017_第2章-9_アーチ橋の崩落
2本のアーチ橋の中間に位置する踊り場が崩壊しようとしていた。
アンは身体ごと持っていかれる爆風を背後から受け、胸から茨の壁に激突した。
受け身も取れず、顔や手も茨の棘で傷だらけだ。
だがそんなことを気にはしていられない。身体を起こし、本能的に冷静さを保とうと勤めた。
まずは状況の把握。いの一番で確認したのは敵の動向だ。
敵の追撃が無いことは一目でわかった。
2人の魔導探求者と乱入してきた鳥男は新たな魔導騎兵に同乗してこの場を去ろうとしていた。
大きく空間を占有していた兵器の門も見当たらなかった。抜かり無く回収済みということか。
それよりもだ。アンの気持ちを急かしているのは揺れの方だ。
地震のように継続して揺れが続くのではなく、急速冷凍した花が突然ぱりんと割れるような不定期に起こる揺れなのだ。
アンパーティ6人は全員無事だったが、不意に背後から衝撃を受けたため、頭が働かない状態の者が何人かいた。
特にセリーヌは普段は軽口を叩く癖に突発的な事態に弱い。
今はロイに抱えられていた。
爆発はアンたちが渡ってきた第1の橋に近い地点だった。
かたやアンたちは第2の橋に程近い場所にいた。
爆心地を中心に踊り場の崩壊が始まっていた。
元々この踊り場は崖下から延びる1本の石柱だ。
その石柱に2本の橋をかけているため、支柱の崩壊は橋の崩壊に直結する。
現に第1の橋は爆心地に近いだけに踊り場が砕け散り、橋の重心を支えていた橋脚が意味をなさなくなった。
必然的に橋は崖側に傾き始めていた。
アンは立つこともままならないガズバーンに肩をかしながら、どうする!と自問していた。
足場が不安定な中、距離のある第1の橋へ戻るか、それとも目と鼻の先にある第2の橋へ進むか。
第2の橋へ行くということは、アンたち6人で魔導探究者と向かい合わないといけない。
ガズバーンの身体の重さを感じながら顔を上げて後方を振り返った。
レオンやその親衛隊、生存した兵士が傾いた橋を渡っていく。
そんな中で踊り場に最後まで残っていたのはバリスタスとエルザだった。
エルザは真っすぐこちらに視線を向けていた。
「アン、聞こえて!今すぐ何としてもこちらへ戻ってきなさい!」
エルザ姫の声には悲壮感が漂っていた。
アンは薄々感づいていたことから逃げずに向き合った。
今のアン達では全員が無傷で退却することはできないと。
ではどうするか。
答えは自ずと1つしかなかった。
誰かを、例えばアンの肩に体重をかけているガズバーンを置き去りにするなんてこと、もとより選択肢に入っていないのだ。
アンにとってパーティのメンバーは家族のようなものだから。
リーダとして判断するときだった。
「みんな第2の橋を渡りましょう。その先には魔導探究者が待ち構えているかもしれませんが生き残る選択肢はそれしかありません。
生きるための最善策を取る。これが私たちの決め事だよね!」
「そうだね。従うよ、アン」
姉のピーナだ。弟のピオは無言で頷いた。
「老いぼれのせいで皆を危険にさらしてしまい申し訳ない。魔法ではなく身体を鍛えておくべきじゃったか・・」
ガズバーンが眉間に皺を寄せて吐き出した。
「弱音は不要よ。生きるためよ!意味わかってる?」
笑いかけるアンにガズバーンは何度も首を縦に振った。
「ああ、私たちが渡ってきた橋がやばいことになってる。もうこんなの見たら戻るに戻れないわ。仕方ないから速く先に進もうよ!」
セリーヌ・ジェン・ジェンだ。
軽口を叩けるということは通常の精神状態に戻ったということだ。
「さあ行くぞ。先頭は俺が行く」
ロイが走って第2の橋へ向かった。
アン達も後を追った。
魔導騎兵で退却した魔導探究者は既に橋を渡り切っていた。
向こう岸で静止している魔導騎兵の足元に3人が並んでこちらの様子を伺っていた。
「行くよ!全員固まって進むわ!」
策は無かった。兎に角、今は行動あるのみだ。
ただ全くの無策というわけではなく、遠隔攻撃魔法に対する魔法防御の準備だけはメンバに徹底させた。
しかしそれも無駄に終わることになった。
全員が橋を半分ほど進んだところで魔導騎兵が駆動した。
見ると魔導騎兵の背後に今まで見たことのない人物が現れた。
中肉中背、身体に密着する細身の服を着ていた。
最も目を引いたのが真っ白なゴーグルを装着していたことだ。
ゴーグルは透過性が低く、男の目はまったく見えなかった。
おそらく魔導騎兵を操る魔術師だろう。彼も魔導探究者なのだろうか。
魔導騎兵が橋に灰色の樽のような物体を投げ込んだ。
「先ほどの爆弾じゃ!」
ガズバーンの言葉に刹那的に反応したアンだった。
「皆、飛び降りて!!」
アンとガズバーンが橋から飛んだ。
他のメンバも迷わず続いたと信じたいが、確認が取れなかった。
何故なら爆弾が破裂してそれどころではなかったからだ。
アンは背中に爆風を感じながら漆黒の闇を見つめていた。
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