33.心臓
ッパァン!!
『…』
またしても絡み合う鎖のしなる鎖打はグウィンドの賜物、"不屈の外套"に阻まれる。グウィンドは先ほどから一歩も動いていない、それを無い瞳で確認したのか絡み合う鎖は別の行動へ移った。
じゃらじゃらじゃらじゃら
『…』
「見えないですけどコレ大丈夫なんですか!?」
グウィンドは行動を察して背負っていた背嚢を近くに放り投げる、するとその直後に無数の鎖がグウィンドに殺到して瞬く間に鎖で簀巻きにされる。グウィンドと違い背嚢の中身はそこまで頑丈では無いが為の行動だった。そしてグウィンドが抵抗し無いのを良いことに一層、二層と何重にも絡みつく。
『…問題無い』
鎖は既にグウィンドの身体を完全に覆ってしまう。…だがグウィンドは自身に巻き付く鎖をまるでない物のように無視して、どすんどすんと歩き始める。巻き付いた鎖は尋常ではない力で無理やり動くグウィンドを止める事が出来ず、次々に大きな音を立てて砕けていく。
『………!』
グウィンドはエルを左手で掴み、身を屈める。
『ッ!!』
ズゥン
「ひぃやああああああ!?!?」
真上に跳躍する。纏わりついた鎖はグウィンドを止める事が出来なかった。そして空中に浮いていた絡み合う鎖の本体を右手で掴む。…正確には絡み合う鎖の本体となっている銀色のフレームだ。
『…こうするのが一番楽だ』
じゃらじゃらじゃら
勿論飛行能力を持っている訳でもないグウィンドがいつまでも空中に浮遊していられるはずが無く、彼は重力に惹かれて地へ自由落下を始める。だが絡み合う鎖は先ほどから大量の鎖を携えて浮いている、そんな存在を掴んでいるグウィンド…彼の体重で落下するか、はたまた絡み合う鎖の浮力が勝るか…答えはもう出ていた。
ガッシャャァァァァンッ!!!!
「ぐえー!」
『…軽い、もう少し肥えるべきだな』
無論グウィンドの方が重かった。
グウィンドに本体を掴まれた絡み合う鎖は落下時にグウィンドの下敷きにされてクックシャに変形していた。何重にも重なる鎖で球体を成していたソレは無惨にも真ん中が潰れ、出来の悪いお皿のようになっている。そんな状況で鎖を自由に動かせるはずもなく、もはやされるがままだ。
「ひー…グウィンドさん何してるんです?」
『…心臓部を破壊する』
グウィンドは左腕にぶら下がっているエルにそう答えながらもう片方の手で鎖を引きちぎっていく。まるでプレゼント箱を開ける子供のように雑に引き裂き、引きちぎっていく。
『…これがパラサイトの心臓だ』
「えぇ…生もの…」
グウィンドが絡み合う鎖の中心部に腕を突き刺して奪い取ったのは赤い液体が滴る心臓だった。それはまるで人間の心臓にそっくりである。いまだにどくどくと脈打つ心臓をエルに一通り見せたグウィンドはそのまま右手で握りつぶした。
ぶじゅっ!
「…き、気持ち悪い…ですね…ソレ…」
『…すぐに慣れる』
心臓を握りつぶされたパラサイト、絡み合う鎖はさらさらと灰になって風に吹かれ無くなっていく。雑草に積もる灰に滴っていた赤い液体も色あせて灰色になって滲み消えた。
「なんかあっけなかったですね…」
『…そんなものだ』
グウィンドは放り投げた背嚢を拾って背負いなおすとエルを地に下して歩き始める。エルはそんなグウィンドの姿をぼーっと見ていたが、すぐにおいて行かれないように小走りで追いかけた。
「あの、なんか、グウィンドって切り替えが早いですよね…!普通だと少し休憩とかしそうだと思ったんですが」
『…』
グウィンドはどすんどすんと歩きながら、自身の頭を人差し指でとんとん、と叩く。正確には彼の頭部をすっぽり覆う怪しいヘルメットを…だ。
「?なんですか」
『…"俯瞰する形相"…これの効果だ』
「…ああ!それの効果で切り替えが早いんですねっ!」
『………………まぁそうだ』
一瞬なにか言いたげに沈黙するグウィンドだったが…何をどう判断したのかエルの答えに答えた。"俯瞰する形相"は使用者の精神的苦痛等を表に出さ無くする事が出来る賜物だ、これを使用すると常に客観的、合理的な判断をしやすくする事が出来る。これがグウィンドが常に冷静である理由だ。
「すっごい便利ですね…!いいなぁ!」
『…勘違いするな…賜物は完璧じゃ無い』
「…?それってどういう…」
エルの隣を大きな歩幅でどすどす歩くグウィンドの表情は見えないし、声音もいつも通り冷静そのものだったが…エルはその横顔に何かの念を感じた。
『…何かを得れば…何かを失う…』
「グウィンドさん…」
エルはグウィンドの歩幅に合わせる為少し早歩きで追従する。そしてエルは胸につっかえる"何か"を…。
「…何言ってるか全然わかんないです…」
『……………………………そう…か……』
完全に放置した。




