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018_第2章-10_バリスタスの想い

バリスタスは名残(なごり)惜しそうに第2の橋から視線を外さないエルザの腕を引いた。


2人で崩壊寸前の第1の橋から撤退した。

渡り終えたところで、橋が大きく傾いた。

そこからはあっという間だった。

スローモーションのようにアーチ橋が奈落へと落ちていった。


爆発の瞬間、爆心地にいたバリスタスだったが、致命傷は負わなかった。


魔導騎兵(ゴーレム)に背中を向けて、自分から全力でジャンプしたのが功を奏した。

分厚い背中に爆発のエネルギーがまともに当たった。

まるで追い風を受けるマストのように突っ張ったまま、(イバラ)の壁に激突した。

だがこの程度の衝撃では死ねないことを過去の経験から知っていた。


橋を渡り終えたところで、仲間たちから沈黙の出迎えを受けた。

ヘンリー、レオンの無事を確認した。二人とも表情に疲労が浮かんでいた。


対岸に渡る橋が破壊されたのだ。これから彼らは進軍の方法について頭を悩ます立場にあるから当然だろう。


エルザはというと心配顔の親衛隊に囲まれながらも向こう岸を呆然と眺めていた。


「エルザ様!」


ララザードがローポジションで束ねられた髪を振りながら走り寄った。


「ああ、ララザード、心配をかけてしまいました」


「本当に独断で行動するのは止めてください!これではヘンリー様と変わりません!」


おいおいといった顔で頭をかくヘンリーと目が合った。

ララザードの言葉はいつも正しい。


「私のことよりアンたちのことが・・。彼女のパーティが崖から堕ちてしまいました。

救えなかったことが悔しい。もう無事を祈ることしかできない」


「彼女はああ見えて危機に際して機転がききます。信じましょう。魔王を退けた力を」


レオンがエルザの横に立った。

エルザはレオンと視線を合わせたが表情は固い。


エルザが心配するアンという女性。エルザの友人なのだろうか。


エルザは昔から周囲の人間を大事にしすぎる。

平時ならそれはより良い人間関係を築く基盤になるが、こと戦時においては自分自身の精神を悪戯に消耗させるだけだ。


この姫様は昔から何度言ってもまったく変わらない。

昔、戦場で砲弾を受けて亡くなった馬にまで感傷的になっていたのを思い出した。


この様子ではこの先、辛いことの連続だ。

俺自身や兄のヘンリーも生きて帰還できるかわからぬ戦いだからだ。

バリスタスはエルザの心が壊れないか心配している自分に驚いた。

まだこのような人間らしい感情が残っていたのかと。


突然、エルザが振り返り、バリスタスと目が合った。

エルザは上目使いで瞬きすらせずこちらを見つめていた。

どちらが先に視線を外すか賭けをしている気分だ。

こんなときは自分から退くことにしていた。バリスタスが先に視線を横に逃がした。


なぜこの姫様は自分に好意を寄せるのだろうか。

サイア王国の大事な姫なのだから幸せになる道は幾つも用意できようものなのに。

なぜ一介のただ強いだけの戦士に心を寄せるのか。


バリスタスはエルザに自分の想いを伝えていた。

いや、そう思いこんでいるのは自分だけなのか?

エルザの態度を見ているとわからなくなる。


「バリスタス、こちらに来ていただけませんか」


レオンだった。内心胸を撫でおろした。

エルザをその場に残して、兵たちの輪を抜けると崖の前に立った。


「あれを」


レオンの指差す先には、対岸に佇む人影があった。

その人物はフードを下ろし、顔を露出していた。

バリスタスはこの人物を知っていた。


「ケルビムか」


かつてバリスタスとともに戦った救国の6傑の魔法剣士ケルビムだった。

後をついてきたエルザも口元を手で隠して目を見開いていた。


「はい。実は迷宮前の開戦時、蛮族の頭目と一緒にいるのを見ておりまして。

その時は確証がありませんでしたので皆さんにはお伝えしませんでした。

ですが今回ではっきりしました」


「そうだな。ケルビムは敵側についた」

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