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巻き込まれて異世界召喚、その果てに  作者: ねむねむ
八章 光明と代償
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二十二話

続きです。

 翌朝。

 明日香とテンペストが忽然と姿を消したことに気付いた一同は出立前に顔を合わせていた。


「アスカ殿はどちらに……?」

「……おそらく姫殿下の元に向かったんだと思う。あいつはエクサルに一度負けているし、それに俺たちにとって身内を攫われるのは……もう御免だしな」


 困惑気なクロードの問いに新が答えた。

 その表情には苦々しげなものが混じっている。


(くそっ、お前も俺を置いて一人で行きやがって……!)


 かつてたった独りで決断し行動した結果命を落とすことになった友人――白髪隻眼の少年を思い浮かべてしまう。

 もうあの時のような苦い想いはするまいと思っていたのにこれだ。

 新は胸中で明日香に毒づくが、今から追いかけるわけにはいかない。これから相手をするのは神剣所持者、しかも率いている軍勢はこちらよりも兵数で勝っている。戦力の分散は危険だった。

 故に新はこちらに向かって歩いてきた法衣を纏った少女――〝精霊帝〟に頭を下げる。


「ゼヒレーテ殿、姫殿下のことは勿論ですが、あの馬鹿達のこともお願いしたく……!」

「皆まで言わずとも良い。それにあの娘とテンペストの失踪は、ナイトメアの襲撃に気を取られ、その後の宮殿内部からの気配消失に意識を割いていなかった我の失態でもある」


 だが、とゼヒレーテは見る者によって色合いの異なる双眸に覇気を宿して告げた。


「これ以上の失態を重ねる気はない。それにこれまでの失態を挽回する意味合いもある。故に約束しよう……あの者らを無事連れて帰ると」


 汝らは――という続きに新が頷く。


「こちらは早急に進軍中のセラフ族に合流し指揮官のアルバ殿と共にナイトメア率いるデモン族別動隊を討ちます。ナイトメアをこちらにくぎ付けにできれば、東のデモン族主力にはエクサルしか強者がいないことになる。そうすればゼヒレーテ殿の負担も減りましょう」

「感謝する。我も後れを取る気はないが、流石に神剣所持者が二人相手では人質の安全を確保することが困難になるであろうからな」


 そう返したゼヒレーテは〝人族〟の面々を見回す。テオドール、クロード、カティア、新――出会ってからまだ日は浅いが、誰もが信用を宿した眼差しを返してくれる。

 残る〝精霊族〟の二人――エピスとイグニスは全幅の信頼を寄せた眼を向けてきている。

 この感じは久方ぶりだとゼヒレーテは思った。過酷で苦しかったが、それでも頼れる仲間に背中を預けて戦った日々――千二百年前を想起させる光景だと感傷に浸る。

 だが、それも僅かな間だけのことで、ゼヒレーテは感傷を意識の片隅へ追いやると宣言した。


「往くぞ――出陣だ」



*****



 一方その頃、天山からシャルロットを連れ去ったナイトメアはデモン族軍主力が集結している中央との境に建造された砦に戻ってきていた。


「ふん、これが〝人族〟か……我らと比べて脆弱な体内保有魔力だな」

「それは仕方のないことさ。ボクたちのような純粋な魔力の塊である〝精霊族〟とは違って〝人族〟は肉体という〝器〟に〝魂〟と〝魔力〟を宿すことでやっと稼働できる存在なんだから」

「面倒な仕組みを持つ種族だな……よくこんなんで千二百年前に天下を取れたもんだな」

「それは一部の突出した傑物達が居たからさ。でなければ五大系種族中最弱とされる〝人族〟が一時とはいえ世界を支配出来るはずもない」


 だが、それが〝人族〟の強みであるともナイトメアは思っていた。

 種族全体が危機に晒された時、一部の稀有な力を持つ強者が生まれ、種族を導いていく。

 それは個々が何かしらの力を持つ他種族においては基本的に確認されない現象であった。


(でも、だからこそ面白いし……何より強大な存在の〝器〟と成り得る肉体を確保するのに最適なんだよねぇ)


 この世界において一部の強者は〝器〟である肉体を滅ぼされても〝魂〟単体で存在し続けることができる。

 けれども現世に力を行使するためには〝器〟が必要になってくる。その際に〝器〟として強者の〝魂〟を入れても壊れない肉体が必要になってくるのだが、そういった者はほとんど現れない。

 過去には強者自らが〝器〟を創り上げようともしたが、何千何万という失敗の末にたった一つ――しかも奇跡的に――しか生み出せず、非効率が過ぎるとそのやり方は捨てられた。

 故に自然に現れるのを待つしかないのだが、強大な存在に耐えられる肉体を持つ者は何故かその悉くが〝人族〟からしか現れなかったのだ。


(だから〝王〟たちは挙って南大陸――〝人族〟に干渉するってわけだ。自分たちが今使っている〝器〟が古くなった際や壊れた際に乗り換える新たな〝器〟を選定する為に)


 ナイトメアは現〝精霊帝〟の姿を思い浮かべる。騙し騙し使っているようだが、あの〝器〟はもうじき限界を迎えることだろう。昨日遭遇した際に感じたが、今の〝精霊帝〟にかつての力はない。

 否――かつての、全盛期の力を出せないほどに〝器〟が古くなり弱まってしまっているのだ。


(所詮は千二百年前から使用している〝人族〟の〝器〟だ。当時の最高位に属する〝器〟だったようだけど……時間の流れには勝てないといったところかな)


 具体的な来歴は知らないが、かつて〝星辰王〟と〝獅子心王〟が手ずから選んだ〝器〟だと聞いている。自然の神と人造の神の二柱が選んだとなれば千二百年も持っているという奇跡にも頷けるというものだ。

 けれども確実に力が弱まっているのは事実だ。ならばかつては〝王〟とすら単騎で渡り合えたという〝精霊帝〟に対して勝機は見えてくる。

 

「ゼヒレーテと会ったけどかなり弱体だったよ。あれならボクたち二人がかりでなくとも勝てるね。なんなら今からボクが首を取ってこようか?」


 慢心とも取れるその発言に、司令官室の簡易寝台に横たわるシャルロットを眺めていたエクサルが振り向いた。


「いや、奴は――奴だけは俺が殺す。そういう約定だったろ?」

「……そういえばそうだったね。なら、ボクはセラフ族族長のアルバの相手をしてこよう」

「気を付けろよ。アルバは下手をすれば今の弱体化したゼヒレーテより手強い可能性がある。それにあいつが所持している神剣はかなり厄介だ。お前の神剣では相性が悪い」

「分かっているさ。だけど問題はないよ。ボクには〝王〟の加護がある」


 そういって笑うナイトメアにエクサルは不信を宿した眼を向けるが、次の瞬間には消して重々しく頷いた。


「ならアルバは任せる。奴を討った後はそのまま東進してユニコーン族領都を落とせ。そうすれば天山攻略の際に邪魔をしてくる者はいなくなる」

「〝人族〟は?」

「お前の方に向かうか俺の方に来るか、あるいは天山に留まるか。何れにせよ大した障害にはなり得ないだろう。神剣所持者もいたが、まだ半覚醒にすら至っていなかった。あれなら即殺可能だろうよ。唯一懸念があるとすればあの女(、、、)だが……」


 エクサルの脳裏に過ぎるのは二振りの刀を振るう少女の姿だ。あれは異常だと交戦した彼は直感している。あれは人の形をした――……。


「……いや、あの女も問題にはならねぇな。俺の守りを突破出来なかったし、最後に負傷させた。ゼヒレーテが治療したとしても今すぐ完治とは行かないだろう」


 とエクサルが首を振って自分の考えを否定すれば、ナイトメアは興味深そうに瞳を輝かせた。


「へぇ、キミがそこまで言う相手となるとかなりの強者じゃないか。教えてくれよ、どういうなりなんだい?」

「……黒髪黒目の〝人族〟の若い女だ。二振りの刀を振るって同志たちを切り刻んでやがった。近距離で放たれた闇属性魔法を避けるすばしっこい奴でもある」

「それは……何とも面白い存在だねぇ」


 闇属性魔法は七種ある属性魔法の中で最も殺傷能力の高い魔法だ。何せ当たればほぼ確実に殺せる。

 普通それを理解していれば闇属性魔法を操る存在に近距離戦闘を仕掛けようなどとは思わない。

 しかし敢えてそれをやったのだとすればよほど無謀な者かあるいは勇気ある者か――。


(どちらにせよ面白い。そういった気骨のある〝人族〟は総じて〝器〟としての適性が高いし)


 ならば是非とも会ってみたいものだ。

 ナイトメアはそう考えながら寝台で眠る金髪碧眼の少女に近づく。

 何の不安もないような快眠を貪る〝人族〟――だが、彼は仕える〝王〟から少女が何者であるかを聞かされていた。


(あの〝聖王〟の末裔、か……。ならばその血が流れるこの〝人族〟は〝器〟足りえる)


 そうでなくとも〝天銀皇〟に選ばれた存在だ。色々と使い道はある。

 この戦いが終わった後はエクサルからこの少女の所有権を頂くとしよう。

 そう考えたナイトメアは口端を吊り上げ喜悦を示すのだった。

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