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巻き込まれて異世界召喚、その果てに  作者: ねむねむ
十章 王道を歩む者
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七話

続きです。

 シャルロットの説明は時折テオドールの補足がありつつも順調に進んでいった。

 やがて全てを話し終えた時、竜の長は重い息を吐いた。


「アインス大帝国の侵攻、か……。どうやら現皇帝とやらは祖先から悪い部分を受け継いだらしい」

「彼らが持つ飛空戦艦は脅威です。南大陸を征服した以上、いずれは他の大陸へと侵攻を企てる可能性があります」

「恐らくそうするであろうな。あ奴らにとって世界統一は第二代皇帝以来の悲願である故な」

「……それはどういうことでしょうか」


 シャルロットの疑問に、老竜は嘆息交じりの言葉を吐き出す。


「初代皇帝リヒトは一瞬とはいえ〝魔族〟を下し、他の三種族と協調していたことで間接的に世界統一を成し遂げた。だが、それは刹那の事――〝英雄王〟シュバルツが姿を消したことで一瞬で瓦解した」


 僅かに生き残った〝魔族〟は大戦末期の戦いの影響で陸地のほとんどが水没した中央大陸に逃れ、他の三種族は〝獅子心王〟への不信から同盟を破棄して各々の大陸へと引きこもった。

 その後、初代皇帝にして初代〝人帝〟となったリヒトは建国直後のアインス大帝国の内政に注力し、死の間際に己が子の一人に帝位を継承してこの世を去ったという。


「才気に溢れ、指導者として優れていたあ奴の最後の汚点――それは後継者選びに失敗した事だ。二代目のアインス皇帝となった男は常に至高ともいうべき存在であった父帝と比べられ続け、心を病んだ。彼は先代皇帝を超えるという一点にのみ執着し、それは先帝が成しえなかった真の世界統一によって達成できると考えたわけだ」


 そこからの大帝国は先帝の内政優先の政策から一転、軍拡路線を突き進んでいくことになる。

 されど、どれほど軍事力を強化しても、大戦の影響で航行不能となった外海を渡ることは叶わず、〝英雄王〟の失踪後分裂した南大陸を再統一することも叶わなかった。


「第二代皇帝は病でこの世を去るその瞬間まで世界統一の夢を後継者に語り続けていたという。そしてそれは歴代皇帝にとっての悲願となり、帝国は軍事国家の道を往くことになったのだ」


 その呪縛ともいうべき願いは千年に渡って続いた。それは千年後の第五十代皇帝――大帝国の歴史上初の女帝によって一度は晴らされたという。


「余も二百年前に邂逅した〝黒天王〟の眷属から聞いた話故、あまり詳しくは知らぬ。その辺りはそなたらの方が詳しいのではないか?」

「……そう、ですね。二百年前のアインス女帝が活躍した〝解放戦争〟では我が国も当事者でしたから」


 アインス大帝国と同じく千年の歴史を誇ったエルミナ聖王国が滅び、エルミナ王国が誕生した歴史的な出来事があった時代だ。秘された歴史の裏側はエルミナ王家の直系に口伝として伝わっている。

 だが、それには言及せずにシャルロットは話を戻した。


「かの女帝は確かに偉大でした。……けれども初代皇帝と同じく、後継者選びには失敗したと言わざるを得ません」

「そうであろうな。でなければ再度世界統一などと愚かしい願いを抱くはずもない」

「……〝竜帝〟陛下、現在のアインス大帝国は千二百前にこちらに侵攻を企てた〝魔族〟とは何もかもが異なります。軍事力、技術、士気、金銭、特異な力を持つ個人――全てを持っているのです」

「…………我が〝竜王族〟が破れると?」

「誠に恐れながら……その可能性があります」


 最強種である〝竜王族〟に向かって敗北を示唆する物言い――激昂されても仕方のないことだとシャルロットは思ったがそれでも告げた。今の大帝国なら本当にあり得ると考えていたからだ。


「現在、かの国には二百年前と同じく〝英雄王〟の末裔がいます。かの者は我が国への侵攻軍に参加しており、その姿も確認できております。彼が指揮する〝天軍〟と黒竜の紋章旗も」

「――なるほど。それは看過できぬ話だな」


 これまでの歴史上、〝英雄王〟の末裔を名乗った者はそれなりにいるが、本物であるとされたのは今より二百年前にアインス大帝国に姿を現した少年のみであった。

 彼は〝英雄王〟が身に纏っていた〝天銀皇〟を有し、〝天軍〟や当時まだ存在していた〝緋巫女〟のお墨付きを得て直系の子孫だと認められ、皇家に迎え入れられた。

 その後は勲功を積み重ねていき、大将軍となったが、第一次宗教戦争――〝解放戦争〟と呼ばれた大戦の中で二つある戦争の前半部分――でエルミナ側に討たれて戦死したとされている。

 それ以降、〝英雄王〟の末裔が表舞台に姿を現すことはなかったが、数年前に再びアインス大帝国に出現、現皇帝に認められて皇家に迎え入れられ、更には大将軍の地位も与えられたのである。


「今のアインス大帝国は高い指導力を持つ皇帝と高い人気を誇る〝英雄王〟の末裔がいる状態です。そこに加えて二百年前まではなかった航空能力があり、神剣所持者も要しています。大帝国史上、最も勢いのある状態だと申しても良いでしょう。〝竜王族〟が最強種であることに疑いはありませんが、それでも個ではなく集団での高い結束力を持つ今の大帝国を前にしては単独種族で抗えるとは思えません」

「…………」

「どうかお力をお貸し頂けませんか?かつてのように四種族連合でなければ抗えないほどの脅威が迫っているのです!」


 シャルロットは声を昂らせて訴えるも、玉座の老竜は瞳を閉じて黙したままであった。

 痛いほどの沈黙が流れ――やがて瞼を挙げた〝竜帝〟(バハムート)は一行を見回して、最後に眼前に立つシャルロットにその爬虫類の如き縦細の瞳孔を向けた。


「……余はもはや世界のことなどどうでも良いのだ。我が一族と子を喪い、更には信を寄せていた〝英雄王〟すら存在せぬ世界など、どうなろうが知ったことではない」

「そんな……!」

「だが――」


 悲痛な声を上げる少女――その小さな肩に背負っている重みを一種族の王として理解する〝竜帝〟は言葉を続けた。


「〝天の王〟の加護を受けし者、そして〝夜の王〟と我が愛娘に認められし者に配慮し――機会を与えよう。かつて余が〝人族〟の英傑たちに与えたように、汝らに試練を与えよう。それを見事乗り越えた暁には……同じくかつてのように種族を挙げて協力すると誓おうぞ」

「ほ、本当ですか……!?ありがとうございます!」

「喜ぶのはまだ早い。何せそなたらに課す試練は千二百前よりも難しいやもしれぬからな」


 その言葉に一瞬不安を覚えたものの、もはや先に進むしか道はない。故にシャルロットは意を決して尋ねた。


「その内容とは……?」

「力を失っている〝天銀皇〟を復活させること、そして〝竜の巫女〟として各種の竜王に認められてくることだ」



*****



 同時刻――北大陸南部、寒冷地帯。

 この地は千二百前に起きた〝闇竜〟種と〝双星王〟率いる英傑たちとの戦いによって草木も生えぬ荒野となり、その後強烈な冷気を放出するようになった中央大陸(ファンタズマ)の影響で生命の息吹無き極寒の世界となったいわくつきの場所である。

 現代では冷気耐性を持つ魔物や〝冷たき獣〟が跋扈する危険地帯となっており、最強の個である〝竜王族〟ですら近づかない大地となっている。

 そんな終わりきった地に一人の少年の姿があった。

 年は十二歳ほどで吹雪に溶け込むような銀髪に、爛々とした光を宿す紅眼を持つ少年は、吹きすさぶ猛吹雪を意に介していないのか、呑気と言えるほど軽い足取りで雪原を歩いていた。

 だが、不意に背中に痛みを覚えて立ち止まり顔を顰める。


「完治したはずだけど……神剣の攻撃だったからかな、まだ時折痛む」


 少年は以前に西大陸でとある神剣所持者と戦い背中に手傷を負った。

 それはこの大陸にくるまでに治したはずだったが、時折痛みが奔るようになっていたのである。


「……忌々しい。今度会った時は絶対に殺してやる……っ!」


 怨嗟の声を吐き出した少年は痛む古傷を務めて無視すると再び歩を進めた。

 目指す先は古の時代に激戦があった場所――北大陸南部の中心付近である。


「目的であった〝星辰王〟の在否は確認できた。後はこの地で〝竜王族〟の眼を引き付けるほどの事象を引き起こし、東大陸へと渡るだけ。……もうすぐ、もうすぐ我が君に会える。ボクの、ボクだけの〝王〟――〝陽の王〟さまに」


 少年は襲い来る魔物を手にする深紅の槍で屠りながら進んで行く。途中〝冷たき獣〟と遭遇しそうになったが、隠蔽魔法を行使し、息を潜めることで回避した。


「アレは危険すぎる。古き時代の怪物――全盛期の〝王〟や各種族の英雄たちですら殺しきることのできなかった化け物の瘴気から生まれているアレはボクでも勝てるか怪しいし」


 傲岸不遜、唯我独尊を地で往き、己が力に疑いを持たない少年であったが、全身から冷気を放出している獣だけは明確な脅威として認識していた。

 かつて世界を文字通り滅ぼしかけた存在が放つ瘴気から生まれ出でた、魔物とは異なる異形の存在――それが〝冷たき獣〟である。傲慢な性格の少年ですら畏怖するほどの怪物――故に彼は徹底して獣を回避し続けた。

 そして北大陸南部の中心――巨大な竜巻が雪を拭き上げながら天を貫いている光景を前にして喜悦を迸らせる。


「フッフフ……我が君の仰られた通りの現象だ。ならばあの中に封印(、、)されている存在も――」


 少年――〝日輪王〟の〝眷属〟であるナイトメアは両腕を広げて笑みを深めた。


「さあ――古き神話が目覚める刻だ!」

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