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013_第2章-5_兵器の門

ペインマンの嬌声がドーム内に響き渡った。

しかしアンの耳には遠くで吹きすさぶ風の音程度にしか聞こえない。


さすがガズバーン。


アンはモルフェオを目指し疾駆した。


ペインマンの声を無効化したのはガズバーンの補助魔法だった。


声とは波である。

ペインマンの叫び声の波長と逆位相の音を出すことで相殺させる仕組みだ。

即興で構築したので無音とまではいかないが、精神に影響を受けない程度には低減されていた。


ガズバーンはこの手の物理法則を利用した魔法が得意だった。

最初に声を聞いて直ぐメンバ全員の耳にペインマンの声のみ相殺する魔法をかけた。

普段はとぼけているが、危険を察知し行動に移すまでが速い。頼りになる仲間だった。


アンは勢いのままモルフェオに袈裟懸けの一撃を見舞った。

魔導探究者は右手の物理障壁で受け止めると火花が散った。

相手に反撃の隙を与えず2撃3撃を加えるが正確に右手でガードされた。


ではこれはどうかしら。


モルフェオの右手より剣を引く流れから加速した。

回転して相手の左半身に剣撃を向けた。

しかし演舞のようにモルフェオの右掌が追跡し、これも受けられた。


しかしアンには想定内。


回転の間に剣を両手から片手持ちにかえており、空いた右手から刃を放った。

ローブに隠れたモルフェオの左足付近にダメージを与えると、深追いせず速やかに後方へ逃れた。


「やるではないか小娘」


「お褒め頂いて光栄ですわ。実は私、そのセリフよく言われますのよ」


「外見で判断したのは我の過ちよな。右手から繰り出した刃は何だ?」


「敵に種を明かすのは、むしろ非礼にあたりますので控えます。

それよりご自身を卑下する必要はないと思いますよ。誰がどう見ても、私、小娘ですもの」


アンは笑みを返すと周囲の状況をさり気なく探った。


ペインマンと相対していたセリーヌとロイだが、期待通りの対応を見せていた。



植物操作魔法が得意なセリーヌが(イバラ)の動作を制御することでペインマンの動きを緩慢にする。

その隙にロイが近接で打撃を与える作戦だ。


今まさに決着をつけるべく、ロイが行動を起こした。


右腕の交換可能な義手を走りながら取り換えると、骸骨を支える4本の茨の1本を伝い本体に迫った。

骸骨の後頭部目掛けて右腕を振り下ろした。


今回使用するのはアンの腕よりも太い厚みを持つ戦斧だった。

ペインマンの物理障壁と衝突した。衝撃波が可視化されたが、ロイの運動エネルギーが勝った。

物理障壁を粉砕し、その先にある本体をかち割った。

ペインマンの口蓋が顔よりも大きく開いた。ガズバーンの魔法で相殺されているが周囲には狂喜じみた断末魔が響き渡っているのだろう。

アンの顔にもビリビリと衝撃波が伝わっていた。



今までの経験でペインマンはセリーヌとロイなら上手く仕留めてくれると確信していた。

では小人の魔導探究者バゴダに当たっているピーナとピオはどうか。こちらは相手の能力が未知数なので一抹の不安があった。


視線を移すと、2人がバゴダと距離を保って牽制する姿を認めた。


「さすが優等生姉弟。もう、だいすきよ」


味方の援軍が望めない状況において、本気で戦わないことは考えられる最良の選択だった。

姉弟2人とも聡明だが、特に姉のピーナは周囲の求めるものを察知して、先回りして提供することができた。

必然、パーティの潤滑油的な役周りを担うことが多かった。戦いでも人間関係においてもだ。



「さて魔導探究者殿。大声を出す骸骨は私の仲間が片付けたようですよ。えっとまだ続けます?」


「あんな玩具はお遊びの一環でしかない。それ、いよいよバゴダが真の力を出すようだぞ。あの子供たちで大丈夫かな」


見るとピーナとピオとは距離を取っていたバゴダが懐から小さな鍵を取り出した。

鍵は白と黒のストライプ柄で、どういう仕掛けなのか紋様が表面をゆっくりと流動していた。

ピーナとピオに背を向けると、背後の何もない空間に十字の印を結んで差し込んだ。

突然空間が歪み、巨大な門が現れた。


「えっ。何かしたの?魔法にしては詠唱も無いし速すぎる・・」


「ふむ。あれは魔工道具(マジックアイテム)だ。元よりそのような機能が備わっている。故に詠唱などは不要」


「ピーナ、ピオ!魔法で遠隔攻撃!」


「もう遅い。見ろ、門が開くぞ」


音も無く、両開きの門が手前に開かれた。

と同時に物凄い勢いで周囲の大気を吸い込み始めた。


「気を付けろ。あれは神代時代に作られた失われた魔工法道具(マジックアイテム)

名を兵器の門という。それ魔素を吸い込み、今にもその能力発揮せしめん」


モルフェオは自分自身も興味深そうに説明した。


既にペインマンを討伐したロイとセリーヌ、戦局を見極めていたガズバーンがピーナとピオの背後に陣取った。


彼ら5人の前、解放された門から黒い影が飛び出した。

それは巨大な矢のような形をした明らかな人工物だった。

尻の部分に矢羽のような翼もついている。

突然轟音とともに矢の尻から火炎が放射された。

それが推進力となって緩やかに前進し始めた。


ガズバーンがすかさず動いた。前方の空間に特大の物理障壁を作り出した。

飛翔する矢(ホーミングミサイル)は突如急加速し、5人に襲いかかった。

物理障壁に接触すると、爆音と暴風の衝撃波が発生、アンは吹き飛ばされた。


土煙が周囲の視界を遮り(さえぎ)、目を開けることすら困難だったが、それどころではない。

アンは視界が回復するより前に5人のところへ走った。


「ガズバーン、無事!」


土煙が晴れるとガズバーンが一人地面に突っ伏していた。

他のメンバーは風圧で後方に吹き飛ばされていたが、各々起き上がってこちらに歩いてきていた。


「痛たた、おお、アンか。途轍もない破壊力だわ。今のは何とか防いだがこれ以上食らってはどうなるかわからんぞ」


咳き込みながら起き上がった。


「何とか全力の物理障壁で防げたが、あれ以上のエネルギーをブツけられるとお終いじゃ」


「あれは何?あいつらは神代の魔工道具(マジックアイテム)・兵器の門と言っていたけど」


「なにい、兵器の門じゃとお。それは神々の闘争で使用された道具じゃぞ。

確か別次元の戦闘兵器を召喚する道具じゃ。何でそんな物騒なものをあいつが持っているんだ?」


「とにかくあの門を閉じないと今みたいなのが次々飛来してくるかも」


「アン、見て!また来るわよ!」


セリーヌが声をあげた。

先ほどの矢の10分の1の大きさの矢が発射された。ただし数は10を優に超えていた。


「威力より数で勝負ってことね」


アンはガズバーンの前に立った。


「無理はいかんぞ!」


「大丈夫。私、こういうの得意でしょ」


アンは剣を鞘に戻した。


飛翔する矢(ホーミングミサイル)が次々加速の炎を上げ、アン達のいる地点を目指した。


アンは顔を上げると両目を見開き集中力を高めた。

矢の動力源、炎を上げる後方の矢羽部分を切り離すイメージを頭の中に思い描く。


エメラルドグリーンの角に力を入れると、奇跡の力が顕現された。

飛来する12本の矢が次々と地面に落ちていった。

矢羽部分、火を噴射している推進部のみ綺麗に切断されていた。


動力を失った本体部分は放物円を描いて地面や(イバラ)の壁に向けて落ちていった。

矢羽部分のみ、くべた炎から栗が爆ぜるかのように、明後日の方向に飛んでいった。


「数が多いから心配だったけどうまくいった」


「爆発はせんようじゃの」


「そこも心配だったの。少しでも切ったら爆発するんじゃないかって。

構造上、爆発物や起爆装置は前の方にあると踏んだのが当たったみたいね」


「いつも通り行き当たりばったりじゃの」


「さて、あの物騒な門を閉じない限り、先に進めないわ。

小さい魔導探究者さまにご相談いたしましょう」


優先事項!アン殿、レオン様の援護を!


アン達の脳髄に直接語る声だった。

声色からレオンの側近ミスミとわかった。伝達魔法だった。


レオンを見た途端、失態を認識した。

アンが注意を外した隙に、悠然とした足取りでモルフェオがレオンに歩み寄っていた。


お読みいただきましてありがとうございます。


はげみになりますので、よろしければブックマークや、下記☆☆☆☆☆にて評価をいただけるとうれしいです。


よろしくお願いいたします。

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