【ショートコント コンビニ】
【ショートコントコンビニ】
「あー、水曜はまじできつい」
「そうだな、毎週の事だが」
水曜は1限の英語Lに始まり、古典、数学Ⅱ、世界史B、現代文、数学B、英語Gという地獄の7カードだ。
息抜きできる時間がなく、特に昼休み後の現代文はそれはそれはもう子守唄のような先生の声が眠りへと誘う。
「火曜の深夜アニメがおもしろいのが悪いよな」
「俺とお前では大きな隔たりがあるぞ、亮輔よ」
俺と亮輔は例に漏れず、半八木駅のホームで暇つぶしをしている。
17時過ぎの空は青色を広げたパレットに少しずつ赤色を混ぜているかのような、曖昧な色で、そんなどっちつかずの空が大好きだったりする。
「そういえば水曜はバイト休みだっけか?」
「ああ、そうだな。それも毎週の事だな」
500mほど離れたグランドからは野球部のランニングの掛け声が聞こえる。
あんなに声出して近所迷惑にならないのは、ここが田舎だからなのか。部活動という名目がいちゃもんを付けられない免罪符となっているのかもしれない。
「今日の明石はやけにぼーっとしてるな。どうした?」
「そんなこともないないだろ。強いて言うなら、好きなんだよ」
「え?俺のこと?」
「お前のことは大ッ嫌いだ。季節だよ季節」
晴れた日のこの季節は日向にいるとじんわりと汗が出てくるくらいだ。
でも、ふとした時に頬を撫でる風がその汗をぬぐってくれるようで、気持ちいい。
「またなんともメルヘンチックなことを仰る」
「うるせえ。せめてメランコリックと言え」
「メンヘラリンク?」
「酷い聞き間違いだな。ゼルダも真っ青だ」
亮輔との暇つぶしはこうやって、これと言ってテーマの無いままただただ雑談で終わることもしばしばだ。
生きている中でそうそう面白いことなんて出会わないものだよな。
「あ、そういえばさ」
「ん?どうした」
「明石はバイトをしてるよな。なにやってんだっけ」
「月木はスーパー、火金はコンビニ、土日はカラオケ」
「なんでそんなにやってんだ?」
「別にやりたいこともねえからな。暇な時間があるなら金稼いでる方が将来の為にもなるだろ」
これは半分ほんと。半分は嘘だ。こいつに正直に話したところで意味はない。
「まあ、そこはどうでもいいんだが」
ほらな。
「ちょっとここでやってみてくれないか?」
「あ?何をだよ」
「いや、だからバイトを」
「ちょっと何言ってるのかわからん」
「だからな、ここをコンビニに見立てて、俺が客として入店するから、明石は店員してくれ」
こちらに然るべき理解力がないかのような口ぶりだな、こいつ。
うぜえ。
「わかった。やることはわかった。でもな、理由がわからん。いつも言っているだろうが、お前の話題は支離滅裂すぎるんだ。ちゃんと順序立てて話せ。な?」
「おお、そうだったな。悪い悪い」
亮輔は俺が知る中で一番のバカだ。成績においても人間性においても。
どうしてこいつが同じ学校に進学できたのか本当に理解できん。誰だ合格させたアホは。
「昨日もいつも通りに撮り貯めしていたアニメを」
「スタートゥインクルプリキュ◯を鑑賞していたわけだが」
なんで言い直した。そしてなんで伏せ字をそこにした。
「まだ、そういうの見てんのか、もうそろそろ卒業しろよ」
「おかんと同じことを言うんだな、明石は」
うわー。
高校生になった息子がスーパーヒロインタイムを録画して見てるんだもんな。母としては普通に悲しいわな。
「普通高校生は見ないからな。おばさんの気持も推して量れるよ」
「ん?いや、おかんが言ったのはお兄に向けてだぞ」
「ホントに何してんだよお兄」
亮輔には4つ年上の兄貴がいる。現在20歳の大学3年。
成人男性がプリキュアを見るのは有罪にした方がいいのではないだろうか。
「俺には、プリ◯ュアもいいけど、バイトでもしたら?って言ったんだよ」
なぜ、プリキュアはいいんだ。亮輔母よ。
「そこでな、明石はバイトをしてるからだな、色々と教えてもらおうと」
「事情はわかった。でもまだ、わからんことがある」
「まったくお前はうどんだな」
「なんだ、美味しいのか俺は」
正しくは愚鈍。
「バイトのことが知りたいなら教えてやる。だが、別にコントする必要はねえだろ」
「はあ?なんで俺が明石にものを教わらねばならんのだ。逆ならまだしも」
殺すぞ、どアホ。
「つまり、教わるのは癪だから、やってみせろと?」
「Yes,You can!」
なぜお前から許可をもらわんとあかんのだ。いちいち上からなのが腹立つ。
「致し方なく付き合ってやるよ」
「え?イカしかいない?」
イカなんていない。話が進まん、このタコ野郎。
「しょうがないからコントに付き合ってやるってんだよ。で、俺は何をすればいいんだ?」
「俺が客として店に来るから、明石はいつもどおりの接客をしてくれ」
「わかった」
また妙なことに巻き込まれたもんだ。
まあでも、接客なら問題はない。週の殆どで接客業をしている俺にはイージーだ。どんなクレイジーな客でも捌いてやろう。
「ウィン」
「いらっしゃいませ」
「えっ、どうしてここの店員さんは裸エプロンなんですか?」
「ちょっとまて」
「どうした明石」
「接客どうこうの話じゃなくなる設定はやめろ」
男が裸エプロンの店なんか、そんな需要この世のどこにもない。
…‥‥ないと信じている。
「ウィン」
「いらっしゃいませ」
「このコンビニには俺がある日、見失ったは羞恥心は置いてますか?」
「置いてません。そもそもなかったのでは?」
「そうですか。じゃあ、あの日こぼした涙はありますか?」
「ありません。そもそも出てないのでは?」
「じゃあ、あの子に奪われたままの恋心は?」
「返ってきません。てか、まて」
「まつ」
急に素直だな。
「冷やかし客はやめろ。そんなおもしろ客はこない」
「それもそうだな」
「わかった俺が設定を決めよう。基本コンビニにくる客は食べ物か飲み物の買い物だ。お弁当とお茶をもってこい」
「わかった」
「ウィン」
「へ〜、ここのコンビニ初めてきたけど、結構品揃え豊富なんだな」
「お、これなんかいいんじゃないか、
『比内地鶏を贅沢に使ったビーフカレーを高温でからっと揚げてみました』
…美味そうだ」
なんだそのトリッキーな食べ物は。弁当持ってこんかい。弁当を。
「お、ジュースの種類も豊富じゃないか。これは初めてみるな
『しょうゆ』
よし、飲んでみるか」
もうツッコミどころが多すぎてどこから
「ぷっ、っっはあ」
「え?」
今誰が笑ったんだ?
「あはっはははっはははっは。ひぃーひぃーーーお腹痛いー」
「えっと…」
笑い声の方を向くとお腹を抱えて笑い泣きしている女子生徒がいた。
「(亮輔、お前の知り合いか?)」
亮輔にアイコンタクトを送ってみる。
「(いや、俺は蕎麦派や)」
「(そんな事は聞いとらん)」
「くっ、ぷっ、っつはあ、はあ、はあ。あー、ごめんね。急に怖いよね。もうちょっとしたら収まると思うから」
そう言いながら顔を上げた女子生徒は、どうやら先輩みたいだ。
西城の制服はダークグレーのシンプルなブレザーで、学年ごとの違いは男子はネクタイの色、女子はリボンの色で見分ける。
今年度の4月より1年が緑、2年が赤、3年が青で毎年順繰りに回るわけだ。
目の前のおねえさんは青色のリボンが胸の上に乗っかっているわけだ。
ということは3年の先輩なわけだ。
違う。語尾が連続してるのは決して、あの巨乳に目を奪われているわけだ。
…違う違う。わけではない。
「くぅー。ごめんね。久しぶりにこんな笑ったからさー。あーお腹痛いっ」
今までお腹抱えて前かがみだったお姉さんが顔を上げて目尻の涙を拭う。
ダークブラウンのひし形ショート、シャープなフェイスラインと白い肌、ハーフリムのオシャレなメガネ、すっと通った鼻筋の全てが大人っぽさを演出している。
一つ歳上なだけでこうも大人っぽくみえるものか…。
「私、3年の辰野 結愛 (たつの ゆめ)だよ。ほら、リボンの色そうでしょ?」
先輩。くいっっと胸をそらしても強調されるのはおっぱいです。でも、有難う御座います。
「えっと、で、その辰野先輩がどうして爆笑してたか、はお聞きできるんでしょうか?」
「ああ、うん、ほらっ、さっきまでこの参考書で電車の待ち時間を有効活用してたんだよ」
よく見ると辰野先輩の手には『頻出!英単語700!』と書かれた参考書があった。
最近電車内でも受験勉強に励む生徒の姿がちらほら出てきたと思っていたが、こうやってスキマ時間すらも使って勉強してるんだな…。それに比べて俺らは。
「最初は集中してたから聞こえてなかったんだけど、ふと『裸エプロン』ってワードが聞こえてきてさ〜。もう一回気になったらダメで君たちの話を盗み聞きしてたんだよ」
言ってたわ。このアホが。
ほんでこいつおっぱい見すぎだろ。さっきから何も喋らんと思えば。けしからん。
「そしたらなんかコンビニコントみたいな事してるし、しょうゆ飲もうとしてるし。しょうゆって飲みものじゃないし、っく、また、くくくっ」
どうやら辰野先輩は相当なゲラみたいだ。
「…おい、明石。ちょっと」
「ん?」
さっきまで巨乳に魅入られていたはずの亮輔に小声で耳打ちされる。
「辰野結愛って、噂のゆめちゃん先輩じゃね?てか、そうだろ、だって」
「みなまで言うな。…そうか、この人が」
亮輔の言う『ゆめちゃん先輩』とは、憧れの先輩という話題で必ず耳にする名前だ。
『ばけものおっぱい』という二つ名は伊達じゃないってことだな…。
「最近受験勉強ばっかでさ〜、クラスの子たちもなんだかピリピリしちゃってて、笑いに飢えてたんだよ。でも、盗み聞きしてたのは悪かったね、めんごめんご」
「い、いえ、むしろこんな馬鹿みたいなことで受験勉強の邪魔をしてしまい、すいません」
気さくで人懐っこい性格なんだな、辰野先輩は。
「全然気にしないで!それよかさ、何してたの?」
…
「ウィン」
「おかえり、あなた♡ お風呂にする?ご飯にする?それとも、た・わ・し?」
改めての自己紹介と事情を説明したところ、意外や意外
『私も混ぜてよ!』というコントへの参加を表明されてしまった。
しかも、ボケかよ。
「ここはどなんですか!?しかも、微妙に間違えてますし!」
「おかえり、あなた。油風呂にする?義呂珍にする?それとも、竹林剣相撲?」
「だぁーーーーーっ、もうお前は全部間違えてんだよ!!!」
男塾名物なんて誰がわかるんだよ。
「私は直進行軍が好きだけどなー」
「お、先輩わかるくちですな〜?」
「嘘だろ…。ってか待ってください」
「ん?どったのアッカシ君」
「そうだぞ、どうしたソマーン」
「それも搭乗者と搭乗機!ちょ、ほんとにまって。ツッコミきれませんから」
この先輩めっちゃノリいいし、コアなネタ知ってる。
流石にこの勢いの二人はさばききれん。
「じゃあ、こうしよう!」
「そうしよう!」
「いえい!」「いえい!」
「うるせええええええええええええ」
閑話休題。
「とりあえず、二人でボケるのはなしで」
「はーい♪」
「3人という人数を最大限に活かそうか。まずは明石が店員でレジにいる。そこに俺が客として入店。そこに辰野先輩が強盗に入る。うむ、完璧だ」
「どこがだ。そもそも強盗なんて」
「来ないとも言えなくない?それに面白そうだし、いいじゃんそれでやろっ」
「むむっ、まあ、先輩が良いなら」
ダメだこの人、可愛すぎて反論する気にならん。
「ウィン」
「い、いらっしゃいませ」
「すいませーん、この肉まんをお肉抜きで一つお願いします」
「お客様、申し訳ありませんが、そのようなご要望にはお答えできかねます」
「えー。じゃあ、この唐揚げ棒ってやつ、棒いらないんで10円引きとかにしてもらえます?」
「できかねます」
「そのさあ、できかねるってなんだよ。できる、のか、かねるのか」
「できませんですこの野郎」
「てっめえ、お客様は神主様だろうが!」
「主が余計ですよ?お主」
「国語の教師かてめえはよおおおおおおおおおおおおお」
「ウィン」
あ、見てるの飽きて、入ってきた。
「このワルサーP38をください」
「困りますお客様。そのような商品は扱っておりません」
銃のチョイスがしぶい。
「あ、間違えた。手をあげろーさもなくば」
ゆっくりと両手を上げる俺と亮輔。
「バンッ!!!!」
「グボワーあああああああああ」
無抵抗の亮輔が殺された。やべえサイコパスだ。
「こうなります。ふぅー」
「そういうのは脅しで天井とか撃つんじゃ…既に死人が」
「なんじゃこりゃああああああ、紫の血があああああ」
どこの惑星出身だよ。てか、はよ死ね。
「私の要求は一つ。店内のありとあらゆる乾電池が欲しいの。この鞄に詰めれるだけ詰めて」
「わ、わかりました」
そんなものの為に殺されたのか亮輔。不憫なやつ。
「えっと、はい、これで詰め終わりました」
「よしよし…って、なんなのこれ。全然少ないじゃない!どういうことよ!」
「ここコンビニなので、乾電池の在庫なんてありませんよ」
「もう血も出てねえのに痛えええええ!」
地獄だな。
「嘘よ。ここはコンビナートなはず」
「いいえ、コンビニです。というかコンビナートにも乾電池はないかと」
コンビナートを何と勘違いしてるんだこの犯人は。
「ええい!ままよ!もう、乾電池はいいわ!あんまんをあんこ抜きで一つ頂戴な」
「申し訳ありません、お客様、そのようなご要望にはお答えできかねます」
「なんでよ!あんこ抜きなさいよ!私あんこ嫌いなのよ!だから、抜いてよ」
「できかねます」
「あれ?痛みが引いてきた…。うおおおおおお、今度は傷口から植物がああああああ」
何を撃ち込まれたんだお前。
おっと、少し目を離した間に律儀にもジョジョ立ちしてるよ、この先輩。
カンカンカンカンカン
「お」
「あ」
「あらら、電車来ちゃったね」
踏切の警告音がコント終了の合図になる。
空はもう真っ赤だった。そうか、そんなに時間経っていたのか。
「これからがいいところだったのにな〜。まあ、こればっかりは仕方ないか〜。じゃあ、また遊んでね、明石くんと亮輔くん」
ひらひりと手を振って別車両へ行く辰野先輩。
「なあ、明石」
「ん?どした」
「俺、バイトできるかな」
「お前にゃ一生できねえわ」
最後まで読んで頂けましたでしょうか?
有難うございました。
次回も30分間のしょうもない暇つぶしを今後もお届けします。
みなさんが学生時代にしたオリジナリティ溢れる遊びやゲームを感想に載せてもらえると嬉しいです。
教えていただいた内容は、この作品内の「彼ら、彼女ら」にやらせてみたいなと思います。
どんなくだならいことでも大丈夫です。
お教え頂けると幸いです。