黄金週間迷宮譚 作/JOJO
(朗読/かんがく)
ゴールデンウィーク初日、目覚めとともに部屋の窓を開ける。
毎朝僕は窓を開けて、深呼吸をするのを日課としている。今日から長期休暇ということでとても爽快な気分だ。……だが、なにかおかしい。いつもとなにかが違う。この違和感――そうか! 隣の家が見えないのだ。窓を開けると見えるはずのお隣さんの家がない。なぜないのか。家の塀が邪魔をしていて見えないのだ。家の塀は僕の肩くらいの高さしかないはずなのに、なぜか上へ上へと伸びていて果てが見えないほど高くなっている。
これは一体どういうことだ? 塀の工事なんてした覚えがないし、たった一晩でこんなに高い塀なんて作れないだろう。
外に出てみると家の四方八方全ての塀が天空へと伸びている。
唯一、家の門だけはいつも通りで、道路に出てみた。そうすると驚きの光景が広がっていた。
近所中の家々の塀が空高く伸びている。ただ他の家々は門まで塀となってしまっているようで、中に入ることができない。
川村さん! 安藤さん! 寺田さん!
近所の方たちに呼びかけてみるが反応がない。まるでこの世界に僕一人しか存在しないみたいだ。
さらに周辺を探索してみると、次のことがわかった。
・あらゆる敷地の境に塀――というより壁と言った方がよさそうだ――がそびえ立っている
・そのため壁以外の建物が一切見えない
・壁によって出入り口も封鎖されている。僕の家の門だけが唯一開かれているようである
・太陽光が遮断され日陰ばかりなのでとにかく薄暗い
・僕以外に誰もいない。動物、虫もいない
以上。
普段通っている道でも、建物という目印がなく壁ばかりなので、あっちこっち行くと迷いそうになる。探索は一旦終了し、自分の家へと戻ることにした。
水道、ガス、電気などは使えるようである。ただ携帯電話、テレビ、パソコンはつかない。
これは夢なんだろうか? 忙しかった仕事が一段落し、ゴールデンウィークは十一連休をとることができた。開放感から、こんな夢を見ているのだろうか?
壁によって日陰状態となっているのでわからなかったが、もう太陽は沈んで夜のようである。これは夢に違いない。さっさと眠って明日になったら普通の日常になっていることだろう。
○
翌朝、目覚めると昨日と変わりはなかった。つまりこれは現実だ。
この世界は壁だらけで僕一人だけしかいない。受け入れよう。
一番の問題は食料である。昨日はカップ麺を食べたがもうストックがない。コンビニもスーパーも壁があるので入ることがでない。でもつい先日、オンラインショップでパイナップルの缶詰が大安売りをしていたので注文し届いていたのがある。その数、百缶ほど。なぜか水道は使えるので水の心配はない。パイナップルの缶詰と水でしばらくはすごそう。
問題はこのあとどうするかである。昨日、近所を探索したところ、誰もいなかったがもっと遠くはどうだろうか? このままなにもしないでいても発展がないので、探索の範囲を広げよう。ただ高い壁ばかりの道が続いているので、迷いそうになる。唯一の拠点である、我が家を見失ったら大変だ。壁に目印をつけながらいこう。カラーペンを何本か持って探索をすることにした。
コンビニ、花屋、ドラッグストア……と、壁にそこがどういう場所なのか書きながら歩いている。とりあえず駅まで目指しているが、駅に着くとさすがにものすごく大きい壁によって囲われていた。もちろん誰もいない。
○
結局、なんの進展もないままゴールデンウィーク最終日を迎えた。水とパイナップルの缶詰だけの生活なのでとても苦痛だ。探索の範囲はかなり広がったが、目印をつけるためのカラーペンはもうインク切れだ。もちろん誰とも遭遇はしていない。
○
高い壁に太陽光が遮られて、まともに陽の光を浴びていない。もはや時間の感覚も狂い、今が何月何日なのかもわからない。パイナップルの缶詰は残り一個になってしまったという事実だけがある。コンビニの壁を壊そうとしたがビクともしない。このパイナップルの缶詰が最後の食べ物だ。
○
僕は今ひたすら歩いている。この壁の迷宮の世界を。カラーペンで目印をした所から、かなり先まで来たので現在地はわからない。多分もう我が家に戻ることはできないだろう。パイナップルの缶詰はさっき全部食べてしまったし、水筒に入れていた水もなくなった。
ちょうど真上に太陽がある。壁に光が遮られることなく、久しぶりに生き返った気分になる。しばらくすると、太陽光は再び壁に遮られて日陰となる。
食料と水はもうない。これから僕はどうなるんだろうか。