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辺境銃士とAI少女  作者: 柏ちと
3/3

旧友の率いる派閥

体の上に、何かが乗っているような重さを感じる。思い目を開けて、乗っている何かを確認する。

「………なに、やってるんだ?」クロは自分の上に乗って顔を覗き込んでいる少女ー、リリィに尋ねる。

『いえ、すみません。よく寝てたので、つい寝顔を見ていてしまいました。』リリィは答えて、クロの上から横に移動する。

『そういえばマスター、マスターが寝ている間にスマホにメッセージが一件届いてましたよ。』リリィはクロのスマホを手に取り、クロに渡す。

眠たそうに瞼をこすりながら、クロはリリィからスマホを受け取る。

「なになに…。『時間は指定しないんで、ウチの拠点に近々来てくれないか?byタク。』あぁ、珍しいな、あいつからかぁ。」一通り文章を読んで、クロはスマホをポケットにしまう。

どうやら、クロの旧友のタクという人物が情報交換をしたいという旨のメッセージを送って来ていたらしい。

「俺、あそこ苦手なんだよなぁ。」ふぅ、と一息ついて面倒くさいと頭をかく。

『どこかに行かれるのですか、マスター?』横からメッセージを読んだリリィは、クロに尋ねる。

「まぁ、何かしらあるんだろうし行くしかないよな。でもなぁ…女の子が多くて中々居づらいんだよな。」あははと苦笑して、クロは外出するために着替えていく。

『マスターが行くのであれば、私もご一緒していいですか?』リリィもベッドから立ち上がり、クロに同意を求める。

「勿論いいぞ、というか初めから紹介がてらその内連れて行こうとは思ってたんだ。」外出着に着替え終わったクロは、珈琲を淹れながら答える。

今となってはあまり一緒に行動することはなくなったが、旧友であるタクには紹介しておこうとは思っていた。だが、リリィをどのように紹介するかと考えていたクロには今回の情報交換は好都合だと思えた。

『タクさん…というのは旧友と言っていましたが、マスターとはどのような関係なのですか?』珈琲を少しづつ飲みながらリリィはクロに尋ねる。

「関係かぁ。昔、ここの皆と出会う前に、数年一緒に戦ってたんだよ。向こうは向こうで派閥を作って大きくなって、俺は俺で皆と出会って別れたんだ。」クロも珈琲を飲みながら、リリィの質問に答える。

別の派閥ということで頻繁に出入りはしなくなったが、お互い一度は共闘していた仲ではあるので、時折情報交換を行うために顔合わせはしているという訳だ。なので、一応ではあるが、タクの率いる派閥のメンバーとも若干の面識は持っているのだ。

「シミラー・クラスタ。あいつの派閥の名称だけど、大きくなったもんだよなぁ。当時じゃ考えられないくらいだ。」だから行きにくいってのもあるけど、と少し困った顔をしてクロは呟く。

『他の皆さんには出かけることを伝えますか?』リリィは尋ねる。

「いや、多分皆別のことしてるだろうからいいだろう。俺は一日いないことだけ伝えとけばいいんじゃないかな。」スマホを操作しながらクロは言う。

『分かりました。連絡はマスターにお任せします。』リリィも着替えながら答える。

着替え終わったクロはスマホで皆に外出をすることをメッセージで伝え、リリィと一緒に部屋の外へ出る。

アパートから出て、市街地を抜けてB地区の外周付近、限りなく街の外側。今となっては封鎖された廃墟が立ち並んだその中に、タクの率いる派閥"シミラー・クラスタ"がひっそりとたたずんでいる。クロとリリィは正面に見えている扉から中に入る。一回は瓦礫によって実質封鎖されているので、天井に空いている大きめの穴から設置されている梯子を使って登っていく。入ってすぐに、シミラーのシンボルである旗印が掲げられたメインホールに出て、相変わらず所属者の女性たちで賑わっている。クロはリリィを連れてホールの端にある受付に行く。受付には最古参メンバーである青髪の女性、シオンが座っている。クロはシオンに、リーダーであるタクに呼ばれたということを伝える。

「お久しぶりです、クロさん。お話は伺ってます。タクさんは奥で待ってますよ。」シオンは久々に来たクロに挨拶をして、タクが待っていることを教えてくれる。

「ありがとうシオン。あぁ、この子はリリィ。今日の連れだ。」クロは横にいたリリィの頭をポンと撫でて、リリィに挨拶するよう促す。

『初めまして。クロ様と一緒に行動してるリリィです。』ペコっと軽く会釈し、シオンに挨拶するリリィ。

「初めまして、シオンです。小さいのにいい子だね。…さぁ、クロさん。タクさんが待っているので、早く行ってあげてください。」優しくリリィに微笑むと、クロにタクのところに行くように促すシオン。

シオンに促され、受付からホールの奥にある階段から上階に向かって歩いていく。タクの普段いるところは、最上階で付近を見張らせて警戒できる専用ルームにいることが主だ。

階段を上り、3階ほど上がった後、廊下の突き当りにある部屋の前に立つ。扉を開け、リリィを連れてクロは中に入った。

「ん…クロか?」窓際のディスクに腰かけ、酒を飲んでいる男が入ってきたクロに声をかける。

「また酒飲んでるのか。よくこの場所で手に入るもんだな。」扉を閉め、リリィを連れてディスクの前に立ち、窓際の男性に話しかける。

窓際にいる男性、タクは、ゆっくりとクロの方に顔を向け、よく来たな、と二人を迎える。

「酒は俺の独自のルートを確保してるんでな。そいつらが潰れない限り手に入るのさ。」タクは手に持った酒をぐいっと飲みつつ、クロの言葉に答える。

「…で、そこのお嬢さんは俺とは初見だよな?」クロの隣でタクを見るリリィに目を向けて、タクはクロに尋ねる。

「数日前から一緒に行動してるんだ。名前はリリィ。」リリィの頭を撫でながら、タクに紹介するクロ。

「リリィちゃんね。おーけー憶えとこう。もしかしてうちに来たいって訳じゃ…『お断りする。』だよなぁ。」紹介されたリリィを間髪入れずに勧誘しようと試みたタクだが、クロに即答され、分かり切ったような表情を浮かべていた。

「お前の身内は誰一人として俺に預けたことはないから、分かってたが。」変わらないな、苦笑いするタク。

「全く。で、今日するのはそんな話じゃないんだろ?」クロはデスクの前にあるソファにリリィと座り、そろそろ本題に入ろうぜ、とタクに促す。

「悪い悪い、ついな。そんで本題なんだが、これちょっと見てくれ。」デスクの上に置いてあったノートパソコンの画面を黒の方に向けて、そこに映っている物を見るように言うタク。

タクがクロに見せたパソコンの画面には、三人組の男女と赤い印でマークされたこの区域一帯の地図が映し出されていた。

「見たことない顔だな。こいつらがどうかしたのか?」画面を見ながらタクに尋ねるクロ。

「そうだな、盗賊とでも言えばいいのか。俺らの使ってる商業ルートで何人か襲われて、商売品を盗られてるんだ。」困ったもんだ、とため息をつきクロに説明するタク。

「なるほど、俺はこいつらを捕まえりゃいいと。つまりはバウンティハンターってところか?」構わないが、俺一人は骨が折れそうだ、と呟くクロ。

「もちろん、お前だけじゃなく俺も協力するさ。流石にこの手の案件はウチの娘らにはやらせるわけにはいかないからな。」危険があることは極力させたくはない、と自分も動くことを伝える。

「そういうとこは嫌いじゃない。いいぜ、乗った。動きはお前に任せるぞ。」タイミングは教えてくれ、とタクに言うクロ。

『マスター、この依頼は危険が伴いますか?』横で二人の話を聞いていたリリィは、クロに尋ねる。

「なるべく危なくないようにはしたいが、相手が相手だ。危険がないとも限らないな。」危ないことは慣れてるつもりだけど、とクロはリリィに答える。

「まぁ相手は殺しもいとわないような輩だからな。絶対無事になんてのは無理だろうな。」危険がないように行動するが、とタクも答える。

『…マスターに危険が伴う恐れがあるなら、私も同行します。』連れて行って下さい、とリリィはクロに許可を求める。

しかし、リリィの言葉を聞いたタクが、声を強めて制する。

「お嬢ちゃんみたいな小さい子を流石に連れては行けない。ここの連中と待っていてくれ。」危険がある、とリリィに言うタク。

タクの言葉を聞いていたクロだったが、リリィの事情を知っているので、タクに口を開く。

「いや、この子はちょっと特殊なんだ。連れて行っても大丈夫だ。」危ないときは護るしな、とタクに言うクロ。

「お前正気か?!こんな子を連れて行くなんて殺されに行くようなもんだぞ!」ふざけるな、と声を荒げてクロの提案を拒否するタク。

クロは少しだけ考え、リリィを見る。リリィも私は大丈夫です、と小さく呟き、信じてもらえるかは分からないが、クロはリリィの"正体"をタクに話すことを決める。

「タク、リリィのことで聞いてほしいことがある。」クロはタクを見据えて言う。

「どんな事情でも、俺は反対だぞ。」聞いてはやるが、とタクは言う。

「信じられるかは分からないが…実はリリィはオートマタ、自動人形なんだ。」リリィをタクの前にだして、クロは数日前にリリィと出会った経緯を話す。

タクは少し驚き、しばらくクロの話を聞く。リリィがAI搭載のオートマタであること。廃工場で起動されずに眠っていた彼女を、クロが偶然起動し、マスターとなったこと。武器等の詳細は言えないが、尋常ではない兵器を扱えること。そして、少しずつではあるが人の感情を実らせていること。クロの口から言える凡その事情をタクに話した。

「この子が兵器?どこからどう見ても小さい女の子のリリィちゃんが?全く信じられん。」信じろって方が無理だ、とタクは言う。

リリィを見ながらしばらく考えた末、タクが口を開いた。

「信じられないが、今までお前が俺にそんな嘘ついたことはないからな。信じてやるさ。」頭が追い付かないが、とタクは言って、リリィの同行を認めてくれる。

『同行許可、感謝します、タクさん。』これでマスターを守れます、とリリィはタクに感謝を述べる。

「おう、だが危ないような事はするなよ。」一応な、とリリィに伝えるタク。

リリィも同行出来るようになり、ようやくといった所で具体的な打ち合わせに入る。元々、クロとタクで成立出来るように動き方を決めていた為、そこにリリィも加わり、やや動きやすい形に見直していく。

作戦の内容としては、ターゲットの三人は主に商団移動ルートの市街地付近で袋小路になっている場所を好んで襲撃しているようだ。

「ざっとこんなところだな、今の話で凡そ知ってることは全部だ。」情報を話し、持っていた酒の缶を捨てるタク。

「となると囮で釣るのがいいか…どうしようか。」どっちがやるか、とクロが少し悩んだようにタクに尋ねる。

「あぁ、その役目は俺が引き受けよう。」任せろ、とタクは答える。

「いいのか?多数対1だと数的不利になりそうなもんだが。」クロは少々不安な顔でタクに言う

そんなクロを見て、忘れたか?と腰に巻いているベルトから一つの自動小銃とコンバットナイフ数本を取り出すタク。

「俺は元々接近して戦うタイプだからな。それに、今回はお前が援護してくれるからな、俺の手で直接借りを返せるってもんだ。」そう言って取り出した武器を再びしまうタク。

「俺も数的不利はいつものことだしな、了解。俺は手ごろな場所見つけて狙撃しよう。」新しい武器も丁度手に入れたとこだしな、とクロは言う。

「商団が来るのは明日だから、行動はその時間に合わせよう。部屋は用意してあるから、今日は泊まってくといいぞ。この部屋を出て、突き当りを左にある。」好きに使っていいぞ、とクロに鍵を渡し、タクはメインホールに行くと言って出て行った。

「じゃあ荷物とか置いてくるか。リリィ、行くぞ。」持ってきたバッグを背負い、部屋から出るクロ。

リリィもクロのあとを追いかけ、部屋から立ち去る。

「客間か何かか?やたら広いな。」指定された部屋に入り、荷物を降ろすクロ。

『この場所には、女性の方が多いですね。』何故でしょう?と不思議な顔をしてリリィはクロに尋ねる。

「あぁ…それはな、ここのリーダーであるタクが、行き倒れてる女の子をここに連れてきて食わせたり仕事与えたりしてんだよ。一応男性もいるけどね。」よくそこまで出来るよな、と苦笑して説明するクロ。


シミラー・クラスタは、主に行き倒れている人間や、罪人として追われ行き場のない人間を匿っている派閥である。故に、所属している個人個人は名前を変え、姿を変え、派閥の一員として振る舞い依頼をこなして生活を続けている。タクの商業ルート、薬品や手に入りやすい武器となるものを取引して低価格で入手し、旧市場などの市場に流す。勿論全部ではなく、タクの派閥で使う分を差し引いてからなので若干数は減るものの、複数回に分けて大量の商品を取引する為、市場にも十分な数が供給されているのである。そのような理由で、旧市場にはわりと顔が効くタクではあるが、その代わりに様々な人からの依頼が来ているのである。

「さて、話も長引いて夜も遅くなったし、今日は明日に備えて寝るとするか。」備え付けのベッドに横になってクロが呟く。

『私もスリープモードにしておきます。おやすみなさい、マスター。』クロの隣に横になり、リリィもスリープモードとなる。

クロとリリィが寝つき、部屋が静寂に包まれた。


翌朝、クロが目を覚ます。

「くあ…朝か。リリィ、起きてるか?」あくびをしつつクロは体を起こすと、横にいるリリィに声をかける。

クロが声をかけてから少しして、リリィが起き上がる。

『おはようございます、マスター。』クロにあいさつをして、体を伸ばす動作をするリリィ。

「リリィも肩が凝ったりするのか?」リリィの動作を見たクロは、ふと疑問に思い尋ねる。

『いえ、マスターがよく寝起きにこのように体を伸ばしているので、そういうものなのかと。』小首を傾げてクロを見るリリィ。

「あぁ、俺の真似をしてたのかぁ。」流石に機械の体だと体は凝らないよな、とクロは言う。

昨日のタクとの話によると、商団は夜に襲撃されることを避けて、ルート上に来るのは午後0時辺りになるとのことで、それまでの凡そ3時間程は自由行動となる。

「特にやることないし、メインホールに行ってなにかやれること探してみるか。行こうかリリィ。」暇だ、とベッドから立ち上がると、リリィを呼んで部屋から出て行く。

リリィもクロの後を追いかけ、部屋から出る。メインホールに行くと、朝食時のようで慌ただしく朝食の入った缶や飲み物を運んでいるシオンの姿が見える。

「シオンさん、俺も運びましょうか?」クロはシオンに声をかけて、手伝えるかと確認する。

クロに呼びかけられたシオンは足を止める。

「クロさん、おはようございます。先ほどタクさんがクロさんのこと探していましたよ。今は食堂でご飯を食べてると思うので、私のことはお構いなく行ってあげてください。」それでは、とクロにお礼をし、シオンは食品を運び出す。

クロはシオンに聞いた通りに食堂に足を運ぶ。そこそこ広く、全員とは行かないが大人数でも一気にご飯を食べられる空間になっている。食堂の奥に、タクは座って一人食べていた。

「おはよう、タク。シオンさんから聞いたけどなにかあったか?」タクの正面に座り、自分の横にリリィを座らせる。

「クロか。さっき連絡が入ったんだが、商団の到着が一時間ほど到着が早まるそうでな。」スープを啜りながらタクがクロの質問に答える。

「なるほど、了解。それじゃあ支度だけ済ませておこう。」そういって立ち去ろうとしたクロ。

しかし、すぐタクに止められてしまう。

「おい、朝食ぐらい食べて行けよ。リリィちゃんもだ。まだ周りには言ってねぇんだろ?」子供も何も食わない、怪しまれるぞ、とタクはクロに言う。

「確かに、それには一理あるな。ちょっとリリィ、取って来るからここで待っててくれるか?」すぐ戻る、とリリィに伝え食料の置いてある場所に向かうクロ。

「リリィちゃんは機械の体だと聞いているが、食べることは出来るのかい?」スープを飲み終わったタクがリリィに疑問を訪ねる。

『はい、飲食は出来ますね。エネルギーの一部に換算されるようです。排出も人と変わりません。』あまり親しみのない相手であるからか、少しぎこちなく答えるリリィ。

「そうか、よかった。」問題ないな、と配給されているパンをかじるタク。

しばらくしてクロが戻ってきて、二人分のスープやパンなどをテーブルに置く。

「珍しいな、お前が珈琲を飲まないって。」テーブルに置いた食料を見てタクが呟く。

「え、ここって珈琲あるのか?」マジで?とタクの顔を二度見するクロ。

「俺も飲むし勿論あるぞ。つってもパックのだがな。」あっちだ、と珈琲を保管してある場所を指さすタク。

「分かった、取って来る。リリィはどうする?」席を立ち、飲むか?とリリィにも尋ねるクロ。

『はい、私も飲みたいです。』クロの方を見て飲みたいという意思を示すリリィ。

「んじゃ持ってくる。」そう言ってクロは教えられた場所に置いてある珈琲を取りに行く。

クロが珈琲を淹れて戻ってきて、再び席に座る。普段はあまり口にしない暖かいスープなどを口に運んでいく。

「久々にこんなの食べてるなぁ。」スープを啜りながらクロが呟く。

「お前らの方はこういうのは食べないのか?」先に食べ終えたタクがクロに尋ねる。

「食べないなぁ。だいたいトーストとか、市場に出回ってる栄養食だからな。」パンを口に運んでクロが答える。

そして、食べ終わり支度を済ませた間に時間が経ち、予定していた時間になった。

「そろそろ商団が来る時間だな。準備は出来てるか?」コートを羽織り、自らの獲物をベルトに収めてタクがクロに言う。

「出来てるぞ。いつでも行ける。」クロも同じくコートを来て狙撃銃の入っているケースを持って答える。

行くか、とタクはホームから出て、それを追うようにクロとリリィもホームから出て行く。

商団が通る道へは徒歩で向かう形となる。ポイントを絞って襲撃者の潜む場所を探すことになるのだが、先日に見たマークのエリアを順次に偵察する。タクから狙撃が通る場所を幾つか教えてもらっているので、クロはその場所も確認しつつ襲撃者を探していく。一番目、二番目、三番目と索敵を進めて行き、今現在、最も商団が近いであろう最後の4番目のエリアにクロ達三人は到着した。

「ここで目撃場所は最後か。どうだ、クロ。」物陰に隠れ周囲を伺っているタクは、スマホでクロに周辺の様子を尋ねる。

「…いた。商団が来るルートの、脇道に2人。写真で見た通りだな。」双眼鏡で索敵していたクロが、脇道の奥に潜む2人の襲撃者の姿を捉えたことをタクに伝える。

「1人は見つからないか。まぁ、仲間が危なければ姿を見せるだろう。」合図を出したら2人を片づける、とタクは片手にハンドガンとナイフを持ち、襲撃者の背後を取るように近づく、

タクが2人に接近し、切りかかろうとした瞬間、対象二人の奥から突然ズドン!という発砲音が響く。

「気づかれたのか?!」付近の障害物の後ろに身を隠し、発された音の主から身を守ろうとするタク。

クロは狙撃銃を構え、音の方向を覗く。どうやら発された銃声は見つかっていなかった3人目の襲撃者によるものであった。相手の狙撃者は、脇道の建物の屋上に身を隠しこちらの動きを伺っているようだ。

「タク、三人目は建物の屋上からお前を見てる。あいつは俺がやろう。」クロは銃を構え、スコープを相手の体に合わせる。

「任せた、俺はその間に二人の気を引いておこう。」お前のとこに行かれたら厄介だ、とタクはハンドガンで隠れている二人に牽制射撃を試みる。

タクが二人の気を引く間に、クロは先ほどタクを狙撃した相手に狙いを定めて引き金を引く。ドン!と低い音がなり、銃弾が相手に命中し倒れ、動かなくなったことを確認する。

「上のやつは倒した。援護するぞ!」クロが屋上の相手を倒したことをタクに伝え、残る二人に銃口を向ける。

「頼んだ、俺は前に出るぞ。」ナイフを持ち、二人の襲撃者のうち一人に接近するタク。

ドン!とクロがタクの狙っていない一人を狙撃し、タクが行動しやすいように援護するが、すぐに射線が通らなくなってしまう。

「ここからじゃ狙えないな。見えるところまで動くか。」銃を担ぎ、射線が通るように脇道の中に入るクロ。

射線が通り、先ほど狙撃していた相手を続けて牽制するクロ。その間にタクは一人を刺殺し、残る一人に銃口を向けていた。

「よくもうちの商団を襲ってくれたな。死んで償ってもらうぞ。」タクはそれだけ吐き捨て、バン!と銃声を響かせ残る一人を射殺した。

「これで全員、だな。」ふう、と息を吐き、狙撃銃をケースにしまうクロ。

「あぁ、みたいだな。おつかれさん。」助かったぜ、とタクが言い終わる前に、リリィの声が響く。

『マスター!まだです、後ろに!』クロの隣で援護していたリリィは、クロの背後に迫るものを察知して叫ぶ。

クロが後ろを振り向くと、先ほど自分が銃弾を浴びせ、倒したと思っていた男が立ち、自分に銃を向けている。

「仲間がやられて、俺だけ逃げれるかよ…!」襲撃者はクロに叫び、向けていた銃の引き金を引き、クロに打ち込む。

「かはっ……!」銃弾はクロに当たり、腹部等を血に染める。

『マスター!?…許しません。』リリィの声色が心無いものに変わり、以前クロから渡された銃を持ち、襲撃者に向けて放っていた。

バンバンバン!

リリィの放った弾丸が襲撃者の胸元に数発当たり、短い悲鳴を発しその場で倒れる。

『マスター!大丈夫ですか、マスター!』リリィはクロの元に駆け寄り、腹部を抑えてうずくまるクロに呼びかける。

「おい、しっかりしろ!…腹にくらったか。」ちょっと待ってろ、とタクは持っていたバッグの中から包帯を取り出し、クロの傷口に巻き付けていく。

「応急処置だから、戻ったらちゃんと手当受けろよ。」包帯を巻き終え、クロに言うタク。

『私が警戒を怠っていなければ…申し訳ありません。』クロに寄り添い、悲壮な声を漏らすリリィ。

「痛ぇ…けど、大丈夫だよリリィ。それにちゃんと守ってくれたじゃないか。」寄り添うリリィの頭を撫で、無事だということを伝えるクロ。

「しかし、包帯なんていつも持ち歩いてるのか?」クロは応急処置を施された腹部を見てタクに尋ねる。

「いつもじゃないぞ。今回は危なくなる可能性があると思って念の為持ってきたんだ。」使わなければいいと思ったんだが、とタクは答える。

襲撃者を倒し、経路の安全を確認したクロ達はタクのホームへと戻る。ホームへとつき、メインホールに入ったクロは、傷を見て驚いたシオンに連れられ医務室へと行き手当を受ける。

「銃撃を受けたんですね…まだ銃弾が体の中に残っているそうですね、取り出さなくちゃ。」そういってシオンは医療道具を取り出し、クロの手当をしようと服を脱がそうとする。

「悪い、頼んだ。」クロは上着をすべて脱ぎ、シオンに任せる。

「ごめんね、麻酔はないから…この布噛んで耐えてね。」いくよ、と言いシオンは医療道具を使い、クロの腹部から弾丸を取り出していく。

「………ッ!!」体内から異物を取り出される激痛に、布を噛み締めて耐えるクロ。

激痛に耐えている間に、シオンの手が止まる。

「お腹に入っていた弾丸は取り除きました。傷口も縫ったのでしばらく安静にしてれば大丈夫ですよ。」ふぅ、と一息ついてシオンは処置が済んだことをクロに伝える。

「ありがとう、助かったよシオンさん。」シオンにお礼をして、横になっているベッドから起き上がろうとするクロ。

「一応、手当で簡易手術をしたんですし、今日はここで休んで行って下さい。奥に寝られる場所がありますから。」傷口が開くと危ないですし、と起き上がろうとしたクロを寝かせ、ベッドごと奥に連れていくシオン。

「後程タクさんに泊まっていくことを伝えておきます。リリィちゃんにも、クロさんがここにいるとお伝えしますね。」ニコ、と微笑み医務室から出て行くシオン。

シオンが医務室から立ち去って、クロ一人の空間となる。

「失敗しちまったなぁ。俺が殺すんならともかく、リリィに人を撃たせちまった。」油断した、とクロは先ほどの銃撃戦での失敗を反省していた。

「リリィには人を撃たせるつもりはなかったんだけどな…。」クロは人の心を芽生えつつある彼女に、出来るならば殺人や血に染まるようなことをしてほしくはなかった。

しばらくして、シオンから話を聞いたのかリリィが医務室に入ってくる。

『マスター!お怪我は大丈夫ですか!?』リリィはクロに駆け寄り、安否を確認する。

「シオンさんに手当してもらったから、傷は塞がってるよ。しばらくは安静らしいけど。」ほら、とクロはリリィの心配した腹部を手当されていることを見せ、安心させようとする。

『よかった…すみません、私がついていながら…。』クロの隣で何度も謝るリリィ。

「俺が今生きてるのは、リリィがいたからだよ。」ちゃんと守ってくれたよ、とクロは謝るリリィの頭を撫でそっと抱き寄せる。

それから数日、タクのホームでシオンの手当もあり安静にしていた後、傷の具合も良くなって来たので、クロは自分のホームへと戻ることとする。

「クロ、ホームに戻るのか。」クロが戻ると聞いたタクが、話をしに借りていた部屋まで来る。

「あぁ、世話になったな。」コートを来て、銃の入ったケースを持ちクロは答える。

「了解、なんかあったら頼れよ。あとこれ今回の報酬な。」取っとけ、と金銭の入った封筒をクロに渡すタク。

「手当してもらった手前なんか悪いが、まぁ受け取っとく。」ありがとう、と礼をし、リリィを連れて部屋を出るクロ。

メインホールまで行き、受付まで行くクロとリリィ。

「シオンさん、手当ありがとうございました。」受付にいるシオンに先日のお礼をするクロ。

「クロさん。傷が完璧に塞がった訳ではないですから、激しい運動とかは厳禁ですよ。」シオンはクロに注意をして、ホームの入り口まで見送る。

「ここまででいいよ。それじゃあまた。」また来ます、とシオンに伝えクロはリリィを連れて旧市街へと向かう。

『マスター、傷は痛みませんか?』心配した顔でリリィはクロに尋ねる。

「大丈夫だよ、シオンさんに包帯取り替えてもらってあるし、一応薬も貰ったから。」痛くないよ、とリリィを安心させるために優しい口調で言うクロ。

シミラー・クラスタから旧市街まで戻ったクロは、後に必要になるであろう薬品や、自分のホームのメンバーが使う食料品の調達を行う。タクから報酬を貰ったあとなので、いつも買う分より余分に買い溜めをしていく。

「これだけ買っていけば、しばらくは持つかな。」持てるだけの物資をクロとリリィで分けて持ち帰る。

物資を買い込み、しばらく歩いてアパートに入り、クロのホームに帰る。

ホームの扉を開けると、中には既にメンバーが集まっていた。

「ただいま、戻ったぞ。」メンバーに戻ったことを伝えるクロ。

クロを確認したメンバーは、クロの血が染みついた服を見て目を丸くする。

「お前、怪我したのか?」クロに近づき、尋ねるフミ。

他のメンバーもフミと同じくクロの怪我を心配している中、隣にいるリリィは表情を曇らせてしまう。

「ちょいとミスしてな。でも、リリィが助けてくれたんだ。」おかげで死なずに済んだ、とクロはリリィの頭を撫でる。

「しかし、クロがこの有様なら"外側"にはしばらく行けなさそうだな。」傷が治るまでは、とソノナは言う。

「まぁ、行かない分のんびり出来るけどな。資源はないけど。」俺はいつでもいいぞ、とイッチーは珈琲を啜る。

「ともかく、クロはしばらく安静だね。実は、シオンから話聞いてるんだ。」弾丸くらったんだって?と、リズはクロに言う。

「少し油断したよ、詰めが甘かった。」手当を受けたから大丈夫だけど、とクロは答える。

「でも腹に当たってるんだから、数日は自室で安静にすること。」いいね、とクロに言い聞かせるリズ。

じゃあしばらくは各自待機だな、とメンバーは各々自由行動に移る。そんな中、クロの不在の間に知り合いと連絡を取っていたというフミから情報が入る。

「そういえば、俺のダチからちょっとした情報が入ったんだ。」聞くか?とクロに話をもちかけるフミ。

「どんな情報なんだ?」聞きたい、とフミに話すように促すクロ。

「実はな、リリィちゃんを連れてきた廃工場あるだろ?あそこに一つ開かない扉があるらしい。」開かなくて戻ったらしいが、と話すフミ。

「リリィがいた部屋で最後じゃなかったのか。」見落としてたのかな、と呟くクロ。

「いや、どうやら隠し通路みたいなものがあって、更に地下があったようだ。それもかなり綺麗な施設だったらしい。」興味あるだろ?とクロに言うフミ。

フミが言うには、隠し通路から行った地下の先に、上階と比べて綺麗な施設があり、その先に開かない扉が存在していたという。聞いた話では電子ロックがかかっており、恐らく専門的な機材がないと開かないだろうということだった。

「あぁ、面白そうだな。」興味あるな、とクロは笑う。

「そう言うと思ってたぜ。ま、なんにせよお前が治らないと動けないけどな。」ゆっくり治せよ、とクロの肩を叩き、フミは自身の住居へと戻っていく。

クロもリリィを連れてホームから自室へと戻り、ベッドに寝転がる。

「傷、早く治さないとな。…しかし疲れた。」自分の部屋に戻った安心感で、意識が薄れて行く。

リリィは先ほど旧市街で購入した本を読み、クロは次の探索に向けて体を休めるのだった。

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