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7.黙祷


「ちょっとまってて」


「うん…」



 不安げな顔をしているエルを椅子に放置したままエルレンは受付の奥にある扉へと消える。それから2分もしないうちに戻ってきた。早歩きでエルの元へやってきたエルレンの手にはメモ帳が握られていた。



「ただいま。いまクリアストリに滞在してる六本線シクスラインをメモってきたよ」


「おお…どれくらいいたの?」



 エルレンはそのままハンガーラックへ向かい、ごわごわしててポケットの多いジャケットを羽織る。金髪に赤眼鏡をつけ、誰に対してもフレンドリーでふわふわしたようなエルレンだがジャケットを羽織るとどことなくシャキッとして大人っぽくなる。そして指を三本立てエルに向きなおる。



「3人!」


「すっくな…!」



〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



 六本線シクスラインの7人にはそれぞれ民衆が勝手につけた異名がある。それには天に届きそう、また届くようにという思いが込められている。



・沈黙塔 サイレント・ロンドルオン


・観測塔 リント・シンテラ


・供養塔 ジロテヴァンス・ハイント


・改革塔 ナギ・ユキヤ


・監視塔 デナー・ガーデン


・攻城塔 ランシュラ・フィンチ


・崇高塔 リライラ・ライラ



 彼、彼女らこそクリアストリに住む人々の希望そのものだ。彼らは才能の塊であり、それぞれ六本線シクスラインになれるだけの力を持っている。だが単に力と言っても戦闘能力だけではない、むしろそれしかなければ五本線フィフスライン止まりだっただろう。一人一人筆舌に尽くしがたい長所を持っているのだ。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


 心地よい日差しが木に影を作る中、一組の男女、エルレンとエルが石レンガの道を歩む。



「それで、まずは誰に会いに行く?」


「そうだねぇ…まずは供養塔!ジロテヴァンス・ハイントさんに会いに行ってみようか」



 仕事以外であまり六本線シクスラインに会う事が無いエルレンは興奮を隠しきれずにいた。エルレンの顔には「聞いて!」と書かれているように感じたエルはちょっと引きながらもエルレンに話しかける。



「えー…どんな人なの?」


「ふふん!ジロデヴァンス・ハイントさんは六本線シクスラインの中でも一番巡礼隊を多く連れているお方なんだ!でも巡礼隊の信者達はしょっちゅう変わるから民衆が六本線シクスラインと呼んでるのはその巡礼隊の中心になっているジロデヴァンス・ハイントさんだけなんだ!」


「へ、へぇ。じゃあ一応そのジロデヴァンスさんの仲間も第六試練 理想郷には行ってるんだ?」


「そうなんだよねぇ!でもたまにまるで知識や戦闘能力の無い信者も連れてるっていう噂だから…もしかしたらって思ってさ!」



 つい一瞬前まで病人のような顔をしていたエルの表情がドカンと明るくなる。希望に満ち溢れた表情だ。通行人から微笑ましい視線を浴びている事すら気に留めすに話をつづけた。



「そ、それじゃあ生徒にしてくれるかな!?」


「可能性はあるっ!」


「やったー!!」



 両者は鼻息を荒くしながらジロデヴァンス・ハイントの目撃証言が多い墓地へ向かった。それはもうルンルン気分でだ。エルに関してはスキップもしていた。



□■□■□■□■□■□■□■□■□■



 墓地に着いたエルとエルレンは恐る恐る墓地を見渡す。すると一か所に複数の信者らしき者達からなる集団を見つける。だが明らかに喪に付しており話しかけるのは一旦やめておこうという判断をくだして墓地の出入り口で終わりを待つことにした。



「あ、終わったのかな」


「終わったみたいだね…おお…!やっぱりジロデヴァンスさんだよ!」



 信者達の中心に居たのは紛れもなく供養塔 ジロデヴァンス・ハイントであった。そして彼はこちらに気づいていたのか一人でまっすぐと二人の元へとやってきた。胸元にはタリスマンが付けられており、それにはしっかりと六本の線が浮かび上がっていた。



「このジロデヴァンス・ハイントに何か用かね」



 ジロデヴァンスは二人に一礼すると声を掛けた。剃りこみの入った白髪のジロデヴァンスは背中に棺桶のような物を背負っており、清潔感ある白いローブとのミスマッチで圧倒的な異物感を放っている。



「はい!お久しぶりですジロデヴァンスさん、今日はこの子の用事できました」


「ほう。ここで聞いても?」


「はい!えっとわたし…」



/////////////////////////



 それからエルはジロデヴァンスに今日の出来事を全て話した。ヘヴンで拾われたこと、ヘヴンに一刻も早く上らなくてはいけない事。それを茶化すことなく真剣にジロデヴァンスは聞いた。



「それは…大変だったな少女よ。記憶もないまま世界に放り出されるのはさぞかし心細かっただろう」


「それは、うん。寂しくないなんて言えないけど…やらなきゃね」


「少女、君は美しい心を持っているな。…ならば、やはり君を生徒にすることは出来ない」


「え…」



 ジロデヴァンスはエルの頭を優しく撫でる。一瞬何かを思い出しそうになったエルだが次の瞬間には忘れてしまった。



「許してくれ。私はもう行く」


「あっ…行っちゃった」



 ジロデヴァンスは小さく手を振るとそのまま元居た集団に合流し去って行った。



「だめだったかぁ…まぁ六本線シクスラインの中でも2番目に謎の多い人だからね、気をとりなおして次へいこう!」


「うん…そうだね」



 エルは頭の中に生まれたモヤモヤを無理やり振り払って次の目的地へと歩き始めた。


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