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双子

4話です

 突然の奇襲を受けた八人は更に攻撃を受け続け、合流することを許さない敵の掌で踊らされてしまっている。

 バラバラに散らばったこの状態は集団戦に置いて最悪と言っても過言ではない。加えては敵の姿が分からないことだ。ひたすら死角からの攻撃が続くため人数はおろか、姿を発見することも叶っていない。

 八人は「ミカ、ユキ」「セーラ、ミルク、マヤ」「ノノ、ルエ」にそれぞれ分断され、メアだけが単独での行動を余儀なくされている。

 そんな他の七人とはぐれてしまったメアは息を大きく切らしながら、少し不安に駆られながらも建物の中に身を潜め、チームメイトとグループ通話で繋がっているデバイスを起動させる。


『とりあえず、怪我した人は居ない?』

『ミカとユキは無事だよ』

『セーラ、ミルク、マヤも問題ない』


 安否を案じる唯一の回復要員であるノノの声と他の七人の無事の報告がデバイスから聞こえてくる。


『って、メアちゃんだけ一人で行動してるの!?』

「だ、大丈夫…。怪我はしてないよ」


 メアは出来るだけ声を潜めながら無事だけを報告する。


『メアちゃん………。』


 メアの異変に感じたのかノノの声は少し不安の色が交じる。


『それより、これからどうするんだ?とにかく一度集まった方がいいと思うのだが』


 セーラの提案にノノも頷き、逃げる間にまとめた考えを手短に伝える。


『確証は無いんだけど敵の狙いは私達の分断にあると思うの。ただ…』

『ただ?』

『敵からの攻撃が逃げる時もやたら的確だったから……もしかしたら私達と同じようにチームを組んでる可能性もあるから皆警戒だけは怠らないでね!じゃあ皆、町外れの塔で落ち合おうね』


 若干焦った声のノノはそう告げると電話を切ってしまった。八人の中で唯一、一人逸れたメアは正直どう行動するか悩んでいた。

 普段から作戦などはノノが纏めて立てていたので自分一人で行動することが極めて少なかった。その経験不足がメアに棘を突き立ててくる。


(とりあえず、場所を確認しないと…)


 そう思い立ったメアは隠れていた建物の三階に上がり、デバイスの大まかな地図と照らし合わせながら目的地を探す。

 その時だった。


「な、何!?」


 メアはゾワっとした寒気を全身に感じて、本能に任せて倒れる様に体を仰け反らせた。その瞬間に仰け反った体の上をスレスレで数十発のペイント弾が通過して行ったのだ。


「ぅわっ!」


 驚きで声が喉につっかえたメアは呻き声に似た声を上げる。そして、新体操の様に手を地面についたメアはそのまま綺麗なバク転を決め、体勢を整える。


「あ、危なかったぁ……ノノ位胸が大きかったら当たってたかも…」


 メアは自身の胸を見つめながら深呼吸をして、驚きで跳ねる心臓をを落ち着かせる。

 メアが先程の通話で口数が少なかった事には理由があった。何故かメアだけ集中的に攻撃を受け続けていたのだ。


「なんでっ…バレたの…」


 メアは頭の中を埋めつくしていく疑問で真っ白になる。

 M4を握る手からは手汗が滲み出て、メアの緊張の具合が見て取れる。音を立てないように部屋を移動したメアは非常階段から外に出ようと扉に手をかけた、その時だった。


「なかなかしぶとい娘だね〜、お姉ちゃん?」

「うん。でも、上手いこと一人だけ分断できたから上出来だわ。だけど、エリーの銃弾を躱された時にセンサーも壊れちゃったみたいだしこれ以上動かれると厄介だわ」

「ならここで一人確実に倒さないとね〜。敵チームの人数かなり多かったし」

「ほんとよ…何よ!八人って!私達三人なのよ?めちゃくちゃ不利じゃないのよ!」

「落ち着いてよお姉ちゃん…あの子に聞こえちゃったらどうするのさ」

「あ…うん…ごめん」


 吹き抜けから下の階で話す二人の少女と思わしき声が聞こえてきた。どうやら二人は確実にメアを仕留めるためにとうとう家に乗り込んできた様なのだ。


(センサー?そんなの何処についてるの?…)


 メアが自分の服装を確認すると胸の辺りに小さな見慣れない機械がくっついているのを発見した。


(いつの間に付けられたんだろ…)

「そんな事より早く場所変えないとやられちゃう…」


 メアは非常階段の扉を音を立てないように開けると、数段飛ばしで降りて行く。

 メアは相当焦っていた為に金属製の階段の音が鳴り響き、追っていた二人に気づかれてしまう。


 その音を聞きつけた二人組がすぐさま非常階段へと駆け寄り、メア目掛けてサブマシンガンを連続で発砲する。

 メアは降り注ぐ弾丸の雨を掻い潜るようにスレスレで避けながら駆け出した。



「なんなの!?もう動きが人間離れしてるじゃない!」


 メアの神がかった反射神経で全ての弾丸を躱された少女達の一人はは驚きとイライラで顔を真っ赤に染めている。


 メアを追っていた二人組の片割れ、リリィという名の女の子はセミロングの髪の毛を右側で可愛らしく結い、そのサイドテールは明るい桜色をしていて、陽の光を反射してきらきらと輝いている。そして、おっとりとした目付き、未だ幼さが残る丸い顔立ちとは裏腹にとても逞しい性格の持ち主でもある。

 そしてもう一人は名をルルと言ってリリィとは実の双子である。

ルルは姉と対照的に空色の髪の毛で、薄い色合いがなんとも可愛らしい。そして、これまた姉とは対照的にとてもおっとりとした性格でとても明るく社交的である。

 そして、二人は双子であるが故にとても似ており、どこか子供っぽさが残る身体付きもそっくりという始末である。

 そして、その二人が追っているのはさながら野生動物の様に勘と運動能力に優れたメア。予測不可能な行動を繰り返す敵を相手に、真面目な性格のリリィにも苛立ちが垣間見える。

 似た性格のミカがあまりイライラしないのはメアに対して既に諦めているに過ぎない。


「ルル!追うわよ!」

「はいはーい」


 間の抜けた返事を返すルルはいきなりメアと同じように三階から飛び降りた。

 頭上に真っ直ぐ伸ばした右手にワイヤーが括りつけてあるハンドルを握って、その反対側はリリィが握っている。伸縮性の良いワイヤーで落下スピードを落とす役割があるのだ。


「…よっと。リリィ、いいよー?」

「ちゃんと受け止めてよね?」

「分かってるよー」


 下に無事に着地したルルは上にいるリリィに伝えると、なんの躊躇いもなくリリィもそこから飛び降りた。

 ワイヤーを手すりに引っ掛け、ハンドルを握りながら飛び降りたリリィの体はルルの力加減によっていくらか減速はされるが殺しきるまでは行かないので最後はルルがリリィの体を受け止める。


「とは言え、どこに行ったのかなオレンジ色の子」


 ワイヤーを巻きとったルルはリリィと共にメアが逃げていった方向へと駆け出すが直ぐに見失ったことに気付かされる。


『大丈夫。なんとか追えてるわ。今位置送るね』


 リリィとルルのデバイスから小さくも通る声でメアの位置を補足し続けた味方からの情報が入る。


「よし!行くわよ!」

「りょうかい〜」


 マーキングされたメアの位置をデバイスで確認した二人はその方向へと走り出したのであった。



 ◇




 その頃、既に合流していた他の七人は一人、合流が遅れているメアの事で頭を悩ませていた。


「どうしよう…連絡も繋がらないし何かあったんじゃ」


「あの行動の早いあいつなら誰よりも早く着くだろうよ。それがまだ着いてないってことは……恐らく私達を狙ってた奴らに標的にされたとしか考えられないな」


 マヤがやや突き放した様に状況を分析するとノノが感情を荒ぶらせながら突っかかる。


「もしかしたら道に迷ったのかも知れないでしょ!?メアちゃんが脱落するなんて有り得ないよ!」


 見たこともないくらい動揺するノノをミカとルエが落ち着かせようとするが一向に留まる様子がない。


「誰もそこまで言ってないだろ。それに、さっきまでずっと狙ってきてた奴らの殺気どころか気配すら感じないんだぞ?むしろ、あのオレンジが敵視を全部背負ってると考える方がまともだろうよ」


 先程からトーンを一切変えないマヤの言葉はノノにも届いたらしく、深呼吸をして焦る気持ちをぐっと飲み込んだ。


「……ごめん。取り乱しちゃって…これからどうするか考えないとダメだよね」


「落ち着いたんならそれでいいさ、それで?どうやってあのオレンジを助け出すよ」


 マヤもさらっと流して話を進める辺り器の大きさが伺える。

 横でユキがミカに小声で尋ねる。


「あの子ってあんなに取り乱す子だった?」


「んー、いつもは割と冷静に物事を見るタイプなんだけどね…メアが絡むとどうしても…」


「なに?そんなに依存しちゃってるの?」


「いや…依存なのかなぁ。……とりあえずそんなに邪推する様な事じゃないわ」


「ふーん……まぁ今は流しとく」


「助かるわ…」


 難しそうに言葉を濁したミカはまだ少し息が荒いノノの代わりに作戦の音頭を取り始める。


「とりあえずはメアを見つけないと進む話も進まないわ!ルエとマヤはこの塔からメアが居ないか探してもらえる?私とミルク、セーラは近くに居ないか外に出て探してみる。ノノとユキは情報をまとめてくれる?……とりあえずこんな感じでいいかしら」


 一通り全員に指示を振ってから首でだけでノノを見るとコクリと小さく頷いた。



 その後全員が集まっていた部屋を出て持ち場へと向かっていった後、残ったノノとユキはお互い一言も話さずに硬い空気が流れていた。

 ノノはと言うと大分落ち着きを取り戻した様でぶつぶつ呟きながらメアを救出し、敵を撃破する方法を考えていたので、黙っているのはユキの方だった。


(さっきはミカちゃんに止められたから詳しくは聞かなかったけど…よくよく考えたら四人共かなりの変わり者だわ……何か理由でもあるのかなぁ?……とりあえず今の私に出来るのは武器の量産と皆の無事を祈るくらいね)


 事情をよく知らないユキは作戦を練る事に没頭しているノノを尻目に初日に集めた材料で爆弾を量産しにかかった。ユキの作る爆弾には特徴があり、基本的には煙幕や閃光などの相手の動きを止める物がほとんどで人を直接痛めつける事はしない。

 初戦でメア達に対して使った手榴弾でさえ、直撃させずに使ったのはユキたっての希望だった。




 リリィとルルに未だ追われているメアはとりあえず身の安全を確保するために無心で走り続けた。いくら体力が野生動物の様に溢れているメアと言えど重装備を着たまま走り続けるのには限界が近づいていた。


「はぁっ…はぁっ…とりっあえず、ここに入ろうかな…」


 メアが辿り着いたのは市街地の端に位置する庶民街だった。ノノ達と逸れた場所から西に数百メートル離れていた。そして運悪く、その庶民街は建物が乱立している為に外部からの捜索は不可能に近いのだ。つまり、塔から捜索しているルエやマヤがメアを見つける可能性は限りなくゼロに近づいてしまった。

 ひとまず二人の追跡を巻いたメアは仲間と連絡を取る為に液晶デバイスの電源を入れるがその顔はさらに厳しいものへと変わっていく。


「なんで電波が入らないの?さっきまで普通に使えてたのに…」


 ◇


 この想定外の事件はノノ達も頭を悩ませていた。



「急に電波が何かに遮断されたみたいじゃないか?」


「わたしの携帯もつながらない…」


 マヤとルエはお互いのデバイスに同時に発生した通信障害に頭を悩ませていた。

 

「とりあえずユキ達のところに一度戻るか?」


 マヤがそう提案した瞬間だった。

 耳の感度が常人よりも数倍発達したルエがミカ達や、ましてやメアでもない人物の話し声を感じ取った。


「…だれ?」


 わずかに聞き取れた声の出を探すが見つからない


「ん?何か見つけたのか?」


 マヤの質問にルエは首を横に振ると、マヤの方を振り少し震えの混じった声で伝える。


「誰かの声が聞こえた。方向は恐らくここから西の辺りだと、思う。…一瞬過ぎて場所を特定できなかった」


「…むしろその一瞬で方角を割り出したことの方がおどろきだわ」


 ルエの恐ろしい聴力を目の当たりにしてマヤは若干引きつつも塔の西側を凝視して探す。

 しばらく探す中で彼女の目に突然飛び込んできたのは空色とカナリア色と髪色は違えど容姿のよく似た二人の人物だった。しかも、驚きはそれだけでは無い。


「あいつら…携帯で通話してやがる」


 マヤの目にはリリィが液晶型デバイスを耳に押し当て、何者かと通話している様子がはっきりと認識できた。


「もしかしたらオレンジの居場所がばれてるのかもしれねぇ!とりあえず下の二人に報告してくるからここで奴らを見張りながらオレンジを探しといてくれ!」


 ルエはこくりと頷くと全神経を耳に集中させる姿からはどんな音も聞き漏らさないという強い意志がひしひしと伝わってくる。



 ◇


 しばらくしてミカ達も塔に戻ってきて、ノノを囲んで状況を確認し直した。


「じゃあメアちゃんを狙ってる人達はデバイスを使ってたって事で大丈夫?」

「あぁ、となるとこの急な電波障害も奴らの仕業だと思わないか?」


 ノノは大きな紙に大まかな街の地図を描き、マヤからの情報をまとめて紙面に表現する。


(なんで敵さんはわざわざ電波障害なんて起こしたんだろう…。単純に私達を混乱させたかったから?)


 もし仮に混乱に貶めるだけならわざわざ電波ジャックなんて回りくどいやり方をする必要は無いだろう。

 少し離れた場所で爆発でも起こせば幾らでも意識を引き剥がすことは出来るからだ。


 それをしないとなると、敵にはノノ達を惑わせる以外に理由があるのが分かる。


「もしかしたら、敵さんは私達とメアちゃんを合流させたくないのかも知れない」

「と言うと?」


 ミカが首を傾げるとノノは頭を整理しながら呟くように話す。


「まず最初に私達を見つけた敵さんは、数の多い私達を分断させようとした」

「前提からだけど、なんで敵は私達が街に入った瞬間に倒さなかったんだろう?分断なんかするより普通に撃った方が簡単じゃない?」


 ミカの疑問に他の皆も頷く。


「恐らく、敵さんはチームを組んでいない初期メンバーだけの少数なんだと思う。幾ら奇襲と言えどこっちは八人もいるからね。数人はやれても、残りの人達に反撃されないとも限らないでしょ?」

「それにしても、まどろっこしい戦い方する奴らだなぁ!狙われたのが俺だったら速攻ぶっ飛ばしてやったのに」


 ミルクが暴れ足りない身体をうずうずさせながら吠えるのをセーラが少し疲れた顔をしながら抑えさせる。


「電波障害のお陰でメアに作戦を伝えられないのが厄介ね…」

「何かで伝えようにもあの子の近くには敵が居るはずだものね。無闇に姿を晒すのは得策じゃないわ」


 セーラの言葉に皆も黙りこくってしまう。

 皆はあれやこれや色々と発案するが、どれも欠点があり、最前の方法とは考えにくい。


「ねぇ、敵はわざわざ私達を分断させてきたって事は全員と相手してる余裕は無いってことなんだよね?」

「うん、多分そうだと思うけど」


 ユキはふと思った事を口にする。


「じゃあ、それを逆手にとって見ようよ!」



 ◇



 ユキが考えた作戦を皆に伝えるとノノはむっと考えると問題が無いか考える。


「その、『囮で敵を誘きだす』ってのは逆にやられる心配があるんじゃないのか?」

「うん、その事も考えたんだけど私達の兵種の構成上かなり安全に行えると思うんだよ」

 

 ユキはミルクを見るとにっこりと笑いかける。


「な、なんなんだよその笑顔は…」

「ミルクちゃんなら敵に追われても大丈夫でしょ?」

「やっぱそうか!大体ユキは俺の事なんだと思ってんだ!?俺もバカじゃないぞ!絶対碌な事にならない!」


 ミルクはがたいの良い体を身構えて、ユキに反論するがユキもユキで笑ってさらりと受け流している。


「大丈夫だよー、それに一人で囮になるわけじゃないしね?」

「ん?」

「万が一敵が攻めてきても狙撃できる射線を確保してれば大丈夫だと思うの。狙撃さえ出来れば怪我せずにすむでしょ?」

「確かに狙撃手が二人いる分成功率は高いだろうけどなぁ…」


 少々危険を伴う作戦に皆は首を縦に振るのを躊躇っていた。

 そんな重い空気の中口を開いたのはずっと何かを考えていたノノだった。


「じゃあ、いっそ皆で囮してみようよ!」



 ◇



 メアは一人でリリィとルウの追跡を掻い潜りながら、合流地点だった塔へと近づこうと頑張っていた。


「中々しつこいなぁ、あの人達っ!」


 先程から細い裏路地を通ったりとわざと目に付きにくい道を選んで走っているのだが、あの二人はまるで見越していた用に先回りして追いかけてくるのだ。

 そのせいで両者の距離は徐々に縮まりつつあったのだが、小一時間経っても捕まっていないのはメアの基礎体力の恐ろしさ故の事だ。


「はぁ、はぁっ…!まったくっ、このままじゃ、追いつかれちゃうっ」


 息が上がり、跳ね回る心臓を押さえつけようと胸を強く押さえ、汗を流しながらも逃げる足を止められないメアは急に後ろに居た姉妹の声が遠ざかるのに気がついた。


「はぁ、はぁ、うぐっ…、あ、あれ?さっきまで追ってきてたよね…」


 メアは耳を澄ませて二人の声が聞こえないか探ると、少し遠くから泣き声のような物が聞こえてきた。



 ◇




「ねぇねぇねぇ!なんであたひたちが追いかけられてるのっ!?」

「うーん……私達が逆に罠に嵌められちゃったって事かな」

「あんたってば何でそんなに冷静なのよっ!」

『二人とも大丈夫!?状況がイマイチ分からないのだけど』

「状況!?いい!?あたし達が敵を追ってた筈なのにいつの間にか負われてるんだよぅ!!」

「ほんと、どうしてだろうね〜」

「だから緩いってっ!!」






「なんか……おかしな事になっちゃったわね」

「私達囮だったんだよね…?」

「そのはず何だけどなぁ」

「ま、まぁ結果的には良かったじゃないか」


 ミカ、ユキ、セーラは今のこの状況に苦笑いが隠せなかった。

 なぜなら、当初囮として散開していた彼女達だがメアが二人を遠くに行かせない為にエリアをグルグルと回るように誘導していたので、囮に分かれた数人のグループで逆にリリィとルルを取り囲む用に追い詰めていたのだ。


「取り敢えず、先に抑え込もうか。メアも探さなきゃだしね」

「その方が良さそうね…じゃあ信号送るね」


 ユキは一定間隔で数回空砲を鳴らし、全員に接敵した合図を送る。


「行くわよっ!」


 ミカの掛け声で三人は小銃を走りながら構えて銃撃を開始した。

 これで他のメンバーも場所がわかって駆けつけられるだろう。



「ひいっ!?う、撃ってきた撃ってきた撃ってきた!」

「そりゃあ撃たれるに決まってるでしょお姉ちゃん。私達敵なんだもん」

「だからってそんな落ち着いた妹に育てた覚えは無いよっ!もっと焦ってあたしに合わせてよっ!」

「それは無理な相談だよ」

「なんでさぁ!!」

「お姉ちゃん、取り敢えずこっち曲がろう」

「えっ?きゃあっ!」


 二人が避けるように曲がった瞬間、音もなく放たれた狙撃の弾丸は無慈悲にも彼女達の胸元をインクで染め上げた。



 ◇



「びっくりするぐらい上手く行っちゃったわね…」

「あぁ、寧ろ罠だと思わせるくらいだな…」


 三人はリリィとルルを狙撃ポイントに誘導する様に撃っていたのだが、それが何の問題もなくスムーズに成功した物で、寧ろ違和感を与えてしまっていた。


「もう、成功したんだから良いでしょ?ほらあの二人を捕まえにいくよ!」


 惚けていたミカとセーラをユキが急かし、狙撃ポイントへと向かうと、リリィとルルはその場に座り込んで向かい合い、今にも泣きそうな顔でインクを見ていた。



「やっぱダメだったんだ…あたし達の考えた作戦なんて…」


「そんな事無いですよ?」


 リリィのつぶやきに答えたのはミカ達と同時にその場に着いたノノで、一緒にいたミルクと合流したのであろうメアもその場に駆けつけていた。


「最初に私たちを分断させたのは本当に上手かったと思います、それに電波が使えないのも相当厄介でしたから。」


 ノノはしゃがんで優しく言ってやると、リリィとルルはさすがにそんな事を言われるとは思ってなかったらしく、怪訝な目でノノを見つめている。


「でも、そこのメアを狙ったのは間違いだったかな〜。うちらの中でもずば抜けて体力馬鹿だからね」

「もーミカ!体力馬鹿ってなんなのさぁ!今回は私だって馬鹿なりに作戦考えたんだけど!?」


 ミカが笑ってメアを弄るとメアはミカに近づくと、後ろから抱きついて抵抗する。


「うん、本当に良い作戦だったと思うな〜、私が考えるより全然っ!」


 ノノが心の底からそう思っているように言ったのだが、面々の視線に表情がなかった。


「それは無いわノノ」

「うん、無いよね」


 ミカとユキがそれにツッコミを入れるとメアが猫が唸るように鳴いてみせた。


「うぬぬぬぬ、分かってるけど何か…何かさぁ!何か納得出来ないよ!」

「もー騒がしいわねー、一度落ち着きなさいよ」

「むぐぐぐぐ!?」


 ミカがくるりとメアとの立ち位置を入れ替えると、鼻まで押さえないように気を使いながら口を手で塞いだ。


「ほら、ノノ本題本題!」

「あ、うん。そうだね」

「本題?」


 リリィがノノの顔をマジマジと見つめる中ルルはじっと次放たれる言葉を待っている。


「ねぇ、私達の仲間になってくれないかな」


「「………え?」」


 リリィとルルは己の耳を疑ったのか目をぱちくりとさせているのだった。

波に乗ってきました。

も少ししたら溺れます

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