30.精神
「これから…その、お二人はどうなされるんですか?」
一つの物語が終わる様を少し離れたところから見守っていたエルとグウィンドは和解した様子の二人に近寄る。先ほどまでと違い明らかに関係性の変わっている二人を見たエルは微笑みながら話しかけた。
「私達は一度クリアストリに戻ろうと思うわ」
「悪いな、もう上に行く理由も無くなっちまった」
そういう二人の表情は明るく、後悔の念は見えない。それどころかこれからの幸せな未来を想い活き活きとしている。
「ふふ…"良かった"ですね」
「ああ、本当に」
デイルが差し出した手を握り返すエル。きっとこの先二人と会う事は無いのだろうと察するが、どこか寂しさは無い。
「その…この前は悪かったね」
「私はグウィンドさんのおかげで怪我とかも無かったですし大丈夫ですよ!」
『…』
無表情で佇むグウィンドを見上げるミファンだが、彼から怒りの気配は無く安心する。実際拳銃で撃たれてはいるのだが、ノーダメージなので問題は無いという判断である。
『…私達はもう行く』
「そうか…今回の事は決して忘れない。もし次会えたら必ず何かしらお礼をさせてくれ」
『…』
グウィンドは振り返らずに一人、扉に向かって歩き始めた。それを見たエルも急いで二人に話しかける。
「えっとそれじゃあお幸せにっ!」
「ええ、ありがとう。貴女も元気でね」
「じゃあなエルちゃん!短い間だったが楽しかったぜ!!」
親指を立ててグッとサムズアップする爽やかなデイルとそんなデイルのもう片方の手を握る幸せそうな顔をしているミファンに一礼したエルは急いでグウィンドの背中を追いかける。
グウィンドに追いついたエルはグウィンドに声をかける。
「グウィンドさん、わたしが寝てる間にデイルさんと何かあったんですか?」
『…』
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『…"生命複製機"』
「聞いたことの無い賜物だ」
『…無機物から有機物を作り出す賜物だ』
「何…?そんなものがあるのか…」
『…お前は恐らく…一度死んでいる』
「…………だろう…な」
『…"生命複製機"は回収する際に襲撃を受け一部破損している』
「って事はその賜物の欠片で…俺は生き返ったのか?」
『…その可能性は高い…あの賜物は本来コピー元と全く同じ生命を複数体生成するという効果がある』
「複数って…」
『…今お前が一人しか居ないのであれば…欠けた事による効果の低下だろう』
「欠けていても使えるのか」
『…賜物に常識は通用しない』
「そう…か。なら…俺は、デイルの偽物って事か…」
『……お前は先程…精神にこそ魂は宿ると言ったな』
「ああ…そうだが」
『ならばお前はデイルだ。…身体が欠けたとしても…それを別の何かで埋めたとしても』
「……」
『身体を失ったとしても…身体を変えたとしても。…お前はデイルだろう』
「…そう、だな…ありがとう」
『………もう一ついい事を教えてやろう』
「なんだ?」
『…この理論で言えば…第六試練を超えた者の殆どは既に一度死んでいる』
「……まさか」
『…身体を失い、それでも上に行くことを諦めれずに精神…魂すら変質している…そんな連中だ』
「そんな事が…」
『だから…お前は特別では無い』
「……それもしかして慰めてるのか??」
『……』
「……」
『…そのつもりだったのだが』
「フッ…ありがとよ」
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『…』
「グウィンドさん?」
グウィンドは少し前の出来事を思い出してエルの問いに答える。
『…世間話だ』
「…?」
二人は第二試練 鈍色の地に繋がる扉の前に到着する。エルは深呼吸して息を整えて扉を見据え、新しい世界への一歩を踏み出した。
『…さぁ…行くぞ』
「はい…っ!」




