ゆらゆらするばかりであった
“同種化”に成功し、ゾンビになった人間は立ち上がりこちらを静かに伺っている。
(俺が言っていることは理解できるか?
もし理解できるなら右手を上げてくれ)
そう問いかけてみると、指示通りに右手を上げるゾンビ。
(ふむ。 ちゃんと人間からのゾンビにも“統率”は作用するみたいだな。
じゃあ、質問するぞ? お前はこれから好きに行動しても良い。 この場所から立ち去りたいなら立ち去って良いし、俺に着いて来たいなら着いて来ればいい。
どうする?)
その問いに応える様に歩き出すゾンビ。
立ち去るを選択したのかと思っていると、不意に抱きついて来た。
(!?!?!?
え、何この状況!? 着いてくるってこと!?
それにしても何で抱きついてくるの!?
あれか? ゴブリン供をやっつけたから仇を討ってくれたって思ってんのかな!?
それより何より、ゾンビって言っても裸の女性なんですけども!?)
いきなり過ぎる展開に混乱してしまい、ロングソードを持ったままの両手を上下に振り回し始める。
しかし、こちらが返事をしないからか、そのまま抱き着き続けるゾンビ。
それを後ろで見つめていたポチは、自分の主人が取られると思い威嚇をし始めている。
カオスであった。
(よ、よし! 分かった! 着いて来ていいからとりあえず離れてくれ!)
その返事を受け、大人しく引き下がるゾンビ。
主人が解放され、嬉しそうにクゥーンと鳴きながら主人に身体を擦り付けるポチ。
可愛すぎか。
(じゃあ、まずは服を探そうか。 あと、呼び難いから名前も…
名前は分かるか?)
その問いに首を左右に振り否定をするゾンビ。
(ゾンビになる時に忘れたのか… 思い出したくないのか… どちらかは分からんが名前を付けなきゃな)
しばし考え、めんどくさくなり安直に
(じゃあ、お前の名前はゾンちゃんな!)
自らの新たな名前を聞くが、完全に無反応なゾンちゃんであったが、無言は了承と受け取るのであった。
テントに使われていた毛皮を破り、マント風に仕立てたものをゾンちゃんに渡す。
とりあえず、まともな衣服か装備を手に入れるまでは我慢してもらうことにした。
当人は全く無頓着であり、喉元でマントを縛り付けなければそのままスルスルと落としてしまう始末であったが。
(とりあえず、これからどうするか。
ここにある人間の女達の死体は、元は冒険者か何かなのか?
こんな危なっかしい場所に普通の人間が来るはずないし…
もし冒険者だったら何か良いスキルを持ってるかもしれない…か?
でも、一応元人間の俺が人間の脳を食べるのって倫理的にどうなんだ…?)
と思考したが、おっさんの腕を食べたし、人間に“同種化”を使用したのは二度目である。
今更考えても詮無いことかと思い直し、四人の人間の脳を喰らい、その全てで身体が淡く発光するのを確認した。
脳を喰らい終え、このまま放置することに気が引けたため、広間の端に死骸を並べテントの毛皮を破いたものをそれぞれに被せ、手を合わせて供養した。
(これでゴブリン戦と合わせて六個以上のスキルを手に入れた事になるな。
さて、どんなスキルを手に入れたのか、ステータスは何処まで成長したのか、確認だ!
“ステータス観覧”!)
種族:腐人
HP:32/32
MP:12/12
筋力:E (54)
耐久:F (42)
俊敏:E (65)
魔力:G(1)
幸運:S (500)
装備:ロングソード ロングソード
スキル:忍び足 仲間を呼ぶ 統率 強奪 指導 火魔法 回復魔法 偵察 気配感知 観察眼
エクストラスキル:無し
種族スキル:食再生 同種化
固有スキル:傲慢 物質吸収
特攻:人間 狼 狼統率者 緑小鬼 緑鬼
(まさかの魔法スキルゲットきたーーーーー!!!!
魔法はロマンじゃ!!!!
どんな魔法が使えるんですか!?
“ステータス観覧”さん入手したスキルの詳細プリーズ!)
《強奪 対象の持ち物を奪う事ができる。対象の俊敏が使用者の俊敏より高い場合、成功率激減》
《指導 自らの眷属、下僕のステータス成長率増加(微量)
常時発動スキル》
《火魔法 火属性の魔法が使用可能になる。
常時発動スキル》
《回復魔法 回復属性の魔法が使用可能になる。
常時発動スキル》
《偵察 偵察をする際に気付かれる可能性低下》
《気配感知 自らの周囲に存在する生物に気配を感知できる。感知範囲は魔力に依存される。
常時発動スキル》
《観察眼 対象の力量をある程度見極める事ができる。
常時発動スキル》
(ちょーーーーっと説明不足すぎませんかねぇ?
どうやって使うか全く分からん…
あれか? 何かイメージしてスキルを使うと魔法が出るのか?
前にはできなかったファイヤーボールとか使えるのか!?)
一縷の望みにかけ右手を広間の壁に向け突き上げる。
そして
(ファイヤーーーーーボーーーーール!!!!)
と念じると、線香花火の火ほどの大きさの火球が出現し、ふわふわと直進し壁にポスっと当たり消失した。
(お…俺の…ロマンが…)
それを見ていたポチは、凄い凄い!という風にウォンと吠え、ゾンちゃんはゆらゆらするばかりであった。