失禁した
視点の切り替わりが複数あります
(冷静に考えたらそりゃそうだよな… 俺の魔力1だもんな…
これから育てれば良いんだよな! こうなったら特訓だ!
ポチ! ゾンちゃん! 実戦形式で特訓するぞ!
食料は腐るほどあるし“食再生”の準備も万端!
みんなで強くなるぞ!)
昂ぶる主人に呼応して昂ぶったポチはワオーーーンと高々と吠え、ゾンちゃんはゆらゆらと揺れ動く。
これから数日間に渡って特訓を始めるのだった。
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ある部屋の扉がノックされた。
その部屋は執務室らしく、部屋の半分はあろうかという大きな机があり、机には大量の資料が乱雑に置かれていた。
椅子に座りその資料に向かっていた、スキンヘッドで筋骨隆々、そして何故か上半身裸の男が返事をする。
「入れ」
扉が開かれ、タキシードを着用した黒髪で長身の男が入室した。
「ギルドマスター。報告がございます。こちらの資料をご覧ください」
ギルドマスターと呼ばれた男は資料を受け取り読み始める。
読み進めるに連れ表情が険しくなっていき、椅子の背にもたれかかり天を仰ぎながら大きく溜息をした。
「副ギルドマスター。何故、これほどの大ごとになるまで発覚しなかった?」
「申し訳ございません、ギルドマスター。
2日前に突然変異のゾンビを発見したというDランクの冒険者が居りました。
その冒険者はFランク冒険者パーティーの三名の指導役として『リキウス迷宮』に赴いた際に、第一階層徘徊階層主のウルフリーダーに遭遇。
一名を犠牲にし、逃げる際に一名と逸れ、捜索している際にそのゾンビに遭遇したと報告がありました。
突然変異のゾンビとの遭遇で重傷を負い、四日掛けて帰還後に報告を受け、翌日に調査依頼受諾パーティーを派遣、そのパーティーが先程帰還し報告を受けました。『リキウス迷宮』への到着は二日であったそうです。
即ち、僅か六日の間にこの様な事態に発展してしまいました」
そに報告に対しギルドマスターは再び重く長い溜息をした。
「調査パーティーが帰還に二日掛かっているとすると、更に異常が大きくなっている計算か。
ゾンビは最弱のゴブリンに並ぶほどの弱小モンスター。そのゾンビがDランクのステータスを破るか。確かに突然変異だな。
自然発生のゾンビは知能がほぼ無いが、“同種化”を使用されて生み出されたゾンビは生前と同じ程度の知識とステータスを持ち、痛みも疲れも感じない。
それらによって最低のランクFの、しかも第一階層に溢れかえっている…だと?」
「ギルドマスター。食事による再生能力を忘れております」
「やかましい!!! 現実逃避してたんだよ!!!
今動かせる最高ランクの冒険者パーティーはなんだ?」
「はい。Cランクパーティー『天馬の羽』と、同じくCランクのソロ冒険者『紅蓮』がおります」
「両方とも調査に向かわせろ。ギルドマスターからの依頼だ。断れば追放処分だと良い含んでおけ」
「畏まりました。そのように」
そう言ったあと、深々と礼をしたタキシードの男は退出した。
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最下級の迷宮『リキウス迷宮』の入り口に集った面々、『天馬の羽』と『紅蓮』がいた。
四人と一人が向かい合い、一人が口を開く。
「今回の調査依頼は合同って話だが、悪いが俺は一人で行動させてもらうぜ」
青年は赤髪に赤眼、赤のマントをし、赤の鞘に刺したグレートソードを背負っていた。
「おいおい、紅蓮さんよぉ。今回のはギルドマスター直々の指名依頼だぜ? そんな勝手な行動が許されると思ってんのか?」
四人の内の一人が言う。
男は坊主で無精髭を生やし、レザーアーマーを着用していた。腰には短刀らしき物を差している
「やめろ、ジン。
紅蓮には紅蓮のやり方があるんだ。 こっちはこっちで四人の連携を極めてきた。 それを崩せばお互いに命が危ないだろ」
四人の内のリーダーらしき一人が言う。
リーダーは金髪碧眼のフルプレートを着用し、左手にタワーシールドを持ち、腰にはロングロードを差している。
その発言に同意するように頷く二人の人物。
片方は四人よりも頭二つ分長身であり、ギルドマスター程ではないにせよ筋骨隆々。防御など考えていないかのような布製の服とズボンを着用し、大斧を背負っている。
もう片方は如何にも聖職者といった服装に身を包み、首には十字のネックレスをしていた。
「んだよ。キールはこのガキを買ってるみたいだが、先輩への礼がなってねーから教育しようとしただけだろ?」
「同じCランクだ。先輩も後輩も上も下もないだろ」
それに頷き同意する二人。
「くそっ! ガープもジェシカもキールの味方かよ!
はいはい。分かりましたよー。リーダーの意見に賛成しますよー」
「話はまとまったか?
だったら俺は先に行くぜ。 せいぜい最下級迷宮でくたばらないようにするんだな。先輩」
そう言い捨て、さっさと迷宮の入り口に足を踏み入れる青年。
「おい、キール。 やっぱりぶん殴ってきて良いか?」
「やめとけ! 若気の至りだ。
それに、俺達が十年かかったCランクに三年で、しかもソロでなった逸材だ。
そのためには苦難を乗り越えて来ただろうし、ソロの方が身動きも取りやすいだろうしな」
俺が言いたいのはそう言うことじゃないんだよな、と呟きながら頭をボリボリと掻くジンであった。
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一人で迷宮入りをした青年は、しばらく通路を進み驚愕していた。
「さっきから遭遇するモンスターがゾンビしかいない。
ゴブリンなんかはまだ分かるが、この迷宮の第一層で最上位のウルフもゾンビ化してる。
俺の敵じゃないが駆け出しの奴らには地獄だな」
それでもモンスターを斬り伏せ、奥に奥にと進んで行く青年。
そして、青年がソロでも生き残れた理由のスキル“危機感知“により、頭の中に警報が鳴る。
「なんだ? こんな最下級迷宮で俺の”危機感知“が反応するモンスターが居るのか…?
この通路の中央にある入り口の中。 あの中に強敵がいる」
青年は”気配遮断“を使い、通路を進む。
そして、入り口を恐る恐る覗く。
そこには、二体のゾンビと一体のゾンビウルフが居た。
その中のゾンビの内の一体の周囲上空に、無数の火の玉が浮かんでいる。
青年は、その一つ一つが自分を抹消し得る力を持っている事を感じ、即座にその場を走り去る。
「あれはヤバイ! 異様なまでの禍々しい気配!
残りの二体は何とかなるかもしれないが、あれは論外だ!
早くこの場から離れなきゃ…死ぬ…!」
しかし、時すでに遅し。
一瞬の動揺から漏れ出た気配を感知し、瞬時に追走して来たゾンビウルフに右脚を噛まれ転倒。
ゾンビウルフを左脚で蹴り離し、即座に立ち上がった目の前に、あのゾンビが居た。
これまで勇猛果敢に、時には命からがら逃げ、ソロでCランク冒険者まで成り上がった青年は、初めて恐怖により失禁をした。