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15.歩く


「あははっ!すごいすっごーーいっ!!」



 輝く草原を駆け抜ける。穏やかな風に背中を押されて走るのは気持ちが良いものだ、ついさっきまで重たいとずっと思って居た装備も軽く感じる。



『…危険だ…もう少しおとなしくしろ』


「ふふ、ごめんなさい!少しわくわくしちゃって…!」



 ご機嫌なエルは少し咎められた程度では怯まない。だが仕方ないと言えば仕方ないのだ、エルはまだ幼いのだから。勿論それはグウィンドも承知の上で同行している。



「あっ!グウィンドさん!これ凄いです!本当に光ってる!!」


『…それはテルノミだ…少量なら喰っても害は無い』



 ヘヴン第一試練 祝福の園に自生している黄金に輝く木、テル果樹。信者がテルノキと呼ぶこの木は人間が食べる事が出来る果実を成す。だがあまり食べ過ぎるとヘヴン因子の過剰摂取により代償を払う事になるので注意が必要だ。



「へぇ~!!あっでも今はまだお腹空いてないや…残念」


『…』



 微妙にしょんぼりしているエルと共に道を進む。比較的、祝福の園は道が整備されており安全に進むことが可能だ。ヘヴン第二試練 鈍色の地へ繋がる亀裂…扉まで道は続いているものの、注意が必要である。


 そして一つ、絶対に忘れてはいけない事がある。ヘヴンという異郷の地は来た扉を通れば元の場所に戻れるという訳では無いのだ。


 クリアストリからヘヴンに通ずる天国門は一方通行なのだ。そしてそれは第一試練から第二試練につながる扉も同じである。だからこそより高い試練は撤退するのも一苦労だ、もし入口付近で壊滅的な被害を受けたとしてもそのまま引き返すには下の試練に繋がる扉まで行かなくてはならない。



「そういえばデナーさんの所へは大体どれくらい時間が掛かるんですか?」


『…順調に進めば1時間程度だ』



 監視塔 デナー・ガーデンは監視拠点"クロックオーバー"に常駐している。ここは祝福の園で起こる未熟な一本線ファーストラインの死亡を未然に防ぐ目的で作られた拠点だ、ここのお世話になった信者は少なくない。物資の運び込み等の都合上、天国門の近くに建っている。



「そういえばグウィンドさんはデナーさんとお知り合いなんですか?」


『………ああ』



 エルは上機嫌に歩きながら質問する。勿論教師になるかもしれない人の事を知っておきたい、程度の理由だ。



「さっすがグウィンドさん!顔が広いですねっ!ちなみにどんな人なんですか??」


『……普段は冷静ぶっている癖に…身内の事となると激情を抑えられない女だ』


「なるほど…!仲間のために怒れる人なんですね…!」


『…』



 グウィンドは若干皮肉めいた紹介をしたつもりだったがエルが余りにも純粋だったので沈黙した。


 その後会話も無く二人が歩いていると道端に小さな動物…原生生物が居る事に気が付く。



〔きゅっ きゅっ〕もこもこ


「わぁ~~…!かわいい…!」



 小さく白い…まるで毛玉のような動物…原生生物はエルを警戒している様子は全く無く、エルが走り寄っても逃げる様子も襲う様子も無い。



〔きゅう~ん〕


「あ~…かわいい過ぎる…!」


『…珍しいな…テルケダマは本来、信者に近寄らないのだが…』



 テルケダマ、それは主にテルノミを主食としている原生生物だ。手のひらサイズでもこもこ、ふわふわの白い毛におおわれており大変可愛らしい外見をしている。性格は臆病で近づくとすぐ逃げてしまう。



〔きゅん きゅきゅ〕


「お腹ちゅいてるのかな~?」



 エルが指をくいくいと動かすとテルケダマがよちよちと近寄ってくる。短い手足で一生懸命動く姿は何とも可愛らしい。



〔きゅ


 ず べしゃっ!


「へ…?」



 エルが尻餅をつく程の地響きが起こり、エルの視界からテルケダマは消え失せる。理由は簡単だ、グウィンドが踏み殺したからだ。本当に潰してしまったのかなんて疑うまでも無い、半ば地面に埋まったグウィンドの足の下からテルケダマの中身がはみ出ているのだから。



『噛まれれば…代償を支払う事になるぞ』


「へ、あ…あぁ…っ…」



 エルは忘れていた。ここはヘヴンなのだ、ちょっとした油断で全てを失う場所なのだ。こんなに小さい動物だったとしても、噛まれて怪我をすれば代償を支払うことになる。


 祝福の園の代償は軽いめまい・吐き気だ、たったそれだけだとしてもこの先進み続けるのなら十分に警戒すべき代償だ。もしパラサイトに襲われたタイミングで眩暈をおこしたら?死ぬだろう。ここはシビアな世界だ、一切の妥協は許されない。



「ああぁっ…!うぅ…ごめんねっ…!」



 エルは強く後悔する。これは自分のせいだと責める。グウィンドさんがこうしたのは自分の為だという事も分かっている。だから…無実の動物が、殺されてしまう程の理由を作ってしまった自分を責める。自分が浮かれてさえいなければ、小動物だからって触ろうとしなければ…この子は死なずに済んだ。



『…行くぞ』


「…………はいっ…ぐすっ…」



 踏み殺した足で前へ進むグウィンドを追うエル。きっと今までもそうやって生きて来たのだろう、戦ってきたのだろう。自分は…グウィンドのようになれる気がしなかった。


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