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謎の少女

5話です

  王国軍のカトラス支部。

  海が望める立地のいい街の外れに20キロ四方もの広大な土地を有する軍の施設では、今なお行われている試験の様子が無数のモニターで監視、採点されていた。


「あの方はどんな調子だ?」


  アロイス少佐と言う女性の軍人はその監査室のまとめ役の同僚の女性に尋ねる。


「はい?あぁ…えっと、そうですね」


  その女性はアロイスがどの人の事か察すると無言で探しだして画面に映し出した。


「今…そうですね、ピンチかも知れませんね?」

「見たいだな。……ん?この敵対してるチーム最初に質問してきた奴が居た所か」

「このチームは中々頭が回る子が居るのかも知れませんね」

「かもしれんな、例年無数の子供達が試験を受けるがその攻略法に気づける者は少ない。」

「でも、気づけと言われる方が無茶な話かも知れませんよ?」


  同僚は少し怪訝な目で、今までの試験で落ちていった子達へ哀れみを込めた言い方をする。


「そうだろうか…。人数規定はそもそも決めていないし、好きな者ととしか言ってないのだがなぁ。何故か毎年四人組が多発するんだ」


  アロイスは困った様に顔を傾げる。


「恐らく噂にでもなってるんでしょうね。それより、あの方がもし脱落されたら…私達大丈夫でしょうか」

「あぁ、そこら辺は大丈夫だろうな。上もあんな方を軍属にさせるつもりは無いだろうしな。それに、まだ終わった訳じゃないだろう。」

「え…?」


  同僚がモニターを見返すとそこには不思議な光景が広がっていた。


「懐かしいな」


  アロイス少佐はモニター越しに見るメア達を見つめながら呟いた。


「あの子たちを見ていると無性に懐かしさを感じる…。理由は分からんが」

「少佐の昔に似てるとかですか?」

「さて…な。兎に角オレンジのいるチームとあの方のいるチームは注視しといてくれ」

「分かりました」


  少佐がそう言い残すとさっさと退出して行ってしまった。

  残された同僚。いや、エル・アロイスの研修生時代の同期であるララ・ルコアは小声で笑って呟いた。


「そっくりだよエルちゃん。特にあのオレンジの子にね?」


  その言葉は本人はおろか、誰にも伝わること無く虚空へと消えていった。



 ◇



「な、仲間になれですって!?」


  リリィとルルはぺたりと地面に座り込んだまま身を寄せ合わせ、リリィが驚いた声で叫ぶ。


「い、意味がわからない…。あなた達さっきまで殺し合いしてたのよ!?」


  リリィの困惑もごもっともである為、ノノはどう答えたものかと考える。

  そんな中、沈黙を破るかのようにメアが声を上げた。


「別に誰彼構わず誘ってるわけじゃないんだよ?」

「え?」


  不意に声を上げるリリィに近寄ると、メアはぐっと顔を近づけた。


「ふぇ!?」


  急に顔を急接近されたリリィは顔を紅く染めていく。


「連携も凄いし技術も凄い、わたしも何回か死ぬんじゃないかって思ったもん。だからこそ!わたし達と手を組んで優勝を目指そうよ!」

「うぇ…!?は、はい…」


  メアの勢いに気圧されてリリィは頷いてしまう。


「やった〜!ありがとう!」


  メアはよっぽど嬉しいのかリリィの手を握ってブンブンと振り回す。


「もう…お姉ちゃんったら…」


  横で聞いていたルルは呆れたように、しかし顔は少し笑顔で姉を見ている。


「あなたは……いいの?」

「え?」


  ルルは急にルエに声を掛けられてキョトンとした顔でルエを見る。


「……成り行きで決まりそうだけど、あなた達にも拒否権はある。……あなたは大丈夫なの?」


  ルエの全てを見透かした様な話し方にルルは若干戸惑う。


「うん、大丈夫。私はお姉ちゃんに付いていくだけだから」

「……そっか。」


  そう言いながらルエはルルを見つめ続ける。

  その視線に戸惑ったルルは目線を逸らしながら聞いてみた。


「なんでそんなに見つめるの…?」

「あ、ごめん…そんなつもりはなかった。……でも、なんとなくだけど、あなたは私に似てる気がする」

「そう…なの?」

「だから、言いたいことがあったら遠慮なく言って。……仲間になるってそういう事だと思うから」

「…………。」


  ルルは突然の事に言葉を失ってしまう?


「……ありがと。」

「うん♪」


  ルルの小さなお礼にルエも笑顔で返事する。

  彼女達はある意味、メア達に出会ったのは幸運だったのかもしれない。

  しかし、これが今後どう実を結ぶかなんて彼女達に知る由もない。



 ◇



「おーい皆―!」

「マヤちゃん!随分遅かったけど、どこ行ってたの?」


  そんな中。一人だけ集合が遅れていたマヤはフードを被った一人の少女を連れて来ていた。


「マヤちゃん…その子は誰…なの?」


  ノノが近づこうとするのをミカが抑えて、小声で耳打ちした?


「何となく勘だけど、とんでもない人な気がするわ。気をつけてね」

「うん、分かったよミカちゃん」


「あー、つまりだな…。そこの二人の仲間…らしい」


  マヤが自信なさげに説明すると、リリィとルルは弾かれたようにそのフードの少女に駆け寄った。


「エリー!大丈夫?捕まった時酷いことされなかった?」

「ごめんね…私も姉さんも頑張ったんだけど、勝てなかったよ…」

「ルルが謝ること無いじゃない!悪いのは全部あたしだから!」


  少しパニック気味な二人をエリーと呼ばれたフードの少女は、二人同時に抱きしめると優しく囁いた。


「私は大丈夫ですから。心配しないで?それより、あなた達こそ大丈夫?」

「私達は大丈夫だよ、この人たちもいい人だったから」

「それよりエリー!この人達が手を組まないかって…」

「敵同士手を組んで同じ目的を達成するんですのね、何とも楽しそうじゃないですか」


  フードの少女は少し嬉しそうに声を張る。

  三人で色々話している様だったが、メアが好奇心を抑えきれずにフードの少女に尋ねてみた。


「なんでフードを被ってるの?」


「え!?そ、それは…」


  フードの少女では無く、リリィが狼狽えるのをフードの少女は軽く制して言葉を繋いだ。


「大丈夫です、リリィ。この人達は信頼できる人だから」


  その言葉に?マークを浮かべる一同だが、その次の瞬間、それは驚きよりも感動に変わる。

 

  フードを取った少女は絹のように白い髪の毛に宝石の様に紅く、煌めく瞳。さらさらで今にも傷ついてしまいそうな肌。ここまで完成された美しい白銀の女性は二人と居ない。


「お、王女様?」


  セーラが呟いた言葉は正しく、王女は言葉を改めると軽くお辞儀をした。


「私はエルディア王国第四王女、カルエラと申します。以後お見知り置きを」


  ニコリと笑ってみせる王女はそれこそ、滅多に会えるものでもない存在なのでこの場の誰よりも煌びやかに輝いていた。



「エリー………なの?」

「メアさん…?」


  ユキがカルエラを見て言葉を無くしているメアを心配そうに見つめていた。


「はい!お久しぶりですね、四人とも」


「エリー!!!」


  メアが一番最初に王女に近寄って、飛びかかるように抱きついた。


「もう会えないかと思ってた…。嬉しい…嬉しいよ…!」

「私も嬉しいわメア。もっと早く会いに行ければ良かったのですけどね」


  王女も愛おしそうにメアを抱きしめる。


「もう一体どうしたのよ!こんな所に居るなんて」

「ほ、本当にエリーちゃんなの?」

「…さ、流石に驚いた」


「ミーちゃんもノノもルーちゃんも皆変わりない様ね。また会えて本当に嬉しいわ!」


「あの、感動の再開の所悪いんだが…、私達にも説明してくれないか?」


  マヤが申し訳無さそうに説明を求める。


「あ、ごめんね!えっと……」

「私から説明するわ、ノノ」

「そ、そう?」


  カルエラは一歩前に出ると優雅にお辞儀をして聞き取りやすい声で話し始めた。


「私、カルエラはメア達と幼馴染みなのです」

「え!?王女様と幼馴染みなんですか!?」

「はい、私は数年前まで母方の故郷で育てられていたんです。その故郷で良く一緒に過ごしていたのがここにいる四人なのですよ」


「はー、すごい偶然もあるもんだな」

「でもなんで王女様がこんな軍事試験受けてるんだ?」

「ちょ、ちょっとミルクちゃん敬語使わないとっ!」

「ふふふっ、大丈夫ですよ。皆さん砕けて下さっても。私が今回参加したのは……私が勝ち上がる為ですかね?」

「何を勝ち上がるんだ?」

「それはもう…女王戦です」


  笑顔で答えるプリンセス・カルエラはいつもの様に笑ってみせる。


「とりあえずどこか身を隠さない?こんな所で大人数で居たら見つかっちゃいそうじゃない」

「ミカちゃんの言う通りね、とりあえず近場のホテルにでも入りましょうか」


  ◇


 周囲を警戒しながら目的地を目指している間、メアは久しぶりにエリーに会えた喜びから腕に抱きついて、猫のように頬を擦り付けて甘えていた。


「メア、この数年間変わりなかった?」

「うん!ノノもミカもルエも居たから平気だったよ?でも、えエリーが居ないのはやっぱ少し寂しかった…かな」

「ごめんね……もっと早く会いたかったんだけど」

「ううん、難しいのも理解してるからエリーの迷惑になりたくない。だから我慢出来るよ?」

「もう、もっと甘えてくれて良いのにな〜」


  エリーはプリンセスの時の様な綺麗な口調では無く、家族と話す様な柔らかい言葉遣いでメア達に接する。


「ほんとでも王女様がこんな軍事試験に出る事なんて良く許して貰えたわね」

「今エルディア王国は時期女王が誰になるかで持ち切りなのは知ってるでしょ?」

「え、まぁ…聞いただけだけど」

「女王は選抜制、だから私含めた六人の中で一番の功績を残さないといけないの。だから私は誰も目を向けてなかった軍事方面に干渉することを決めたんですよ」

「でも、それって結構危険じゃないの?下手したら殺されちゃう可能性だって高い訳なんだし」

「王女の頭数は少なくなった方が他は有利でしょ?」

「え、まさかっ」

「お爺様や女王陛下はいい顔をしなかったけど他の王女達がこぞって推薦してくれたの。そういう訳ですんなり来れたんです」

「それにしても護衛もなしでなんて…」

「あら、護衛ならちゃんと居ますよ?」

「え?」


  前を歩いていたリリィとルルが振り返ってミカに指摘した。


「私達姉妹がプリンセス・エリーの護衛なのよ!」「…なんです」


「えぇ……」

「何よ、その何とも言えないって顔は!」

「いや、うん。何でもないよ?うん」

「何か文句でもあるの!?」


  ミカにキャイキャイと突っかかるリリィを後目にノノ達はルルと会話を続ける。


「じゃあ、二人はずっとエリーの護衛をしてるの?」

「最初は違ったよ?私も姉さんも元々家なき子だったから」

「そうなの!?」

「うん、でも私達両親が死ぬまでに色々教えて貰ってたから傭兵として国に雇われてたんだ」

「そしてその後は虐めを受けて居た二人を見つけた私が付き人に指名したんです」

「なるほどー。兎に角二人ともエリーの仲間なら信頼出来るよね!」

「ふふっ、そうだねメアちゃん」


  先程まで戦っていたとは思えないくらい打ち解けた一行は今後どのような戦況を繰り広げていくのだろうか。



 ◇



「結局なし崩し的に一緒に居るが、プリンセスもそこの双子も仲間になるって事でいいんだな?」


  ホテルに着いて少し大きめな部屋に入った一行は今後の作戦を決めるために固まって話し合っていた。


「私は大丈夫ですわ?それに、そもそも最初からそのつもりでしたから」

「あぁ…、それでわざと私への狙撃を外して姿を晒した訳か」

「捕まえに来てもらった方が楽に接触出来ますからね」

「私が撃つことは考えなかったのかよ」

「そこの所はむしろ貴方が撃つことは無いと確信してましたので」

「…どういう事だ?」

「もし殺すのが目的なら、私が外した段階で反撃してきたでしょう?でも貴方はしてこなかった。故に何か理由があって撃たないか、そもそも殺すつもりがないの二択に絞っていたからです」

「……凄い!マヤちゃんの行動がこんなにすんなり読まれてるなんて!マヤちゃん優しいけど単純だからよく行動読まれるけど、ここまで正確なのは初めてだよ!」

「なんでユキが驚いてんだ!それに、流れで私貶すのやめてくれないか!?」

「えー?そんな貶したつもりは無いよ!」


  ユキ達もメア達と触れ合う事によって大分肩の力が抜けてきた様で、当初からは考えられないくらいお互いのことを信頼しきっていた。

  それもこれも、メア達の独特な雰囲気に侵された結果なのだろう。


「それで、今後の目標だけど。とりあえずこの今居る中央都市の真ん中にある大きな時計塔を占拠しようと思うの」

「時計塔?確かにそこを取れれば相手チームに強く出られるだろうが…。寧ろ囲まれた場合どうするんだ?」

「この中央都市の地下には広大な地下空間が存在するんです。なので最悪そこを通って逃げる手もあります。それに、時計塔占拠はあくまでも布石にすぎません」

「と言うと?」


 ……………………

 ……………

 ……



「マジか…それ、本当に上手くいくのか?」


  ノノの作戦に一同は驚きを隠せずにいる。

  しかし、メア達とエリーは驚いた素振りも見せずに頷いている。


「今はまだ敵が多いからこの作戦はクライマックスまで温存しておこうと思います。なので終盤戦まで何とかして堅実に生き残りましょう!!」


「「「「おーー!!」」」」



 ◇



  簡易的な食事を取ったあと、見張りの順番を決めて、各々適当な部屋に入って休息を取り始める。

  カルエラも部屋に入ってドアを閉めると、ふぅっと肩の力を抜いて、少し埃っぽいベッドに倒れ込んだ。


「ふぅ……。疲れたわ…、だけどあの子たちに会えて本当に良かった…」


  カルエラは目をつぶって昔の思い出を思い出す。大好きなメアやミカやノノ、ルエと遊んだ事…、つまらない王族生活から抜け出して過ごした明るく、輝かしい日々…。


「メア……」


  そう呟いた後、コンコンっとドアがノックされた。

「はい?どなたでしょうか」

「エリー、わたし、メアだけど入ってもいい?」

「メア!?うん、いいよ!もちろん」

「ありがと〜」


  ガチャりと開いたドアからひょこっと顔を覗かせたメアはカルエラの顔を見ると笑顔を咲かせる。


「どうしたの?」

「え、えっと…」


  カルエラが尋ねるとメアは少し申し訳なさそうに上目でカルエラの表情を伺った。


「久しぶりに一緒に寝たくて…迷惑だった…?」

「メア…!迷惑なんかじゃないわ?寧ろ来てくれてありがとう」

「良かった〜!」


  メアはカルエラの隣に腰を下ろすと、お互いの空いた時間を埋めるかのように色々な話を始めた。

 

「今回エリーが参加したのって本当はどんな理由なの?」

「さっきも言わなかったっけ?軍事施設の査察も兼ねてるって」


  メアに不意にそんな事を聞かれたカルエラは先程他の人にもした説明をもう一度話した。

  しかし、メアは首を横に振ってずいっと顔を近づけて問いただす。


「それ、ブラフなんでしょ?ううん、査察自体は本当だけど、目的は他にあるんでしょ?」


  目を丸くしたカルエラはニコリと笑って、メアの頭を抱き抱えるように抱きしめて、優しく頭を撫でる。


「他の誰にも、ノノにだって悟られなかったのに…、なんでメアにはバレちゃうんだろうね」

「そんなの決まってるじゃん、私が妹だからだよ。ね、お姉ちゃん?」

「ふふっ、そうかもしれないわね」


  メアとカルエラは実の姉妹である。

  現女王の弟の妻として王宮に入っていた彼女達の母親は平民の出だった為、王族入りしてから貴族達に煙たがられ、果てには根も葉もない犯罪者に仕立てあげられ、勝手に死刑まで言い渡されてしまったのだ。

  流石にその愚行を女王は見逃さず、それに関与した者達全員を処罰し、メア達の母親には申し訳ない事をしたと伝え、元いた村へ帰ることを許したのだ。

  カルエラが生まれたばかりと言うのもあって王子は妻や娘と移り住む為に王族の権利を返上し、妻の生まれ育った村へと移った。

  そして、程なくしてカルエラの妹であるメアが生まれ、しばらく平和に家族で助け合って生活していたのだが、数年前に両親は内戦で行方不明に、それを待っていたかのようにカルエラを時期女王候補として貴族たちが担ぎあげ出したのだ。

  女王はその事に酷く悲しんだのだが、カルエラの希望もあって妹のメアは世の中に出さない事を条件に女王候補として名乗りあげたのだ。

  その後はメアは村の幼馴染みであるノノの家に預けられて今日を迎える。

  メアのは現女王を含め、上層の数人しか知らない為貴族達にもその存在は知られていない。


「私の望みはね?またメアと一緒に暮らす事よ」

「お姉ちゃん…!」


  カルエラはメアを慈しむように優しく囁く。


「ここに来ればメアに会えるのは分かってたからね。それに、私達の力は卓上じゃ役に立たないから」

「えへへ〜♪もう離れたくないよ…。ノノ達と一緒に居るのは楽しいけどやっぱりお姉ちゃんとも一緒にいたいもん」

「ふふっ、メア昔より甘えん坊になったんじゃない?」

「も〜いいでしょ?今日くらい。ずっと我慢してたんだもん」

「いいよ、ほら寝ちゃいましょうか。明日も早いですし」

「お姉ちゃんまた話し方戻ってるー」

「あっ、ごめんごめん。やっぱり染み付いちゃってる見たいね」

「わたしは王女様のお姉ちゃんもどっちも好きだけどねー」

「それを言ったらメアだって王女様じゃないのよ」

「わたしは平民のメアだもーん」

「ふふっ何それ」


  くすくすと笑うカルエラにメアは少し申し訳なさそうに尋ねた。


「ねぇお姉ちゃん、ありがとうってずっと言いたかったの」

「え?」

「お母さん達が連れていかれた時にお姉ちゃん、わたしが王族な事隠してくれたでしょ?」

「メア…」

「だからね、ありがとう。でも、ごめんなさい、わたしお姉ちゃんにして貰ってばっかりで何も返せてない」


  メアは数年前に自分を庇ってくれた姉に対して大分思う所があった様で、目に大粒の涙を浮かべていた。


「もうっ…そんなの良いのよ?」

「お姉ちゃん?」


  カルエラは微笑みながらメアの瞳の涙を拭ってやる。


「私はお姉ちゃんなんだもん。妹を守るのは当然よ?それに、メアはたった一人の家族なんだから…。私は元気なメアと一緒に居られることが一番嬉しいんだから」

「お姉ちゃん…もう離さないからね」

「うん、私も二度と離さいないわ」


  二人はお互いの存在を話さないようにギュッと手を握って一緒に眠りに落ちるのだった。



 ◇



  メア以外の三人は同じ部屋でくつろいでいた。


「メアちゃん、本当に嬉しそうだったね。」

「やっぱりあの子にとってエリーって大切な存在だものね」

「……でもまさかエリーと会えるなんて思ってもみなかった」

「それは本当にそうだよね。でもメアちゃん、普段はすっごく元気に振舞ってるけど、やっぱり心のどこかじゃ寂しかったのかな」

「それはそうかもしれないけど、あの子が見せてない限りは大丈夫でしょ」

「…ミカ?」

「あの子が本当にしんどい時は私達が気づけるでしょ?その時にあの子を支えてあげるのが私達の役目なんだと思うわ」

「……私、仲間思いで誰よりも優しいミカちゃんのそういう所好きだよ?」

「ちょっ、何よいきなり!?」

「ミカちゃんってばちょっとぶっきらぼうだからなぁ。本当はこんなに優しいのに」

「…ツンデレだから仕方ない」

「誰がツンデレですって!?」

「…ほらそうやって嬉しさを隠しきれてない所とか」

「ひぅっ!?」


  ミカは赤くなった顔を腕で隠しながらベッドへと倒れ込んだ。


「ほらほら、恥ずかしがらないで?」

「う〜〜」

 

  ミカは枕を抱えながらベッドの上に座り直すと、ノノもベッドの上に上がってミカの右腕に抱き着いた。


「ほら、今日は寝ちゃお?見張りの時間は朝4時だからね」

「そうね、あー疲れた」

「毎日目まぐるしい…。」

「でも、楽しいわね」

「そうだね、楽しいね!」


 三人はミカを真ん中に横になって疲れた身体を癒すのだった。



 ◇



「え?じゃああの電波ジャックはルルちゃんがやってたの?」


  見張り組のユキ、セーラ、リリィにルルはホールで固まって一つのランプを囲んで座って居た。


「はい、わたし、手先器用な方なのでメカニック系は好きなんですよー」


  ルルは空色の髪の毛をユラユラと揺らしながらホワホワとした喋り方で受け答える。

  護衛対象のカルエラがあの調子なので、この双子姉妹も大分心を許し始めた様だ。


  リリィは安心したのかうつらうつらとフラフラしていて、見かねたルルが自分の膝の上にリリィの頭を乗せさせる。

  すると、リリィからはすぅすぅと短い寝息が聞こえて来た。


「メカニック系が得意なんだね!じゃあ私とも気が合いそっ」

「ユキさんも得意なんですか?」

「私は銃器に関してだけだけどね?あと、ミカちゃんも強いよ」

「そうなんですねー、お手伝い出来そうなところがあって良かったです」


「姉に比べてルルはかなりしっかりしてるんだな」


  セーラがふと呟くとルルはリリィの頭を撫でながら静かに否定した。


「わたしなんかよりお姉ちゃんの方が優秀ですよ?それに、わたしはお姉ちゃんの影に隠れてるだけですから…」

「そうなの?」

「お姉ちゃんはいつも元気で、わたしを引っ張ってくれるんです。うちは両親が早くに死んじゃったので私とお姉ちゃんはずっと二人っきりで生きてきたんです。多分、私一人じゃ無理だったと思います。だから、私はお姉ちゃんと片時も離れたくないんです」


  そんなルルの言葉を聞いたユキとセーラは目頭を拭っていた。


「ねぇセーラちゃん、姉妹愛っていいよね」

「だな」


「ちょ、ちょっとお二人共どうしたんですかー!?」


  彼女達の試験日はそうやってまた一日過ぎ去っていくのだった。




 ◇




「どう?私達の順位は」


  同じ試験会場のとある街の外れ、現在最大の規模を誇るチームの中枢。


 クリスチアーノ陣営の人数はおよそ20人程。

 人数規定の無いルールを盾に敵を倒しては身内に引き込む行為を続けている。

 それだけでは点数は稼げないので、自分達に有益な能力が無い人は即刻切り捨てると言う、ある意味メア達の真逆の勧誘を行っている。


「ね、ねぇ…キルカちゃん…?私達こんな戦いで良いのかな?」

「何を弱気になってるのよカルラ。大丈夫だって、何も心配要らないわ?それに貴女は私が絶対守ってみせるから」


  キルカと呼ばれた少女はおどおどしいカルラの手を握って他のメンバーに指令を出す。


「片っ端から攻め落とすわよ!私達が勝つために!!」


「「「「おーーーーー!!!」」」」


  このチームとメア達が出会うのもそう時間はかからないかも知れない。




だんだん百合を書くのが楽しくなってきました笑

一線は超えずに暴走させていきたいものです

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