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巻き込まれて異世界召喚、その果てに  作者: ねむねむ
八章 光明と代償
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エピローグ

これにて八章〝光明と代償〟終了です。

次話より九章〝明けぬ夜〟が始まります。

 かくして西大陸の動乱は終結した。

 部族長と指揮官を倒されたデモン族はそれから間もなく降伏。生き残ったデモン族の兵士達は領地に帰され、その沙汰は後日〝精霊帝〟によって下されるという。

 

「皆、よく戦ってくれた」


 天山頂上にある宮殿、カエルムの玉座の間に〝精霊帝〟ゼヒレーテの声が響き渡る。

 その声音に疲労の色は一切見えない。先日多数のデモン族を相手にたった一人で大立ち回りをしていた人物とは思えないほど平時と変わりない姿であった。

 

「まず〝人族〟――エルミナ王国亡命政府とは約束通り同盟を締結する。これは〝精霊族〟の長たる我の決定であり、我の意思は〝精霊族〟全体の意思である。よって〝精霊族〟全部族が汝らと同盟関係になる。……それでよいか?」

「はい、問題ございません。ありがとうございます」


 と首を垂れたのはテオドールである。他の面々も彼に合わせて一礼するが、その中に彼らの主たる第三王女の姿はない。彼女を誘拐したナイトメアが掛けた睡眠魔法が予想以上に強力であったため、その解呪の為に現在は宮殿の医務室にいる。

 下手人であるナイトメアであるがその行方は不明である。アルバが神剣〝照破〟で放った一撃が確かに当たったとのことだが仕留めるには至らなかったらしい。その事を恥じたアルバは今回の論功行賞を辞退してシャルロットが眠る一室の前に立って自主的に警護に当たっている。


「次にウンディーネ族族長の娘エピス、サラマンダー族族長のイグニス、ユニコーン族族長のテンペスト。汝らが望みはエルミナ王国亡命政府と共に往くことだったな。……良い、許可しよう。各部族には我から通達しておく」

「……よろしいのですか?」


 三者共各部族における重要人物である。故に簡単には大陸を離れられないと彼らは予想していたが、ゼヒレーテはあっさりと許可を告げてきた。


「良い、汝らは他大陸、他種族の元に赴き見識を広めてくるが良い。それに――ナイトメアの捜索の件もある。恐らくではあるが奴は既にこの大陸にはおらん。他大陸へ逃亡したと我は見ている。故にその捜索隊として汝らを派遣する、という側面もあるのだ」


 ナイトメアは精霊族でありながら他種族の〝王〟に仕える裏切り者である。しかも今回の騒乱の下手人の一人だ。種族全体の面汚し――種族の沽券にも関わってくるので見逃すわけにはいかなかった。

 そういった背景もあってゼヒレーテは彼らの旅立ちを許可したのである。

 その説明に納得したエピスたちは感謝を告げた。対してゼヒレーテは鷹揚に頷くと彼らの横で膝をつくシルフ族族長に声をかけた。


「シルフ族族長ローシャよ、汝が一族と領都を守れなかった失態は、此度の戦働きによって相殺するものとする。それでも罪を感じているのであれば、今後の復興に尽力せよ。ノーム族族長バロンを始め各部族から支援すると表明があった。彼らの助力を受け都を再建し一族を立て直してみせよ」

「っ……承知致しました。ゼヒレーテ陛下のご寛大なる処置、有難く頂戴致します!」


〝精霊帝〟の下した沙汰は寛大の一言である。本来であれば一族の多くを喪い領都まで失陥した族長など処罰されて当たり前――死罪すらあり得たのだ。それを不問にするばかりか他部族の支援すら受けて良いというのだからローシャは感極まって涙すら溢していた。

 そんな彼女に無表情ながらも何処か暖かな視線を向けていたゼヒレーテは最後に、と言って玉座の間を見渡す。

 だが、そこに目的の人物の姿はなかった。


「見事デモン族族長エクサルを倒した(、、、)勇者、アスカ・エモリに褒賞を、と言いたいところだが、どうやらいないようだな」

「申し訳ございません、ゼヒレーテ陛下。彼女は先の戦いで負傷し傷を癒やすために先に飛空艇に戻っております」

「…………そうか」


 奇妙な話である。負傷したというのならこの宮殿で治療を受ければ良いのだから。

 だが、そんな苦しい理由を述べてまで彼女が姿を見せない訳を察していたが為にゼヒレーテは追及せずに頷くに留めた。


「かの者には、褒美を与える。何時でも我が前に姿を見せよ、と伝えておくが良い」

「……ご配慮痛み入ります」


 と恐縮するテオドールから視線を外したゼヒレーテは顔を上向ける。

 硝子張りになっている天井から見える光景は蒼穹の空であった。


(アスカ・エモリ……二振りの神剣に同時に選ばれし者か)


 そのおかげで彼女はエクサルに勝利できたわけだが、得てして強すぎる力は所持者を傷つける諸刃の剣となり得るものだ。


(〝黒天王〟、貴様は一体何を考えている……?)


 胸中で問いかけても当然答えがあるはずもない。そもそもかの黒き〝王〟は二百年前に〝天魔王〟と共に姿を消している。


(〝星辰王〟様、我のこの決断は正しいものなのでしょうか……)


 この問いも当然答えはない。それにゼヒレーテが崇める〝精霊族〟の神はもう二百年も呼びかけに(、、、、、、、、)応えてくれてい(、、、、、、、)なかった(、、、、)




*****


 時を同じくして――西大陸南域南部ウンディーネ族領土。

 ウンディーネ族の領都であるリーヴにほど近い位置に待機させていた飛空艇オルトリンデの前に明日香は立っていた。その手には二振りの神剣が握られている。

 

「……それで、一体何の用?お礼参りにでも来たのかな?」


 殺気のないその声は彼女の背後に立つ大男に向けられていた。

 エクサル――彼はすんでのところで自らの核を守り抜き消滅を免れていた。

 それでも身体の再生には時間を要し、明日香ら〝人族〟がこの大陸から離れる前に何とか間に合ったというところであった。


「いや、違う。あそこまで完膚なきまでに敗れたのだ。今更足掻くなどというみっともない真似はしない」

「じゃあ何?」

「再戦の約束を取り付けに来た」


 その言葉にようやく明日香が振り向いた。その双眸にエクサルが確かに映りこむ。


「俺は一族の命運を背負って戦い、負けた。こんな俺ではもう族長という立場は相応しくない。一族の皆もついてきてくれんだろうしな。だが、だからこそ一介の武人として俺は生きる」

「……その目標として私への再戦を?」

「そうだ。俺を倒したお前にもう一度挑む。これから鍛えなおしてな」


 そう語るエクサルの表情は晴れやかなものだった。まるで憑き物がおちたような、重い荷物から解放されたかのような晴れやかさ。

 そんな彼の清々しい戦意を向けられた明日香は――笑った。


「いいよ、また戦おう。あなたとの戦いは得るものが沢山あったし、何より……面白かったから」


 でも次こそは殺すかも、と告げられたエクサルもまた笑みを浮かべる。


「望むところだ。――殺せるものなら殺してみろ」


 そう返答して満足したのか、彼はその場を去っていった。

 彼の背が見えなくなるまで見送っていた明日香だったが、突如として上半身をくの字に折ると神剣を手放した。


「ごほっ、がはっ…………!」


 苦し気にせき込む明日香。慌てて口元を抑えるが、その手は瞬く間に真紅に染まった。


「はぁ、はぁ――……」


 過呼吸になりながらも激痛が奔る心臓を上から押さえつけて痛みが去るのをじっと待つ。

 二振りの神剣はそんな主を心配するように傍に浮かんでいたが、明日香は首を振って掠れた声を発した。


「……あなたたちの所為じゃない。これは……私の弱さが招いた事態だから」


 そして明日香は天を仰ぎ視る。何処までも広がる空は憎らしいほどに透き通っていた。


「私は、まだ――……」


 続く言葉は喀血によってかき消されてしまうのだった。

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