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狙撃戦

爆発攻めからなんとか命からがら逃げ切った四人は顔を近づけて作戦を練りあっていた。


「あわわわ!どうしたらいいんだろー!?」


「ちょっとは落ち着きなさい!」


「はぅあ!」


危機的状況下で頭がこんがらがったメアの頭にミカがチョップを叩き込む。綺麗に決められたメアは頭を抑えながら喉を鳴らして痛みを堪える。


「でもメアちゃんが焦る気持ちも分かるよ…」


「まるで袋の鼠…」


ノノもルエも少し笑ってみせるがなんとも硬い苦笑いだった。


「ここが見つかるのも時間の問題よね…」


逃げ込んだ家の裏口から他の酒場だったらしい家屋に逃げ込んだ四人の耳には敵チームが一軒一軒虱潰しに爆破させて回っている音が聞こえてくる。


「と言うかなんであんなに爆弾の数があるのよ。配布物でも良くて五つだったじゃないの…しかもペイント弾じゃないし」


敵が使用した爆弾の数は既に数十を超えていた。

ミカはおもむろに自分の腰に括りつけられたペイントの手榴弾に手を伸ばした。

ミカの疑問にはノノが冷静に予想を口にする。


「多分…自作だと思うよ。それか運良く使われてない手榴弾を沢山見つけたかだね。ここも昔は戦場だったんだし有り得ない話では無いかな」


「見つけたかもしれないのは分かるけど、自作?それって短い間に爆弾を作り出したってこと!?」


「うん。このテストを受けに来てる人は元々技能に特化した人が多いって聞くし火薬師がいてもおかしくない話だとは思うよ。」


「……ほんとに何でもありね」


二人の会話を何となく聞きつつメアはテスト開始時に全員に配られた基本装備のカバンに入っていた液晶付きのデバイスを取り出して色々いじくって見た所、偶然にもこの試合会場である旧市街地のマップを見つけた。


「おお〜!!」

「どうしたの?メアちゃん」


「いや、ね?もう沢山のチームが脱落してるなぁって」


「へ?」


そう言ってメアが差し出したデバイスに三人ものぞき込むとそこには脱落チームの位置、加えてはその撃破チームの当時の位置までもが明確に表示されていた。


「こんなのよく見つけるわね。…携帯に見えるけどちょっと違うのかしら」


「えへへ〜、もっと褒めてくれてもいいんだよ?」


「それは凄いけどあんたも少しは打開策を考えなさいよね!?」


「にばっ!?」


にへ〜っと頬を緩めるメアのおでこにミカはペチンとデコピンを食らわせ、メアは不意打ちを食らい変な声で軽く鳴いた。


「いや、本当にすごいよメアちゃん!」


「うぇ?」


ノノが突然力強く言った為メアは驚きの声を上げて一瞬目を丸くする。


「このデバイス、知りたかった詳細な情報まで載ってるよ!ここまで詳しかったら色々作戦の立てようがあるってものだよ〜!」


なるほどと頷く三人にノノは言葉を進める。


「テスト開始時に携帯を回収したのはこう言う事だったのかもね」

「うん、ここの情報が外に漏れるの防いでるんだろうね…。それに、変に外部と連絡が取れたら何が起こるか分かんないからね」


ノノはルエに顔をむけて尋ね、早速作戦を立てようとする。


「ルエちゃん、敵のスナイパーの位置って分かったりする?」


ノノの少し無謀な質問にルエはすまし顔で小さくコクリと頷いた。


「え?いつわかったの?スナイパーの位置なんて」


ミカが困惑しているのでルエはその理由をいつものゆっくりなペースで話し出す。


「……狙撃されるのは大体予想してたから。……咄嗟のこと過ぎて流石に避けきれなかったけど弾道と音から方角と距離は大体分かるよ」


「あんたって子は……、相変わらず耳の良さは恐ろしいわね」

「…それを言うならミカも同じ」

「あ、あたしのは…ほら、そういうんじゃ無いからさ」


ミカは頬を掻きながら目を逸らすと話題を変えようとノノに話を振り直す。


「それで?どうすればいいの?」


ミカが尋ねるとノノは難しそうに顔を顰めながらポツポツと作戦の断片を語り始めた。


「ルエちゃんの情報が正しければ今私達がいる場所からそう遠くない場所にスナイパーが陣取ってるわけになるから…他の三人に挟み撃ちにされてるんだね…これ」


「という事はいずれ逃げ場が無くなるってこと?」


「そうだね…多分そう長くはないと思う」


はぁぁっ、とミカは頭を両手で抱えながら首を振って、リボンで均等に結われたツインテールをふるふると揺らした。


四人の状況はお世辞にも良いとは言えない。だが、この位の不利が彼女等の心を折る事は出来ない。なぜなら…


「大丈夫だよ!なんかいい事思いつくかも知れないでしょ!」


「だから…そのいい事が思いつかないから困ってんでしょ!水でも被って静かにしてなさい!」


底なしの元気を周りに振りまくメアに突っ込みを入れるミカ。

しかし、その顔は心無しか先よりも明るいように見える。

メアの性格は他の三人の沈んだ心を持ち上げる力がある。それが色々な人に好かれている理由でもあるのだが…本人はそれに一切気付いていない。


「みず……」


「ん、どしたの?ルエ」


ミカの言葉の水と言う単語に引っかかったルエは顔を覗き込んでくるミカの頬をを指でぷにっとつついた。


頬をいきなりぷにぷにされたミカの顔はみるみるうちに紅く染まっていく。


「い、いきなり何!?」


「……いや、なんかぷにぷにしてるなって」


ふふっと頬を緩ませたルエは小さく笑いながらミカをからかう。


「ルエちゃん、さっき何か呟いてなかった?」


ヒントを求めるように先のルエの言葉に言及するノノ。

それに対するルエの返答に気になったミカとノノはじっと次の言葉を待つ。

しかし、ルエはふるふると顔を横に軽く振る。


「…そんな大層な理由じゃない。ただ、この服装って濡れたりしたら気持ち悪いだろうなって」


ルエの言葉に各々の服装を見下ろしたミカとノノは納得したように頬を緩ませる。


「確かに重くなりそうね…それに靴の中に水が溜まりそう」


「防水機能が高すぎるのも考えものね」


「……流石に状況を水で打破出来るとは思えない」


ルエがそう呟いたその時。

いつの間にか居なくなっていたメアが何かを見つけたらしく三人を呼ぶ声が響いてきた。


「みんなー!なんか面白いもの見つけたよ!」


「声が大きいわ!敵に見つかったらどうするのよ!」


「ミカちゃんも十分大きいよ…」


大声を上げるメアに対してこれまた大声で怒るミカ。仲良くコントしてる二人を見守るノノの顔には苦笑いが浮かんでいた。


「……ろーしょん?」


メアが見つけてきた物を手に取ったルエが不思議そうにそのヌメっとした液体の入ったボトルを観察している。


「普通の酒場になんでこんな物が置いてあるのよ……ぅわっ、きもちわるっ!!」


少し手の上に出してその感触を確かめてみたミカはヌメっとした触り心地に顔を真っ青に染めて洗面台へ走り、流水で慌てて洗い流した。


戻ってきたミカは落ち着きを取り戻したらしく小さくため息をついた。


「気にしてなかったけど、ここまだ水が通ってるのね」


ミカがそう言うと階段の方から帰ってきたメアがうんうんと頷きながら言葉を引き継ぐ。


「水だけじゃなくて電気もガスも通ってたよ?」


「あんた…いつの間にそんな事まで調べてたのよ。あと、ローション持って何しに行ったのよ」


「え?折角だから階段に塗りたくってきた」


「本当に何してんの!?」


相変わらず不可解な行動をするメアがだが、意外に細かいところまで観察していた事にミカは不審そうに目を細めている。


「多分、軍施設として登録されてるからだね。といっても、ライフラインを復旧させてるのは流石に試験中だけだと思うけど」


ノノがいつもの様に解説を加えている横でルエが何かに怯えた様な表情を見せた。


「伏せて!!」


ルエは大声で叫び、他の三人の頭を抱え込みながら、床に倒れ込む。


刹那、耳を劈く硝子の破砕音と共に一発の銃弾が飛び込んできた。


「なっ!?」


驚きが大きく声が喉に突っかかる四人。

現在の銃弾が意味するのは即ち……



「……見つけた♪」


興奮した甘々な声でそう呟きながらライフルのスコープを覗き込んでいるのはマヤという少女……つまり、メア達が現在衝突中のチームの狙撃手だ。


マヤは仲間の一人であるセーラと通話を繋げたままにしておいた薄型の液晶デバイスでメア達の座標を伝え、再びメア達に照準を合わせる。


余裕を醸し出しているマヤだがその内心は少しの焦りが生じていた。


(あの銀髪……二度も躱された…二度目なんて完全に死角、それに音もろくに届かない距離だったのに)


マヤは殺意を悟られないように一度目とは違い、ルエでは無くノノを狙ったのにも関わらず、またしてもルエによって阻まれたのである。


傭兵上がりのマヤは幾度の狙撃を完璧にこなしてきた。つまり、ここまで避けられる事自体が予想外もいい所なのだ。


マヤは流れてきた冷や汗を拭うと己の内側から湧き上がってくるルエへの対抗心に身を燃やしつつ、引き金に指を掛けるのだった。





「ダメ…!…ここもバレてる、すぐに移動しないと最悪殺される」


ルエが焦った表情で三人の避難を煽る。


「いくら何でも早すぎない!?」


「どうする、どうする!?多分他の三人にも位置バレてるよ!」


「分かってるから落ち着きなさい!」


軽いパニックに陥ってるメアをミカが宥め、逃げる為に立ち上がろうとした。が、ミカの手をルエが引っ張り再び床へと無理やり引き戻した。


「へぶっ!…な、なにすゆのよ!」


「立たないで!」


ミカの声を遮るようにルエが声を張り上げる。


「…多分、立ち上がった瞬間殺される」


「殺されるって、敵さんはペイント弾で撃つつもりは無いってこと?」

「…あの人はとりあえず実弾で私達を動けなくしてからペイント弾で撃つつもりだ思う」

「なんの為にそんな二度手間をするのよ」

「……多分プロだから。」

「ぷろ?」

「仕事で銃を扱う人は実弾に信頼があるし、愛着もあるんだと思うよ?だから、傭兵とかそこら辺の出の人かもしれないね」

「なるほどぉ」


メアは半分も理解できない様な顔でうずうずしている。


「じゃあ、どうすればいいの!」


メアの嘆きに三人は頭を抱える。


「伏せて逃げるには時間が足りないし…」


「何か策を考えないと…えっと…え、えっとぉ……」


あの冷静さが売りのノノでさえ焦って取り乱している。

そんな中、不運は畳み掛ける様にしてやってくる。





「ここか?マヤが言ってた場所は」


「うん…あってるよ、この酒場で」


「だったら一気に爆破させちまおうぜ?その方が楽だろ」


「死体を探す手間が余計にかかるだろ。それに試合に勝つにはペイント弾を使わないと駄目なんだし」


「へっ!面倒くせぇルールだな。いっそ殺し合いでもさせた方が早いだろ。それにマヤだって実弾で狙撃してるじゃねぇか」


「物騒だよミルクちゃん。人の命はそんなに安くないよ?それにマヤちゃんだって殺すつもりは無いはずだよ、それが出来る狙撃手なのは私達が一番分かってるじゃない」


「ミルクちゃんって呼ぶな!………たしかにアイツは凄い狙撃手だけどよ。」


「それよりはあのマヤが二発も狙撃に失敗する方が驚きだわ」


「こちらも何をされるか分かったもんじゃないからな、慎重に行こうか」



メア達の耳には狙撃手の仲間の声がハッキリと聞こえるのだった。

はっきり言って絶体絶命もいい所である。立てば即死、伏せていれば狙撃されずには済むがいずれあの仲間達の餌食になる。


三人が頭を抱える中メアが口を開いた。


「いい事思いついた!」


ワクワクとした表情を浮かべるメアは三人に嬉嬉としてその考えを口早に説明した。








「どう?いい作戦だと思わない?」


「うーん……普段なら絶対に乗りたくない作戦だけど、背に腹は変えられないわね。………いいわよ、付き合ったげる」


そう覚悟を決めたミカは残りの二人の顔を見る。そして、その表情はミカと同じく覚悟を決めいている物だった。


「勿論だよ!私はメアちゃんについて行くよ。でも、一つ内容を追加してもいい?」


首を傾げる三人にノノはコソコソと耳打ちした。


それを聞いた三人は心の底から驚いた顔をするのだった。



しばらくして、四人は互いに見つめ合い「うん!」と頷き合うとミカとメアが作戦実行の為に床を這ったまま階段の方へと移動していく。


すると、丁度敵チームの三人が入店してきた所だった。

幸いにもメアとミカの位置は死角に位置するのでバレては居ないが狙撃の目がある今二階に上がってくるのも時間の問題である。


ならば先手必勝である。


三人が何かを話し合っているらしい所をミカとメアはアサルトライフルを構えて銃撃を開始した。


驚きの声を上げた三人はそれでも俊敏に物陰に隠れたのでメアとミカは銃撃を一旦中止、二人も姿を隠して逃げた風を演出する。


(上手く乗ってくれるかしら)


(大丈夫だよ!なんとなくだけど上手く行く気がする!)


(あんたの大丈夫が当てになった試しがないんだけど…)


コソコソと耳打ちし合っていると二人の予想通り敵チームの怒りを見事に買って階段をゆっくりと登ってきた。


「ほらほらほらほら!出てこいよ!」


「ちょっとは静かにしろ!」


「…………」



二人の耳に敵チームの会話がハッキリと聞こえる辺りにまで近づいてきた。


そして、タイミングを合わせてサッと後ろを向いたまま銃口だけ壁の端から覗かせ、敵チームに照準を合わせたミカは運任せに銃を連射する。


流石に背面撃ちをされるとは思っていたなかったらしい敵三人は咄嗟に身を伏せてその銃口のラインから外れる。


しかし、ミカの狙いは他にあった。


ミカの発砲した銃弾は天井付近を通っている水道管に命中し、中から大量の水が噴水のように吹き出したのだ。



「なっ!?」


驚きの声を上げるのも無理もないがその驚きは連鎖する。

噴き出した大量の水によりずぶ濡れになった敵三人とミカメアの間にスモークグレネードが炸裂し瞬く間に白い煙で各人の視界を奪っていく。


全身ずぶ濡れで重くなった服装を纏った敵チームの一人が怒りに身を任せて階段を登りきろうとしたその瞬間。

ゴム底の靴がヌメっとした物を捉え頭から階段へと突っ込ませるのだった。




「まさかあんたのローションが役に立つなんて…ね」


「だから言ったでしょ〜?メアちゃんに任せとけばこんなもんなんだよ!」


「調子に…のらないの!」


煙幕の中を走りながらミカは隣を走るメアを軽く小突いた。

作戦が上手く成功し敵の足を一時的に止めることに成功した二人は走る勢いそのままに、ノノが前もって開けておいた窓に足を掛けて思いっきりジャンプし、体を丸めて衝撃に備える。


ガシャン!と隣の家の窓を体当たりで突き破りながら転がり込んだ。


「な、なんとか脱出出来たね」


「ほんと、我ながら良く生きてたわ」


ホッと胸を撫で下ろした二人は軽く笑いあってノノとルエの二人と約束した地点へと足早に向かうのだった。



時は少し戻り、ミカとメアが銃撃を開始した時。ノノとルエは身を低くしたまま、廊下から部屋の中へと移動し、銃撃の音が続いているうちに床が脆くなっている場所を探り当て、持っている銃の柄ををハンマー替わりに床を貫いた。


「っ……!」「キャッ……!」


そのまま下の階へと落ちた二人は必死に声を殺し、その衝撃に耐えた。


「……ノノ、大丈夫?」


心配そうにルエが小声でノノに声を掛けると、ノノは顔についた埃を軽く払って問題ないと手を振って応える。


「……行こう。やっつけるために」


「そうだね、メアちゃん達のチャンスを無駄にしない為にも…ね!」


窓から外に出た二人は出来るだけ音を立てないように走り、敵スナイパーの東側に位置する元ホテルであったであろう建物に身を潜る。

そして、三階に上がったルエはドラグノフ狙撃銃を構えた。


「……やっぱりそこに居た」


ルエが予想していた通りの建物の屋上にはライフルをセットして静かにスコープを覗いている敵の狙撃手が居た。

ルエが狙撃に集中出来るように慎重に周囲を警戒するノノの手には汗が滲み出てきていた。


ルエの視界には必死に自分達を探している敵スナイパーの様子が映し出されていて、静かに、静かに殺気を放ち始める。


「……一発で決める。ふぉいあ!!」


小声で呟いたと同時にトリガーに指を掛け、引き抜いた。


ドシュッと射出された弾丸はその道を違えること無く目標との距離を縮めていく。


弾丸は吸い込まれる様に敵スナイパーのスコープを破壊しようと接近するのだった…のだが。


「…つっ!?」


「どうしたの!?ルエちゃん!」


「…避けられた。」


心配するノノに返事をするルエの言葉は微かに震えていた。

動体視力と聴力に並外れた自信を持つルエでさえ死角からの不意打ちに対処することは容易ではない。


しかし、その前提を覆すかのように敵スナイパーはルエの弾丸をライフルの角度を絶妙に変えることで避けきったのだ。


ルエの顔には先とは比べ物にならない位の焦りが出ていた。決して口には出さないが、ルエが焦っている事など長年を共にするノノには全てお見通しなのである。


「大丈夫。私達がついてるから。落ち着いて…ね?」


「ノノ……ありがと」


顔をそばに寄せて優しく頭を抱くように包み込んで、ノノはルエの鼓動が落ち着くように笑顔で励ます。


しばらくしてルエが落ち着いたとは言え状況は絶望的であった。


「…どうしよう。今の私じゃあいつに……勝てないかもしれない」


ルエの言葉には自分と敵スナイパーの力量差に対する悔しさが滲み出ていた。

そんなルエの頭を優しく撫でるノノは慈愛に満ちた笑顔で呟いた。


「まだ、負けてないよ」


「…え?」


「ルエちゃんだけじゃ敵わないなら私達全員で立ち向かえばいいんだよ。それに、そろそろだと思うから」


ルエがきょとんとした顔で小首を傾げるとタイミング良くノノの液晶デバイスがブルブルと震えて着信が来たことを知らせる。


「もしもし?」


ノノが電話にでるとその相手であるミカの声が聞こえてきた。


『私とメア、言われたとおりに時計台まで来たわよ?あとは何すればいいの?』


今四人が戦っている街には外れに大きな時計台が建っており、街全体を見下ろせる構造になっているのだ。


「さっきルエちゃんが指定した場所に敵のスナイパーが居るの見える?」


『んー…えっと、あっ!居たわよ!まだあなた達の事狙ってるみたい』


「ありがとう、じゃあこれから絶対に目を離さないで」


『分かったわ』


そう言ってノノは電話を切ると腰に装備されているスモークグレネードを手に取った。


未だ不安が抜けきらないルエに微笑みその手を取ったノノは一言囁くのだった。


「ルエちゃん。勝つよ!みんなで!」


瞬間、ノノは握っていたスモークグレネードのピンを勢いよく引き抜き、地面に叩きつけた。


ボシュッと音を立てながら辺りには白い煙で覆われていく。

自分達の姿が煙に隠れたのを確認したノノはルエの手を引くと半ば飛び降りるかのように階段を降りるとそ場から退避した。


「他の三人にも見つからないように次の狙撃地点に向かうからね!」


「……う、うん。もう何処から狙撃しても避けられそうだけど…」


「心配しないでいいよ。ルエちゃんは一人じゃないんだから」


ノノは走りながらルエに柔らかい笑顔を見せるとルエも嬉しそうにコクリと頷くのだった。




時計台の上からスコープで敵のスナイパーであるマヤの姿を追っているミカは視線は逸らさずに一緒に行動しているメアに声をかけた。


「メア?あんたさっきから何してんの?」


「ん?何か使える物ないかなーって」


「こんな古い時計台に使える物なんて無いでしょうに」


ミカのいる階より一つ下の階層にある物置をガサガサと漁っているメアは宝物を探す子供のように物色していた。


現にミカの言う通りに大抵の木製の物が腐っていたりと大して使えない物が多いのだがその中からメアは一本の棒状の物を見つけ出した。


「あっ!ねぇミカ!あった、あったよ!」


「そうなの、良かったわね」


見つけたものを掲げながら得意げに声を張るメアにミカは顔も向けないで空返事だけを返す。

スルーしないで相槌はきっちり返すミカはなんやかんやでメアに優しい。


「ねぇ〜、ほんとに凄いんだって〜。ほら、猟銃だよ?」


「は?猟銃?」


予想外の返答でミカは顔だけメアの方に向ける。

すると、メアが一丁の猟銃を掲げているのが目に入った。


「火薬も大丈夫そうだし、精度の方は分からないけどちゃんと撃つことは出来そうだよー」


「ふーん、あんたが見つけたものって変に役に立つことあるし、その猟銃ももしかしたら、役に立つかもね」


先の酒場脱出時のローションが変に効果を示した事が頭に引っかかって一概に否定出来ないミカだった。


「あ、敵のスナイパーが移動始めたわ。ちゃんと追ってないと…あんたも手伝いなさいメア」


「はーい、任されましたー」


ミカは上に上がってきたメアと一緒にスコープを覗いて敵の動きを凝視するのだった。






「ユキ、そっちの戦況はどう?」


煙幕を張られ、ルエとノノの姿を見失ったマヤは苛立つ心を抑え、仲間のメカニックを担当する比較的物静かな少女に電話をかける。


『もしもし?マヤちゃん、どしたの?』


「そっちはどう?こっちは逃げられたからさ」


『マヤちゃんが逃がしたの!?』


そんなに驚くなと心の中で突っ込むマヤ。


「狙撃の二人は何とかするから大丈夫。それより、そっちは?私が狙ってた二人も大分移動してたけど」


電話越しにユキの少し戸惑った声が聞こえてくる。


『不意打ち貰っちゃって逃げられちゃった…今主にミルクちゃんが血眼になって探してる』


はぁ、と深いため息をついたマヤは考えを瞬時にまとめてそれをユキに伝える。


『わかった、じゃあ私はマヤちゃんと合流するね』


「ああ」


短く返事を済ませ、デバイスをポケットにしまったマヤは胡座をかきながら空を仰ぐ。


「……………はぁ」


正直な所今のマヤはルエの事を恐れていた。

二度にわたる狙撃の回避、驚く程に精密な射撃センス。全てにおいて自分と同等、いやそれ以上の存在であるルエにマヤは恐怖を覚えていた。


(さっきの運良く避ける事が出来たのもあの銀髪が一瞬殺意を放ってくれたからだもんな……)


マヤは殺意に対してとても敏感な為、自分に向けられた殺意は何となく感じる事が出来るのだ。だが、それもあくまでも人間の能力の範疇なので、ただただ単純に殺意を感じられるだけ。

ルエの様に音や弾道で距離や方角を一瞬にして測りとることなど不可能なのである。


「でも、撃たなきゃ負ける。私を殺していいのは私だけ」


そう呟いたマヤは手早く荷物を纏め、次の狙撃ポイントへと移動を始めるのだった。





煙幕を張って逃げ延びたノノとルエは距離はあるが高さが十分の丘にある見晴らしのいい展望台へと移動していた。


「ふぅ、ふぅ…なんとか逃げられたみたいだね」


「……疲れた」


ノノとルエもペースを落とさずに走り続けた為に大きく肩で息をしている。そんな二人にタイミングよくミカからの着信が入った。


『もしもし?どう、着いた?』


「ふぅ…あ、ミカちゃん。こっちは準備OKだよ」


『分かったわ、敵のスナイパーの位置は私達が最初に居た噴水の近くのマンションの屋上ね』


言われた位置をスコープを使って探す二人は伏せてスコープを覗いている長髪のマヤとショートカットの少女ユキの姿を確認する。

マヤユキの位置はミカメアとノノルエの丁度真ん中に位置している。


この地理を生かした作戦を瞬時に考えついたノノは内容を手短にミカに伝えて電話を切る。


「ルエちゃん、少ししたらメアちゃん達が注意を引いてくれるからその時が最大のチャンスだからね?」


ノノは今しがた決めた事をルエに伝える。ルエに伝えた作戦の内容が大雑把なのではなくて、今から行う作戦そのものが賭けに近い。


ルエはノノの言葉にコクリと頷き、銃口をマヤに向け続ける。

ドラグノフを握るルエの手にはじんわりと汗が滲み出てきてきめ細やかな頬にも汗が伝っている。


ノノでなくても緊張していると分かるルエの挙動に心配したノノはルエの肩に手を添える。


「…ノノ」


「大丈夫だよ。ルエちゃんは私が知り得る中で最高のスナイパーだもの」


クリーム色の髪の毛に太陽の光が反射してキラキラと輝いて見えるノノはこれまた眩しいくらいの笑顔をルエに向ける。

そんなノノのお陰で緊張が吹き飛んだのかルエも小さく笑い返した。


「…うん。わたしはあの女に勝つ」


そう言ってスコープを覗く親友の姿を見たノノはホッと胸をなで下ろすのだった。


二人が待っているのはメア達からの合図。

しかし、その時は予想よりも早く訪れるのだった。




「まさか本当に使う事になるとはね…」


「でしょー?わたしの行動に無駄な事など有り得ない!」


そう言って胸を張って威張るメアにミカは半ば呆れながらもはいはいと相槌をうつ。


と言うのも、先程メアが見つけてきた猟銃。その猟銃を使ってマヤとユキの注意を引く事にミカとノノの会話で決まってしまったのだ。


「いい?人に当てるんじゃないわよ?入ってるのはペイント弾じゃなくて本物の銃弾なんだから」


「分かってるよ〜。ルエ程じゃないけどわたしだってそれなりに自信はあるんだからね?」


「その根拠の無い自信は一体何処から来るのよ…」


メアは軽口を挟みながらも元から持っていたアサルトライフルのスコープを猟銃に紐で固定し、ユキの持っている小銃に照準を合わせる。


スッと気持ちを入れ替えたメアはミカに一言だけ伝える。


「何時でもいいよ、絶対に当てるから」


「オッケー、じゃあ好きなタイミングで撃って良いわよ。ルエもしっかり合わせてくれるだろうし」


その言葉が聞こえたメアは慎重にその引き金を引くのだった。






パーーン!!と普通の狙撃銃とは違う音が鳴り響き、マヤとユキは弾かれたように音がした方向に顔を向ける。


刹那、鈍い音を立ててユキの持っていた小銃が弾き飛ばされる。


「ま、マヤちゃ!?」


ユキが混乱しつつ状況を把握しようと頭を回転させている中、マヤの頭は比較的冷静だった。


しかし、その冷静さもスコープを覗いた時に崩れ落ちるのだった。


「あ、アイツじゃない……?」


マヤの視界に映ったのは銀髪の大人しそうな顔つきのスナイパーではなく、煌めくオレンジ色の髪の毛を持つ少女だったからだ。


一瞬でフェイクを悟ったマヤはユキを振り返り、声を発しようとするが、背中に襲いかかる衝撃でそれすらもままならない。


「ゆ、ユキ……逃げて」


メアの合図を待っていたルエはマヤの意識がメアに向いた瞬間に引き金を引ききったのだ。

当然避けることも出来ずにマヤはルエの銃弾をモロに背中に貰ってしまった。


いくらペイント弾とは言え狙撃銃。

その衝撃は半端な物では無く、一瞬でマヤはその暗闇へと意識を閉ざしてしまうのだった。



「後は任せてね」


マヤが昏倒したのを確認したノノはユキへ向けて小銃の空砲を使ってリズムを刻む。


「……ノノ?」


「…………伝わると良いんだけどね」




気を失ったマヤに寄り添って必死に声を掛けていたユキの耳に一定のリズムを刻む空砲が聞こえてきた。


「これ…信号?」


軍隊の無線を使わない意思の疎通手段に銃を使うものがある。

銃撃の間隔をモールス信号の様に読み取ることで簡単な言葉を伝える事が出来るのだ。


ユキのチームではユキだけが信号の類の知識がある為、仲間内では殆ど使わないが、ノノの唐突な信号にユキはかなり驚いた。


「…こ、う、しょ、う。交渉?」


ユキは音のする方向に顔を向けると遠くから金髪の少女と銀髪の少女がこちらを見ている事に気づいた。


「………受けるしかない、よね」


マヤが倒れた以上、数の不利がある為にユキは残りの三人だけでは勝つことは不可能だと考えた。

希に勝てたとしても先の戦いで生き残れる可能性は限りなくゼロに近い。


ユキのチームは救護バックの代わりに工具バッグを採用している為にマヤを助ける事が出来ない事も更にユキを苦しめた。


ユキは腰から拳銃を抜くと、空に向かって発砲して合図を送った。





「ふ、ん、す、い……噴水ね」


ユキからの返事を読み取ったノノはほんのり笑顔を浮かべつつルエの手を引いて噴水へと続く道を急いだ。






「あ、メア!ノノ達が動き出した。あれは…噴水に向かってるの?」


「さっきの空砲は何だったんだろうね」


メアがミカの言葉を聞きつつ小首を傾げる。


「さぁね、ノノの考えがあったんでしょ。さっき倒した敵チームも動いたし私達もさっさと行くわよ?」


「はーい」


メアとミカは用の無くなった時計台を後にした。




「うん、そうだよ。とにかく噴水に来てね。交渉だから間違っても敵のこと撃たないでね?特にミルクちゃん!」


セーラとミルクに事の顛末を伝えたユキは荷物を屋上に置いたままマヤを背負い、自分達のいるマンションの傍にある噴水跡へと足を速める。





ユキが噴水へと到着するとそこにはセーラ、ミルクの姿の他に敵であるメア達の姿が揃っていた。


「それで、交渉って?」


ユキは警戒心を剥き出しにしながら敵の姿を睨みつける。

その様子にノノは一瞬たじろいだがすぐさまマヤのペイントを専用の薬品で落とし始めた。

いきなりの出来事にユキ達三人は驚きを隠せない。

それもそうだろう、自分達が撃った相手を何の躊躇もなく助ける道を選んだのだから。


「一体なんの真似だ?」


今度口を開いたのはセーラだ。

普段落ち着いている彼女の顔にも驚きの色が浮かんでいるのが見て取れる。


「わたし達と手を組まない?」


セーラの質問にノータイムでサラッと言ってのけたメアの顔はいつもの様に眩しい笑顔が咲いていた。






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