26.提案
「ちょっ!ちょっと待ってください!?」
「逃げるなッ!!…記憶を消せるような賜物があるなら見逃してあげるわ」
エルは拳銃を取り出した女性から一歩遠ざかる、拳銃の仕組みなどエルには分からないがそれが飛び道具であり、自分の命など簡単に奪えると理解していた。
『…殺るならもっと目立たない所でやれ』
「なっ!?アンタ何者よ…!」
女性は追加で大岩の裏から出てきたグウィンドに驚き、拳銃をグウィンドに向ける。そしてグウィンドは相手を刺激しない様にゆっくりとエルの前に立ちはだかる。グウィンドはデカい為エルだけと言わずに大抵の人間ならすっぽりと覆い隠せる。
『…己の事情に他人を巻き込むな』
「…その子が突然叫んだりするからよ」
グウィンドはどしんどしんと女性に向かって歩き出す。
『……叫ばれた程度で決意が鈍るのなら辞めておけ』
「…ッ!アンタには分からんだろうさ…!!」
女性は拳銃の引き金を引く。爆発音が鳴り響き、発射された弾丸はグウィンドの外套に当たって跳弾した。そしてそれに合わせて女性は背を向けて走り去って行った。林に入った辺りで物音が一切しなくなったのは何かしらの賜物を使った結果だろう。
「はぁぁぁぁ…助かったよ。ありがとう」
「えっ?私何も…」
「いやいや!叫んでくれなきゃ俺はとっくに死んでたよ」
男はさっきまで襲われていたというのに爽やかな笑顔で感謝を告げる。オレンジ色の髪に薄緑の瞳、少なくともエルは彼の顔を見たことは無かったが、何故か親近感を覚える。
「そっちのデカいアンタもありがとうな!」
『…次は無いと思え』
男は一通り礼を言うと、辺りに散乱していた巡礼道具を拾い始めた。拾った道具は男が背負っていた背嚢の中に入れていく。
「そういえば、嬢ちゃんたちは何処に向かってるんだ?」
「えっと…今は鈍色の地を目指しています……よね?」
『…ああ』
全然景色が変わらないのでちょっと疑問形になるエルだった。それを聞いた男はニカッと笑う。白い歯が爽やかさに拍車をかけている。
「そりゃ丁度いい!俺も鈍色の地に向かってるとこだったんだ!」
「おおっ!同じ目的地だったんですね!」
そして男は少し申し訳なさそうに両手を合わせて提案をした。
「なぁもしよかったら鈍色の地まで同行していいか?」
「なんか襲われてましたもんね…」
「そうなんだよ…あいつ、昔俺が忘れられた街で死にかけた時くらいからずっとあんな感じでさ…」
エルは純粋だ、それはもう超純粋なのだ。だから…困っている人を見捨てる事は出来なかった。そしてエルはお気に入りのぬいぐるみを無くした子供の如く何とも寂しそうな表情でグウィンドを見つめた。
「ぐ、グウィンドさん…」
『…好きにしろ』
「…!助かる…!恩に着るよ」
「良かったですねっ!えと…」
男はエルが言い淀んでいるのを見て察したのか自己紹介をする。こう…親指をグッと立てて。なんとも爽やかな仕草である。
「俺はデイル・スワンプ!一応、四本線だ、よろしくな!」
「わたしエルです!よろしくお願いします、デイルさんっ!」
グウィンドはそれを見ていたが特に聞かれたわけでもないのでさっさと進み始める。先ほどの女性が逃げた林を見て変わりないのを確認すると歩きながら二人に声を掛けた。
『…行くぞ』
「おう!」
「はいっ!!」
エルは同行人が増えてどことなく嬉しそうだ。単純にグウィンドと二人きりが緊張して仕方ないだけだったりは…しないでも無く無く無く無くない。




