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2.遭遇


 『…』



 ドス、ドスと重い足音が辺りに響く。


 この如何にも体重の重そうな足音を響かせている男はこの物語の中心となる男、グウィンド・ヴァンヒートだ。


 重そうな足音を出している割にはそれなりにスマートな体系をしている、しかし大抵の人物が彼を見て驚くのはそこでは無い、まずは身長の高さだろう、彼の身長は2mを超えており殆どの人間は彼を見上げなければ顔を見る事が出来ない。


 では上を見上げれば彼の顔を確認できるか?と聞かれれば…否だ、彼は頭部をすっぽりと覆うヘルメットを装着しているからである。もし夜道で彼に出くわせば心臓の弱い者ならば気を失ってしまうかもしれない、それほどまでに異様な姿をしている。


 黒い外套に表情の見えない怪しいヘルメット、更に身長がここまで高ければ仕方が無いのかもしれない。


 だがそれもこれも仕方がないと言えば仕方がない、何故なら此処はヘヴンの中だからである。そう彼はまさに今巡礼中だった。



『…信者か』



 そんな時だった、彼は地面に倒れている人影を見つける。だがすぐに駆け寄る事はせずに周辺を警戒してゆっくりと近づいてく。そうして時間をかけて倒れている人物の傍まで移動した。



『息はあるようだな…』



 彼はいつも通り、ヘルメット越しの聞き取りにくい声でボソボソと独り言を吐き、身元を確認するためにその人物をまさぐる。



『何故子供がこんなところに』



 倒れていたのは少女だった、少々背丈に会わない服を着ていたので調べるまで分からなかった。そしてもう一つ重要な事に気が付く。



『信者では無いのか』



 ヘヴンに挑戦する信者ならば誰でも必ず持っている筈のタリスマンを所持していなかったのだ。


 タリスマンはヘヴンで取れた物質を加工して作られた特殊な"身分証明書"のような物だ。そしてこれはヘヴンを進むにつれて模様が変わっていく、だからタリスマンの持ち主がヘヴンをどこまで進むことが出来るかが分かり、実力が可視化するので分かりやすく、無茶な巡礼をさせない事が出来るのだ。



『不法に侵入したのならば自業自得だ』



 彼は立ち上がりその場を去ろうとするが、その瞬間少女の耳元に小さく光る何かを見つける。



『…何故お前がそれを』



 少女を起こそうと揺さぶるが一向に目覚める気配は無い。それに所々擦りむいたのか血を流していた。


 何故此処で"擦りむいた程度"で済んでいるのか不思議に思う彼だったが、それよりも先に少女を此処で死なせるわけには行かないと判断した。




〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



「んぅ……ここ、は…?」



 少女が目を覚ますとそこは全く見覚えの無い場所だった。何か柔らかい物の上に居る事と身体に暖かい布が掛けられている事、そして全く見たことの無い建物の中に居る事だけは分かった。



「わぁ…すごい」



 光さす方を見ると大きな窓があり、そこから見える景色は全く記憶にないものの美しく壮大である事が一目で分かる。そしてその壮大な街の中心に明らかに異様な物があった。



「なに…あれ」



 ソレは何もない場所に凄まじい存在感を放っていた。ぼーっとしている頭で考えるがあんなものは見たことが…無い。


 それはまるで空間が破けた様な…。



『…天国門だ』


「きゃあッ!?…びっくりしたぁ…」



 突然真上からくぐもった様な声がして驚き、悲鳴を上げる。恐る恐る少女が上を見ると怪しいヘルメットを装備したガタイの良い何かが少し猫背で少女を見下ろしていた。もし外が明るく無ければ少女は失禁していたかもしれない。



「あ~!女の子目が覚めたんですね!」


『…』



 部屋の扉が開き、また新しい人物がやってくる。金髪に赤い眼鏡をかけた青年だった。


 青年は手に持っていたトレーからカップを小さなテーブルに置いて少女に話しかけた。



「これ良かったら飲んでね」


「へ?あ、えっとありがとう」



 少女は暖かい布を膝に下して恐る恐るカップを手に取る。カップは温かく、中に入っている液体からは良い香りがした。そっと口に含んでみると少しの甘みと軽やかな香りが広がり心なしかすっきりした気分になる。



「グウィンドさんは如何ですか?」


『…不要だ』


「その、私が言うのもなんだけど…」



 少女はグウィンドを見上げながら話す。



『なんだ』


「…お、おお、美味しい…よ?」


『……………私の分もやる』


「エッ…(そうじゃなーーーーい!!)」



 少女は意図がうまく伝わらず叫びそうになるがなんとか耐える。しかもヘルメット越しにボソボソ喋るものだから本当に聞き取り辛い為さっそく少女はグウィンドに若干の苦手意識を覚えた。


 それと同時に訂正するのも面倒になり今回生まれた小さな良心はとりあえず諦める事にした少女であった。



「それで?お嬢さんは何でタリスマンも持ってないのにヘヴンなんかに居たの?」


「……え?」



 少女は混乱した、何故ヘヴンに?ヘヴンは…知っている、何故知ったのかが思い出せないが、タリスマン?それは知らない、何の事なのだろう?そもそもここが何処かすら分からない。目の前に居る人たちも。



『…こいつは"捨てられた街"の出口付近に倒れていた』


「…ちょっと待ってくださいグウィンドさん、ヘヴンからこのお嬢さんを助けたのは聞きましたが…それ本当ですか?"祝福の園"ではなく?」


『…ああ』


「倒れてた?助けた?」



 少女は更に混乱する、こんな事で取り乱すほど子供では無いが段々と事の重大さに気が付いて来ていた。


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