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8.賢明


「さぁ~て!次は改革塔 ナギ・ユキヤさんだ!」


「かいかくとう…」



 太陽が家たちの背中に隠れる頃、またしてもエルレンが聞いて欲しそうな顔でエルをチラチラ見始める。またか…と思いつつもエルは律儀に質問した。



「…どんなひとなの?」


「よーく聞いてくれたね!!!!そうナギ・ユキヤさんと言えば大改革!!!もー当時はすごかったんだから!今まで存在してた巡礼装備の殆どを改良して更に使いやすくしたのが何を隠そうナギ・ユキヤさんなんだ!!」


「もう夕方なのに凄い元気ね…」



 流石にこの頃になると道行く人も訝し気な視線を送ってくる。そんな事気にも留めない様子でエルレンは熱烈に説明をつづけた。



「しかもね!?ナギ・ユキヤさんはまだ20歳なんだよ!この若さで…この凄さ…!ほんと尊敬しちゃうよね?!」


「あーうん。しちゃうね」



 若干適当な返事に聞こえるのだがエルも疲れてきているのだ、許してあげて欲しい。そんなこんなで歩き続ける事約20分、二人は目的の場所へたどり着いていた。



「よーし!ついた、ここがナギ・ユキヤさんの家だよ」


「意外とふつう…」



 表札にはナギ・ユキヤと書かれている。玄関前から見える庭には様々な種類の植物が生えていた、それらの植物は全てしっかりとお世話されているようで虫食いの跡は見当たらない。



「家に居ると助かるんだけど…」



 カァン カァン


 エルレンはドアにつけられている鐘を鳴らす。鐘の音は小さく到底家の中には響いていそうにない。



「もう少し強くならした方がいいんじゃない?」


「大丈夫大丈夫。これもナギさんの作ったものだから」



 エルレンの言葉に偽りは無く、それからすぐにドアが開かれる。



「はい。どなたですか」


「協会の者です!お久しぶりですナギさん」


「どうぞ」



 ドアが完全に開かれる。そこに立っていたのはウェーブがかった肩まである白髪に金色の瞳を持つ女性だ。なんとも愛嬌のある顔にキリっとした眼鏡が合わさり美人に見える。そんな彼女に家の中へ招き入れられる二人。



「おお…」



 部屋の中にはたくさん物があるにもかかわらずごちゃごちゃしているというイメージを湧かせない程の整理整頓がしっかりとされていた。その中で一つ、エルは気になるものを見つける。



「これ…ドアに付いてた鐘と同じかた


「それは"共鳴する鐘"です」


「へ、へぇ」



 若干食い気味に説明するナギ・ユキヤにびっくりするエルだったが、六本線シクスラインには変人が多いという事前情報があった為そこまでの衝撃はなかった。



「これはね、外にある鐘が鳴るとこっちが反応して鳴るっていうも


「違います。この鐘と外の鐘は繋がっているんです」


「え?でも


「目に見えない、触れられない。たったそれだけの根拠で否定するのは愚かですね」


「あ…はい…ごめんなさい…」



 間違いを指摘されて落ち込むエルレンと、確実に苦手なタイプだと思ったエルであった。



「それで今日は何の用ですか」


「はい…、今日は聞いて欲しい話がありまして…この子の事なんですが」


「どうぞ」



 示された椅子に座り、話し始めて良さそうな雰囲気だと察したエルは自分に今起こっている事を話す。なにも包み隠さず今日あったことを全てだ。



「わたし、捨てられた街で記憶をなくして倒れてたんです」


「はい」


「それでグウィンドさんに助けてもらって」


「は?グウィンド?…チッ …あのろくでなしに助けられるとは貴女も運が無いですね」



 ナギは露骨に嫌な顔をして舌打ちをする。エルが隣にいるエルレンをちらりと盗み見ると真っ青になって冷や汗を流していた。



「エ、エル。ナギさんはグウィンドさんの事が嫌いなん


「嫌いじゃありません。"大"嫌いなんです。二度とその悍ましい名前を口にしないでください」


「はい…ごめんなさい…」



 これがナギ・ユキヤの逆鱗だと理解したエルは上手くグウィンドの名前を出さずに説明した。といってもそこまで難しい事でもないのだが、というより純粋なエルは恩人を貶されたように感じてすこし悲しくなった。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



「成程、大体事情は分かりました。ですが私にはどうすることも出来ません」


「いちおう…理由って聞いてもいいですか?」



 エルは今回は既に説明途中で無理な気がしていたので、駄目な理由を聞いて次に生かす選択を取った。するとナギはキリッと眼鏡の位置を直して話す。



「現状、私が貴女を守りながら上にたどり着く事が出来ないからです」


「なる…ほど」



 そうその通りだ、ヘヴンはただでさえ危険だというのに子供を連れて上るなんてほぼ不可能である。そんな事は前例が無いし、きっとこれからも無いのだろう。



「それだけでしたらそろそろ帰って頂けませんか?私はこれから仕事がありますので」


「あ、うん。おじかんをありがとうございました」



 エルは若干慣れない敬語を話して椅子から立ち上がる。それを見たエルレンも立ち上がり一礼をする。そしてそれを見たエルも一礼した。



「今日はありがとうございました、また何かの機会があればよろしくお願いいたします」


「はい。夜道には気を付けて」



 二人がナギの家を出ると辺りは真っ暗になっていた。クリアストリの空気は澄んでいて星が良く見える。道行く人々もまるでさっきまで居たのが嘘のように居ない。



「はぁ…ナギ・ユキヤさんも駄目だったかぁ…となると最後は…沈黙塔 サイレント・ロンドルオンさんかな…」


「??どうしたの」



 今までのパターンならばエルレンは六本線シクスラインの事になると別人のように成り果てて早口になるのだが…今回はそうならない、それを不思議に思ったエルは嫌な予感がした。



「もしかして…ヤバイ人?」


「うーーー~~~ん……そうだねぇ…うん…凄く変わった人…だねぇ…一番」



 ただでさえ六本線シクスラインには変人しかいないというのに、その中でも一番変な人という情報を得たエルは…。



「うっわぁ…」



 あり得ないくらい不味い物を食った犬のような顔をしていた。



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