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3.事情


 ーヘヴンはいくつもの浮島(試練)が存在する。


 試練はいくつかあり、各試練の地につき名称は違うが、まずクリアストリの天国門を通った先にあるのが第一試練 祝福の園である。そこから順に各試練にある門を通って上へ上へと登っていく。


・第一試練 祝福の園

ここは一番最初の愚かで勇気ある者達が発見して名付けた試練である。薄い金色の雲に、光が零れる大岩、輝く実を成す木々これらの神性を感じさせる光景を見てこの名前が付けられた。ここはまだほとんど原生生物やパラサイトの危険が無く比較的安全と言える試練である。


・第二試練 鈍色の地

一つ前の試練 祝福の園とは正反対の試練。灰色の空からは雪のように灰が降り注ぎ、草花や木々も灰色に染まっている。異様に薄暗いこの試練では祝福の園よりも危険な原生生物やパラサイトが存在している。


・第三試練 後悔の海

常に激しい風が吹き乱れる試練、その激しさはかまいたちを発生させるほどである。空は常に曇っており、そのうねり乱れる雲はまるで荒れた海の様である。勿論原生生物も気性の荒いものが多くそのうえパラサイトも多く存在する。その為かこの試練での死者はヘヴンの中でも一番多い。


・第四試練 捨てられた街

後悔の海とは打って変わってとても静かな試練。至る所にとても古い建物の残骸がある。植物に飲み込まれた建物もあれば崩れて瓦礫の山になっている建物跡地もある。ここの原生生物はとても狡猾で危険、その代わりにパラサイトは少ないのが特徴。


・第五試練 失楽園

様々な物が物理的に異常な試練。滝は上に流れ落ち、雲は地を這う。明るい空には黒く輝く星と太陽が浮かんでいる。この試練は原生生物が非常に少ないが、パラサイトが大量に存在している。この試練からはある程度の実力がある信者しか立ち入りは出来ない事になっている。


・第六試練 理想郷

この試練はヘヴンの中で2番目に安全である。見晴らしがよく木は少ないものの腰辺りまでのびた草が広く続いている。心地よい風が一面に広がる草原を優しく撫でている光景は疲れた信者のを慰めているかのよう。ここに危険な原生生物は存在せず、またパラサイトもかなり数が少ない。


・第七試練 死地

詳細不明。今まで何組もの最高位の信者を含む巡礼隊が挑戦したものの、帰ってきたのは生死不問でたったの2名だけである。



〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



「なるほど…そうなると気になるのは…」



 青年は少女の姿を見る。少し幼さが残る顔、セミロングの黒髪で毛先の白い変わった髪色、成長途中の身体。そして何よりも少女の身体に残る…小さな怪我の跡。



「??」


「代償…ですね、捨てられた街の代償は…えっと」


『…一部記憶の喪失と身体的変化』


「あ、それです。それなら変な髪色も、こう…ボケーっとしてる感じも納得がいきますね」



 少女は知っていた。ヘヴンの中で怪我をすると代償により人体に何らかの悪影響を及ぼす事を。小さなことは覚えているのに大切なことは何も覚えていないこの気持ちの悪い感じも、明らかにおかしい髪色も…あまり大きくない胸も全て代償のせいだったのだ。



「確かに、こう、不自然に思い出せない記憶がある気がします!」


『……となるとそれの事も分からなさそうだな』



 少女はグウィンドの頭部を丸ごと覆っているヘルメットのせいで視線を辿れず"それ"とはどれの事なのかはわからなかった。



「えー…とじゃあどうします?このお嬢さん」


『…教会で保護すれば良いだろう』


「え、え?わたしどうなるんですか!?」


「いやいや…協会はヘヴンへの挑戦機関であって孤児院では無いんですから…」



 目の前で繰り広げられる少女のこれからについて当の本人は何か提案するわけでもなく不安に苛まれながら結果を待つのみであった。



『…私は帰る。救助はした…後はそちらの仕事だろう』


「うぐぅ…グウィンドさぁん…そんな事言われましてもぉ…!」



 グウィンドは若干猫背のまま扉を開けてドシンドシンと建物を揺らしながら退出してしまった。取り残された少女と青年は二人とも何とも言えない表情になっていた。



「あー…取り合えず僕は上に掛け合ってみるから、今からでもグウィンドさん追っかけてお礼でも行ってきなよ」


「あ…!そうだった、変な人だけど助けてくれたんだった!」



 膝に布をかけていたのも忘れて勢い良く立ち上がる少女、勿論布は床に落下した。それを急いで拾って自分がさっきまで座っていた…ソファーにかける。



「へへ…お礼行ってきます!」


「は~い、気を付けて帰ってくるんだよ~」



□□□□□□□□□□□□□□□□



 ドスン ドスン


 協会から出てすぐにある石創りの橋を迂回してグウィンドは歩く。本来ならば橋を渡った方が近道だが、残念な事に自分が橋を渡ると他者に迷惑が掛かると知っている為の回り道である。



「グウィンドさ~ん!!」



 自分を呼ぶ声が聞こえるがグウィンドは立ち止まらない。理由は簡単だ、面倒くさいからだ。聞こえないふりして済むならそれに越したことは無い。彼は本気でそんな事を考えていた。



「(ヘルメット被ってるし聞こえにくいのかな…)グウィンドさああああああああああああ!!!!!!」


『…………………なんだ』


「あ、よかった届いた」



 あまりの煩さに無視するより話を聞いた方が楽だと判断したグウィンドは渋々振り返り返事をした。少女のきらきらと煌めく瞳を見ているとあまり良い気分にはならないのが…なれなくなったのがグウィンドという男だ。それでも聞き返したからには仕方がない訳で…取り合えず話を聞く事にした。



「グウィンドさん、私の事を助けてくれてありがとう!」


『………』



 てっきり何とかしてくれとか言われるのだろうと思って居たグウィンドは珍しく少し驚いていた。そう、少女は純粋でとても良い子だったのだ。まさに善人、他人の痛みを理解できる女の子なのであった。



「私を抱えたまま戻ってくるの大変だったよね?だからお礼だけでも言おうと思って」


『…荷物に女児が一人増えた程度で私は苦労しない』


「す、すっごい…力持ちなんだね…!?」



 純粋オブ純粋。あまりの純粋さに過去を思い出しそうになったグウィンドはとりあえずさっさと話を終わらせたかった。



『…そういう事だ。それだけか…?私は帰る』


「あ、うん。ありがとうね~!」



 グウィンドはまた重い足音を響かせて歩き始める。が、しかし数歩歩いて立ち止まり振り返えらずに話す。



「?」


『……本当にどうしようも無くなったら…私の所へ来い』


 

 グウィンドは少女の返事を待たずに歩き始める。



「!……うんっ!ありがとう!!」

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