22.残光
「ど、どういう…。…いや…つまり第七試練から帰ってきた内の1人が…グウィンドさん…」
「う、うん。グウィンドは生きて帰ってきた、私との約束も…守ってくれたよ」
エルは理解する。グウィンドが一部の六試練から"裏切者"と呼ばれていたのかを。でもグウィンドが人を裏切る様な人だとは思えなかったエルはウェイルに問う。
「あの…グウィンドさんは何故一人で帰って…あ、いや。柱になっちゃった人と二人だけで帰ってきたんですか?」
「うーん…ど、どうなんだろうね。ぐ、グウィンドは何も教えてくれないんだ」
でも、とウェイルは続ける。まるで確信を持っている様に、もしくは…自分に言い聞かせるように。
「グウィンドは仲間を見捨てる様なやつじゃないよ」
「ウェイルさん…じゃあやっぱりグウィンドさんは…」
「多分、きっとま、まだ何か私達にも言って、ない、無い事がある…とおもう」
グウィンドがウェイルと仲が良い事はもう知っている、それどころか幼馴染だったのだ、そんな彼女にすら伝えていない事、それは一体どれほどの事なのだろうか?伝えてはいけない事なのだろうか?…答えは出ない、だが手っ取り早い方法がある…それは直接本人に聞き出すことだ。
「明日も、グウィンドさん来るんですよね?」
「ま、毎日会う約束だからね…きっと来るよ」
さらっととんでもない約束を聞いてしまったエルだったが、聞き流した。あまり他人の事情に深入りするべきではない、それは知っていた。それは勿論グウィンドの事もなのだが…教えてくれなかったら潔く諦める事にしよう。
「…そういえば、七本線の生徒でも…特権てついたりしますか…?」
「どうだろ…ぜん、前例は無いけれど…多分、六本線と同じくらいには…?」
エルは覚悟を決める。きっとこれが最後のチャンスだ、幼い直感がそう囁いている。
「わたし…明日グウィンドさんに教師になってもらえないかお願いしてみます」
「う、うん。良いと思うよ…!グウィンドすっごく優しいし…」
何を思い出したのか頬を赤くするウェイル。勿論それにエルが気が付く訳もなく、希望を得て生き生きとした顔で夕食のチーズマカロニを食べる。むにょ~んと伸びるチーズを頬張るエルは何とも幸せそうである。そしてそれを見たウェイルもにへりとほほ笑んだ。
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夕食を食べ終え、入浴し歯を磨いたエルとウェイルは二人で同じベットに入る。ベットは大きい為特に窮屈さは感じない。暖かい布団に包まれながらエルはウェイルに話しかける。何となく波長の合う二人はもう仲が良くなっていた。
「ねぇ、ウェイルさんまだ起きてる?」
「起きてるよ」
エルは布団の中で寝返りをうってウェイルと向きあう。記憶をなくしてから初めて他人の暖かさを感じてなんだか嬉しくなったエルはまだ眠りたくはなかった。
「ウェイルさんは巡礼隊に居るとき、どんな事をしてたの?」
「うーん…ほ、砲手…かなぁ。グウィンドの背中におっきい銃を乗せて…それを私が、撃ってたんだぁ」
アサイア巡礼隊がパラサイトを遠距離から一撃で倒す手段を模索した結果がそれだ。最終的に賜物では無い人工物の巨大な銃をグウィンドが背負って持ち運んでいた。その銃は人間が装備するような物では無く、本来はトーチカ等に設置して使う固定型の物であった。ゆえにグウィンドの背中に括り付け、使用するときはグウィンドが屈んでから砲手が狙いを定めて発射していた。
「へぇ…!合体技…かっこいい…」
「エルちゃんもちゃんとれん、練習すれば当てれるように、なるよ…」
実際私が引退してからは別の信者が撃っていたし、と続けた。少し寂しそうにそう語るウェイルの表情はなんとも可愛らしい物である。
「あ…でもグウィンドさん、わたしに撃たせてくれるかなぁ…」
「ふひ…どうだろう…」
ふひりとほほ笑むウェイル。それを見てエルも二へっとほほ笑む。
「あ…そういえばなんで巡礼隊を引退しちゃったの?」
「へひ…グウィンドにいん、引退する様に言われた…の」
緩い笑みを絶やさず話すウェイルの表情に後悔の色は見えない。きっとウェイル自身も納得して引退したのだろうと分かる。
「わぁ…そうなんですね…グウィンドさんが…」
「それでね…私、引退するか、代わりにクリアストリに居るときは毎日、会いに来てって…交換条件をね、だ、出したの…」
「ごくり…それでグウィンドさんは条件を呑んだんですか?」
ウェイルはその時の記憶を思い浮かべ嬉しそうな顔をする。なんともだらしない顔だ。
「へへ…いくらでも会いに行ってやる…ってい、言ってくれたんだぁ…」
「うわぁ…!かっこいい…!」
二人の他愛のない会話は深夜まで続いた。エルはこんな幸せな時間がいつまでも続く来ますようにと神に祈った。月も居眠りをする夜は静かに過ぎて行く。
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コンコンコンコン
「んん…」
エルはドアをノックする音で目が覚める。カーテンのすき間から差す光はまだ斜め気味であり午前中くらいだと予測が付く。
「…ふあぁ…!ふぅ、おはよう…あれ?」
隣にいるはずのウェイルは見当たらなかった。だが、キッチンの方から声が聞こえる。
コンコンコンコン
「はぁ~い…!」
ウェイルはキッチンに居たようで、ドアの方へ歩いていく足音が聞こえた。エルはまだ眠たかったのでもう少しだけ眠ろうと判断した。暖かい布団の中へ戻り、丸くなって枕に顔をうずめる。
カチャ
「…ど、どちらさま…ですか?」
「残光巡礼隊の者です。エルという毛先の白い黒髪の少女を見かけませんでしたか」
「(え…わたし…の事、だよね…?)」
エルはてっきりグウィンドでも来たのかと思って居たのだが、全く違い、更に自分を探しているという事に驚く。大変眠いながらも自分が姿を現した方が良いと思ったエルは布団からはい出て立ち上がろうとする。
「う~ん…ごめんなさい。見ていないかな」
「そうですか。もし見かけましたら協会にお知らせ下さい。では失礼します」
まさに姿を出すギリギリの所でウェイルが吐いたのは噓であった。エルは何かを察してドアが閉まる音が聞こえるまで息をひそめる。
パタン
「……ウェイルさん?」
「あぁ、起きたんだね…えっと…とりあえず朝ごはん…た、食べる?」
「え?あの…」
いいからいいから、とウェイルはエルをリビングのテーブルに着かせて、朝食を運ぶ。エルは話しかけようとするが何だがウェイルの様子がおかしい事に気が付いて声を掛けられなかった。
「エルちゃん…あ、あのね…ちょっと大変な事になったかも…しれ、知れないんだ」
「はい…あの、さっきのざんこう?巡礼隊の人が何かあるんですか…?」
聞こえてたんだ、と言いたそうな顔をするウェイルだが、すぐにこくこくと頷いて朝食を食べながら話を続ける。それを見てエルもとりあえず朝食に手を付ける。ちなみに朝食はハムエッグサンドと野菜スープだ。
「残光巡礼隊っていう人達にはね、あまりい、いい噂を聞かないんだ」
「えと…一応協会の公認…なんですよね?」
こくこくと頷くウェイル。でも、と続ける。
「協会も全体が善良とは…かぎ、限らないの」
「そんな…同じ神を信じる人達じゃないんですか…?」
ウェイルはスープを飲み干す。そして少しうつむきながら口を開く。何かを思い出すように。
「ヘヴンの神様が、どんな神様かを知っている人は…だ、誰も居ない…から」
「残光巡礼隊の人達はヘヴンの神様を悪い神様だと…思って居るんですか?」
「そう…善良な神が人間を殺す訳が無い…って、きっとじゃ、邪神に違いないから滅ぼすって」
人の数だけ思想の違いが生まれる。クリアストリという街は余りにも発展しすぎてしまったのだ、これだけの人間が居れば少なからず理解され難い思想を抱くものは生まれるのだ、そしてそれを悪だと断定はできない…何故ならこの街には実際に神に会えるかもしれない可能性そのものがあるのだから。…実際に神に出会うまでは人間にとって悪か正義か、など誰にも分からないのだ。
コンコンコンコン
「はぁ…こ、今度は誰なの…?エルちゃんはここでまっ、まっててね…」
「はい…」
ウェイルがドアの方へ歩いて行き、ドアが開かれる音がする。
「はぁい…」
「こんにちわ…僕はエルレンって言います…あの、エルは…いますか」
まさかのエルレンだった。エルは少しだけこっそり玄関の方を覗いてみるが、正真正銘本物のエルレンだった。
「えるれんっ!わたしいるよ!!」
「し、しりあい?」
エルは小走りでエルレンのお腹にダイブする。この匂い…やはりエルレンだ、と判断できる程度にはエルレンの匂いは覚えやすかった。そしてエルレンは震える手でエルの頭を優しく撫でる。
「だ、ダメだよエル…本当に出てきたら…」
「…え」
エルはエルレンでは無い第三者に腕を掴まれる。全身を白い装備で武装している2人組だ。掴む力はとても強く腕にあざが出来そうな程だ。
「対象を発見した"導きの鈴"が示した通りだ」
「いたっ…!」
「持って帰ろう」
「輸送しよう」
エルは抵抗するが全く白装束の男は動じない。
「あ、あなた達、一体何を…!」
「ウェイル様。危険ですおさがり下さい」
「危険って…!あなた達のほ、方がよっぽど」
「御下がりください」
ウェイルはもう一人の大柄な白装束によって阻まれており家の外に引きずり出されたエルを追う事が出来ない。
「やだっ!はな…してっ!」
「携行性に難あり」
「いっ!?ああああああッ!!」
ゴキ、とエルの肩から音がしてエルは肩を外される。それを見たエルレンはすかさず白装束に詰め寄る。
「酷い事はしないと言っていたじゃありませんか!!」
「エルレン様、ご協力ありがとうございました。ここからは我々の仕事ですのでお引き取り下さい」
「たっ!助けてえるれんッ!!」
「公用語を理解している傾向あり」
白装束はエルの喉を空いている方の手で強く押さえつける。喉を強く圧迫されたエルは声も出せずに恐怖と痛みから涙を流す。それを見ているエルレンも何かに恐怖しているのか声を出せずにいた。
「……ッ!けほっ…!…………ぇ…!」
「力は平均以下」
「ごめん…!エル…!ごめんよっ!」
エルは朦朧とする意識の中で走り去って行くエルレンを見る。良く見るとエルレンもボロボロで所々あざがあった。すぐにエルレンの背中は見えなくなり心細さと体験したこともない恐怖から失禁する。
「…ぃ…ッ…!」
「排尿を確認。サンプルを回収」
助けを求めようにも周りに人影は居ない、いつもならこの太陽が出ている時間帯は何処に居ても通行人が居るはずだが今日はそうでは無かった。
そして、突然エルの周りだけ影に覆われる。
『……白昼堂々良くやる』
「貴方はグウィ
べしゃ
白装束の頭が潰れてうすピンク色の中身が辺りに飛び散る。グウィンドが片手で握りつぶした。そしてぴくぴく震える白装束を無視してエルの肩を掴むと強引に外れた肩をはめた。
「いッ!?…はぁ…はぁ…グウィンド…さん…」
『……』
そのままグウィンドはウェイルを足止めしていた白装束の前までその重そうな足音を響かせながら歩む。
「敵対行動。応戦しま
『邪魔だ』
べきょ
グウィンドが手の甲で大柄な白装束を薙ぎ払うと、白装束はまるでぬぐるみのように身体がぐにゃりとひしゃげて吹き飛び、隣の家の壁に激突して肉塊に成り果てた。
「ぐうぃ、グウィンド…!た、助かったぁ…」
『…無事だったか。…話がある』




