宇宙船にて
地球で有数の財閥の主だった川妻シュウ。
彼は地球環境が限界にきてる事をいち早く察知した。
その頃の地球はまだ環境は保たれていたのだが。
様々な兆候から、それも長くは続かないと察知していた。
そこから地球脱出のための計画を発動。
様々な勢力を吸収して財閥を巨大化。
そうして基礎的な体力を作ってから計画を実行していった。
その為に、地球に残ってた残りの資源を奪い尽くし。
足りない分を地球その者を削る事で手に入れていった。
当然、多くの生物が死滅していった。
人間も例外ではない。
それらを犠牲にして、踏みにじって宇宙船を建造し。
そして脱出をした。
「まあ、あとは死ぬまでここにいる事になるが」
「しかし、備蓄は十分。
心配はいらないかと」
「そうだがな。
だが、ここまでの事を思い出すとな」
「なにか、問題でも?」
「いや、そうではない」
そこで一旦言葉を句切って、シュウは大きく息を吐いた。
「ただ、苦労ばかり多かったなと」
「まことに、お疲れ様でした」
追従者は深々と頭をさげた。
本心はともかく、見た目はうやうやしくふるまう。
処世術を心得た態度だ。
そんな追従者の見え透いた態度を無視して、シュウは今までを振り返った。
面倒な事ばかりだった。
様々な知識や技術、資金に資本。
それらを手に入れるために財閥を急拡大していった。
他のあらゆす企業を吸収して。
抵抗も激しかったが、巨大化してくにつれて、相対的に他の企業は小さく弱くなっていった。
ある時点から、吸収合併は難しいものではなくなった。
そうして巨大化したシュウの財閥を、今度は国が危険視していった。
だが、これは選挙などを通じて、代弁者になるものを議会に送り込む事で黙らせた。
それでも反発する者達は、合法的に暗殺していった。
政治を操れる立場になれば、法律を変えて対応するなど造作もない。
宗教や市民団体なども同様に処分していった。
残党などがゲリラやテロリストになったりもしたが。
それらも殲滅して黙らせていった。
そうして地球のあらゆるものを動員して宇宙船を作り上げていった。
全てを手に入れていたから、そこからは早かった。
全ての科学を用いて、全ての資源を集め、使える人間を全て使って宇宙船を作った。
何もかも根こそぎ奪い、壊滅した地域も発生した。
もとより環境は崩壊に向かっていたが。
砂漠地帯が拡大していき、住む場所を失う者が続出した。
そういった者達が押し寄せてくる事もあった。
だが、その頃には宇宙船の建造は衛星軌道上で行われるていた。
地上の者達がそこに上がる事など不可能。
建造作業に従事する者達を残し、大半の人類は地球上に放置された。
放置され、死に絶えていった。
遺伝子情報だけを採取されて。
宇宙船が完成したら、建造作業員も捨てた。
もとより、連れて行く気など全くない。
余計な面倒を増やしたくはなかった。
収容するだけの広さはある。
だが、それをわざわざ提供するつもりもなかった。
資源の消費ももったいない。
余裕はあるが、無駄遣いなどもっての他だった。
そうした苦労を思い出してのため息だ。
なかなかに濃密で忙しい日々だった。
やりがいがあると言えばそうなのだろう。
だが、決して心地よいものではない。
やりがいなど、感じないならその方がよい。
それは苦労ばかりして、成果があがらないという事なのだから。
成果を得るにしても、苦労や負担はない方がいい。
それは無駄というものだ。
(そういう無駄をありがたがる者もいるらしいが……)
シュウには理解できない考えだった。
なんで好んで苦労をしようとするのか?
どうして力を入れずに事をなそうとしないのか?
地球脱出という壮大な計画をたてて、それを実現したシュウには全く理解出来なかった。
そこに至るまでの苦労はただならぬものがあったのだ。
それをもう一度繰り返したいとは思わない。
楽をして事を成せるならその方が良い。
その成果が今ここにあった。
宇宙船に乗り込んだ者は、全部で数十万人。
数としてはそれなりに多い。
しかし、120億人を数えた人類から考えると、それは本当にごく一握りの一部というしかない。
たったそれだけの人数だけを乗せての脱出。
だけどシュウは、この人数をもっと減らしたかった。
人の数にあわせて邪魔も増えていく。
それがわずらわしく鬱陶しい。
人というのは騒動のもとでしかない。
シュウはそう考えていた。
だが、それでも成功は成功である。
シュウは宇宙船に乗り込み、地球を脱出する事が出来た。
あとは、この船の中で天寿を全うする。
そして、移住可能な星に到着したらクローンとして再生される。
その時、新しい人生をやりなおす。
地球脱出のためだけに使い切ってしまった人生を。
それが出来るだけでも良いと思う事にした。
ただ、これから余計な事が起こるかもしれない。
宇宙船の乗り込んだ者達によって。
なにせ、騒動が好きな連中である。
地位や名誉、富に贅沢ももちろん好きだが。
しかし、それを求めて争うのではなく。
争いが好きだから争う。
そういう連中が多い。
そういう連中だからこれまで生き残った。
生き残るために、地位や名誉や富を手に入れてきた。
それだけに面倒で厄介なものだ。
(だが、それも終わりにしよう)
幸い、宇宙船の権限はシュウにある。
宇宙船内のあらゆるものはシュウの意思で動く。
それを利用して、乗り込んできた連中を始末していく。
今までそれをしなかったのは、さすがに手を出すのが難しかったからだ。
そのくびきも今はない。
今、騒動を起こす輩は邪魔なだけだ。
安全な航海の妨げになる。
そんな要素、さっさと排除するに限る。
「あれー、シュウ様~。
どうしたんですか~?」
妙に間延びした声がシュウにまといつく。
その発生源を見る前に、腕がからみついてきた。
まだ若い女。
老年のシュウと違い、20代前半の年頃だ。
「みーんな、パーティやってますよ~」
「ああ、そうだな」
「シュウ様も、ぱーっと楽しんじゃいましょー」
脳天気に誘ってくる。
その声に苦笑する。
「ああ、そうするよ、ヒロミ」
愛人のヒロミにそう言って、シュウはヒロミをそっとどけた。
生涯独身だった。
そんなシュウだが、女がいなかったわけではない。
結婚すれば色々と面倒になる。
女は財産や権力を手にしようとする。
その為の手段として結婚する。
そうしてシュウの手にしたものを勝手に使っていく。
離婚すれば、そんな財産を分けねばならない。
それらを避けるために、結婚はしなかった。
だが、性欲を解消するために女は囲っていた。
金と権勢を使う対価として。
もちろん全ては使わせない、与える範囲は定めた上で。
そんな女の最後の一人がヒロミだった。
ここまで上手く立ち回り、シュウの前までやってきた。
そのまま宇宙船に乗り込んだ。
(したたかな女だ)
その手腕は見事なものである。
全く尊敬出来ないが。
(実に女らしい女だ)
素直に評価できるのはその部分だ。
それも、もうすぐ終わる。
色々と面倒なので、さっさと処分するつもりだった。
今、その時がようやくやってきた。
地球脱出を祝って乱痴気騒ぎをしてる連中。
それらの狂乱を、シュウは強制的に停止させていく。
「制御機能、聞こえるか?」
「はい、ご用は何でしょう?」
「俺以外の人間を処分しろ。
目障りだ。
今すぐ実行」
「分かりました」
その瞬間、乱痴気騒ぎが終わった。
あらゆる方向から発射された光線によって。
それらが人を貫き、生存者は消えた。
シュウだけを残して。
それはこのパーティに参加してなかった者達も含めてだ。
体力・気力を消耗して休んでる者もいる。
そういった者達も例外なく殺された。
「処理が完了しました」
宇宙船の制御をしてる人工知能が報告する。
「よろしい。
あとは、死体を片付けてくれ。
分解して資源にまわすように」
「速やかに実行します」
人工知能の声に頷き、シュウは身体から力を抜く。
ようやく落ち着くことが出来た。
わずらわしさから解放された。
そこでシュウは、ようやく笑みを浮かべた。
長い人生で久しく行っていなかった事だ。
それから更に指示を出していく。
処分した者達だが、それらもいずれは再生させる。
鬱陶しい連中だが、それなりに優秀でもある。
向かう先の星で役立つかもしれない。
だが、幾らか細工はしておく。
再生される際に入力される知識や経験。
これらを書き換える。
シュウに都合の良いように。
全員、シュウの気の良い仲間だった。
シュウの事を尊敬し、もり立てていた。
そういう事にしていく。
事実とは大分かけ離れているが、その方が都合が良い。
ついでに脳の構造や神経などもいじっていく。
遺伝子も書き換えていく。
変に騒動を好まず、能力を有効活用するように。
遺伝子まで書き換えたのは、こいつから子供が生まれても、変な形質を受け継がないようにするためだ。
親はまだまともでも、子供がろくでもない奴だと面倒になる。
「こいつもそうしておくか」
ヒロミも男に取り入るのが上手い寄生虫から変えていく。
男を立て、自分もやるべき事をやる人間に。
よりよき配偶者になるように作り替えていく。
そうした人間にふさわしい設定も作っていく。
宇宙船に乗り込んだ連中は、仕事仲間。
ヒロミも愛人から配偶者に。
更に、そもそもの設定を変えていく。
地球を脱出した理由も。
宇宙船建造にあたり、何があったのかも。
その全てを、穏便な物語に書き換えていく。
もともと、記録は変えるつもりでいた。
面倒な事を再生してからも引き継がないように。
地球での出来事を白紙にして、新たな星には持ち越さないように。
どうせ人生を再開するなら、よりよい状態で始められるように。
強くてニューゲームといった状態でやっていけるように。
その為の設定をしていく。
とはいえ、シュウは指示を出して、細かい設定は人工知能が行う事になる。
その方が手間がはぶけ、問題も少ない。
そうして出来上がった架空の物語を、事実として再生された連中に入力する。
再び起き上がった時、鬱陶しい追従者達は素晴らし協力者に変わってる。
それを確かめることが出来ないのは残念である。
だが、余計な苦労なく事を進められるならそれで良い。
そうして全ての設定を終えたシュウは、ようやく落ち着いて余生を楽しめるようになった。
もう煩わしい人間関係もない。
権力争いもない。
一人でいるという最高の贅沢を満喫出来る。
その特権をシュウは、寿命が尽きるその瞬間まで楽しんだ。
そして、長い眠りについていった。
そうした言動や行動は全て録画されていく。
情報の一つとして。
それが巡り巡って、とある場所へと届けられていく。
シュウ達がどういう人間であるのかを伝える材料として。
そしてシュウ達も死に絶え、宇宙船の中が無人になった時。
秘密裏に設置された機能が動き出した。
宇宙船の片隅にある再生槽。
人間などを再構築する装置。
それが動き始め、中で人を再生していく。
それは、生前の情報とこの宇宙船で起こった事を入力される。
そうして人並みに活動できる年頃にまで成長したところで、再生槽から外に出た。
全てを覆すために。
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