プロローグ
お待たせ致しました。ゆっくりとですが投稿を再開致します。
第二部スタートです。
雪風吹きすさぶ極寒の世界にて二人の男女が対峙していた。
片や黒髪紅眼の大男――手には奇妙な粒子を放つ大槌が握られている。
「〝人族〟の猛者よ、もっとだ。もっと俺を愉しませて見せろ」
声音に宿るのは歓喜と愉悦だ。対峙する相手の強大さに湧き上がる喜悦は止まる所を知らなかった。
そしてその感情を向けられた相手――陽の当たり方では茶にも見える明るい黒髪の少女は俯いていた。
その手には刀身が折れた二振りの刀が握られている。
「……駄目、これじゃ何も変わってない。私は強く、誰よりも強くなくちゃいけないのに」
呟かれるのは強さへの渇望だ。それはまるで呪詛のように延々と少女の口から漏れ出ている。
「強くなければまた置いて行かれる。強くなければまた奪われる。強くなければまた失う」
気が狂いそうになるほどの渇望――それに応えるようにして突如少女の眼前に二振りの刀が現出した。
少女から見て右側に浮かぶのは純白の刀身が美しい刀で、左側に浮かぶのは金色の刀身が眼を引く刀であった。
見た目こそ違えども、どちらにも共通しているのは尋常ならざる覇気と魔力を放っているという点である。
唐突に現れた強大な気配を放つ二振りの刀に大男は眼を瞠っているだけだ。しかし少女は違う。
彼女は何の感慨も躊躇いもなく折れた二振りを捨て去るとそれらを掴み取る――と、二振りとも眩い光を放って新たなる主を祝福した。
次いで少女の頭に二振りの刀の情報が流れ込んでくる。濁流のように無軌道なそれに僅かに頭痛を覚えるも、彼女は無視して知識を吸収するのに務める。
そして得た情報は彼女が今最も望んでいたもので――故に自然と口角が上がる。
「あはっ……やっと、手にした」
そう呟き顔を上げた少女――その表情を見た大男は無意識に一歩、後退ってしまう。
彼の覇気が僅かに弱まったのを感じながら少女は嗤って。
「お望み通り愉しませてあげる――だからそんな顔しないで笑ってよ」
新たに得た相棒達を手に、雪深い地を蹴って天に飛翔した。




