大丈夫だよね」
心配そうにヒロミが尋ねてくる。
「分からない、でも何とかする」
「うん、信じてる」
何の確証もない言葉。
でも、それが不思議とシュウを勇気づけていった。
巨大な船内にふさわしい巨大な通路。
そこを、トラック並の大きさを持つ車両が進んでいく。
移動だけなら、エレベーターなどがあるのだが、今回は見送った。
移動経路が限定されてしまい、襲われやすくなるからだ。
それに、制御機構が乗っ取られたら、そのまま閉じ込められる事になる。
その為、移動手段としては効率的とはいえない車両を用いる事にした。
幾つかの車両に分乗し、脱出を試みる。
しかし、ただ逃げ出すだけではない。
事態の収拾を図る為の行動でもある。
「なぜこうなったのかは分かりません」
車内の通信機で人工知能が語りかけてくる。
「しかし、原因はあるはずです。
また、制御中枢を掌握出来れば、事態を解決出来るかもしれません」
確かにそれしかなかった。
何がどうなってるのかは分からない。
だが、全ては船内で起こってる事だ。
ならば、この宇宙船の制御中枢をおさえてしまえば、船内の問題を解決出来るかもしれない。
これが正解かどうかは分からない。
だが、他に手段もない。
「やろう」
迷うことなくシュウは決めた。
とはいえ難しい旅になる。
シュウ達が再生した区域は、比較的制御中枢に近い。
だが、そこまでの距離は300キロを超える。
途中、襲撃してきた者達の妨害もありえるので、簡単に到着出来るとは思えない。
それでも解決方法は他にない。
やるしかなかった。
疑問と不安を抱え、シュウ達は制御中枢を目指す。
起こってる問題の解決のため。
そして、可能なら原因を探るため。
船内通路を走り、目的地へと向かう。