1.プロローグ
新シリーズになります、どうぞお付き合いください。
『ヘヴン』
ーそれは遠い昔、役1300年も前に突然地上に門を開いた。
まるで幼い子供が紙を破いてしまったかのような空間の裂け目、亀裂だ。突如現れたソレの衝撃は激しく、周辺にあった山々を消し飛ばし、辺りを更地に変えてしまう程であった。
人々は突如現れた亀裂を恐れ近寄らなかったが、数百年という気が遠くなる年月を得て亀裂への恐れを忘れた愚かながらも勇気ある者達が亀裂に接触した。
歪む空間を超え、先祖代々亀裂は破壊と破滅の象徴だと教えられてきた愚かながらも勇気ある者達が見たのは、身体の奥底で燻っていた未知への恐怖を一瞬で忘れさせる程の美しい光景だった。
【ここは、神の国なのか】
無意識に出た言葉を責める者は誰も居なかった、そこに居た者達全てが同じ事を思ったからである。
薄い金色の雲に、光が零れる大岩、輝く実を成す木々。
どれもこれもが御伽噺でしか聞いたことの無い光景。そう、ここが天国だったのだ!誰もがこの事実を疑わなかった。きっと神は地上で暮らす人々を憐れんで天国へと繋がる門を開いてくださったのだと…
そう、思って居た。
ここが自分たちのよく知る世界とは違うという事を思い出すその瞬間まで。
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一番最初の愚かで勇気ある者達が帰って来てから、亀裂…天国門の先にある素晴らしい世界の話は一気に広まった。
神の国の噂は人から人へと伝わっていきあっという間に天国門の周りに街が作り上げられた。
『クリアストリ』
それが"天国"に一番近い場所に築き上げられた街の名前だ。
勿論ヘヴンは縁起が良いから街が築かれた…というだけでは無くヘヴンには人類にとって非常に有益なアイテムが多くあった為でもある。人々はそれらを神からの贈り物、"賜物"としてありがたく回収させて頂いた。
賜物の種類は非常に多い、無から金を生み出す物や一瞬で怪我を治す物まで…現在の技術力では到底作れないような物がばかりだった。
クリアストリに住んでいる者達の殆どはヘヴンに行くために住んでいる。いつからかヘヴンへ向かう者達は"信者"と呼ばれるようになり、それに乗じて信者がヘヴンに向かう事は"巡礼"と名付けられた。勿論賜物を目当てに巡礼をする信者もいるのだが、殆どの信者は純粋に神に会いたいが為に巡礼をしていた。
…だが神に会うのは容易では無かった。ヘヴンには大きく分けて二つの存在があったからだ、一つ目は原生生物だ。原生生物は殆どの場合積極的に信者を襲う事は無いが勿論襲ってくる種類もいたのだ。そして二つ目は"天に寄生する者"だ、それらは信者を発見するや否や必ず襲う、現在まで確認できた種類だけでも数十種類のパラサイトが存在していた。
そして極めつけに神に近づく代償と言わんばかりに信者にまとわりついてくる危険がある、それが"代償"だ、代償は様々な種類があるが大抵の場合信者にとって原生生物やパラサイトよりも注意すべきものである。代償はヘヴンの中で怪我をすると必ず発動する、ヘヴンを研究している者は「ヘヴンの空気中には常に正体不明の因子が存在しており、怪我をすることで傷口から体内にその因子が取り込まれた為に代償が発生するのではないか?」と語っている。
そういった様々な危険性が信者達を神から遠ざけ、それが逆に信者たちの信仰を高めていた。
信者たちは何故ヘヴンへの挑戦を辞めないのか?
それはこの天国に最も近い街クリアストリ自体が愚かしくも挑戦する勇気がある者達の街であるからだ。
もしよろしければ評価の程よろしくお願いいたします。