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6/6

時計塔の戦い

6話です

翌朝、晴れて11人のパーティとなった彼女達はホテルの一室で息を潜めながら朝食を取っていた。


「ほら、朝ごはん出来たわよー?」

「出来たよ〜!」


今日の食事当番はミカとユキでスープを温めた簡易的な物を手短に作っていた。

今の季節はまだ肌寒い為、朝はスープ系が定番だ。


「ほら、メアいい加減起きなさいな」

「うぅ〜…ミカぁ…」

「もう…エリー、貴女昨日しっかりメアの事寝かしたわよね?」


眠そうに目を擦るメアを抱きささえながら横で行儀よくベッドに腰掛けているカルエラをジト目で睨むと、カルエラは余裕の笑みで否定した。


「はぁ…相変わらず本心が読めない人ね…。ほら、メアの事は私が見てるから始めちゃって?」

「うん分かったよ、ありがとうミカちゃん」


ノノは昨日説明した作戦に加えて、具体的な今日の作戦を説明し始める。


「今日の私達の目的はこの中央都市の真ん中にある時計台の占拠です。中には敵がいるかも知れませんが、今後の試合展開の為にも今取っておきたいと思ってます」

「敵も私達みたいに手を組んでる可能性ってやっぱりあるかな」

「恐らくと言うか、八割くらい組んでると思います。最初、集合場所にいた人数が全部だと思ってたんだけど、どうやら違うみたいで」


「え、それってどういうこと?他にも参加してる人達が居るってこと?」

「ええ、貴女達のチームは同じ所からの出発だったかも知れないですけど、私達のチームはまた別の場所に集められていたんです」


そう言ったのはカルエラで全員は思い詰めた表情を浮かべる。


「故に当初200人程度だと思っていた試験人数は最早何処まで多いのか分からないんですよ」

「あ、あれは?デバイスに撃破された位置が書いてたよね?」

「あれはあくまで撃破されたチームの位置が簡潔に書かれてるだけで、人数やその他の情報は乗ってなかったんです…」

「そっか…」


皆が口を止める中ノノは確信を持って話し続ける。


「でも、だからこそ今の段階であの巨大な時計塔を占拠できれば大きな利点になるんですよ!」

「それは…そうだけど」

「そこで、これから3つのチームに分かれて、それぞれ違うルートで時計塔に向かいます。」


「そこで、一つ。出来れば遂行して欲しいのがありまして…」


ノノは一度言葉を溜めると力強く言い放つ。


「出来るだけ敵の目に付くように行動してください!」






そう言って作戦が開始されてから早数時間。

メンバーは「ミカ、メア、リリィ、ユキ」「マヤ、ミルク、ルエ」「ノノ、カルエラ、セーラ、ルル」と言うご茶混ぜなグループ分けを行っていた。


「何でこんなにごちゃ混ぜにしたのかな」


メアが素朴な疑問を呟くとリリィが答える。


「仲良くなる為とか?」

「それならもうわたし達仲良いじゃん!」

「ちょあっ、いきなり抱きつくなっ!」


「相変わらず恐ろしいコミュ力ね…」

「でも、メアさんの気持ちも少し分かるかも。なんでわざわざ?」

「多分だけど、裏切れない為じゃない?後は信頼度を上げるため?」

「裏切るって…まぁ無くは無いのかな…?」


ミカは気持ちのいい笑顔を向けて否定した。


「まぁ、あたしとしちゃ皆が裏切るなんて微塵も考えてないけどね?」

「どうして?私達言ってもまだ出会ってから浅いよ?」

「うーん、何でって聞かれると難しいけど…。何となく分かるのよね、この人は信じて大丈夫!とか信じちゃダメ!とかさ」

「勘みたいなもの?」

「そうかも。それに、ユキ達も裏切る様な人じゃないって信じてるから」

「もう…ミカちゃんって良く人たらしって言われるでしょ」


ユキは驚いた後、若干頬を染めながらミカに指摘する。


「え?どうして?」

「あーずるいなぁ〜、そうやって無意識に女の子を落としていくんだ〜」

「無意識って何よ!それに女の子落としてどうするのよ!」


ミカも照れながら言い返すが、ユキはくすくすと笑い返す。


「ミカって昔から男の子にはモテないけど女の子にすっごいモテるよねー」

「そうなのか?良かったな!ミカ!」

「良かないわよ!と言うか本当に仲良くなるの早いわね!?メアが増えたみたいじゃないのよ…」

「あはは、ミカちゃん頑張って〜♪」


ミカは照れながら横で笑うユキの身体を引き寄せて、自身の高身長を活かして右手でユキの顎をクイッと持ち上げる。


「あ、あのね…ユキまで見放したら流石にしんどいわ…」

「え、あ…ひゃい…?」


ユキは急に目の前に迫ったミカの顔にヤカンのように赤面させる。


「ほら…、そろそろ行くわよ?時計塔まで急がないと」

「「はーい」」


ユキを解放して歩き出すミカの後をついて行くメアとリリィ。

そして、その後を歩くユキは顔を逸らしながら未だ高鳴る自分の胸を抑えていた。


(び、びっくりしたぁ………!反則よ…ミカちゃんに迫られたら誰だってドキドキしちゃうじゃない…)


急にドキドキさせられた事に対してユキは可愛らしい怒りを覚えるのだった。







「……見つかった。」

「見たいだな。殺気がうじゃうじゃ居るじゃねぇか」


マヤ、ミルク、ルエチームは時計塔へと向かう道が敵陣地のど真ん中だったらしく、相当な人数に狙われていた。


「どうする?ここでぶっ倒すか?」

「そうしたい所だが、数の利的にも圧倒的に不利だ。……おい敵の正確な位置分かるか?」

「……誰に聞いてるか分かってるの?そんなの朝飯前」

「じゃあ、右を頼むわ。私が左をやる。」


現在狙ってきている狙撃手は二名でその他はこちらの出方を伺っているようだ。


「合図を出したら同時に撃つぞ。ミルクは私らが当てた直後に煙幕を炊いてくれ」

「おっけー、任せろ!」

「……りょうっかい」


「よし…今だ!!」


弾かれたように振り返って、目標に照準を合わせたルエとマヤは相手が撃つまえに弾を発射、射止めてしまう。


「オラァ!!」


ミルクが力強く投げた煙幕弾が三人後方で炸裂し、辺り一体を煙で覆いつくす。


「走れ!」


マヤの合図で時計塔に向かって一直線に走り始めた三人をスナイパーを殺られたチームの残党が血眼になって追いかけてくる。


『何なのあの子たち!?スナイパー二人だから接近戦で行くわよ!!』


敵チームの号令が響き渡り、マヤ達の背後から大量の弾幕が襲いかかる。


「このまま指示された場所まで走りきるぞ!!」





「マヤちゃんのチームだけちょっと遅れてるけど…」

「もしかしたら上手く釣れたのかもしれないから、皆すぐに動ける様にしておいてね」

「りょーかーい」


ノノが待ち合わせ場所に指定したのは時計塔の周りに広がる大きな広場の縁に建ってるカフェだ。

読み通り、時計塔には既に他チームが占拠していて、そっちからもノノ達は警戒されていた。

全てはノノの想定通りに作戦が回っていた。


「凄いね…。本当にあの子が言った通りになっちゃってる」


ユキが驚いた様な、呆れた様な声で呟いた。


「言ったでしょ?ノノは頭の回転が凄いんだって!」

「頭の回転で説明できるのかな…これ」


メアが相変わらずリリィにくっつきながらユキに胸を張る。


「じゃあ、皆!手筈通りに行くわよ!!」


ミカの号令で出発の準備をした一同はカフェの奥に作られていた『地下への通路』を開いてメアとリリィを残して中に入ってしまう。

この地下通路自体表立った情報は無く、この地理についてあらゆる面から勉強していたカルエラが知っていたのだ。


「お姉ちゃん…頑張ってね?」

「大丈夫よ!ルルは心配しないで?」

「うぅ…心配だけど…待ってるからね」

「うん!!」


「あんたも…大丈夫だと思うけどヘマしない様にね?」

「分かってるよー、それにやる事も簡単だし!」

「もし何かあったら自分の身を最優先にね?」

「大丈夫だよ〜、ノノは心配性だなぁ」

「それだけ大事なのよ。ほら、あたしの勘も大丈夫だって言ってるから大丈夫よ」

「ミカが言うなら大丈夫だね!じゃ、行ってくるよ!エリーも行ってきます!」


ノノやミカの後ろから少し心配そうな顔を覗かせているカルエラにメアは元気な笑顔を見せるとリリィを連れてカフェを出ていった。



メアとリリィは敵から身を隠せる位置で息を潜めて機を窺う。


「マヤ達が出てきたら飛び出すんだよな?」

「うん、そうだよ。……で、投げ捨てたらわたし達は違う方向に逃げる。弾丸貰わない様にね?」

「わたしを誰だと思ってるの?それに、わたしまだメアに負けたとは思ってないからな!」

「うん!じゃあこの試験が終わったら再戦だね!」

「あはは、メアってばそれってフラグって言うんだぞ?」

「リリィが言わしたんじゃんか!もー、取り敢えず集中しよ?もう来ると思うから」

「ふふっ、メアとは良いコンビになれそうな気がする」

「それは同感♪」


メアとリリィは本当に綺麗に波長が合った様で昨日敵対していたとは思えないくらい仲良くなっていた。

メアは良くも悪くも人を選ぶので、寧ろ変な言いがかりを付けられる事も少なくないのだ。


二人が息を潜めていると予定ルートからマヤ達が全速力で駆け出してきた。


「行くよ!!」


マヤ達は広場に出た瞬間左右に散らばって後方チームの視界から消える。

そして、その代わりにメア達が中央に躍り出て降り注ぐ弾丸を一手に引き受ける。

メアは特に激しく注意を引いていたので塔からの攻撃も相まって恐ろしい量の弾丸が襲いかかっていた。


「め、メア!?」

「大丈夫大丈夫♪よゆーだよ!」


リリィもリリィでメアに近い位置で近場にあった樽の底を盾にして防いでいるのだが、メアの回避能力は人のそれをゆうに越えていた。

まるで、弾丸がメアを避けていくように感じられた。


「あいつ…何であの量を避けれてんだ…?」

「メアは目がいいから…。あのくらい余裕」

「目がいいからとか関係あるのかよ…」


逃げ隠れたマヤはメアの行動を見て驚きを隠せないでいる。




『な、なんで当たらないの!?と言うか追ってた奴じゃないし』

『さっきまでの奴はどこ!?』


後方チームが広場に差し掛かった瞬間、メアとリリィは足元にユキがより遠くまで広がるように改良した煙幕弾を投げつけた。


ボフンと音を立てて恐ろしい量の煙幕をばらまくと辺り一帯を灰色の煙幕で覆い尽くしてしまう。


『くそっ!またこれかよ!』

『撃つなよ?味方に当たったら元も子もないからな!』


(リリィ、手筈通り行くよ?)

(おっけー、任せてよね)


メアとリリィは背中合わせで拳銃を構えると、煙が立ちこめる中、敵に当たらないように発砲した。

メアはマヤ達を追ってきた敵を、リリィは塔に居る敵に向かってそれぞれ撃たれた弾丸は敵が撃たれた事を認識出来る位置に着弾した。


煙の中成功する確率は低かったのだが、互いに背中を合わせて方角を見失わなかったのと、二人の射撃センスが幸をなして、敵の足元と塔の窓枠付近に当たり、敵は攻撃された事を認識する事ができた。


「撤退するよ!」


ここまで来たらもう二人の役目は終わったも同然だ。

二人は元いた他のチームメイトが待つ店へと足音を殺して走り、煙が無くなる前に難なく退散する。



『ぶったおせえええ!!』

『おおおおおお!』


物騒な掛け声と共に、広場の敵と塔の敵は開戦した。

お互いがいきなり攻撃されたと思っているためなりふり構わず撃ち合いを繰り広げる両チームにメア達はハラハラしながらその様子を見守っていた。


「まさか、本当にここまで激戦化するものなのね…」

「元々こんな軍の試験に来る人なんて血の気が多い人ばっかりだから、ちょっと刺激したら直ぐに頭に血が登っちゃうんじゃないかなって思っただけだよ」

「それが上手くいくなんて、よもや預言者の様だな」


セーラがノノを預言者と表現するとノノは笑って否定する。


「私なんてただ状況を纏めて想像してるだけだからそんな大層な物じゃないよ、たまたま上手く行ってるだけだから」



「それより、ここからはどうするんだ?」

「後は2チームの敵数が少なくなってきた所でルエちゃん達に狙撃して欲しいんだけど、大丈夫?」

「それくらい…余裕」

「まぁ後始末くらいなら大丈夫だ」


「じゃあ、私も手伝わせて貰おうかしら」


カルエラも狙撃銃を手に取って立ち上がる。


「もうエリーには負けないから」

「ふふっ、流石にもう私も狙撃はあまりしてないから負けても仕方ないかもしれませんね。でも、まだまだ行けますよ?」

「ん?プリンセスは狙撃手じゃないのか?」


マヤの疑問にルエが答える。


「…エリーは元々どんな銃器でも扱える程射撃が上手。昔は私も狙撃で勝てなかったから」

「お前が負けるって相当だろ…」


ルエの言葉に思わず後ずさるマヤ。

身体能力はメアやミカに劣りはすれど射撃センスだけは他の追随を許さない程に突出していたカルエラ。故にその場の状況に応じて兵種を変える事が出来る、ある意味超人の域なのだ。


「じゃあ合図を出したら掃射、お願いね?三人とも」


頷きあった三人は階段を登っていき、屋上から様子を観察し始めた。



三人が登っていくのを見ていたミカは呆れたように呟いた。


「三人とも観測者要らずの狙撃兵とは恐ろしい限りね…」

「カルエラさんがどうかは分からないけど、うちのマヤちゃんも殺気で位置が大体分かる見たいだしね」

「もうチートもいい所よね」

「あはは…だね」


呆れて笑っているミカに頷くユキ、二人は別段心配もせずに事の成り行きを見守るのだった。






「最早、死屍累々ね」

「流石に死体は無いけどね…」

「やった〜♪完全しょーりー!」

「ふふっ、ありがとねメアちゃん」

「お安い御用だよー!」

「それにしても、エリーに一人分勝てなかった…」

「運良く射線上に敵が重なってただけですよ」

「あんたら…実戦で射的ゲームするなよ…」

「そういうマヤはどうだったんだ?」

「うっ…うるさい!別に数えて無いから」

「…大丈夫大丈夫、私達の中じゃマヤが一番のスナイパーだから」

「変に慰めるなよセーラ!」


作戦が上手く行ったので、各々心を踊らせながら脱落した敵を回収ヘリに連れていかれた後の時計塔に立ち入った。

時計塔の中は埃が立ち込めており、汚れが目立つが堅牢な作り故に綻びは無さそうだ。

中に敵が残ってないか警戒しつつ至る所の部屋を探索して時計塔内部の情報を集め回った。


「この時計塔、入口は地上と地下の二つあるみたいね」

「地下自体何に使われたのか分からんが、この一体に広がってるからさっき居た所にも行けるみたいだな」

「とりあえず内部は把握出来たけどこれからどうするんだー?」

「そうだね、ひとまずこれからは塔の内部で籠城する隊と遊撃隊に分かれて私達の存在を周りに認識させるつもりだよ」

「全員で立て籠ったらだめなの?」

「それだと生き残れはするだろうけどポイント稼げなくないか?」

「一位になれないのはこまる!」

「リリィはやっぱり遊撃隊…やる?」

「別にどっちでもいいけど、暴れ足りないのは確かかも。ルルはいや?」

「んーん、私はお姉ちゃんと一緒ならどっちでもいいよ」

「ん、そっか」

「身体能力で考えるとやっぱ遊撃隊の方が必要だけど、だからと言ってこっちを疎かにするのはなぁ」

「あたしは残るわ、色々弄れそうな物あったから小物作りたいし」

「じゃあ私も残ろうかな」

「…狙撃手は塔の方が良さそう」

「そうなると遊撃隊はリリルル姉妹だけ…ミルクとセーラ行ってきてくれるか?」

「いいよ、任された」「おう!」

「んー、四人かー…人数的にもあれだしメアちゃんも行ってきてくれる?」

「いいよ〜!」

「じゃあ今日はとりあえず見張りを交代でしながら各々体休めようか」

「今日は極力声は抑えろよー、特に常時ハイテンションガールの二人はな」

「「!?」」

「はーい、言いたいことは分かるけど騒がないようにね」

「お姉ちゃんも抑えて抑えて」


ミカとルルがそれぞれメアとリリィの口を手で塞いで抗議しようとしていたのを抑え込む。

一行は特に揉め事も無くすんなりグループ分けをして休みを取り始める。

通常なら個人個人で反発が起こってもおかしくないのだが、メア達はどういう事か全員がそれなりに仲が良いと言う奇跡に近い状態にあった。





夜も更けたその日、メアは一緒に見張りをするメンバーとは離れて、時計台の最上階にある小さなバルコニーで風に当たっていた。


「ふぅ…、気持ちい」


冷たい夜風で身体の熱を冷ましながら深く深呼吸をする。

メアは誰にも見えないように首にかけていたペンダントを服の中から取り出した。

綺麗な翡翠色の宝石があしらわれたペンダントを見つめるメアの表情は穏やかさすら感じられる。


「もう大丈夫だからね?お母さん」


メアのつぶやきは誰にも聞かれることなく虚空へと消えていった。





「あれ?メアは?」

「そう言えばまだ来てないねー、どうしたのかな」


深夜の見張りの為に交代してきたリリィとユキ、セーラの3人は時間になっても姿を見せないメアを心配していた。


「まさか迷うわけ無いし、本当にどうしたんだ?」

「私、探してくるよ。二人はここで待ってて?」

「そう?分かったー」

「よろしく、ユキ」

「うん!任せてー」


ユキはまず最初にミカ達の寝室へと向かう。


「ねぇ、ミカちゃん。いる?」

「んー?……どしたの?」

「メアさん、まだ来てないんだけど大丈夫かなって」

「メアならさっき見張り交代に行ってくるー!って出て行ったきりだけど……。もしかしたら風に当たってるのかも知れないわ。上の階探してみて」

「うん、分かった。ありがとうミカちゃん」



ユキはコツコツと足音が反響する螺旋階段を登っていくと、大時計の仕組みの中を縫うように作られた足場に差し掛かった。


「本当にこんな所に居るのかな…」


気になってセーラにテキストメッセージを送るも返事はダメ。

この時計塔はそこまで複雑な造りでは無いのは来た時の調査で分かっていたので、残す所はやはり屋上付近という事になる。



「ふぅふぅ…はー!やっと着いた!」


結構な高さがあるので登りきるだけでも一苦労だ。少し息を切らせたユキはバルコニーで一人佇んでいるメアの姿を捉えた。


そして、声をかけようとしたユキは思わず言葉を失ってしまった。


メアが涙を流していたから。


ユキは激しく困惑し、どうしたらいいのか分からなくなってしまう。

メアは気丈で明るい、皆の前では笑顔以外見せようとしない人である事は付き合いが浅いユキにも分かっていた。


故にメアの涙にとてつもない衝撃を受けたのだ。

ユキがどうしたらいいのか狼狽えていると、気配を感じたメアが振り返った。


「ゆ、ユキ!?いつからそこに!?」

「ご、ごめん…覗くつもりじゃ無かったんだよ。ただ、見張りの時間になっても来ないから心配だったから」

「あ、ごめん、連絡入れるの忘れてた」

「……大丈夫?」




二人の間にはなんとも言えない空気が漂っていた。

ユキもデリケートな話題だけに切り出して良いのか迷っているようで、メアもそんなユキの気持ちを察していた。


「メアさ……」

「わたし、あんま泣かないんだ」


ユキが口を開きかけたのをメアが言葉を被せて制止させる。


「泣きたく……ないの?」

「うん…、それに泣く訳にはいかないんだ」


ユキは意を決してメアに寄り添った。

会ってからの時間など関係ない。ユキはメア達を本当の仲間だと信じたいという気持ちの現れだった。


「……メアちゃん、私はノノちゃんみたいにはなれないけど、話してみてくれない?」

「ユキ……ふふっ、ありがとう」



メアはユキから視線を外して明かりの無い、静かな夜の街を眺めながらぽつりぽつりと語り始めた。



「わたしの故郷ってね、良く戦争に巻き込まれる場所でさ。小さい頃から何回も建物が焼かれたり、人が攫われたり…。兎に角結構大変な場所だったんだ」

「土地の場所が悪かったり…とか?」

「戦争の度に場所は毎回移転してたんだよね…。まぁ、兎に角よく戦争に巻き込まれてね?」


「エリーと離れ離れになっちゃった時も結構大きな戦争があって、その時に私達の両親が行方不明になっちゃったんだ」


メアはノノ達にすらあまり見せようとしないペンダントをユキに見せる。


「それって…ロケット?」

「うん、お母さんが最後に渡してくれた宝物なんだ」


「それから、わたしはね。色んな人に助けられた。恩返しもしたいから…わたしは泣かないって決めたんだ」

「そうだったんだね…」

「だから、さっきわたしが泣いちゃってたのも内緒にしてくれる?」

「メアさん…」


優しく微笑んだメアの顔からは涙の後は既に消え、いつものように明るい表情が浮かんでいた。


「任せて、メアちゃん」

「ユキ…名前っ」

「!?あっ…わたし…気を許すと『ちゃん』付けで呼んじゃう癖があって…ごめんね?嫌だった?」

「そんな事ないよ!」


メアはユキをぎゅっと抱きしめて嬉しそうに笑ってみせる。


ユキはメアに急に抱きしめられて驚きながらも、何かのピースがハマった音がした気がした。


「メアちゃん、もしかしてメアちゃんの故郷ってあ………むぐっ!?」


言いかけたユキの口をメアは人差し指で抑えて微笑んだ。


「言ったでしょ?『内緒』だって」



「ほら、見張り場所にもどろ!リリィ達待たせちゃってるし!」

「え?あ、う、うん」


困惑しているユキを置いてメアはトントンと軽い足取りで階段を降りていってしまう。

ユキは荒れる思考を落ち着かせようと深呼吸をして外を眺めてみた。


「メアちゃんが夜景を見たくなった気持ちが分かるかも」


優しい夜風が火照ったユキの体を優しく包み込むのだった。


更新ペースは相変わらず遅いですがよろしくお願いいたします

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