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死地天国~神の地へ挑むワケあり少女ともっとワケありな男の物語~  作者: 御味九図男
ヘヴン・第二試練 鈍色の地
31/33

31.死様


~ヘヴン第二試練 鈍色の地~



 一瞬の光を抜けて二人はたどり着く。


 鈍色の空、鈍色の地面、鈍色の植物、鈍色の川。空からは灰が雪の様に静かに振り続ける、道草に薄く積く灰が積もっていてまるでモノクロの雪景色だ。



「ここが第二試練…鈍色の地なんですね」


『…ああ。灰を吸わない様に注意しろ…』



 エルは背嚢を開き、中を探る。すぐに目当てのマスクを見つけて身に着ける。祝福の園でエルは鈍色の地に降る灰を吸うと危険だという事を聞いていた。この灰を吸うと身体が少しづつ解けて死に至るのだ。



「マスクおっけーです!行きましょう」


『…ああ』



 二人は歩き始める。辺りには鈍色の草木や鈍色の川が流れているだけだが、祝福の園程でないにしろ人工物らしきものが所々にある。



「あれは協会の人が作ったんですか?」


『…ああ』



 エルが指を指す先には木製の屋根と骨組みだけの建物がある。これは灰の降らない休憩所として使われる場所だ。何となく形状から見て用途を察したエルは詳細をグウィンドに求める事無く進み続けた。



「……うん?」


 すしゃ



 エルは雑草に紛れていて気付かなったのか何やら他の地面よりこんもりとした灰の山を蹴っ飛ばしてしまった。



『…それが灰を吸った者の末路だ』


「これ…人間なんです…か…」



 雑草をかき分けてよく見てみると灰は人型に盛り上がっており、所々に散乱した巡礼道具があるのも分かる。



『…背信者にでも襲われたのだろう』


「なんて酷い…同じ人間なのに」



 人の死になれるはずもないエルだったが、あまりにもその死に様は生々しく無く、儚い物だったので精神的に傷を負う事は無かった。思うのは、その死に対する寂しさだけだ。



『…行くぞ』


「はいっ…!」



 エルは再び歩き始める。なるべくグウィンドの後ろを歩くようにした、グウィンドが通った跡は良くも悪くも全てが潰れて原型が分からないからだ。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



「…あれ、なんでしょう?」



 暫く歩き続けていたエルは何かを発見してグウィンドに声を掛ける。遠目だが信者が跪いて空を仰いでいる居るように見える。



「!?あれ信者ですよ!!マスクもして無いです!!ッ…!!」


『…』



 エルはグウィンドの返事を待たずに走る。グウィンドに渡された背嚢には予備のマスクもある、まだ…間に合う。



「何してるんですか!この灰はっ…!!」


「…」


「っ!グウィンドさんこの人です!」



 エルは振り返ってグウィンドを見る。ずしんずしんと重い足音を響かせて歩くグウィンドの周りに何人ものさっきまで居なかった信者達が居る。



「な…!いつの間に…いや、それより!」



 エルは前に向き直って、背嚢からマスクを取り出しながら天を仰ぐ信者を見る。



「え…?」



 …だが、そこには誰も居ない。ただ、他の場所より灰が積もっているだけだ。



『…見たのか』


「グウィンドさん…」



 グウィンドはエルの隣を通り過ぎるとそのまま止まる事無く歩き続ける。戸惑うエルだったがすぐにグウィンドを追って歩き始めた。いつの間にかさっきまでグウィンドの周りにいた信者達も居ない。



「あの…すいません…まだ、混乱してて」


『…お前が見たのはヘヴンの記憶だ』



 エルはそれを聞いてさっき天を仰ぐ信者を見た場所を見る。しかし…やはり誰も居ない。



「記憶…ですか」


『…ヘヴンで死ねば…ヘヴンの記憶に残る…お前が見たようにな』



 エルはさっき見た人がとっくに死んでいると教えられるが実感が湧かない。確かに、そこに居たのだ、悔やむ様に諦めたように天を仰ぐ信者が、グウィンドに寄り添うように歩く信者が…いたのに。



『…幻覚…亡霊…記憶…記録…白昼夢…蜃気楼…死映…残像…呼び名は定まっていない』


「なんだか、寂しい試練ですね…」



 エルは辺りを見回す。…どこを見ても鈍色の世界、空から降りそそぐ灰はまるで雪の様で…こんな色も無い静かな場所にずっと残り続けるなんて…寂しい、と思う。



『…お前が見たのは恐らく"行き止まりの少女(デッドエンドガール)"だ』


「確かに、女の人でした」



 ついさっき見た光景なのに既に思い出せなくなりつつあるエルは少しの寂しさを覚える。



『…そいつは少なくとも…俺が生まれる前から目撃されている、正確な年数は知らん』


「そう…なんですね」



 エルは心の中で行き止まりの少女に別れを告げる。願わくば、静かな眠りをと。



「そういえばさっきグウィンドさんの周りにも何人かの信者さんが…」


『…何?』



 グウィンドは歩みを止める。



『…教えてくれ。それは何人だった?金髪で長髪の女はいたか?白髪の男はいたのかッ!!』


「いたっ、グウィンドさん?」



 グウィンドは屈み、エルの両肩を掴んで柄にもなく大きな声でエルに問いただす。普段静かなグウィンドがこんな状態になるのを始めてみたエルは必死に先ほど見た光景を思い出し、若干焦りながらも答える。



「人数は8人くらいでっ」


『ああ』


「しし白い髪の人はいな、いなかったです!」


『そう…か、済まない…痛かったろう』



 エルの肩を掴む力が少し緩み、痛みから解放される。もう一度間違いが無かったか記憶を巡る。…そして一つだけ引っ掛かる。



「大丈夫です…あ、でも髪の長い金髪の女性は見たと思います…?」


『…………そうか』



 エルの肩から、力を失ったグウィンドの両手がズズンと重そうな音を立てて地面にうなだれる。



「あの…グウィンドさん…?」



 いつになく小さくボソボソとぐぐもった声だったが顔が近かったから聞き取れた。



『……シャミィ…お前も…逝ったのか…』



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