表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

孤独な作業

「これが、地球で起こった事だ」

 宇宙船が飛び立ったあと、一人になったシュウが天寿を全うして。

 秘密裏に設置された再生槽で一人の人間が再生された。

 その頭に様々な記憶と情報が入力される。

 ここに至る事の次第が。



 それは、宇宙船が飛び立ったあと、作業員達に説明をしていた男によってなされた。

 もちろん、彼は生きて説明をしていたわけではない。

 事前に撮影していたものだ。

 それによって何があったのかの説明がなされた。



「既にこの宇宙船の中にいるのは君だけだ。

 他に生きてる人間はいない」

 それを見計らって再生するように設定されている。

「そして、再生された君には、この計画を実行してもらいたい」

 それは宇宙船の乗っ取り。

 そして、シュウをはじめとした宇宙船で脱出した者達の殲滅。

 その上で、新天地での新たな生活。

 他の多くの者達の再生。

「その為の計画は既に出来上がっている。

 あとはこれを実行してくれればいい」



 そういって、計画が表示されていく。 

 莫大で膨大な作業量だ。

 専門的な作業が必要な部分もある。

 一人でこなすのは不可能と思えた。

 実際、男もそう考えている。

「これを一人でこなすのは無理だろう。

 例え君が天才だったとしてもだ」

 それを踏まえて男は今後の事について話していく。



「この作業は何代にもわたって実行する事になる。

 君が寿命を迎えて倒れれば、次の君が再生される。

 そうして何代にもわたって作業を進めてほしい」

 とんでもない話になってきた。

「君には出来る所まで作業を進めてもらえれば良い。

 生きてる間に出来るところまで。

 それを次に生まれてくる君に引き継いでもらいたい」

 作業の継承。

 計画遂行のための人生。

 それを男は求めていく。



「大変な困難が待ってるのは承知している。

 君に大きな負担をかけてしまう事も。

 だが、これしか方法がなかった」

 男も辛そうではある。

「機械を動かしたら感知される。

 そこから計画が露見するだろう。

 だが、人間が動くならそういった心配は無い。

 この宇宙船は人間の活動支援を旨としている。

 そうそう大きな障害はないはずだ」

 それが人間を用いて作業を進める理由だった。



「また、君一人に押しつける事にもわびねばならない。

 出来れば大勢でとりかかりたいのだが。

 人数が増えるとそれだけ問題も大きくなる。

 統制がとれなくなるだろう」

 それは人の持つ業だ。

 自分の思い通りに動きたい、やりたい事をやりたい。

 そういう心があるからまとまった行動をとるのが難しい。

 また、性格の違い、相性などもある。

 気にくわないという理由で殺し合いだって起こる。

 そんな人間を何人も再生したら、計画遂行もままならなくなる。

 途中で作業が頓挫する。

「その為、どうしても一人で進めてもらわねばならなかった」



 それならば、同じ人間を何人も再生すれば良いだろう。

 だが、それもそれで問題がある。

 単純に、資源の問題だ。

 再生するにも材料を使う。

 その材料がない。

「かくして持ち込めるものに限度があった。

 君一人と、君が暮らしていくための食料など。

 それらを用意するだけで限界だった」

 隠れて事を進めていたのだ。

 やれる事には限界がある。



「なので、君一人に全てをこなしてもらうしかない。

 だが、君しか適任者がいない」

 そういって男は理由を説明する。

「才能や能力、技術に知識。

 そういったものを持つ者は他にもいる。

 だが、孤独のまま長い期間に耐えられる者はいない。

 志を保てる者も。

 そういう素質がなければ、この作業を完成させる事は出来ない」

 心が弱ければどうにもならないのだ。

 だから孤独に耐えられる者を選んだ。



「全ては遺伝子情報をもとに選んでいる。

 採取したそれから、最適な人間を選別して再生するようにしている。

 だから、君に頼みたい。

 どうか、逃げ出した者達に鉄槌を下してくれ。

 残された者達の無念を晴らしてくれ。

 他の多くの者達のためにも」

 そういって男は頭を下げた。

 更に、

「何より、他でもない君自身のために」

 そういって男は話を締めくくった。



 それらを聞き終えて、再生された者の意識は覚醒していく。

 脳内に記憶を移し込まれ、自我を起動させて。

 我が身に起こった事を思い出しながら。



 沢鳴ヨシユキはこうして再生された。

 そして、託された願いに応えるために。

 何より自分自身のために行動を開始していった。



 それは困難を極める作業だった。

 まずは必要な原材料集め。

 その為に宇宙船内を歩き回った。

 物を分子にまで分解して再構成する機械。

 それそのものはある。

 だが、材料が足りない。

 運び出して持ち帰る。

 そして、持ち帰った材料で必要な機械を作っていく。

 そんな事で何代かの人生が費やされた。



 出来上がった材料で必要な機械を作り出していった。

 最初は小さな部品から。

 それを組み合わせて大きな部品に。

 大きな部品が組み合わさって機械になる。

 そうしたものをいくつも作り上げていった。



 こうした事を何世代にもわたって繰り返した。

 老衰し、身体がまともに動かなくなれば、そこで人生を終える。

 物質を分解する装置に自らを横たえ、息絶えると同時に身体を分解。

 そうして得た物質をもとに、再生槽で再び自分を作り出す。

 そんな事を繰り返しながら、宇宙船の片隅で必要な準備をととのえていった。



 宇宙船の片隅にある独立した部屋。

 宇宙船全体からすれば小さなそこは、作り上げた機械で狭くなった。

 それらをもとに宇宙船の制圧を始めて行く。

 幾つかの区域に機械を設置し、中枢からの制御を取り除いていく。

 中枢の制御用回線には欺瞞装置を設置。

 問題がないように見せかけていく。

 そうしてから、各区域の中枢を制圧。

 機能を掌握していく。



 そうして少しずつ各区域を制圧していく。

 生身で欺瞞装置を部品単位で持ち込み、少しずつくみ上げて設置していく。

 そうした準備だけで、人生一つを費やす事もあった。

 巨大な宇宙船内の移動に車両が使えないからだ。

 下手に使うと、発見される可能性がある。

 一度制圧してしまえば、そういう心配は無くなるが。

 そうなるまでは、持って生まれた足を使わねばならない。

 辛抱強い努力が必要だった。



 全長5000キロの宇宙船の大部分を支配下に置くのに、多大な時間がかかった。

 最終的に司令部と、川妻シュウ達が再生される予定の区域以外はほぼ制圧した。



 この二つに手を出せなかったのは、指令の権限などがあるからだ。

 実施的に宇宙船の制御はヨシユキが手に入れた。

 だが、宇宙船本来の主はシュウである。

 それが持つ権限がないと、宇宙船の重要部分は手に入らない。

 ヨシユキ達が手にしてない何らかの情報。

 それらを喪失する可能性がある。



 宇宙船の司令部にだけある機能。

 シュウにだけ使える機能。

 それらが永遠に失われる可能性がある。

 それが取るに足らないものなら良い。

 だが、重要な部分を失う事になったらどうするか?

 それを考えると、迂闊に手を出すことは出来なかった。



 だから、こればかりは待つしかなかった。

 川妻シュウが再生されるのを。

 再生されたら、捕らえて生体認証を使う。

 それにより、宇宙船の権限を奪う。

 取り漏らしを防ぐには、そうするしかなかった。

 その為に、シュウとその周囲の人間が再生される区域には手を出さなかった。

 そこに手をつけたらどうなるか分からないからだ。



「けど、ここまで来れたか……」

 何代目なのか何百、あるいは何千代目なのか。

 途方もなく再生を繰り返してきたヨシユキ。

 彼は今、計画通りに宇宙船のほぼ全ての掌握を終わらせた。

 あとはシュウが目覚めるのと同時に、生体認証のために捕獲するだけだ。



 その時までにはまだ時間がかかる。

 シュウ達が再生されるのは、目的地にたどり着いた場合。

 その時、指導者として再生される。

 そうでなければ、宇宙船に何かあった場合。

 緊急脱出が必要な場合になある。

 そうした場合に備え、あとはひたすら待つ事になる。

 ヨシユキ一人で。



 全ては、何らかの異常事態が発生した場合に備えてだ。

 居住可能な星に到着出来るとは限らない。

 何らかの問題で、入植を断念する事もあるかもしれない。

 そうした場合、緊急で再生が始められる。

 それに合わせてヨシユキが再生出来れば良い。

 だが、時間差が出てしまうと、それだけで不利になりかねない。

 なので、代替わりしつつ非常時に備えておく必要がある。



 そこからは長い長い忍耐の時期が続く。

 やるべき事もほとんどが終わっている。

 これ以上何かをする必要もない。

 もしかしたら起こるかもしれない何か。

 それを待ちながら時間を過ごす。

 ひたすら退屈な時間が待っている。

 それがたまらなく苦痛であった。



 退屈を紛らわせるために、様々な遊びを行った。

 持ち込めるあらゆるゲームなどを楽しんだ。

 漫画、映画などなども。

 身体を動かす運動も。

 とにかく出来る事は何でもやって楽しもうとした。

 しかし、そんな事を人生がおわるまでの数十年も続けるのは難しい。



 何代目かで、ヨシユキは何十年も生きるのを止めた。

「やってられねえ……」

 何かしたわけではないが、何もしないという事に耐えられなくなった。

 そして、一回の人生を10年程度。

 早ければ二年や三年で終わらせるようになった。

 そうしてかなり早く代替わりを行うようになった。



 幸いにして、何かしら問題が起こるような事もなく。

 星から星にわたる航海は順風満帆に進んだ。

 それはつまり、ヨシユキが時間を無駄にしていく期間を増大させていった。

 辛く苦しい日々を過ごし、ヨシユキはただ航海が終わるのを待った。



 この時点でシュウ達を襲撃しなかった理由は一つ。

 それで宇宙船の運航に異常をきたしたら元も子もないからだ。

 やるなら、目的地近くに届いてから。

 それなら、航路が外れる心配は無い。

 まずは目的に到着してから。

 失敗は許されない。



 そして待ちに待った日。

 新天地に到着する日が近づいた。

 それに合わせて宇宙船の指導部が再生されていく。

 ヨシユキはそこで再生される川妻シュウを捕らえるべく動き出す。



 この最終段階にあわせて、ヨシユキはクローンを増産した。

 機械だけではない、人間の兵隊を増やすためだ。

 宇宙船の制御の大半は奪ってある。

 だが、無人の戦闘機械などを使えば、何がどこで反応するか分からない。

 また、人以外の侵入を拒まれる場合もある。

 最悪、通路を隔壁で塞がれる事も考えられた。

 それを避けるには、生きてる人間が必要になる。

 相変わらず宇宙船内は、人間の通行を妨げない。



 そうした自由を確保するために、ヨシユキは自分のクローンを増産した。

 他の人間を再生しなかったのは、それをした場合に様々な面倒が予想されたからだ。

 考え方の違う人間を再生しても、まとまった行動がとれるかどうか。

 それよりは、基本的な考えや性格が同じ人間を増やした方がマシに思えた。

 同じ顔がいくつもあるのは結構不気味ではあったが。

 区別をつけるために、ヘルメットで顔を隠す事にした。

 その方が幾らかマシである。



 そうして再生された者達を襲撃していった。

 それに反応して、シュウ達の再生される区域の人工知能は緊急事態と判断。

 緊急で指導部の人間の再生を開始していく。

 そうしてシュウが再生されたのを確認して、最後に残った区域に突入を開始。

 シュウの確保に動いていった。



 さすがに簡単にはいかなかった。

 だが、展開したクローンにより、相手を追い込むことに成功。

 途中何度も逃げられはしたが。

 その都度、敵の仲間を削りとっていった。

 それらも一応とらえて意識を失わせていく。

 何らかの生体認証や知識を持ってる可能性があるからだ。

 それを失う事で、大きな損失になるかもしれない。

 それを危惧して、とりあえず生かしておいた。



 だが、そうした心配をする必要もなかった。

 司令部まで誘い込んだのを取り逃しはした。

 だが、脱出用宇宙船に向かうのを発見。

 展望室を兼ねた休憩所にいる所を捕縛。

 自由を奪って司令部まで連行した。



 そして生体認証をして、全ての権限を入手。

 宇宙船の全てを手に入れた。



 そうしてから到着した星の改造を始めた。

 やってきた星は地球に似た環境をしている。

 だが、そのままではまだ人が住める状態にはならない。

 なので、まずは環境を地球と同じようにする必要があった。

 その為の改造設備も宇宙船にある。



 材料も必要になるが、それも問題は無い。

 宇宙船を分解して必要な材料にしていく。

 もともとそのつもりで建造されていた。

 様々な物資を用意する事は、事実上不可能なのだから。

 だから、宇宙船そのものを分解して、あらたな世界を作る事になっていた。

 ただ、全てを使ってしまった場合、何かあったときに困る。

 その為、最低限の設備は残すようにもなっていた。



 そうして始まっていく惑星改造。

 地球と同じ姿にするべく、様々な機器が開発され、投入されていく。

 それと同時に宇宙船の姿も崩れていく。

 不要な区画が消えていき全体の姿が小さくなっていく。

 代わりに地上の環境がととのい、人類が生きていける状態になる。



 そこまで行き着くのに何百年という時間がかかった。

 人間の尺度では長い。

 しかし、宇宙規模で考えれば瞬間的な短期間。

 それで星は水の青と、植物の緑を備えた環境を備えていった。

 そこに再生された動物が活動を始めている。



 その間に、寿命を終えていくクローンのヨシユキが分解されていく。

 用が済んだから処分、というわけにもいかない。

 なので、寿命が来るまでは生きながらえ、それが終わればそのまま分子の単位で分解。

 その代わりのクローンは作らない事にした。

 再び一人に戻るまでは。



 人類の再生はそうなってから始まった。

 遺伝子情報をもとに、様々な人間が再生されていく。

 何度も代替わりしたヨシユキは、それらを再生させる指揮を執っていた。

 順番に地上に降り立つのを見守りながら。



 そうして地上であらたな文明が発生していき。

 地球と人類の再生が完遂された。



 それを見届けてから、ヨシユキは最後に残ったものの処分に手をつけていく。

 川妻シュウとその取り巻き達のいた区域。

 隠された何かがあるのではと危惧して、今の今まで残していた。

 だが、その心配も既になくなった。

 残しておく必要は無い。

 最後の最後にそこを分解して、予備の物資に変換していく。

 これで憂いはなくなった。



「ありがとう」

 そんなヨシユキに感謝の声がかけられる。

 この計画を打ち立てた者だ。

 彼も遺伝子情報があったので再生されていた。

 そして、自分の立てた計画が完璧な形で成し遂げられたのをその目で見た。

「前世の私に代わって礼を言う」

 感無量といった様子でそう言う。

 そんな彼にヨシユキは、

「ありがとう」

 同じく礼を言う。

「あなたがいなければ、こうはならなかった」

 全てを仕組んだものと、全てを成し遂げたもの。

 その二人の手が握り交わされる。



 そうして全てが終わったあと。

 ヨシユキはようやく望んだ者の再生を始めた。

 前世で、地球上で一緒にいた相手。

 全てが落ち着いた今、ようやく呼び戻せる。

「長かったな……」

 宇宙船の中で再生されて。

 それから何代もかけてここまで来て。

 ようやく再会を求めた相手を再生する事が出来る。

 忙しくて、今まではそんな余裕もなかった。

 だが、今はもう何の気兼ねもない。



 ちょうど寿命を迎えるほどにまでなっていた。

 ちょうど良いから、そのまま死亡してから分子になる。

 そして、それから再生をするよう設定をした。

 相手も一緒に再生するように。

(これでようやく)

 途切れていく意識の中で思う。

(一緒に生きていける)

面白いと思ってくれたら、ブックマークや、下の評価点の☆☆☆☆☆のところを押してもらえるとありがたいです。


応援、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

 他にも色々かいてる。
 こちらもよろしく。


追い出してくれてありがとう、僕は今、とても幸せです
https://ncode.syosetu.com/n6365hh/

あなたがしてきた事はもう分かってます ~かくて悪役令嬢は婚約破棄をつきつけられる~
https://ncode.syosetu.com/n6067hh/
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ