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巻き込まれて異世界召喚、その果てに  作者: ねむねむ
八章 光明と代償
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十七話

続きです。

 野営の準備を終えたことで男性陣は川へ、女性陣は食事の準備を始めた。

 野営地に料理をする楽し気な声が響く中、明日香はテンペストの監視と周辺への警戒を兼ねて焚火の準備を行っていた。


「美しきお方――」

「その呼び方は止めて」

「では……我が主とお呼びしても?」

「……それでいいよ」


 野営地周辺で薪になりそうな小枝を集める明日香についてきたテンペスト。

 彼の姿をちらりと見やる明日香であるが、その白き馬体から強者の気配を感じ取って目を細める。


「あなたは強そうだね。一度私と試合ってみる?」

「ご冗談を。私には敵を屠る牙はあれど主を傷つける牙は持ちえません」

「……そっか、残念」


 予想していた回答に明日香は言葉とは裏腹に残念がる素振りを見せずに会話を続ける。


「それで、ユニコーン族の長がこんなところに居ていいの?確かデモン族とかいうのが侵攻してきているって話だったと思うけど」


 明日香のその言葉にテンペストは忌々し気に唸り声を上げた。


「あの蛮族共のことですか。まあ、確かに厄介ではあります。現にこの森林地帯の大半を占領下に置かれてしまっていますからね」


 ですが、とテンペストは南の空を見上げる。雄々しき一角が木漏れ日に照らされて煌めいた。


「我らがユニコーン族は精強ですし、何より〝精霊帝〟様とアルバ殿がおられる。神剣所持者のお二方が健在である以上、戦局の巻き返しはそう難しいことではないと私は見ていますよ」

「……その二人はそんなにも強いんだ」


 明日香の気配が僅かに変化した。けれども気付かずにテンペストは続ける。


「ええ、無論です。アルバ殿は違いますが、〝精霊帝〟様は千二百年前――あの大戦期から生きておられるお方ですからね。その力はまさに神話級、折り紙付きですよ」


 手放しで絶賛するテンペストに明日香は小枝を拾いながら口端を歪める。やはり世界は広くまだまだ見知らぬ強者が蠢いているようだと喜悦を深めた。

 と、その時――微かな、本当に僅かではあったが何者かの気配を感じ取って明日香は素早く顔を上げた。


「……どうかされましたか?そこには何もいませんが……」

「…………」


 視線を上げた先には誰もいなかった。ただ木立が広がっているだけ。

 現にテンペストも何もないと言っている。だがしかし……。


「……ううん、何でもない。気のせいだったみたい」


 小枝も十分に集まった。もう野営地に戻ろう。

 そう判断した明日香は手に抱えた小枝をテンペストに装着させた鞍の脇に入れてきた道を戻り始めた。


「…………」


――その背中を先ほどの木立から覗き見る少女の姿には気づかずに。



*****



 神聖歴千二百年十月三日。

 西大陸中央部南西――シルフ族の都ウェントゥス。

 森と共に生きる種族であるシルフ族の都は巨大な木々を活用した自然と調和する都市である。

 居住空間は大木の一部分をくり抜いた場所であるし、人工的な建造物はほとんど存在していない。

 これは大自然と共にあるがままに生きるという教えのあるシルフ族ならではの造りと言えた。

 そんな自然豊かで穏やかな雰囲気が漂うはずの都は今――悲鳴と怒号が飛び交う戦場と化していた。


「皆殺しだ!一人たりとも逃すな!!」


 ウェントゥスに破滅を齎した男――デモン族族長のエクサルは筋肉質な巨体を惜しげもなく晒して大声を発していた。

 その周囲では彼の命令に従うデモン族たちが闇属性魔法を放ってシルフ族を攻撃していた。

 無論、シルフ族も無抵抗というわけではなく風属性魔法を駆使して抵抗しているのだが、あまり意味を成していない。

 これはデモン族が破竹の勢いで侵攻出来ている最大の理由でもあるのだが、闇属性魔法は攻撃という一点において他の属性魔法より頭一つ抜きんでている為である。

 闇属性魔法は簡単に言えば破壊の魔法である。闇属性魔法の最も基本的なものは、黒い魔力球体を放つものであるが、それに触れた物質はその魔力球体に吸い込まれる(、、、、、、)のである。

 そして吸い込まれた物質はこの世から消滅する。故にシルフ族が風属性魔法を放っても吸い込まれて無力化されてしまうのだ。

 その為、ある者は放った魔法ごと黒い魔力球に吸い込まれて絶命し、またある者は魔力球を避けようとして身体の一部分だけを欠損してしまい絶叫するなどしていた。


『ふざけるなっ!こんな一方的な……許さぬぞォオオ!!』

『奴が司令官だ。魔法を奴に集中砲火しろ!』


 まだ抵抗する意思のあるシルフ族が果敢に立ち向かい、護衛を突破してエクサルへと襲い掛かる。

 だが――、


「ふんっ、温いな」

『何ッーー!?』


 風刃、風弾――全ての魔法がエクサルの巨体に弾かれてしまう。闇属性魔法で身を守った様子もなく、シルフ族の眼には筋肉で魔法を弾いたように映った。


『そんな馬鹿な……』

『ッ、ならこれはどうだ――!』


 一人のシルフ族が背中の羽を高速で動かし勢いよく接近、エクサルへ風を凝縮して生み出した剣を突き刺した。

 しかし――近距離から放たれたその刃ですらエクサルの身体に傷をつけることすら敵わない。


「どうした、今何かしたか?」

『ふ、ふざけ――ガァァ!?』


 シルフ族の決死の突撃を鼻で嗤ったエクサルはそのまま彼女の頭を片手で掴む。

 そしてその握力だけで握りつぶした。魔力で構成されたシルフ族の身体は一瞬の内に霧散する。

 あまりにも圧倒的な光景を前に他のシルフ族たちの戦意が低下していく。

 だが、そんな絶望的な状況にあっても一部の勇敢なシルフ族たちは戦うことを止めなかった。


『長たちの状況は!?』

『既に都を脱し北へ向かっております!』

『なら良い。後は一人でも多くの同胞を救い撤退するだけだ!』


 そのシルフ族は種族の中でも副族長という立場におり族長に次ぐ実力者であった。

 本来であれば族長が指揮を執り、副族長はその援護をするのだが、族長には一族の戦えぬ者たちを連れて都から脱出してもらっている。

 故に今回の陣頭指揮を彼女が執っているのだ。

 そんな彼女の元へ一人の少年がやってきた。銀髪紅眼の人族でいうところの十二歳くらいの見た目をしている。


「それは無理かなぁ。キミたちは今からここで死ぬからね」


 場違いなほどに軽薄な声で少年は死刑宣告を行った。その手にはおよそ少年が持つに相応しくない物騒な槍が握られていた。

 血のように濃い深紅の槍――禍々しい気配を放っている。

 副族長はその槍を文献で見たことがあった。〝星辰王〟より授けられた〝精霊族〟の神剣。


『〝絶滅〟……よもやその槍と直接相まみえることになろうとはな……』

「ん、なんだキミ、この子のことを知ってるのかい?」

『知っているさ……所持者を悉く喰らう妖槍の類であるとな」

「ハハハ、まぁ間違ってはいないかな。この子はちょっとばかり凶暴だからねぇ」


 会話の最中襲ってきたシルフ族たちを深紅の槍――神剣〝絶滅〟(トリシューラ)を軽く振るって殺害した少年は微笑む。


「この子が悦んでいるよ。久しぶりに殺しが出来るってね」

『……薄気味悪いガキだ。お前に――ッ!?』

「五月蠅いねぇ」


 一瞬のことだった。副族長が悪態をついている最中に少年が〝絶滅〟を投げ放ったのだ。

 放たれた深紅の槍は副族長の身体を貫通してその奥に鎮座していた都一大きな巨木に突き刺さる。

 すると次の瞬間――巨木が爆散(、、)した。


『副族長が……!?』

『そんな……我らの神木が――』


 悲惨な光景を前にシルフ族の戦意は遂に地に墜ちた。抵抗する意思をなくしたシルフ族たちは更に一方的にデモン族たちに屠られていく。

 その結末を齎した少年は口端を吊り上げて笑みを深める。

 そんな彼の元にエクサルがやってきた。


「随分と派手にやったな」

「やるからには徹底的に――そう言ったのはキミじゃないか」

「ま、そうだがな。……それにしてもお前の神剣は相変わらず恐ろしいな」


 エクサルの言葉に少年――ナイトメアは肩を竦めて見せた。彼の手元にはいつの間にか〝絶滅〟が戻ってきている。


「キミの〝破邪〟の守りがあれば恐れるに足りないだろう?」

「どうだかな。確かに俺の神剣は守りに長けている。だが、それとは正反対にお前の神剣は攻めに長けている。まともにぶつかり合えば結果がどうなるかは分からんぞ」

「ふふ、ならその矛盾の答えを知るために戦うかい?」

「馬鹿言え。今はそれどころじゃないだろう」

「何か問題が?」


 ナイトメアが怪訝そうに言えば、エクサルは頷きを以て返す。


「セラフ族が動き出した。奴らの指揮をアルバが直接執っているらしい」

「へぇ……重い腰上げて遂に動き出したか。ゼヒレーテは?」

「相変わらず姿が見えない。まだ引きこもっているんだろう」

「はっ、流石は天下の〝精霊帝〟様だ。配下を戦場に送り出しておいて自分は高みの見物か」

「だが、これは好機だ。これまで俺たちは各個撃破を避けるべく行動を共にしてきたが、連中が二手に分かれるのなら俺たちも別行動で問題ないだろう」

「確かにね。神剣所持者であるボクたちが分散進撃出来るようになったのなら侵攻速度を速めても良いだろう」


 今後の方針は決まった。

 エクサルは軍を二つに分け、この場の指揮をナイトメアに任せると自分は〝天山〟を迂回しユニコーン族の都であるアストラへと向かうのであった。

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