異星人の遺産
ある時、宇宙を漂う巨大なリング状の物体を人類は発見した。
最初はアマチュア天文学者だ。
角度によって発見は困難なものだった。
しかし幸運が味方したのだろう。写真に写り込んだ。
最初はすぐに見つからなくなり、幽霊やお化けとしてオカルト扱いで相手にされていなかった。
だが、いくつも同様の話が上がり始めた。
それらを取りまとめて、それが実在すると分かる。
その移動速度からかなり近くに存在していると考えられて、調べていった。
実際にそれが太陽系内に存在していた。
しかも人類が手の届く範囲だった。
その軌道が計算され充分に調査が可能と分かる。
それから調査団ができ、調べられることになった。
それはリング状の人工物であった。
異様に巨大でもあった。
文字が刻まれ、何かの構造を持っていた。
文字の解読。
そのために考古学者たちが集められ、言語学者が頑張った。
構造の解読。
建築のプロ、物作りのプロたちが調べた。
そうやって一つ一つ調べて行った。
だが、解読には時間が掛かりそうなことも分かると、軌道をズラすことが決まる。
そうやって、それを人類のものとして手に入れたのだった。
そうして時間を稼ぎ、初の地球外生命体 ―― いや地球外知性体というべきか ―― の存在を示すものとして入念な調査が引き続き行われた。
月日を数えること幾星霜。
それが発見されてから長い事、時間がかかった。
そして、解読された巨大構造物が何のための物かが判明した。
大勢が喜んだ。
一部の聡いもの達が苦笑を浮かべた。
それは加速器だった。
荷電粒子加速器ではない。
人とかも加速可能な、重力波を用いた加速器だった。
リング状の周りから巨大な岩石を中心へ向け加速し、途中でリングを円盤に見立ててのその面に垂直な一方へと向きを変えさせて、その時生じる重力波によって中心のある範囲に同時に加速を与える装置だそうだ。
これによってロケットなどの強力な加速によって潰れるということはなくなる。
これを用いて太陽系外への進出を多くの者が企んだ。
今、一つの探査機が加速されていった。
周辺宇宙の調査を進めることにしたものたちが四方八方に探査機を加速させていた。
それを見ていた科学者の一人が呟いた。
「あ~あ、勿体ない」
「ん、どういうことですか?」
近くにいた人物がその科学者に訊ねる。
「だって毎回毎回膨大なエネルギーを費やして、作っては壊しを繰り返してるのを見るとな」
「えっ? どういうことですか?」
「そのままの意味だが」
その怪訝そうな人物に科学者は教える。その人物はここの職員のようだった。
「相対論って知ってるよね」
「ええ」
「じゃあ特殊相対論は?」
「分かりますよ、ここにいるんですから」
ある程度の知識がないと調査団には入れない。だから納得。
「じゃあ、ローレンツ収縮も知っているよね」
「もちろんです」
元気よく答えてくれる。
「じゃあ二つの同じロケットがあったとしよう」
説明を始めるため、例えを考えながら話す。
「進行方向にある距離を挟んでね」
相手の反応を見ながら続ける。
「私たちから見て同時に加速を始める。するとどうだろう。その間の距離は変化しないことは分かるよね、我々から見て。ただし観測というわけではないよ」
相対論の話では視点というものが重要になってくる。そのため強調する。
「観測というものは光という有限の速度であるものを媒介するため、距離によって観測されるものには遅延が発生するからね。座標系での話だよ」
相手の予備知識が分からないため、回りくどく話す。
「ロケットが光速近くまで加速したとする。ここで視点をこのロケットに移すと、ロケット同士の距離はどうなるでしょうか」
「えっ」
始めは困惑していた職員。
次第に理解し始めたのか、顔面が蒼白になっていく。
説明しなくても、もう分かったのかな。
静止している観測者からは、特殊相対論から運動物体がその速度に応じてローレンツ収縮する。
二つのロケットは収縮してるだろう。進行方向に縮んでいる。
その間の間隔は逆に広がっているはずだ。
これをロケットを原子、二つのロケットを同一の加速をする一つの物体だと例えて考えるならば。
潮汐力で引き裂かれているような状況だろうな。
今、送られている探査機のように……
その異星人の遺産は、ゴミとして捨てられたのかも知れない。
重力とは非常に弱いため、作品内の物を作れても効率はかなり悪くなります。
作品内でのように壊れる程の加速は実現しないでしょう。
不可能とは言いませんけど。
ですので、この部分でのツッコミはご遠慮ください。
それでもツッコミたい人はいくらでも。
これは一種の重力波発生装置ですね。
重力波の検出器で検出も、したのでしょう。