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11.語り


 暖かい暖炉に眠気を少し誘われながら少女は話を続けた。まだ夢の世界に陥りたくない子供のように。



「……その後にかいかくとうのナギ・ユキヤさんに会いました。…生徒にはしてもらえなかったんですけどね…」


『……あいつか…………』



 グウィンドの今までよりも重い口振りに、エルはやはり何かしらの確執があるのだと察する。でないとあそこまで言われないだろう。



「なにか…あったんですか?」


『……まともに話した事すら無い筈だ』



 ええぇ…と口から洩れそうになるのをギリギリ我慢するエル。話した事も無いのにあんなに一方的に嫌われる事なんてあるのだろうか?でも多分あまり触れない方が良い話題なのは察した。



「えと…あの、そういえば。ナギさんはいつもあんな感じなんでしょうか…?なんていうかこう…いそがしそうというか…まだこっちが話してるのに話してくる感じの…」


『…それは眼鏡型の賜物による恩恵だ、たしか…"一寸先視シェディビジョン"…だったか』


「えっ!?あのメガネ賜物だったんですか!?」



 エルはグウィンドから一寸先視シェディビジョンの能力を聞いた。どうやらそれは0.5~1秒先の未来が見える物らしかった。しかし見えるだけであり聞こえるわけでは無いので恐らく読唇術でも修めているのだろうとの事。



「…へぇ…そんな便利な物もあるんですね。でも0.5秒先がわかった所で私だったら何も出来ないなぁ…」


『…努力次第だ』



 まさか後半部分の独り言に返事を貰えるなんて思って居なかったエルはぎょっとしたが、顔には出さなかった。それにしても0.5秒先か…ああでも、何も分からないよりはマシなのかもしれない…なんて一人頭の中で納得していた。そして今までと同じく会話を続ける。



「努力、ですかぁ…努力したら私も六本線シクスラインになれると思いますか?」


『…どうだろうな。少なくとも…あいつには同じ六本線シクスラインの教師が居た』



 驚きと少なくなった緊張感より興味が勝ったエルは質問した。



「へぇ~!どんなひとなんですか?」


『…名はデナー・ガーデン。今は祝福の園で監視役をやっている…筈だ』



 そう、監視塔 デナー・ガーデンこそ改革塔 ナギ・ユキヤの教師である。デナーはナギの他にも有能な信者達を沢山ヘヴンに送り出している。ある事件がきっかけで最前線より退いたが、余りにも有名な為未だに彼女の名前を忘れる民衆は居ない。


 また黄金の如く煌めく長髪にサファイアのように煌めく瞳をもつその美しい外見の事もありファンクラブが存在する。実はファンクラブ会員、栄光のNo.00001(創立者)はナギ・ユキヤだったりする。



「じゃあ祝福の園に行けば会えるかもしれないって事ですか?!」


『……ああ』



 エルは感動した。もしかしたら自分も生徒にしてもらえるかもしれないからだ、勿論確定事項では無いのだが、エルのやる気はモリモリと溢れてきた。行くならやはり明日だろうか?それとも先に二本線セカンドラインにでもなって有能さをアピールした方が良いのだろうか?そんな事を考えているだけで無限にワクワク出来るのであった。



「おお…!希望が見えてきたぁ…!」


『…』



 ふとエルは大変重要な事に気が付く。それは《第一試練とはいえわたし一人で大丈夫なのか?

》問題である。そう、たとえヘヴン内ではかなり安全と言える方であったとしてもまだまだ未熟な自分が一人で行って何とかなるものなのだろうか?そして一つの答えにたどり着く、それは…そんなに甘い筈が無いという物だった。



「ああぁ…でも、どうしよ…」


『…』



 エルの頭の中を支配する感情は二つ、希望と不安だ。勿論思って居るより大丈夫かも知れない、だが…妙にヘヴンに詳しい筈の記憶でさえ第一試練 祝福の園を覚えていないのだ。今までは前もって知っていた方が良い事などはなぜか覚えていたにも関わらず、祝福の園に関しては記憶が全く無い。



「…あぁう」


『……』



 どうするべきか?今日声を掛けた六本線シクスラインに協力を頼むのか?…いや、絶対に忙しいだろうし何なら無視されかねない。



「うぅ…どうしたら………ハッ!?」


『………』



 ある事を思いつく。むしろ何故一番初めに頼ってみなかったのか。



「グウィンドさん!!」


『…なんだ』



 目の前に居るではないか。少なくとも第四試練 捨てられた街までは行ける人物が!





「明日!祝福の園に一緒に行ってくれませんか!?!?」


『……………………』



●●●●●●●●●●


 非常に面倒な事を頼まれてしまったグウィンド。本来ならば『断る』で済む話の筈だったが…グウィンドは非常に懐かしい記憶を思い出す。


【俺と一緒に天の果てに行かないか?】


 古い記憶、懐かしい記憶。忘れるつもりは無かったのにいつの間にか忘れかけていた言葉。…これが運命という物なのだろうか?ああぁ…神よ、貴方は神の癖にやけに厳しいじゃないか。


●●●●●●●●●●



「グウィンドさん…?」


『…………いいだろう』



 エルは一瞬、思考停止する。『いいだろう』?え、いいだろう……いいだろう!え!!まさか本当について来てくれるというのだろうか!絶対に断られると思って居たエルは歓喜に打ち震える。もう頭の中はハッピー&ハッピーだ。軽口を言えそうな程度には嬉しくなってしまっていた。



「や、や、やったあああああああ!!ありがとうございますグウィンドさん!!」


『……』



 またしても沈黙するグウィンドだが、もはやそんな些細な事に躓くエルでは無い。むしろこんなにツンツンしているのに、自分の誘いには乗ってくれるような優しい男だと知ってしまったからだ。



「うれしいです…!一瞬沈黙塔のサイレント・ロンドルオンさんみたいに静かになっちゃったから断られるかと…」


『……私がロンドルのように?それは無いだろう』



 ん?…エルの頭の上にははてなマークが浮かぶ。この人は何を言っているのだろうか?もしかして気が付いていないのだろうか?実は想像以上に自分が寡黙な事を知らないのだろうか?



「…ははは、そんな。グウィンドさん、またまた…結構似てますよ」


『…心外だな…私はロンドルのように騒がしく無いだろう』



 んん?サイレント・ロンドルオンさんが騒がしい…?何かが可笑しい事に気が付くエル。そうだ、話がかみ合っていない。



「え…サイレント・ロンドルオンさんって…あの…棒…というかおばけみたいで…何も喋らない…」


『…誰だそれは』



 そもそも、とグウィンドは続ける。



『……サイレントとは何だ。あいつに苗字は無い…ただのロンドルオンだった筈だが…籍でも入れたのか』


「えっ?えっ?どう、どうゆう事…」



 更にエルの頭の中が大混乱する。グウィンドの話しぶりから知人である事は何となく察する事ができるのだが…騒がしい?ただのロンドルオン?もう訳が分からない。


 そんな時何の前触れもなく、背後の高い位置にある窓から物音が聞こえた。



「…?今何か………っ!?」



  "黒いナニ"かが、窓からぬるりと室内に侵入しようとしている。あの窓は少なくとも床から2mはある位置の窓である。だというのにも関わらず、ソレはずるずると室内に入ってくる。その姿、形はエルが知りうるどんな生き物にも該当しない、少なくとも…人間では無い。



「ひぁ…!!?あっあっ!ぐ、グウィンド、さんっ…!あ、あ、あれぇ!!」


『…なんだ』



 エルは恐怖からグウィンドの固い足にしがみつく。あんなに恐ろしいものは見たことが無い。ただただ、恐怖だけが全身を支配する。



「…!っ……!!」


『…来たのか』



 どちゃり、と固い床に黒いナニかが落下する。器用に侵入した窓を閉めたのはこちらの退路を塞ぐ為か…それとも。



「うぅ…ううゥ…」



 それはうめき声をあげながら少しづつ、失っていた形を取り戻すように…人型になっていき、グウィンドにしがみつく。そして完全に人型になったソレの姿は…



「ぐうぃんどぉぉぉお…!!」



 異様に白い肌に艶のある黒髪、夜空のように黒い瞳。首から足先まで覆い、半ば身体に張り付くような露出の少ないハイネックのマキシワンピースを着た"女性"であった。



「俺を慰めてよ…グウィンドぉっ…!」


『…落ち着けロンドル』


「だれぇ!?!?」


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