表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境銃士とAI少女  作者: 柏ちと
1/3

命なき少女との出会い

長らく続いた戦争に終止符が打たれ、世界全土を巻き込んだ"自滅"の末、一度終焉に向かって歩みを進めていた世界。


そんな時代に生きる希望を失わず、閉鎖された空間の中、スカベンジャーと言われ枯れた街に潜り込み、ガラクタや銃器、電気回路を収集し生きる為の糧とする。


決して彼らは英雄では非ず。

ただ、一人の人として生き延びる為に戦う、一行の物語である。

「・・・もう朝か。」狭いアパートの一室で俺は目覚める。

アパートと言っても、今となっては廃墟となった建物である。俺は、いや俺や他の住民は廃墟となった建物に住み着いている。


21XX年、第五次大戦勃発後、全世界を巻き込んだ戦争が始まった。


AIを搭載したロボットを駆使して戦っていく中、“勝てない”と悟ったA国は開発していたバイオテクノロジーを全世界に使用。そのテクノロジーと言うのは、死んだ生き物を動かすと言うもの。人間も例外なく動く。そして他の生者を“喰らう”敵味方の区別は一切なく、喰らわれた生者は死にいたり、動く屍となりまた別の生き物を喰らう。


そのようなウイルスが蔓延し、AIで稼働するロボットも制御出来るシステムがなければ、そして電力がなければ動くことも出来ない。電力を制御している工場にもそのウイルスが蔓延したのだろう。AIは止まり、人々は自ら銃を持ち戦いに赴く。しかし、もう相手は人だけでなく屍である。そこで戦線は崩壊、戦争は終止符を打たれた。


俺たちの住むこの街はその周辺地域と合わせて昔は“カントウ”と呼ばれていた。そしてその中でいつのまにか付けられていた名称、“B地区”と呼ばれる場所に住んでいる。


隔離されたB地区、俺や他の住民が住んでいる建物周辺は比較的安全なようで、動く死体・・・屍と呼ばれているそれは入ってこない。恐らく鉄格子で区切られているからだろう。


しかし、ここには何も無い。言葉のとおり、ここには物資というものが“何も無い”のだ。だから俺は、数年前に知り合った気のしれた仲間と廃墟に残されていた小銃を持ち、鉄格子の外に出て残された物資を漁っている。そんな俺、いや俺達のような物資を拾いに行くような連中を周りの人はスカベンジャーと呼んでいる。勿論、俺達だけでなく他の人間も物資を取らねば生きていけないので、互いに物資を取り合っている。


「今日は屍、結構いる感じだなぁ・・・。」クロはふと呟く。


隣でナイフの手入れをしていたリズは呆れたように、はぁ・・・とため息をつき

「アレが居ない時なんてないんだから、いつもの事だろう。」そう言い、ナイフを磨き終えた手をマシンピストルに伸ばす。


「アイツらは音に敏感みたいだし、目は見えないときた。なら音を出して誘い出し後ろから潰すのも良し、囮役が一点に集めて燃やすのも良しだ。ヘマさえしなきゃなんとでもなるさ。」そう言いながらメンテナンスを終えたハンドガンをホルダーに戻し、珈琲を飲む。


「俺のメンテは終わった。お前らのが終わったら教えろよ。」俺・・・クロは自分のハンドガンのメンテナンスをしながら、他のメンバーを見る。


「フミとソノナも行くんだよな」クロは近くにいる2人に話しかける。


「勿論行くさ。人数が多い方がやれることも増えるだろうしな。」武器であるサブマシンガンのメンテナンスをしていたフミは、珈琲を飲みながらそう答える。


「そうだね。それに生存確立が上がるならそれに越したことはないしね。」得意のショットガンのメンテナンスをしながら答える


「ところで、今日はどの辺まで行くんだ?」先にメンテナンスを終えていたイッチーが話しに加わって来た。


「そうだな。前に行った時は、工場までは行けなかったんだよな。」クロはそう言って珈琲を啜る。


「じゃあ今日は工場まで行って探ってみようか。」リズが会話に加わって来る。


「アイツらの持ち物も少し探りたいな。もしかすると弾薬とか持ってるかもしれない。」フミも会話に加わる。


「なら、工場の探索が目標で決まりだな。ついでにアイツらの持ち物の収集と。」クロはそう言って朝食として用意しておいたトーストをかじる。


皆各自の武器のメンテナンスが終わったようで、朝食のトーストをかじりつつ珈琲を飲んでいる。

メンバーの中ににリーダーというものが存在しない為、朝メンバー全員が集まるとこのような話し合いをすることになっている。


「じゃあ皆食べ終わり次第出発するとするか。」クロはメンテナンスを終えたセミオートライフルとハンドガンをしまい、黒いコートを着る。外は今は冬だ。なので少しばかり厚着をする必要があるのである。


「俺はライフルだからな。いつも通り、スコープを覗いてアイツらの動きと全体の位置を教えつつ動くよ。」クロはそう言いながら、少しばかり長い後ろ髪を結っていく。


「オレたちはいつも通り斥候役だな。任せろ。」そう言ってフミとソノナは互いに頷き合う。


「そしてイッチーがサブマシンガンで後退支援、リズは俺と同様動きの把握。いつも通りのやり方だな。」クロは仲間全体の動きや意思を把握するために順番に確認していく。


「まぁそれが今のとこ一番生存確率が高くて誰も失わないやり方だからね。」リズは、ふふっと笑いそう答える。


髪を結び終えたクロはリズを呼ぶ。


「おいリズちょっといいか?ちょっと一服、してこようぜ。」話したいことがあると目で伝え、伝わっているかは疑問ではあるが一服しに少し離れた窓際に行く。


「なんかあったか?」リズがクロに尋ねる。


「フミとソノナが若干突っ込みがちになってるだろ?多分気づいてたはずだ。そんで、実力的にも俺が言うよりリズ、お前が言った方が素直にある程度は制御出来るんじゃないか?だから、あの二人が出過ぎた時は頼みたい。」クロが若干申し訳なさそうにそう答える。


リズは、呆れた…と呟き「あのねぇ…私も含めてだけど、皆がお前のアシストを聞いて行動できるのは、お前を認めてるってことだ。それにこの長い付き合いなんだ。アンタの話を信じてるってことだろうが全く。」言い聞かせるようにクロに言う。


「あぁ…悪い。いつものことだから気にしないでくれ。だけど、一人で言うよりかは二人で言った方が効果は有りそうだろ?だから、それは頼む。」この通り!とクロは手のひらを合わせてリズに頼む。


「分かったよ。だから気にするなよ。お前がいざって時に迷ってたら、皆の動きもバラバラになりかねないからな。」仕方ないな、といった風にリズは肩を竦めて残った煙草を吸いきる。


サンキュな、と少し笑いクロも残りの煙草を吸いきって3人がいる広間に戻る二人。


「お待たせ、戻ったぞ。皆、行ける準備は整ってるか?」クロは他のメンバーに尋ねる。


メンバーは各々の武器をホルスター等に収めて、準備万端といった具合で待っている

「じゃあ、今日も頑張ってくぞ。スマホの無線もちゃんと使える。危ないときは退避することも考えてくれ、支援する。」クロはそう言って広間の扉を開け、4人と共に屍の蔓延る"外側"へと向かって行った。


"外側"には、住民が薬や食料を買うための旧市場と呼ばれる場所の裏路地の先に進んだ場所にある小さい時計塔のような場所から行ける。


最初は何もなかったが、時計塔の"外側"側のレンガを崩しそこから梯子をかけて出入りが出来るようにしてある。他にも出入り出来る場所があるようだが、基本的には他のスカベンジャーと鉢合わせてしまい奪い合い、悪ければ殺し合いになってしまう恐れがあるため自分たちで作った入り口以外では出入りはしないのである。


「さて…今日は入り口付近にはアイツらは居ないな…今の内だ、音立てるなよ。」クロはそう言って外側に降りて行く。


「工場を探索し終わるのが早かったらどうする?すぐ戻るか?」そう呟きながらフミが降りて行く。


「まぁ危険は避けたいけどな。負傷とかが少なくて治療道具を使ってなければ他も見てもいいんじゃないか?」リズはそう言って降りて行く。


「まぁ傷を負って進むのは流石に危ないしね。戻るならともかく、進むにしたらどれくらい時間かかるかわからないし。」そう言いながらソノナも降りて行く。


「とりあえず無理しない程度に行くしかないね。」イッチーも言いつつ降りて行く。


全員が降り切って、先に降りたクロとフミが周囲の警戒に当たる。今のところは居ないようだ。


「良し…いいな。ここから先に行くと民家が数件並んだ所があったよな。屋根伝いに移動するか。フックロープも持ってきてるからある程度の高さなら降りれる。」そう言い周囲の警戒をしつつ先に進んでいく。


索敵しつつ進んでいき、5人は小さめの小屋と民家が並んだ一角に来た。


「よし、ここから上がれそうだな。」クロはそう言ってフックロープを小屋の屋根に掛ける。


「先に俺が上がるから哨戒を頼む。」クロは屋根に上り、屋根の上に障害がないか確かめる。


一応の安全を確保したところで、バッグに入れていたロープ梯子を屋根に掛けて下に降ろした。


「いいぞ、皆上ってくれ。周りは俺が見てる。」クロは姿勢を低くしつつ、双眼鏡で周囲を見渡す。


他の4人が上り終えたことを確認して、斥候役であるフミとソノナに先を任せ、引き続き後方から民家付近の敵の索敵をする。どうやら、民家の先にある教会周辺に固まっているようだ。


「ちょっとさきではあるけど、この先にある教会の周りに結構な数がいるな。どうする?」クロは4人に聞いてみる。


面倒だな。そんな顔をしてリズが言った。「なら進行方向の反対側に連続で音を鳴らして、注意が逸れたら移動しようか。」


「爆竹か。どのくらい持ってきてるんだ?」フミが尋ねる。


「投げる量にもよるが、数分は鳴らせるくらいは持ってきたぞ。」当然だ。という顔でリズは言う。


「おーけー、なら問題ないな。爆竹を鳴らしている間に梯子を下ろして移動しよう。」そう言ってクロは4人と共に進みつつ、索敵を続ける。


しばらく並んだ民家の屋根上を移動して、教会の手前で丁度よく低い建物を見つけた。


「ここかな。アイツらが近いけど、さっき言っていたやり方で頼む。」爆竹を投げるそぶりをして、クロは屋根に梯子を掛けて降ろしていく。


「ん、いいぞ。俺は周りを見てるから皆降りてくれ。」そう言いながらクロは爆竹を投げるリズの横で索敵に移る。


「私は最後に投げて降りるから、クロ、お前が先に降りろ。」しっし!と手で払う動作をして、リズはクロを降ろさせた。


「リズ、降りたぞ。」民家の下でハンドガンを構えながらクロはリズを呼んだ。


「了解、もう降りる。ヤツらは反対側にほとんど行ってるようだから、すぐに抜けちゃおう。」降りながらリズは言った。


教会の横を抜けて、工場に向かう。そしてある程度の距離を索敵しつつ、斥候、支援、索敵と役割を持ちながら、なるべくヤツらを避けて進んでいく。各々のハンドガンにはサプレッサーも付いているので、一匹だけの孤立した屍などは頭を撃って倒していく。もう死んでいる以上、"倒す"という言葉が正しいのかはわからないが。


そして、工場までもうすぐだというところで、パァン!!と一つの銃声が5人の先の方から響いた。


「クソが。どっかの馬鹿がビビッて銃を撃っちまったのか。」面倒くせえ、と呟きながらフミは言った。


「後ろにいるヤツらも今の音でこっちに集まるかもな…どうする?」イッチーは怪訝な顔をして言う。


「今のとこはまだすぐには来てないみたいだな。銃声からしてほぼ真正面。外に戻るより、正面突破して工場に籠ったほうが早いんじゃないか?」クロは、はぁ…と溜め息をついて答える。


「銃を撃った前にいる奴はどうする?」ソノナは尋ねる。


「俺らがやられるわけにはいかない。前に進んでそいつがいたら、リズ、爆竹をそいつの足元にぶん投げてくれ。」にぃっ…とクロは口元を少し歪ませてリズに言う。


「囮か。私も考えたけど躊躇いなくよく言うな。」嫌になるねぇ、とリズは言う。


「まぁ仕方ないさ。音を立てず襲われたのならともかく、音を立てたんだ。それはそいつの自業自得ってやつだろう。」そういうもんだろ。とクロは肩を竦めた。


「工場に入ったらどうする?扉を閉めるのは前提として、中にヤツらがいたら。」イッチーは尋ねる。


「んー、まぁそれは…。」クロは言葉を区切った。


「「「「「全部殲滅すればいい話か。」」」」」満場一致であった。いつものことではあるが。


フミとソノナが先に走り、それに続きイッチー、リズ、クロの三人も音の元に走る。


数分走ったところで、4匹程度に囲まれて動けずにいる男性を発見する。


「おい、アンタら!助けてくれないか!?」男性はこちらに気づき、応援をと必死に叫んでいる。


「うん、銃撃たなかったら助けてたかもね。だけど、もうすぐ他のヤツらもここに集まる。俺らが巻き添え食うのは御免なんでね。」クロは吐き捨てるようにそういうと、リズ!と合図を出し走り続ける。


「任せろ。」リズは短く呟くと、持っていた爆竹を未だ叫んでいる男性の足元に投擲する。


他の場所から集まってきたヤツらは、男の叫び声と爆竹の騒音に釣られていく。


走り続け、無事に工場に辿り着き、5人が中に入ったことを確認して扉を閉める。


幸い、工場の中の見える範囲にはヤツらはいないようだ。


「とりあえずは一安心ってとこだな。」クロは呟く。


「全く。人を見捨てたばっかの人間の台詞とは思えないな。」リズはふぅ…。を息を吐き呆れた目でクロを見る。


「仲間を囮にして逃げたのならともかく、仲間全員を無事に生かすために選んだんだ。他人なんて見てられる余裕ないだろ。」好きでやったわけじゃないぞ、とクロは言った。


「さて、一応安全確保しなきゃね。フミ、行ける?」気は抜けないから、とソノナは言った。


「いいよ、閉所だしある程度で別れて無線で話した方がいいかもな。行こうかソノナ。」ハンドガンを持ってフミは答える。


「何かあったら教えるよ。とりあえず集合場所は今の場所で。」行ってくる。とソノナは言って、フミと探索に出ていく。


「俺らも見回りに行きますかー。」クロは準備をして、リズとイッチーを呼ぶ。


「あぁ、行ってみるか。」リズは体を鳴らし、いつでもいいぞと待っている。


「俺はここにいるよ。ヤツらが入ってこないとも分からないし、扉が破られないとも限らないし。」罠でも仕掛けておく。と今入ってきた扉を見ながらイッチーは答えた。


「了解。でも、絶対無理はするなよ。少しでも危ないと思ったら直ぐに呼んでくれよ。」悪いな、とクロは言った。


リズと共に工場を探索して分かったことは、ここはかつてAIロボットを作る工場であったこと。工場の隅々に電源回路と思わしき残骸と、おそらくはかつて事務所であった場所に放置されていたファイルなどを見たところAIに関する記述が見られた為だ。一応軍事的なものを作っていた工場だ。もしかすると、武器となるものが保管してあるかも知れない。


「皆とは逆側を周ってみたけど、資料はあったが、他には何も無さそうだな。」読んでいた資料を戻しつつクロは言った。


「みたいだな。そういえば地図を見つけたんだが、どうやら地下があるみたいだな。入り口は遠くない。」そう言ってリズは地図を取り出し、クロに見せる。


「本当だ。地下も中々広いな。フミとソノナに伝えて、俺たちは先に降りてみるか。」クロは言いながらスマホを取り出し、無線を繋げる。


「どうしたクロ、なにかあったか?」応答したフミとソノナが聞く。


「いや、こっちも特には何もなかった。ただ、地下に続く道があったから俺たちは地下に行ってみる。」歩きながらクロは二人に答えた。


「地下か、なら俺たちも向かおう。どこから行けるんだ?」フミはクロに尋ねる。


「俺たちの方からだから、二人とは逆方向になるな。」探してみる、フミは言って無線を切った。


少し歩くと、リズとクロは地下に続く階段を見つけた。電気が切れているのか薄暗く、懐中電灯で照らしながら進むことにする。


しばらく進むと、大きめの広間に出た。


「うわ…上の階になにもいなかったのはこういう訳か…。」クロは顔を引き攣らせて呟く。


恐らく元は実験場か何かだったのだろう。或いは機械のテスト場だったのかも知れない。広間の半分を巨大な檻で仕切り、仕切った檻の奥には何十匹といったヤツらが蠢いている。


ギシギシと檻を鳴らし、くぐもった声と異臭を放ち檻の奥に隔離されていたのだ。


「あの量はヤバイな。可能なら出てほしくないもんだ。」そう言いリズは嫌な目でヤツらを見る。


「檻の前に他に行く道があるし、そっちを周ろうか。」ここには長居したくない、とクロは言う。


「そうだな。さっさと見てくか。」リズも同意し、探索に戻る。


薄暗い通路を照らしながら進むと、枝分かれした通路に出る。


「どうする?アイツ等は閉じ込められているし、今の内に手分けして見て回るか?」クロは尋ねる。


「そうだな、じゃあ私はこっちを見てくる。」そう言ってリズは別の部屋の探索に向かって行った。


「俺も他の場所を見に行きますか。」クロはぐっと背伸びをして、索敵に移る。


他の場所を見て周ったが、上の階層と状況はあまり変わらなかった。実験室のような所もあるにはあるが、やはり電源回路が捨てられていたりしていた。


またしばらく探索を続けると、ロッカーが並んだ場所に出る。


「ロッカー、ねぇ。開けてみるか。」何気なく呟き、扉に手を掛ける。


ぐっと力を入れ開けようとしたものの、どうやら鍵が掛かっているようで開かなかった。


「鍵かぁ、諦め…るとでも思ったか。」どれにとも言わずクロは呟き、ピンを使ってピッキングをする。

カチャカチャ…とピンを少しずつ動かし、当たりを探っていく。今までも鍵を開けるためにピッキングしていたクロは慣れた手つきでピンを動かしていく。


やがてカチャンと音を立て、鍵が外れたようだ。


「よっしゃ、見たか俺の腕を。」暇なのか誰がいるわけでもなく呟く。


「どれどれ、なにが入っているのか…。」クロは扉を開け、ロッカーの中を覗く。


「なるほど、外れじゃなかったみたいだ。むしろ今の俺たちにとっては幸運だったかもな。」そう言ってクロが手にしたのはアサルトライフルだった。


他にも弾薬が複数入っており、数日戦闘をするには十分な量があった。


「これは珍しいな…本物は初めて見た。」クロが見つけたのは、ロッカーの隅に立てかけてある刀。

鞘を抜くと、今まで放置されていたとは思えないほどに綺麗な刀身をしていた。


「後で皆に見せてみよう。他にも銃が残っているし、今はこの場所を伝えないと。」自分一人では持ちきれないので、皆で必要な物資を持っていこうとクロは無線を繋ぐ。


「皆聞こえるか?」クロは無線を通じて見つけた部屋の様子を伝える。


「どうした、クロ。何かあったか?」無線に出たフミはクロに尋ねる。


「皆はすぐ出ないか。フミ、場所を教えるから、俺のいる部屋まで来てくれないか?」いいものを見つけた、とクロはフミに答え場所を教える。


「遠くはないな…。うん、了解、すぐに向かうよ。」フミは待っててくれ、と言い無線を一度切った。


クロの話声が聞こえたのか、他のへ部屋の探索が終えたリズが部屋に入って話しかけてくる。


「クロ、何か見つけたのか?」リズが部屋を見回しながらくクロに聞く。


「リズか。丁度いい、このロッカーの中を見てみてくれ。」ついさっき見ていたロッカーを指さし、クロは見てみるようにとリズに促す、


「こいつは…こんなところに銃器を保管していたのか。」先ほどクロが手にしたアサルトライフルを見てリズは呟く。


「その奥も見てみろよ、刀もあるぞ。しかも刀身はかなり綺麗だ。」クロは他のロッカーのピッキングをしつつ、刀好きだろ?と横目でリズを見ながら笑う。


「よく分かってるじゃないか…本当だ、すげー綺麗だな、この刃。」鞘から刀を抜き、刀身を眺めながら呟くリズ。


「閉所だと危ないけど、外とかでヤツらを狩る分には申し分ないかもな。特にリズはサブマシンガンとマシンピストルだから、背中に背負えたり出来るだろうし。」いいんじゃないか?とクロは刀を収めるリズに言う。


その後もピッキングのためにロッカーのカギをピンで弄るクロ。カチャカチャと器用にピンを回していき、やがてカチャン、と鍵の開く音がする。


「よし、こっちも空いたな。」言いながらクロはロッカーを開けると、中にはマークスマンライフルと呼ばれる銃が入っており、いくつかのだ弾薬も置かれていた。


「へぇ、こんなのも置いてあるのか…。」マークスマンライフル…ドラグノフと呼ばれる銃を手にしてクロは呟く。


「ほお、ドラグノフじゃないか。お前の好きな銃の一つだったよな。」こんなところにあるとはな、とドラグノフを見つめて言うリズ。


「好きだな。スコープも付け替えられるし、俺はこいつを使おうかな。」少し嬉し気な顔をして、クロはドラグノフを背負う。


「待たせたな、やっと来れた。」地味に広いな、怠そうな顔をしてフミとソノナの二人が部屋に合流した。


「あれ、イッチーは居ないの?」ソノナが疑問な表情を浮かべて尋ねる。


「あぁ、イッチーなら出入り口に罠でも張って見張ってるってさ。」先ほどイッチーと別れた際に話したことを二人に伝える。


「危なくなったら無線で呼べって言ってあるから、呼んでないってことは今のとこは大丈夫なんだろう。」リズが問題ないだろう、と答えた。


「そっちは了解。で、なにがあったんだ?」早く見せろよ、と言うような表情でフミはクロに尋ねる。


「実は銃器がいくつかこのロッカーに保管してあってさ。皆で持って行こうかと思ったんだ。」クロは開いているロッカーを指さし、見てみなよと二人に促す。


「アサルトライフルに予備の弾薬…そっちのロッカーには小型のクロスボウもは入ってるな。」音が鳴らないから便利かもな、とフミはクロスボウを手に取る。


「俺が持ってるこれは、そのクロスボウの隣にあったやつだ。」クロはドラグノフをフミに見せる。


「あぁ、クロはドラグノフ好きだものな。良かったじゃないか。」かはは!とフミは笑う。


「暫くは使おうと思うよ。…まだ開けてないロッカーが3か所程あるから、そっちも開けるな。」そう言って他には何があるのだろう、とピッキングに移っていくクロ。


「そういえば、フミとソノナは何か見つけたか?」リズは二人に尋ねる。


「俺たちの方には特には武器とかはなかった。ただ…。」フミが少しだけ言いよどむ。


「資料室みたいなとこがあってさ、そこで幾つかのデータを見たんだ。」ソノナは気になることがある、とデータの詳細を話し出す。


「詳しいことは分からないんだけど、どうやらここで開発していたAI…つまりロボットなのかな。それをこの地下のどこかに武器と一緒に隠してあるみたい。」もしかしたら、とソノナは武器のあるこの部屋を見回し、あるのでは、と呟く。


話をしている内にクロはピッキングを終えたようで、カチャンという鍵の開いた音が響いた。


「よし、開いたぞ。こっちの中身はなんだろう。」武器があるといいな、と若干楽しそうにクロは呟いて扉を開ける。


ロッカーを開けると、中には軽機関銃が入っていた。M249、ミニミ軽機関銃と呼ばれる銃だった。


「まじかよ、軽機関銃まであるぞ…しかもミニミだ。」こんなものまで保管してあるんだな…とクロは呟く。


「イッチーは支援がメインだから、イッチーにこの機関銃渡したらいいんじゃないかな。LMG好きだったと思うし。」弾薬もあることだし、とソノナは言った。


「他に入ってるのは…SCAR-LとP90か、いいんじゃないか。」リズはロッカーの中を覗きながらいい銃があったな、と呟いた。


「まぁ他のは誰が使うかは置いといて、一旦持ち帰りたいな。」フミとリズが持ち帰るために銃をバッグに入れていく。尚、機関銃については大きさが大きさなので背中に背負う形となった。


「さて、こっちが一先ず最後のロッカーだな。」クロは言いつつ、ピッキングを急ぐ。


カチャカチャとピンを回し、やがてカチャン、と音が響き鍵が開く。


ロッカーの扉を開き、クロは中を覗いたまま固まってしまっていた。


「なんだこれ…女の子か?」クロはそれだけ呟く。


中に入っていたのは、クロが呟いた通り、女の子であった。


透けるような白い肌。そして華奢な身体つき。見間違えるはずがない。


しかし、なぜこのような所に女の子が。


「ロボットは少女の形をしているらしい。そして、開発プロジェクトの名前はrealityと呼ばれていたそうだよ。」ソノナが少女を見ながらクロに言った。


「プロジェクトreality…現実を追及したのか。そして、この女の子がそのAIの少女だと?」クロは信じられないという顔で少女を見つつ、ソノナに言った。


「分らない。けど、この子がAIの少女だと言うのなら、ここに入っていたことも資料の通りだしまだ納得出来ると思う。」ソノナが答える。


「柔らかい。これがロボットか…どんな素材で作ったんだろうな。」クロは少女の肌を触りながら言った。


「この子がいるということは、どこかに動力源になるコアがあるはず…?確か資料にはそう書いてあったんだよ。」はっとしたようにソノナは言った。


「そういえば、ターミナル…大型のPCだったか、私が見つけた中にrealityと文字が打たれたチップのようなものがあったな。」リズはそう言ってポーチからUSBカードのようなものを取り出す。


「この子、背中の一か所に窪みがあるな。もしかしてそのチップを入れるのか?」試してみよう、とクロはリズからチップを貰い、少女の背中に埋め込む。


『起動確認。コア認証。機体のセットアップを開始します。』少女が口を開いた。


「え、今ので起動したのか?電源とかはいらないのか?」嘘だろ、クロは呟く。


『回答、私はAI搭載の完全自立型のオートマタです。私には電源となるものが必要ありません。』AIの少女は答えていく。


「完全自立型オートマタ…この工場はそんなものを完成させていたのか。」クロは噂には聞いていたが、とAI少女を凝視する。


『セットアップ失敗。人格データに破損が見られます。セットアップを続けるのなら、人格データの初期化を推奨します。』AI少女は言った。


「それを初期化すれば君は動けるのか?」リズは興味ある、と話しかける。


『回答、肯定。人格データを初期化してセットアップを完了すれば行動は可能です。』AIの少女は淡々と答えている。


少女のセットアップを完了しないと少女の自由は効かないという。


しかし、その瞬間慌てた様子で4人の無線に工場の入り口で見張りをしていたイッチーの無線が繋がる。


「おい、お前ら。皆いるのか?ちょっと面倒になってきたぞ。」イッチーが少々慌てた様子でせつめい言う。


「どうした?何かあったか?」リズはイッチーに説明するよう促す。


「それが、入り口前で見張ってたんだが…どうやら原因は分からないけど、音を立ててないのにヤツらが扉の前に集まって来てる。」ヤバいかも知れない、とイッチーは状況の説明をしている。


「確かに少々面倒だな…イッチーが一人と言うのもちょっと心配だ。」クロは渋い顔をして、一度戻るか、と他の3人に提案する。


「俺も賛成。危ない状況は避けなきゃな。」フミはソノナと頷き、先に行く、と先ほど手にした装備を手にしてイッチーのもとに走っていった。


「リズ、お前は行かないのか?」少女のセットアップを待つクロはリズに尋ねた。


「お前がその子に付いてたら、身を守るのが難しくなるだろうが。」リズはそう言い、腰に刀を収め、何時でも戦闘を行えるように準備している。


「まぁ…そうだな。悪い、護衛頼んだ。」クロは今まで使っていたライフルを一度解体してバックにしまい、先ほど手にしたドラグノフ狙撃銃をメンテナンスしている。


「しかし、本当お前ドラグノフ好きだよな。」隅々までメンテナンスをしているクロに、壁に寄りかかりながらリズは言う。


「なんでかねぇ。好きなんだよな、狙撃銃としてはスマートな感じとか特に。」好きだなー、と呟きつつクロはメンテナンスを終了し背中に背負う。


リズと話していたが、少女のセットアップは終わらない。


「弾薬もあるし、戦闘は可能だな。なるべく音は出したくないけども。」出来る限りヤツらの相手はしたくない、とクロは渋い顔で言う。


「まぁ、その為に私がいるんだ。刀ならでかい音が出ることもないだろうしな。」試し切りも兼ねてな、とリズはニヤリと笑いクロに言った。


クロとリズが話していると、また無線が繋がる。


「…ふぅ、俺だ、聞こえているかクロ?」フミが少し呼吸を荒げて言う。


「あぁ、聞こえてる。息上がってるな、そっちの状況はどんな感じだ?」クロはAI少女のセットアップを横目で見つつ、フミに状況を確認する。


「おう、こっちはイッチーが設置してたトラップで数体足止めしてる。一応、少しは持つだろうが、なるべく急いだほうが賢明だろうな…。」フミは面倒だな…とため息をつく。


「悪い、こっちもまだ動けそうにない。ただ、ヤバそうになったら言ってくれ。」無理はするなよ、とクロはフミに伝え一度無線を切る。


『セットアップ状況70%。最終セットアップに入ります。』AI少女はそう言いセットアップの終わりが近いことをクロとリズに伝える。


「む、もう暫くか。早く終わると良いんだがな。」ようやくかな、とクロは背伸びをする。


最終セットアップに入ってしばらく、唐突に無線に声が入る。それは、焦っているイッチーやソノナのものだった。


「やばいぞクロ!外の入り口周辺で誰かが音を鳴らしてやがる!!」なんなんだよ!と苛立ちを隠せない声でフミは言う。


「一応ここから見えるが、数は3人…ハンドガン撃ちまくってやがるな、一体何考えてんだ…!」訳わかんねぇぞ!と怒鳴るイッチー。


そして、無線越しに外からの声が拾われる。


「おい!テメェら見えてるか!?」ハンドガンを撃ちながら、外にいるであろう男の声が響く。


「オレ達は、さっきテメェらに囮に使われた男のチームだ!!」憎悪を込めた声で男は叫ぶ。


「はぐれちまったダチを探してたのによぉ、もう少しって所でテメェらの囮にされちまった…!助けようとしていたのに…!!」声を震わせて男は叫び続ける。


「絶対に許さねぇ。ここでお前らも皆殺しにしてやる…!」復讐してやる、と男は怒りを放つ。


「あぁ、さっきの奴のお仲間さんか。」クロは無線越しに声を聴き、今の状況を把握する。つまりは俺たちが生き延びるため選んだ選択に、巻き込まれた仲間の敵討ちって所か。


「クロ!これは流石にヤバイぜ!数が多すぎる…!」フミは焦りを隠せずに声を荒げる。


「しょうがない、行くしかなさそうだな。」クロは武器をホルスターに全てしまうと、AI少女に尋ねる。


「なぁ、君。セットアップ中に動かしても大丈夫か?仲間がヤバイ。」クロはなるべく冷静に少女に問う。


『問題ありません。ただ、過度な衝撃はデータの破損を招くので戦闘は非推奨です。』少女はクロを見て淡々と答える。


「おーけー、動かせるなら問題ないな。…リズ!バックアップ頼むぞ!」クロは聞くや否や少女を抱えて、部屋の扉を蹴り開ける。


「任せろ!全て潰してやるぜ。」触れさせねぇよ、とリズはニィっと笑い、クロの後を追う。


クロとリズは少女を連れて入り口を目指す。その頃、ソノナ達は敵の数の多さに防衛を強いられていた。しかも、ヤツらだけではなく相手には人間もいる。


「せめて、クロとリズが合流するまではここに入れねぇようにしないとな…!」イッチーはそう言って、隙間から入ってきたヤツらの一体の頭を、付近にあった金属パイプで力の限り叩き砕く。


「やるねぇイッチー。負けてらんねぇな。」フミは言うと、窓から顔を覗かせた一体の首をナイフと腕力でへし折る。


「全く。だけど、ここでやられるわけにはいかないからね。」鉄パイプを揮いつつ、ソノナは言う。


扉の外からは、未だに複数の銃声と叫び声が響き続けている。狂ったかのように銃を撃ち、屍を引き寄せ、自らも死ぬかもしれない状況を作り出している。


「これじゃあキリがないな…ここからじゃ外にいる輩も撃てないときた。しばらくは防衛線か。全く、嫌になるねぇ。」フミはチッと舌打ちをして入り口の隙間から伸ばしてくる首を力の限りへし折っていく。


「ツイてない…マジでツイてないな!!いい加減にしろよ、この野郎…!」キレ気味になりながらもイッチーも持っている鉄パイプで殴り続ける。


しばらく時間が経った。クロとリズは少女と共に地下を走り続ける。上層が近づくにつれ、外から聞こえる銃声や扉が軋む音が聞こえ、次第に大きくなっていく。”早く行かなければ”そう思う気持ちが足を速め、上層が目の前に迫る。


「リズ、上層に出たら入り口から外に思いっきり遠くに爆竹をぶちまける。そしたら…あとは思う存分に暴れてくれ。」好きなだけ試し切りしてこい、とクロはリズに言う。


「はっ…上等!お前は死ぬ気でその子護れよな。」凶悪な笑みを浮かべ、リズは走りながら腰に下げている刀に手を添える。


「おい、テメェら!待たせたな!!反撃開始と行くぞ!!」クロはフミ達に叫ぶ。


上層に入るクロとリズは入り口に駆け寄り、クロは大量の爆竹を外にばら撒く。


「リズが刀で一暴れするそうだ。地下で手に入れた武器もある、一気に道を作るぞ…!」クロはハンドガンを手にして扉を開け放つ。


「なるほどな。作戦指揮をしなかったことには一言言いたいところだが、状況は概ね理解した!」任せろ、とライフルを持ち、外に群がる大量のヤツらに銃口を向け、撃ち抜く。


「全く、遅いぞ!俺たちだけでトンズラしちまうとこだった!!」イッチーはサブマシンガンをヤツらに向け、頭を狙い撃ち抜いていく。


「まぁ、この大群でそんなことしたら、あっという間にオダブツだろうがな!」ソノナはショットガンで応戦しつつ、あははと笑う。


「さぁて…一つ、遊んでやるか。」リズは刀を抜き放ち、ヤツらを次々に切り伏せていく。


白い銀髪をなびかせ、敵を切り伏せ間合いを取り、刀に付いた血を払い落とす。その姿を例えるとしたらまさに夜叉。白夜叉とでも表現するのが分かりやすいだろうか。


イッチーやソノナが敵を撃ち抜き、リズが切り伏せて道を開く。瞬く間に周囲はヤツらの残骸に溢れている。その光景はさながら地獄のようである。しかし敵は今回、屍だけではない。仲間を失い復讐に狂った数人のスカベンジャーが前線で戦うリズやフミに銃口を向ける。”ガギン”と金属を打ち付ける音が響く。


「やらせる訳ねぇだろうが、たわけッ…!」クロは片手に握っていたハンドガンで彼が放とうとしている銃を撃ち抜き、弾き落す。


その瞬間、片手で抱きかかえていた少女が、言葉を紡ぐ。


『セットアップ100%完了、マスター認証を開始します。コードネーム"reality"聞きましょう、貴方の名前を。』少女は変わらず淡々と話し、クロに向けて尋ねる。


「俺はクロだ!動けるのか、お嬢さん!?」一心不乱に走りながら、クロは少女に尋ねる。


『回答、稼働可能。マスターネーム"クロ"これより貴方をマスターとし、防衛行動を開始します。』少女はそう言って体を動かすと、クロの腕から離れ地面に降り立つ。


少女はクロ達が進む方向へ駆け出し、大量に屍に向かい手のひらを真っ直ぐにかざす。次第に手のひらから光が溢れ『バースト。』少女がそう呟くと"ドォォォォォォ!!"と、凄まじい爆発音を発して前方に群がっている大群を一瞬の内に灰へと変えていく。


「マジかよ…半端ねぇな…」フミは顔を若干引きつらせ、少女と灰と化した屍の大群を見る。


少女は気にもしない様子でクロの方へと駆け寄っていく。


『マスター、前方の敵正反応は消失しました。行きましょう。』少女は表情を変えずにクロに言う。


「すげぇな。これが研究の成果ってやつなのか…。いや、今はどうでもいいか、さっさと行かないとな」クロはドラグノフを抱え、少女が焼いた道を駆ける。


先ほど銃を向けていた復讐しようと目論む彼らは、"彼女"を目にして戦意消失したらしくいつしか姿は消えていた。


どのくらい走っただろうか。敵を撃ち抜き、時には焼き、切り伏せ、走り抜ける。今まで、これ程までに銃を抜き弾丸を撃ち、戦った事があっただろうか。決して乱射などはしないが、正確に弾の一発一発をヤツらの眉間に撃ち放つ。そして、いつしか"外側"に入ってきた入り口の時計塔に辿り着く。


「ようやく着いたな…!早く登れお前ら!!」クロは周辺遠巻きに爆竹を投げて、追ってきている屍を誘導していく。


「全員登った!後はお前とその子だけだぞ!」リズはクロに向かって叫ぶ。


「了解!お嬢さん、そこの梯子から皆のところまで登ってくれ!なるべく急いで!」周辺を警戒しつつ、クロは少女に言う。


『ここから登るのですね、了解しました。マスターもお早く。』そう言って少女は、梯子を使わずに"直接"時計塔に飛び、入る。


「早く、とは言ったがまさか飛ぶとはな…今行く!」クロは苦笑して、足早に梯子を上りきり、拾い上げる。


一同は少女を連れ、ホームに戻った。


「…はーーーー疲れた!死ぬかと思ったわ!!」クロは椅子にもたれ掛かり、深く息を吐いた。


一同は各自、各々武器のメンテナンスや休憩をしている。クロは少女を余っている椅子に座らせ、少女のことについて聞き出そうとしていた。


「…そんで研究の成果の君が、ヒト型の兵器で、さっきヤツらを焼いたのもお嬢さんの兵装って訳だ。」とんでも兵器だなぁ…とクロは少女に言う。


『肯定。プロジェクトrealityの研究により開発は終了したものの起動するまでには至らなかったようです。私の中の開発ログもそこで途絶えています。』変わらず、少女は質問に淡々と答えている。


「なるほどねぇ…しかし、いつまでもお嬢さんじゃ呼びにくいな。他に名前とかはないのか?」クロは少女に尋ねる。


『否。開発コードである"プロジェクトreality"以外、私に名称は在りません。しかし、現マスターである貴方には私の名称を変更することが権限により可能です。』少女はクロにそう答える。


「俺が名前を付けられるのか…いや、一応他の奴の意見も…」そう言ってクロはリズ達に目を向けようと振り向こうとする。


しかし、クロが目を向けるまでもなく後ろで会話を聞いていた皆は、クロに言った。


「「「「まず俺らマスターじゃないし」」」」見つけたのもお前だろうが、と呆れたように言う4人。


「まぁ確かにな…それじゃあ、"プロジェクトreality"から取って、"リリィ"。リリィにしようか。」どうかな?とクロは少女に目を向ける。


『名称変更を承諾。変更名称、"リリィ"。これから宜しくお願いします、マスター。』リリィは少しだけ笑って、クロに答える。


「今笑ったか、その子!?」おぉ!とフミ達は興奮気味に声を上げる。


「あぁ、これから宜しくな、リリィ!」ニッと笑ってクロは少女に言う。


「リリィの服とか用意しなきゃだなぁ。」クロはそう呟き、リリィの頭を撫でる。


これから始まることを知りもしない彼らと、命なき少女は出会い、物語は幕を開けるのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ