さきっちょだけだから!!!
ぼんやりとしていた意識が鮮明になっていく。まだ少し朦朧としているがさっきまでよりはマシだ。
(ここはどこなんだ? 全く思い出せない)
周りを見渡しても全く見覚えのない場所だ。石造りの壁の通路が前後に広がっている。
そして何より…
(目の前のグロテスクな死体は何なんだ? 腕が無いし腹が破けて臓物が飛び出ている。 そして何より頭の中が空っぽだ…)
俺が何者なのか。ここがどこで、どういう状況なのか。全く思い浮かんでこない。
と、思考の海に沈んでいたところに、通路の奥からいくつかの足音が聞こえた。
(誰か来る! とりあえずこの場所と状況が分かるかもしれない!)
そんな風に考えながら待ち惚ける事数秒。その期待は裏切られた。
「キャーーーーー!!!」
「な!?!? 遅かったか! ゾンビめ!!!! リッドの仇だ!!!!」
と言って斬り掛ってきた壮年のおっさんと叫び続ける少女である。
意味が分からない。俺がこんなグロテスクな死体を作れるはず…
(っっっっっっが!!!! おもっくそ斬りやがった!!!!)
俺は、左肩から胸の上部にかけて剣で斬り付けられ、血を吹き出してぶっ倒れる。
(って言う幻覚を見たんだが… )
痛みが襲ってこないし血も吹き出てこなかった。
いったい何がどうなっているのか…
ふと身体を見下ろしてみると、確かに胸に剣が突き刺さっているし、左肩はベロンと垂れ下がっていた。
だが、痛みもないし血も出ていない。
何よりも、剣を握っているおっさんの腕が、生者の腕が、途轍もないご馳走に見える。
(これ、食ったら美味そうだな… ちょっとくらいの味見なら大丈夫だよな。 許してくれるよな。 舐めるだけ! さきっちょだけだから!)
と、本能のままに腕を噛み千切った。