002_序章2_開戦
兄ヘンリー率いるサイア王国軍が蛮族と正面から刃を交えた。
両軍の雄たけびが耳をつんざく中、サイア王国魔導兵団団長エルザは、配下の魔術師たちと魔法の詠唱を始めていた。
10本の指先が熱を帯びた。炎弾を指先から放つ魔術である。
通常は一本の指から狙いを定めて放つ魔術なのだが、エルザは10本全ての指から同時に放つことができた。
「撃て!」
敵の一団に向けてエルザの全指炎弾が放たれた。配下の魔術師からも炎弾の放射が続いた。
数多の炎弾が雲一つ無い空に美しい放物線を描いていった。
かと思うと敵陣に着弾し、次々と爆炎をあげていった。
「第2弾詠唱!」
エルザが勇壮な声で団員に指示を発した。
ふと背後のララザードを観ると眉根を寄せて前方を見つめていた。
「ララザード、どうしたの?詠唱よ」
「前方の崖上・・」
前方はトリア山西側の山腹で、高い崖が左右に続いている。崖の上には何もなく、その上空の太陽から直射日光が落ちていた。
ララザードは詠唱を始めた。ただし炎弾の魔法ではなかった。エルザは団員への砲撃の合図を保留して、ララザードの詠唱が完了するのを待った。
ララザードの左手にある杖が滑らかに踊る。杖の先端の宝珠が紫の光を放ち、中空に残像を描いた。
魔法の詠唱が完了すると、宝珠を中心に弓弦が現れた。
ララザードの魔法の杖は、生成した魔法を遠くに飛ばす機能がある。
左手に杖、右手に魔法の弦を引き、狙いを定めて解き放った。
紫の塊が上空へ放たれた。狙いたがわず崖上に着弾した魔法弾は、霧のように拡散した。
すると何も存在しなかった場所に、それが可視化された。
崖の上には魔法で補強された砲塔が鎮座していた。その数8つ。
見えなかったのは魔法で擬態されていたからだ。ララザードの解除魔法の効果だった。
砲門が狙う先を探すかのように眼下の戦場を舐め回し、一点で停止した。
エルザには前線で戦う兄が標的にされたようで、心臓が大きく脈打った。
「目標は崖上の砲塔、正面3搭を狙え!全弾撃て!!」
魔導兵団の炎弾と、砲塔が火を吹いたのは同時であった。