状態異常
久しぶりの再会。
体感的にはそれほど離れているという気はしない。
何せ、再生されて間もないのだから。
頭には以前の自分の記憶は多少はあるが、実質的にはこれが初対面みたいなものだ。
それでもシュウはヒロミとの再会を喜んでいたかった。
そうしている余裕はないけども。
今の状況がそれを許しはしない。
「それで状況は?」
ひとまずヒロミに回した腕をほどく。
ヒロミはそんなシュウの腕に腕を絡ませ体を押しつけてくるが。
わざわざほどくのも面倒なので、そのままにしておく。
報告を受けるだけなら、それで問題は無い。
そんなシュウの前に調査報告をまとめた者が出る。
「久しぶりだな」
「ええ、そうですね」
お互い顔なじみだ。
前世でも共に仕事をこなした中だ。
その気安さから、話も進めやすい。
「船の機能が停止してます。
原因はまだ不明です」
結論から入った報告は、最悪の状況を伝えてきた。
さすがにシュウも愕然とする。
だが、呆然としてるわけのもいかない。
「調査はどこまで進んでいる?」
「とりあえず、手の届く範囲は。
しかし、通信設備も動いてなので。
本当に見て回れる範囲しか確認できてません」
「そうか…………」
思ったよりも状況は酷いようだった。
恒星間飛行、つまり太陽系から別の太陽系まで。
その間を飛行する巨大宇宙船。
全長5000キロを超える巨体だけに、調査も簡単ではない。
本来なら、自動診断装置や自動修復装置があるのだが。
それらも現在機能停止をしている。
なので、人による調査に頼らねばならない。
しかし、これだけの巨大な船、人だけで全てを調べる事は不可能だ。
するにしても人手が足りない。
とりあえずの調査で再生された数十人程度では、周辺を調べるだけで限界だった。
「なるほど。
では、現在分かってる範囲。
どの機能が生きていて、何がどれくらい死んでいるのか。
分かってる範囲でいい、教えてくれ」
「はい、それはこちらをご覧ください」
そう言って空中に画像を表示させる。
表示された画像に、現在判明してる調査状況が示される。
そこには、シュウ達がいる区域とその周辺が映っていた。
「まず、我々がいる場所。
この周辺は通常通りに動いてます」
生命時装置などの最低限必要な機能。
それに加えて、区域管理をしている人工知能。
さらには発電機に水や食事を作り出す部分。
生きていくのに必要なこれらは正常に作動しているという。
「ですが、そこから先は状態が分からなくて。
断線してるのか、状態が全く分かりません。
単に連絡がとれないだけなのか。
あるいは何かが壊れているのか。
それも今はまだ不明のままです」
不可解な事だった。
何らかの異常が発生したのは確かなのだろう。
しかし、今現在の区域だけは無事。
それ以外はどうなってるのか分からない。
そんな事があるのか?
絶対にありえないとは言えないのは確かだ。
まさかと思う事が起こる事だってある。
事実は小説より奇なりとはよく言ったものである。
しかし、この状況はさすがにおかしいと思える。
「どうしてこの区域以外が状態不明なんだ?」
そうなってる理由が分からない。
事故にしても、他の区域が全て潰れる事はないだろう。
通信が途絶してるだけにしても、他の全てと連絡が取れないというのもおかしい。
事故にしろ何にしろ、今いる場所しか状態が分からないというのはおかしい。
「設計や建造時に何か失敗があったのか?」
「その可能性もあります」
報告者はそう言うしかない。
原因が特定出来ない今、ありとあらゆる可能性を考える必要がある。
「隕石とかがぶつかったかもしれんが。
それにしても、ここ以外の状態が分からないというのがな」
「制御中枢の人工知能とも連絡がとれません」
かなり致命的な状態だ。
宇宙船全体の管理をしてる制御中枢。
そこと連絡がとれないとなると、やれる事が大幅に減ってしまう。
「ただ、この区域の機能に問題はありません。
調べられた範囲では、ですが」
「よくやってくれた」
素直にシュウは褒めた。
「それが分かってるだけでも助かる」
「ありがとうございます」
とにかく分からない事だらけだ。
その中で、自分たちのいる場所がまともに機能してる。
それが分かっただけでもありがたい。
「それと、他がどうなってるのかの調査にも何班か出ています。
直にその報告が来るはずです」
その報告が少しでも早く届く事をシュウは願った。
この場にいる他の者達も。
しかし、調査に向かった者達の報告は届かず。
それどころかより最悪な事態が起こっていった。
「大変です!」
通信機からの声。
室内に響き渡るそれにシュウが応じる。
「どうした?」
「襲撃です……!」
それを最後に通信が途絶えた。
そして。
程なく灯りが消え、暗闇が周囲を閉じていった。
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