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巻き込まれて異世界召喚、その果てに  作者: ねむねむ
九章 明けぬ夜
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十一話

続きです。

 そこは全てが黄金色に染め上げられた世界だった。

 天壌無窮――何処までも果てしなき黄金の世界が広がっている。

 そんな輝きの世界にぽつんと佇む建造物が一つあった。

 これまた全てが黄金で形作られた悪趣味とも言える宮殿。

 無数の彫像も彫刻も純金で出来ており、奇妙なことに自ら発光している。

 その最奥に位置する玉座の間にアインス大帝国現皇帝レオンハルトは立っていた。


「相変わらず派手な住まいだな。こうも眩しくては目が潰れてしまうのではないか?」


 皇帝にのみ着用を許された外套を身に纏い、腰には神々しい直剣を吊り下げている。

〝若獅子〟の異名の元となった金髪金眼は初代皇帝から続く由緒正しい血統の証。

 放つ覇気は強大の一言であり、常人が相対すれば気圧されること間違いなしである。

 だが――彼の視線の先にある玉座に座する者は尋常ならざる存在であった。


「ハハハッ、だとしたらソイツが惰弱なだけだろうが。そんな弱者に気遣ってやる義理はねぇよ」


 唯我独尊、傲岸不遜――己以外のあらゆる存在を格下に見ているかのような態度で返される。

 超大国の皇帝に対する態度ではない。普通であれば不敬罪で処罰されるだろうが、玉座で笑うこの偉丈夫は許される。

 何故なら彼はこの世界(シュテルン)における頂点――古より君臨せし〝王〟が一柱なのだから。


〝日輪王〟(ソル)……そなたは変わらぬな。千二百年前からずっとそうなのか?」

「まぁな。俺たち〝王〟は不滅なる者であり不変なる者でもある。逆に言うとそれだけ強固な〝我〟を持たない者は〝王〟にはなれねぇのさ」

「……なるほどな。では余であれば〝王〟に成り代われるということか」

「フッハハ……!お前も出会った頃から変わらねぇな。俺を相手にその不遜な態度……悪くねぇ」


 そう言って破顔した偉丈夫――〝日輪王〟は金獅子の如き金眼を同色を持つ青年に向ける。


「聞いたぞ。南大陸では飽き足らず、他の大陸へ遠征に向かうんだってな。で、しかも向かう先は東大陸ときた」

「……何が言いたいのかは理解している。東大陸はそなたを崇める妖精族(フェアリー)たちが住まう地だ。自領を荒らすなと言いたいのだろう?」

「いや、別に。お前の好きにすりゃいい。〝人族〟に屈するというのなら所詮はその程度の種族だったってことだろ」


 自らを崇め奉る種族に対する態度にしてはあまりにも薄情なものであった。

 それに対して眉を顰めるレオンハルトの様子に〝日輪王〟は下らんと言いたげに片手を振る。


「妖精族は勝手に俺を自種族の神として奉っているだけだ。俺は〝星辰王〟や〝月光王〟のように自分から進んで一種族の庇護者を気取っているわけじゃねぇのさ。ま、そういった意味では俺は〝黒天王〟と同じ立ち位置だな」


〝黒天王〟を神として崇める種族は〝竜王族〟。だが、空の覇者たる彼らが〝天の王〟を自らの上位者として勝手に崇めているだけというのは歴史を鑑みれば明白なことであった。


(実際初代〝黒天王〟は竜王族の領土を破壊したり殺害したりすることがあったというし、二代目はほぼ不干渉を貫いている……)


 現在、唯一確認されている〝王〟の代替わりを果たした〝黒天王〟であるが、先代も当代も竜王族に神として接してはいない。二百年前の〝人魔戦争〟においても第二代〝黒天王〟は竜王族を庇護することはなかったという。


(だがそれでも問題はなかった。竜王族は単騎であっても強大な力を有しているからだ)


 同じく〝王〟の庇護がない妖精族であっても特異な力を有しており問題はなかった。精霊族や人族には〝王〟の庇護があったからこそ乗り越えられた厄災であった。

 

(しかし――その庇護は今の人族にはない)


 だからこそレオンハルトは決めたのだ。かつての帝位継承戦争時に出会ったこの〝王〟の協力を得ることを。人族を守護する〝王〟が不在のこの状況を打開する為に。


「だが今は協力してもらうぞ〝日輪王〟よ」

「分かってるさ。そういう誓約だからな。お前が所在不明(、、、、)の〝月光王〟を捜索している間、俺が人族の――正しくはアインス大帝国の守護者となる。それを違える気はねぇよ」

「……ならば良い」


 今回この場所を訪れたのはそれを再確認する為だった。彼を崇める種族の領土に攻め込んだとしても誓約を違えないという言質を取りたかったのだ。

 それは〝日輪王〟も感づいていたのだろう。彼はレオンハルトに苦笑を向ける。


「お前は心配性だな。確かに帝城からしかこの場所に入れないから、お前が大陸外へ出るに当たって俺に対する監視の眼がなくなる――だからきちんと誓約を履行するかどうかが不安なんだろ?」


 だが、と〝黄金の君〟は一笑に付す。


「心配はいらねぇよ。この俺が一度交わした誓約を違えるなんて姑息な真似をするとでも?天に君臨する日輪たるこの俺が?あり得ねぇな」


 確かにそれもそうかとレオンハルトは思った。かの〝王〟はどの〝王〟よりも自尊心が高く目立ちたがり――故に自ら誓った言葉を翻すような真似は行わない、というかできない。


(それは彼の強烈な自我に背く行為だ。〝王〟が〝王〟足りえるのに必要な〝我〟を自ら傷つけるような真似はしないか)


 ならば要らぬ心配、杞憂というものだったかとレオンハルトは嘆息する。けれどもそれだけ不安だったのだ。今の人族に〝月光王〟の庇護はない。加えて人族は五大系種族の中で最弱――他の〝王〟が率いる種族が侵攻してくれば被害は甚大なものになることは間違いなかった。

 南大陸を統一し人族の庇護者として〝人帝〟の座に就いたレオンハルトには不在の〝月光王〟に代わって人族を守護する責務がある――と彼は本気で考えていた。


「すまない。疑ったわけではないのだがな……」

「ああ、それは別に良い――それよりお前の方は誓約を守る努力はしてるのか?」

「……無論だ。その為にも南大陸を征服したのだからな」


 二百年前に人族の庇護者として〝人魔戦争〟を戦い抜いた〝月光王〟は戦後行方不明となっていた。

 その行方は先代皇帝ですら知らず、時の側近たちは口を噤んだまま墓の下に入った。その為、表向きにはアインス大帝国に居ることになっているが、実際には現在に至るまでかの〝王〟は所在不明のままである。


「帝国領はくまなく探したが発見できず、征服した他国の領土も空振りに終わっている。故に残る南大陸の半分――旧エルミナ王国領の捜索を現在行っている所だ。そこでも見つからなければかの〝王〟はこの大陸には居ない可能性が高くなる」

「面倒な話だな……。居場所が全く分からねぇのはアイツくらいなんだがな」

「……他の〝王〟の居場所は分かっているのか?」


 怪訝そうに尋ねるレオンハルトに〝日輪王〟は薄く笑む。


「まぁな。……〝星辰王〟と〝天魔王〟は中央大陸に、〝白夜王〟と〝黒天王〟は南大陸に居る。細かな居場所まで特定してねぇが、どの大陸に居るのかだけは把握している」

「待て、〝星辰王〟が中央大陸にだと?それに〝白夜王〟がこの大陸に居るのか?」


 初耳であった。故に驚きから声を上げるレオンハルトだったが、〝日輪王〟は事もなげに言った。


「ああ、そうだ。つっても〝星辰王〟があの終わりきった大陸で何をしているのかは知らねぇし、〝白夜王〟も少し前にあった時に殺しかけたからな。どちらも今現在の様子は知らねぇよ」

「……殺しかけただと?ならば何故その時に殺さなかったのだ?そなたの目的は――」

「今お前が思っている通りだ。だが、その時傍に面白い奴が居たんでな。どう転ぶか見て見たくなった――だから見逃してやったのさ」

「…………」


 くつくつと愉しげに肩を揺らす〝王〟にレオンハルトは内心で呆れかえった。目的を達成する為に必要な過程をわざわざ先送りにするなど彼には理解できない事であった。

 とはいえそれが〝王〟たる者でもあるかと思い直したレオンハルトはもう一つの疑問を口にしようとして――突如、膨大な魔力の気配を感じ取って後ろを振り返った。

 レオンハルトをして凄まじいと感じるほどの魔力量――これは神剣所持者に匹敵、否、それすら上回るほどではないのか。


「――噂をすればってやつだな。やっぱり面白れぇことになってきやがった」


 肩越しに振り向けば黄金の〝王〟は心底愉快だと言わんばかりに口端を吊り上げていた。その台詞からまさかという思いがレオンハルトの胸中に湧き上がる。


「……大帝都に〝白夜王〟が居ると?」

「さてな。だが、この気配は〝王〟のものだ。どいつにしろ〝王〟であることには違いねぇ。仮に探している〝月光王〟だとすれば灯台下暗しもいいところだな?」

「…………すぐに捜索に移る」


 嘲笑じみた言葉を受けたレオンハルトは踵を返して玉座の間を出て行こうとした。だが、ふとこれだけは確かめておくかと足を止めて半身を玉座に向ける。


「そなたが〝王〟の所在を気にするのは……やはり自分以外の〝王〟を消す為か」

「当たり前だろ?天に二日無し――世界に〝王〟は一柱だけで良いんだよ」


〝日輪王〟は何処までも傲慢に――そう言い切った。

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