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巻き込まれて異世界召喚、その果てに  作者: ねむねむ
七章 たとえ我が名が天に焼かれようとも
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二十二話

続きです。

「馬鹿な……っ!?」


 防御不可能攻撃、それが〝聖征〟(ロンギヌス)による〝絶天撃穿〟の恐るべき性質であったはずだった。これまで幾度もその攻撃によって敵を屠ってきた。

 けれども今まさにその常識を覆す前例が生み出された。行ったのはアインス大帝国、護国五天将が一人〝西域天〟ルキウス大将軍。

 そんな彼には所持しているある〝力〟が故にもう一つの名が与えられている。

 その名も――〝護皇〟。


「ふぅー……半ば賭けではあったけれど上手くいって良かったよ。それにこれで確信が得られた。〝神剣〟による攻撃は魔法である。もしくは魔法と同質――魔力を用いたものであるとね」

「……何言ってやがる。わけが――」


 と地に片膝をつき苦し気に浅い呼吸を繰り返すクラウスに、アルトリウスは額に浮かぶ汗を拭いながら笑みを向けた。


「僕の持つ固有魔法――〝反射〟(リフレクト)だよ。これは魔法攻撃を跳ね返すことのできる力なんだ。どうだい、中々凄いだろう?」


 クラウスはそう自慢げに語る皇弟に苛立たしさを覚えるも、内心では驚愕を抑えきれなかった。


(あり得ねぇ。いくら固有魔法だからってそんな破格の性能……あっていいはずがない)


 だが頭の片隅で何処か納得している自分がいることにも彼は気づいていた。

 そもそも固有魔法とは二百年前の〝解放戦争〟後に第二代〝人帝〟と〝魔王〟によって世界に魔力と魔法という概念が齎された際に、各種族に新たに生まれた数人の赤子が有していたことが発端となっている。

 その能力や性能は千差万別であり、時として魔剣所持者どころか神剣所持者とすら渡り合うことのできる力を持つ者も歴史上では何度か現れている。

 そういった過去がある以上、こうして神剣〝聖征〟と渡り合える力を持つ固有魔法所持者が居ても何らおかしくはないのだ。


(おかしくはねぇ。ねぇが……この局面で出てくるかよっ!)


 クラウスは己が不運を呪った。しかし直後に思い直して首を振ると〝聖征〟を支えに立ち上がる。


「……関係ねぇ。不運だろうが不幸だろうが理不尽だろうが――全部ぶちのめしてやる」


 元より勝ち目のある戦でないことは百も承知だ。それでも退かないのは背後に護るべき人々や国があり、傍に騎士として軍人としての在り方を示すべき部下たちがいるからだ。


「やれるやれないじゃない、やるしかないからやるだけ――か」


 クラウスは大将軍として後輩にあたる白髪の少年が発していた言葉を思い出して苦笑した。まったく馬鹿げた理屈無視の台詞――けれども不思議と心に残る言葉である。

 彼は頽れそうになる己が身体を叱咤して黄金の槍を構えた。その姿、放つ覇気に衰えは全く見られない。

 その事実に優位に立つアルトリウスはその端正な顔立ちから笑みを消した。


「まだやる気かい?その神なる槍では僕を仕留めることは出来ないと理解しただろうに」

「黙ってろ。そのスカした顔に大穴をぶち開けてやるよ」


 アルトリウスは一つの失態を犯していた。それは危機を回避した安堵と余裕からクラウスに己の固有魔法の詳細を明かしてしまったことである。


(魔法攻撃の反射ってんなら技を使わない通常の攻撃なら通るってことだろ。なら――)


 とクラウスは音もなく〝空絶〟を発動、空間を切り裂きアルトリウスの背後から刺突を放った。

 唐突な攻撃であったが殺気に反応したアルトリウスは身を捻りながら魔剣を振るう。結果、辛うじて穂先が脇腹をかすめるに止まったが直後瞠目することになる。

 何故ならクラウスが間髪入れずに二度目の空間跳躍を行ったからだ。


「何ッ!?」

「もらったぜ、くそ皇子!!」


 空を切る魔剣、背後から迫る凄まじい殺意、咄嗟に固有魔法を発動した感覚――それらを一瞬のうちに理解したアルトリウスは死を覚悟した。

 しかし――死は訪れず、代わりに女性の呆れたような声が耳朶に触れた。


「まったく、殿下は油断や慢心とは無縁の方だと思っていたのですが……やはりあのリヒトを始祖に持つ黄金の獅子の血筋、というわけですね。義弟たるシュバルツのような用心深さは何千年経とうとも持ちえませんか。嘆かわしいことです」


 神剣〝曼陀羅〟の空間転移を用いてアルトリウスとクラウスの間に入り込んだノンネが短杖を翳していた。その先端から生み出される魔力壁が〝聖征〟の一撃と押しとどめている。

 同時に再度クラウスが空間跳躍を行うのを阻止すべく複数の分身体が彼を攻撃し始めた。

 それに〝征伐者〟が対処し始めたのを確認したノンネは、死を間近に感じたことで青ざめた表情を浮かべるアルトリウスの腕を問答無用で掴んだ。


「な、なにをするんだ!?」

「ここは退きますよ、殿下。目的(、、)も果たしましたし〝聖征〟に対する殿下の固有魔法の実験も行えました。それに使い手たる〝征伐者〟自身を疲弊させることも出来ました。これ以上は望みすぎというものでしょう」


 それに、とノンネは憤怒の形相でこちらに駆けてくる隻眼の少年を見やった。彼の手にする白銀の剣は相変わらず明滅している。


(〝覚醒〟はすぐそこまで迫っている。後は何かしらのきっかけ――絶望と希望があれば……)


 ノンネは仮面越しに熱い視線を〝夜の王〟に投げかけて微笑んだ。


「ではまたお会い致しましょう。次に会う時はきっとあなた様は〝   〟に……」


 最後に彼女が呟いた言葉は隣に居たアルトリウスでさえ聞き取れないほど小さなものだった。

 思わず何を言ったのか聞きそうになったアルトリウスだったが、その前に視界が黒に染まる。遅れてノンネによる空間転移だと理解するのだった。



*****



 ノンネとアルトリウスを取り逃がした夜光はその後、意識を失いそうになっていたクラウスを回収し要塞内へと帰還した。

 それからクラウスの私室の寝台へと寝かせ軍医に後を任せた夜光はすぐさま彼の代わりに部下たちに指示を出していく。それが終われば今度は各部隊からの報告を聞いて頭を悩ませつつも矢継ぎ早に適切な命令を下した。

 全てが終わり一段落ついた頃には陽も沈みきっていた。だが、それでもまだ今日中にやるべきことがある。夜光は疲労によって動きの鈍った身体に鞭打ってとある場所(、、、、、)へと足を向けながら一日を――より正確に言えばノンネとアルトリウスとの戦いを振り返る。


(ノンネ……相変わらず厄介な力を持っている)


 空間転移に分身体生成、神剣の攻撃をも防ぐ魔力壁すら生み出せる彼女の神剣〝曼陀羅〟は多彩な能力を持つ厄介な代物だ。基本的に一点突破型の超高火力を持つのが神剣であるが、中にはああいった爆発的な力を持たない代わりに相手を惑わせたりじわじわと苦しめる能力を持つものもある。


(だがそれは〝人族〟(ヒューマン)の神剣じゃない。どちらかといえば〝精霊族〟(エレメント)〝魔族〟(アスラ)の神剣のはず。ってことはあいつの所属は――いやまて、でもそれだと〝妖精族〟が崇める神である〝日輪王〟(ソル)の眷属としてはおかしい……)


〝人族〟の神剣が〝人族〟しか使い手を選ばないように、他種族の神剣もそれぞれの種族しか使い手を選ばない。

 その原則がある以上、ノンネが〝日輪王〟の眷属であるのならば攻撃特化の〝妖精族〟の神剣しか所持できないはずなのだ。


(ならノンネは奴の眷属じゃないのか?いやでもそれなら何で奴との関係性を仄めかす?単に俺を翻弄するための嘘?だが仮にそうじゃなかった場合……)


 分からない。分からないことだらけだが――夜光は膝を叩いて強引に思考を打ち切った。こうしてこちらを悩ませることがノンネの目的である可能性も高かったからだ。

 

(それに今はどうでも良いことだ。仮に真実が分かったとしてもすぐにどうこうできる話じゃないしな)


 続いて夜光は金髪の貴公子――〝西域天〟アルトリウス大将軍の事を思い浮かべた。

 見る者に爽やかな印象を与える美青年、といった見た目をしていた。中性的なルイ第二王子とはまた違った方向性の優男――しかし所持する力は中々厄介であるしその力量も見た目とは裏腹に力強いものだった。


(〝反射〟……魔法攻撃限定とはいえ受けた攻撃を跳ね返せるとはな)


 かなり強力な固有魔法といえよう。魔法使い殺しの力であるし、何より神剣の技さえも魔法判定されて防がれるのだ。そこまでいけばもはや神剣所持者となんら変わらない。


(いや、でも〝聖征〟の技を跳ね返せてはいなかった。あれは単に受けて逸らしただけだ)


 その事実から推測するに、おそらくあの固有魔法は一定以上の威力を持つ攻撃は跳ね返しきれないのだろう。使い手であるアルトリウスが冷や汗をかいていたことからもそれは分かった。

 ならば対処は簡単だ。あの時クラウスが放った〝絶天撃穿〟以上の火力を持つ技か、もしくはその後にクラウスが実行した通常の攻撃のみで攻めるかすれば何とかなる。


(底は知れた――と言い切るには早いな。あの男事態の力量も中々の物だったし油断はできない)


 魔剣の扱いも見事であったし、そこに体術や魔法を織り交ぜて戦う姿勢も歴戦のそれだった。

 流石は軍事国家アインス大帝国の頂点に立つ大将軍であると言えよう。


(あんなのがあと四人……しかも皇帝自身も大将軍に劣らぬ武力の持ち主だという。相手にしてられないぞこれ…………)


 まともにやり合うのならこちらも〝四騎士〟と勇者全員を揃えないと話にすらならないだろう。そんなのが相手となるとげんなりしてしまう。


(はぁ……くそ、まあいい。いや良くはないけど――今はこっちだ)


 夜光は目的地である要塞内のとある一角――人気のない奥まった空間にある一室の前までやってくると気配を殺して耳を欹てた。

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